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1. 養育費の差し押さえとは
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2. 養育費の差し押さえの対象となる財産
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2-1. 勤務先からの給与
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2-2. 預金口座
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2-3. その他の財産
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3. 養育費の差し押さえに必要なもの
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4. 養育費に関する強制執行の流れ
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4-1. 【STEP1】事前の財産調査
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4-2. 【STEP2】強制執行の申立て
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4-3. 【STEP3】養育費の差し押さえ
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5. 養育費の差し押さえができるケース
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5-1. 相手の勤務先を知っている
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5-2. 相手の銀行口座を知っている
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6. 養育費の差し押さえが難しいケース
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6-1. 相手の所在がわからない
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6-2. 相手に資力がない
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7. 養育費の差し押さえはいつできる?
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8. 養育費の差し押さえを行うデメリット
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8-1. 今後の支払いを期待できなくなる可能性がある
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8-2. 相手との関係悪化の可能性がある
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8-3. 費用がかかる
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9. 法定養育費制度や先取特権が養育費の回収に与える影響は?
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10. 養育費の差し押さえを成功させるポイント
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10-1. 弁護士に依頼する
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10-2. 相手の状況を把握しておく
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11. 養育費の差し押さえを行う際の弁護士費用
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12. 養育費の差し押さえについてよくある質問
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13. まとめ 養育費の差し押さえは手続きが複雑なので弁護士に相談を
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1. 養育費の差し押さえとは
強制執行とは、調停で合意が成立した場合や、裁判所で勝訴判決を得て確定したにもかかわらず、相手が支払いをしない場合に、調停調書や確定判決などの債務名義に基づいて、相手に対する請求権を裁判所が強制的に実現する手続きです。差し押さえとは、その過程で相手の財産について、処分を禁止することを指します。
養育費の場合には、離婚調停や「子の監護に関する処分(養育費)調停事件」と呼ばれる養育費を請求する調停で調停調書を取得したり、離婚訴訟で養育費について判断した判決を取得したり、強制執行受諾文言付公正証書を作成したりすることで債務名義を得られます。そして、支払い義務が定められた公的な文書である債務名義に基づいて、強制執行の申立てをすることになります。
2. 養育費の差し押さえの対象となる財産
