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1. 中絶拒否をしても養育費は請求できる?
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2. 中絶拒否して産んだ子どもを、父親に認知させる方法
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2-1. 任意認知|認知届を提出させる
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2-2. 裁判認知|認知調停の申立てや認知の訴えの提起をする
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3. 未婚の父親に子どもを認知させることのメリット・デメリット
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4. 中絶拒否して出産した場合の養育費の相場
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4-1. 養育費の金額に影響を与える要素|既婚・未婚では変化しない
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4-2. 養育費算定表の見方
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5. 中絶拒否して出産した子どもの養育費の請求方法
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5-1. 相手との協議
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5-2. 家庭裁判所の調停
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5-3. 家庭裁判所の審判
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6. 決まった養育費を相手が支払わない場合の対処法
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6-1. 訴訟を提起する
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6-2. 履行勧告や履行命令を申し立てる
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6-3. 強制執行を申し立てる
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7. 中絶拒否して出産した場合、養育費以外に請求できるもの
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7-1. 慰謝料|不誠実な対応に関して請求できる
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7-2. 財産分与・婚姻費用・年金分割|婚姻・内縁があれば請求できる
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8. 2026年5月までに施行|改正民法が非嫡出子の養育費に与える影響は?
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9. 中絶拒否した子どもの養育費請求は弁護士に相談を
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10. 中絶拒否と養育費に関するよくある質問
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11. まとめ 中絶を拒否しても養育費は請求できる
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1. 中絶拒否をしても養育費は請求できる?
人工妊娠中絶の選択権は女性にあり、男性が中絶を強制することはできません。中絶を拒否して産んだ子どもであっても、法律上の親子関係が存在すれば、父親は養育費を支払う義務を負います。
ただし、結婚していない男女の間で生まれた子どもは、何もしなければ父親との間に法律上の親子関係が生じません。未婚の父親に養育費を支払わせるためには、子どもを認知させる必要があります。
2. 中絶拒否して産んだ子どもを、父親に認知させる方法
中絶を拒否して産んだ子どもを父親に認知させる方法には、「任意認知」と「裁判認知」の2種類があります。
2-1. 任意認知|認知届を提出させる
任意認知は、父親が自ら認知を行う手続きです。当初は中絶を求めても、子どもが生まれると父親としての自覚が芽生え、任意認知をするケースは多く見られます。
任意認知は、市区町村役場に認知届を提出して行います。胎児の認知か、出生後の認知かによって、提出先が異なります。
・胎児を認知する場合 :母親の本籍地の市区町村役場
・出生後に認知する場合:父親または認知される子の本籍地、もしくは父親の所在地の市区町村役場
なお、胎児の認知には、母親の承諾が必要です。母親の承諾は認知届に記載するか、または承諾書を市区町村役場に提出する形で行います。
2-2. 裁判認知|認知調停の申立てや認知の訴えの提起をする