養育費の差し押さえに関しては、債務者の勤務先に対する給与債権や預金債権といった債権のほか、不動産や動産なども対象となります。
2-1. 勤務先からの給与
養育費を回収するために、相手の給与に強制執行をすることが考えられます。債務名義に記載された養育費について未払いがあった場合、将来分、つまり支払い時期がまだ来ていない養育費についても強制執行の申立てをすることができます。そして将来分の養育費の強制執行を行う際には、給与や役員報酬などの継続的に発生する債権が差し押えの対象となります。このように、毎月発生する給与から月ごとの養育費を回収できるのは大きなメリットです。
養育費を回収するための強制執行の場合、相手の給与のうち、税金などを控除した手取り額の2分の1までが差し押さえの対象となります。なお、相手の手取り額が66万円を超える場合には、33万円を相手に残し、それ以外の部分について差し押さえが可能です。たとえば、相手の手取り額が80万円である場合には、47万円を差し押さえられます。
2-2. 預金口座
預金に対し強制執行をすることも選択肢の一つです。
ただし、預金を差し押さえる場合には、申立て時点で未払いとなっている養育費までしか回収できません。また、原則として相手の預金のある銀行、支店を特定しなければならず、この情報がないと強制執行の申立てをすることができません。なお、インターネット専業銀行の場合には物理的な店舗がないため、支店の特定なしで差し押えできる場合があります。
また、差し押さえられる預金は裁判所から銀行に対し債権差し押さえ命令が送達された時点の残高に限られるため、預金残高が少ない場合には、十分に回収できないケースもあります。そのため、預金への強制執行を行うためには、相手の口座情報をある程度把握している必要があります。
2-3. その他の財産
給与債権や預金債権のほか、土地とそこにある建物などの不動産や、それ以外の動産類も強制執行の対象になります。
しかし、現実的には難しいケースが少なくありません。というのも、不動産に対する強制執行を行う場合、不動産を差し押さえて売却することになるものの、養育費の回収のために不動産の差し押さえや売却を行うのは手間と費用がかかるからです。また、動産類は基本的に価値が低いことから、差し押さえるメリットがあまりありません。
なお、衣服や寝具、生活の糧を得るための器具など一定の動産類については、民事執行法で差し押さえ禁止財産とされています。
3. 養育費の差し押さえに必要なもの
養育費の回収を行うために強制執行を行う場合、取り立てが容易な給与や預金に対する債権執行を申し立てるケースが多いと考えられます。債権執行の申立てを行う場合には、以下のような書類が必要になります。
【債務名義】
債務名義とは、養育費について合意した離婚調停の調停調書や子の監護に関する養育費などの処分の調停調書、離婚訴訟の確定判決、養育費について定めた執行受諾文言付公正証書などを指します。
【執行文の付与】
執行文の付与とは、債務名義に強制執行を申し立てることができる効力があることを証明する文言を指します。債務名義により執行文が必要なものと不要なものがあるため、事前に確認をするのが望ましいです。
【債務名義の送達証明書】
債務名義の送達証明書は、債務名義が相手に送達されたことを証明する文書です。裁判所や公証人から取得することができます。
【印紙や郵便切手】
債権執行の場合、印紙代が申立て1件あたり4000円、郵便切手代は裁判所によって異なり、数千円が必要になります。
【その他】
給与への強制執行の場合で勤務先が法人のときは法人の資格証明書や登記簿謄本が、銀行預金への強制執行の場合には預金のある銀行の資格証明書や登記簿謄本が必要になります。
仮に債務名義がない場合には、強制執行の申立てができません。そのため、調停を申し立てて調停を成立させる、相手との間で執行受諾文言付きの公正証書を作成するなどして債務名義を取得する必要があります。
4. 養育費に関する強制執行の流れ
養育費に関する強制執行は大きく分けて、3つの手順があります。
4-1. 【STEP1】事前の財産調査
養育費の回収のために強制執行の申立てを行う場合、まず相手の財産に対する調査が必要になります。給与や役員報酬について強制執行の申立てを行う場合には相手の勤務先の特定が、預金口座について強制執行の申立てをする場合には原則として預金のある銀行名と支店名の特定がそれぞれ必要になります。
相手の勤務先がある程度把握できているのであれば、勤務先に対して弁護士会照会を行い、相手が在籍しているかなどについて照会を行うことが考えられます。
債務名義を取得済みの場合、預金があると想定される銀行に対して弁護士会照会によってどの支店に口座があるのかを確認する全店照会を行い、預金のある支店の回答を求める方法も考えられます。ただし、全店照会に対応していない銀行があったり、債務名義を取得していない場合には回答が得られないことがあるなど、全店照会を行うにはいくつか条件があるため、弁護士に確認をするほうがよいでしょう。
また、勤務先や預貯金に関する情報について、民事執行法に定める第三者からの情報取得手続きを行う選択肢もあります。ただし、第三者からの情報取得手続きの申立てを行うためには、前に行った強制執行が不奏功であったことなどの条件が必要となるほか、勤務先に関する情報取得手続きの申立てができるのは、養育費債権など一定の種類の債権を持っている債権者に限られるといった制約があります。
4-2. 【STEP2】強制執行の申立て
強制執行の申立てをする際に必要な書類は、債務名義、債務名義の送達証明書などで、執行文の付与が必要な場合もあります。