裁判認知は、裁判手続きを通じて認知の効力を発生させる方法です。父親が認知を拒否している場合は、まず家庭裁判所に認知調停を申し立てる必要があります。
認知調停では、調停委員を介して認知に関する話し合いが行われます。当事者間で認知の合意が得られ、その合意を裁判所が正当と認めた場合、「合意に相当する審判」が行われます。審判が確定すると、父親との親子関係が認められ認知の効力が生じます。
調停で合意が得られない場合は、さらに家庭裁判所へ認知の訴えを提起し、生物学上の親子関係を証明することになります。裁判所が認知を認める判決を言い渡して認知が確定すると、強制的に認知の効力が生じます。
裁判認知が成立した場合は、審判または判決の確定日を含めた10日以内に認知届を提出する必要があります。提出先は、認知される子の本籍地または届出人の所在地の市区町村役場です。裁判認知が成立すると、父親は法律上の親となり、養育費の支払い義務が発生します。
3. 未婚の父親に子どもを認知させることのメリット・デメリット
未婚の父親に子どもを認知させるメリットは、養育費を請求できる点です。認知によって法律上の親子関係が生じ、父親は養育費の支払い義務を負います。
仮に父親が養育費の支払いを拒否しても、養育費請求調停を申し立て、家庭裁判所の審判が確定すれば強制的に支払わせることが可能です。また、2026年5月までに改正民法が施行され、法定養育費制度や養育費の先取特権が導入されることで、より確実に養育費を回収しやすくなります。
一方で、父親の戸籍に認知の事実が記載されることは、状況によってはデメリットになります。特に、父親が別の女性と結婚しており、自分と不倫関係にあった場合、子どもの認知が男性の戸籍に記載されることで、その事実が配偶者に知られる可能性があります。
相手の妻が戸籍を確認した際、不倫の事実を知り、慰謝料を請求してくるリスクも考えられます。養育費の請求を優先するか、認知による影響を考慮するかは、メリットとデメリットを十分に比較したうえで慎重に判断しましょう。
4. 中絶拒否して出産した場合の養育費の相場
父親に請求する養育費の額を決める際には、裁判所が公表している「養育費算定表」が参考になります。以下では養育費の金額に影響する要素や養育費算定表の見方について解説します。
4-1. 養育費の金額に影響を与える要素|既婚・未婚では変化しない
養育費の金額は、以下の要素によって決まります。
父親と母親の収入バランス
子どもの人数
子どもの年齢
既婚か未婚かは、原則として養育費の金額に影響を与えません。ただし、父親が別の子どもを扶養している場合などは、養育費の額が減ることがあるため注意が必要です。
4-2. 養育費算定表の見方
裁判所が公表している養育費算定表は、子どもの人数と年齢に応じた9つの表で構成されています。子どもが3人までの表しかないため、4人以上の場合は、弁護士に相談するとよいでしょう。
表の縦軸に義務者(=支払う側)の年収、横軸に権利者(=受け取る側)の年収が記載されています。給与所得者は額面年収(=源泉徴収票の支払金額)、自営業者は確定申告をした所得額を用いて確認します。縦軸と横軸が交差する部分が、養育費の月額の目安となります。
5. 中絶拒否して出産した子どもの養育費の請求方法
子どもの養育費を請求する手続きは、「協議」「調停」「審判」の3つの方法があります。以下では各手続きによる請求方法を解説します。
5-1. 相手との協議
まずは、養育費の支払いについて相手と話し合いましょう。話し合いで合意が得られれば、スムーズに養育費を受け取れます。
話し合いでは、毎月の養育費の金額に加えて、特別費用の精算方法についても取り決めておくことが望ましいです。特別費用とは、子どものために生じる臨時的な出費のことで、私立学校の学費や医療費などが該当します。特別費用についてはトラブルになりやすいため、よく話し合って負担者や負担割合を明確にしておきましょう。
協議で取り決めた内容は、公正証書にまとめることをおすすめします。公正証書とは、法律の専門家である公証人が作成する公文書です。公正証書を作成しておけば、相手が養育費を支払わない場合に、強制執行(差し押さえ)を申し立てられます。公正証書は、公証役場に申し込めば作成できます。
5-2. 家庭裁判所の調停
相手と話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てましょう。養育費請求調停では、調停委員を介して養育費について話し合うため、直接対話するよりも冷静に交渉しやすくなります。調停で合意できたら、その内容をまとめた調停調書が作成され、調停成立となります。
5-3. 家庭裁判所の審判
養育費請求調停が不成立となった場合は、家庭裁判所の審判によって養育費の金額が決定されます。審判では、父母の収入や子どもの養育にかかる費用などを考慮して、適正な養育費が決められます。審判に備えて、収入に関する資料や養育費の詳細な内訳を整理し、提出できるよう準備しておきましょう。

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6. 決まった養育費を相手が支払わない場合の対処法
父親が養育費を支払わないときは、以下の方法を検討しましょう。
6-1. 訴訟を提起する
相手が合意した養育費を支払わない場合は、裁判所に訴訟を提起することが考えられます。
訴訟で養育費に関する合意が認められれば、裁判所が相手に対して養育費の支払いを命ずる判決を言い渡します。判決が確定すると、強制執行の申立てが可能となります。