送達証明書や執行文については、調停調書や確定判決、審判書が債務名義の場合には裁判所に、公正証書が債務名義の場合には公証役場に申請します。
4-3. 【STEP3】養育費の差し押さえ
養育費を回収するための強制執行の場合、給与への差し押さえが最も有効です。継続的に発生する養育費を、継続的に発生する給与から順次回収でき、また、相手に債権差し押さえ命令が送達されてから1週間以内に異議の申立てがされなければ、勤務先から直接支払いを受けられるからです。
弁護士として筆者が相談を受けた養育費未払いの事案でも、給与への強制執行の申立てを行い、相手が異議の申立てをしなかったため、勤務先から債権者に毎月養育費を支払ってもらうことができたことがあります。そのケースでは、無事養育費の支払期間満了までの養育費を回収することができました。

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5. 養育費の差し押さえができるケース
養育費の差し押さえができるのは主に、相手の勤務先を知っている場合や相手の銀行口座を知っている場合です。
5-1. 相手の勤務先を知っている
養育費の回収のために強制執行を行う場合、回収がしやすいのは給与債権です。給与債権は基本的に毎月発生するものであるため、相手が同じ勤務先で働き続ける限り、回収に困りません。相手の勤務先に債権差し押さえ命令が送達されたあとに連絡をとり、取立権の発生後、債権者名義の口座に直接送金してもらうようにするケースが多いです。
他方、勤務先が不明であったり、勤務先を途中で退職してしまったりすると回収ができなくなるため、相手が仕事を転々とする場合には、十分に回収できないこともあります。
5-2. 相手の銀行口座を知っている
その他、回収が容易なものとしては預金債権があります。預金に対して強制執行を行う場合には、原則として預金のある銀行名と支店名が必要です。ただし、差し押さえができるのは債権差し押さえ命令が銀行に送達された時点の残高のみであるため、残高に乏しい場合には、やはり十分に回収できないケースがあります。
6. 養育費の差し押さえが難しいケース
相手の所在がわからない場合や相手に資力がない場合は、養育費の差し押さえは難しいと言えます。
6-1. 相手の所在がわからない
強制執行の申立て書には相手の住所を記載する必要があるため、相手の住所が不明である場合には、強制執行の申立てが難しくなります。相手の住所を調査する方法としては、弁護士に強制執行の申立てを委任して住民票を取得するといった方法が考えられます。
また、相手の住所への送達ができない場合には就業先への送達や、相手への発送の事実をもって送達されたとする付郵便送達、送達すべき書類が保管されていることなどを裁判所の掲示板に掲示し、2週間経過したことをもって法的に送達したものとみなす公示送達といった方法があります。
6-2. 相手に資力がない
養育費は非免責債権です。つまり、破産手続きの申立てとともに行う免責許可の申立てが認められても、支払いを免れることができない債権であるため、仮に相手が破産しても支払い義務は残ります。ただし、破産の申立てを行う人は資力がないことが多いため、未払い分をまとめて回収することは難しいです。また、破産手続きの開始決定前に強制執行の申立てをしていた場合、破産手続きの開始によって強制執行の手続きが停止するため、強制執行の申立てを行う時期には注意が必要です。
なお、相手が就業しており勤務先から安定して給与を得られているのであれば、破産手続きの終了後に強制執行の申立てを行うなどして、少しずつ回収できる場合もあります。
7. 養育費の差し押さえはいつできる?
相手の財産に強制執行の申立てを行うためには、債務名義が必要です。したがって、調停調書、審判書、確定判決、強制執行受諾文言付の公正証書などの債務名義を取得したあとでなければ強制執行の申立てをすることはできません。
当事者間で養育費の金額について合意をし、書面を作成していても、債務名義に基づかなければその書面に基づく強制執行の申立てはできない点に注意が必要です。
8. 養育費の差し押さえを行うデメリット
養育費の差し押さえはメリットばかりではありません。主に3つのデメリットがあります。
8-1. 今後の支払いを期待できなくなる可能性がある
長期間同じ勤務先で働いている場合には、強制執行の申立てがされたことのみを理由として転職することは考えづらいでしょう。一方、職を転々とする相手の場合、勤務先を退職し、その後も任意の支払いを行わず所在が不明になってしまうケースもあります。
また、給与差し押さえの場合には、差し押さえ命令が銀行などに送達された時点の残高しか差し押さえられません。そのため、口座残高からの回収が終わったあと、相手が支払いを拒絶してメインバンクも変更してしまうと、その後の養育費の回収が難しくなる可能性もあります。
8-2. 相手との関係悪化の可能性がある
給与差し押さえを行うと、養育費の支払いをしていないという、いわば不名誉な事実が勤務先を含む第三者に明らかになるため、相手との関係が悪化するおそれもあります。もっとも、養育費の支払いは子どもの生活に必要なものであるため、相手との関係の悪化というリスクを冒しても、差し押さえの申立てを行うケースはよくあります。
8-3. 費用がかかる
強制執行の申立ては当事者が自力で行うことも可能である一方、給与差し押さえの場合には勤務先に連絡をして取り立てる必要があるうえ、養育費と慰謝料の回収のための強制執行を同時に申立てるときには差し押さえできる給与の範囲が異なるなど、ややこしい点もあります。弁護士に強制執行の申立てを委任すれば当事者の負担は減りますが、一定程度の費用は必要になります。
9. 法定養育費制度や先取特権が養育費の回収に与える影響は?
2024年5月に成立した改正民法(2026年5月までに施行)において、当事者間で養育費について合意をしていない場合でも養育費の請求が可能となる法定養育費制度が設けられる予定です。同時に、養育費について法務省令で定める金額について、先取特権が認められました。
この法改正により、養育費の合意をしていなくても一定額の養育費の請求ができるようになります。また、当事者間で養育費について合意したものの、調停調書や審判書、確定判決、執行受諾文言付公正証書などの債務名義がない場合でも、法務省令で定める金額に関しては、相手の財産に対し強制執行の申立てをすることが可能となります(法務省令で定める金額よりも高い養育費を定めていた場合、全額について強制執行をするためには債務名義が必要になります)。したがって、養育費の回収が容易になる方向での改正がされると言えるでしょう。
10. 養育費の差し押さえを成功させるポイント
養育費の差し押さえを成功させるには、弁護士に依頼する、相手の状況を把握しておく、という2点が重要です。
10-1. 弁護士に依頼する
強制執行の申立ては当事者が自分で行うことも可能です。
ただし、相手の所在や差し押さえ対象財産が不明な場合など、調査が難しいケースもあります。また、申立てに必要な書類をそろえるのに手間がかかるといった手続き上の問題もあります。
弁護士に委任することで、これらの手続きを一任できるというメリットがあります。相手から養育費の支払いがない場合には、一度弁護士に相談するほうがよいでしょう。
10-2. 相手の状況を把握しておく
相手の所在が不明になったり、勤務先や預貯金のある口座など、差し押さえの対象となる財産に関する情報が全くなかったりすると、強制執行の申立てをする際のハードルが上がります。相手との連絡先を確保したり、相手の親族と連絡がとれる関係を築いたりと、相手の状況を確認できるようにしておくことが望ましいと言えます。

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11. 養育費の差し押さえを行う際の弁護士費用
現在は弁護士報酬を自由に決めることができるため、強制執行を申立てる際の費用は弁護士事務所によって異なります。
弁護士報酬は主に以下の2種類に分られます。
着手金:案件の着手時に支払われるもので、結果によらず発生するもの
報酬金:回収額に応じて発生するもの
報酬金については、1時間あたりの単価に業務遂行に要した時間を乗じて算出するタイムチャージという方法もあります。また、差し押さえを行う際には裁判所に納める印紙代や切手代といった実費も必要になります。
12. 養育費の差し押さえについてよくある質問
13. まとめ 養育費の差し押さえは手続きが複雑なので弁護士に相談を
離婚後に子どもの生活を支える養育費が相手から支払いがされなくなった場合、調停調書や確定判決などの債務名義に基づいて差し押さえの強制執行を行うことができます。
強制執行の申立ては当事者の自分で行うこともできるとはいえ、決して容易ではありません。
相手の所在調査や必要資料をそろえる作業をまとめて自分で行うには負担が大きいため、養育費の不払いがある場合には一度弁護士に相談することが望ましいと言えます。
(記事は2025年2月1日時点の情報に基づいています)