なお、強制執行認諾文言付き公正証書や、調停や審判によって養育費の支払い義務が確定している場合は、裁判を行うことなく、直ちに強制執行の手続きを進められます。
6-2. 履行勧告や履行命令を申し立てる
家庭裁判所の調停や審判で決まった養育費が支払われない場合、家庭裁判所に履行勧告を申し立てることができます。家庭裁判所は、支払い状況を調査し、相手に対して養育費の支払いを勧告します。ただし、履行勧告に強制力はありません。
また、調停や審判で確定した養育費については、家庭裁判所に履行命令の申立ても可能です。相手が正当な理由なく履行命令に従わなかった場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。過料は行政罰のことで、金銭の支払いが命じられます。
6-3. 強制執行を申し立てる
以下のいずれかの文書が手元にある場合、裁判所に強制執行の申立てが可能です。
確定判決
調停調書
審判書
強制執行認諾文言が記載された公正証書
強制執行では、相手の財産を差し押さえ、養育費の支払いに充当できます。預貯金のほか、将来支払われる給与なども差し押さえることができます。
7. 中絶拒否して出産した場合、養育費以外に請求できるもの
中絶を拒否して子どもを出産した場合、養育費以外にも請求できる金銭があります。弁護士のサポートを受けながら、漏れなく請求しましょう。
7-1. 慰謝料|不誠実な対応に関して請求できる
妊娠や出産に関して、父親である男性が不誠実な対応をした場合、慰謝料を請求できることがあります。例えば以下のような事情がある場合は、慰謝料を請求できる可能性があるため、弁護士への相談を検討しましょう。
同意のない性交渉をされた
避妊を拒否された
中絶を強要された
将来の育児に関する相談を拒否された
正当な理由なく婚約を破棄された
相手が既婚者であることを隠していた
7-2. 財産分与・婚姻費用・年金分割|婚姻・内縁があれば請求できる
父親である男性と婚姻している場合や、内縁(事実婚)の関係にある場合、離婚または内縁解消に際して、以下の金銭を請求できる可能性があります。
【財産分与】
婚姻(内縁)期間中に取得した財産を公平に分けられます。
【婚姻費用】
自分の収入が相手よりも少ない場合、婚姻(内縁)を解消する前の別居期間中の生活費を請求できます。
【年金分割】
婚姻(内縁)期間中の厚生年金保険や共済年金の加入記録を公平に分けられます。
8. 2026年5月までに施行|改正民法が非嫡出子の養育費に与える影響は?
2026年5月までに改正民法が施行され、共同親権制度、法定養育費制度、養育費の先取特権などが導入される予定です。
共同親権制度の導入により、非嫡出子(婚姻外で生まれた子ども)についても、親権者変更によって父母の共同親権が認められる可能性があります。父親が親権者になることで、自覚と責任が芽生えて養育費の未払いが減るのではないかと期待されています。
さらに、法定養育費制度や先取特権により、養育費が回収しやすくなることが考えられます。協議などによる取り決めがなくても、早期に裁判所へ強制執行を申し立てることが可能です。
父親である男性から養育費を受けられず悩んでいる人は、改正民法の新制度を活用できるかどうか、今のうちから確認しておきましょう。
9. 中絶拒否した子どもの養育費請求は弁護士に相談を
養育費を請求しスムーズに支払いを受けるには、弁護士に相談するのがおすすめです。特に、婚姻関係にない相手に対して養育費を請求する場合は、認知が必要になるなど、通常よりも手続きが複雑になります。弁護士のサポートを受けることで、養育費を回収できる可能性が高まります。養育費の未払いに悩んでいる人や適正な養育費を早期に確保したい人は、弁護士への相談を検討しましょう。

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10. 中絶拒否と養育費に関するよくある質問
相手に子どもを認知させれば、養育費を請求できます。相手が認知を拒否しても、認知の訴えを通じて強制的に認知させることが可能です。また、相手に不誠実な対応があった場合は、慰謝料を請求できることもあります。
認知がなされないと、法律上の父子関係が明確にはならず、法律上の扶養義務が発生しません。父親が任意に養育費を支払うと言って、問題なく支払いがなされているのであれば認知は必須ではありませんが、万が一相手が養育費を支払わなくなった場合、認知の手続きを行う必要があります。認知の手続きを行わなければ法律上、養育費を請求することはできず、手続きのために養育費を回収できる時期が遅れることが考えられます。そのため、可能な限り相手に子どもを認知させることが望ましいです。
養育費は、相手に子どもを認知させれば請求できます。慰謝料についても、相手が不誠実な対応をした場合には請求できることがあります。ただし、慰謝料の請求権は3年で時効により消滅するため、早めに請求を行いましょう。
子どもを認知していなければ養育費の支払いを拒否できます。しかし、認知の訴えによって強制的に認知が成立する可能性があることに留意が必要です。
11. まとめ 中絶を拒否しても養育費は請求できる
中絶を拒否して子どもを出産しても、相手に認知をさせれば養育費を請求できます。また、養育費以外にも、相手の不誠実な対応に対する慰謝料や、婚姻・内縁関係があれば財産分与や婚姻費用を請求できる可能性があります。
認知や養育費の支払いを請求するためには、法的知識に基づく対応が必要です。認知や養育費について不安がある場合は、弁護士への相談を検討しましょう。
(記事は2025年7月1日時点の情報に基づいています)