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養育費を払ってくれない! 離婚相手への対処法を解説

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養育費が支払われない場合、公正証書などの債務名義があるかどうかで対処法が変わります(c)Getty Images
離婚後、子どもを育てるためには養育費の取り決めが重要です。しかし、当事者同士で、あるいは裁判所の調停などで養育費を定めたとしても、支払いがされないケースもあります。では、養育費が支払われない場合、どのような対抗策があるのでしょうか。養育費が支払われない場合の回収方法や注意点について、弁護士がわかりやすく解説します。
目 次
  • 1. 債務名義(公正証書など)の有無による違い
  • 1-1. 債務名義(公正証書など)の有無によって回収方法が異なる
  • 1-2. 債務名義がない場合の養育費の回収方法
  • 1-3. 債務名義がある場合の養育費の回収方法
  • 2. 2020年4月施行 改正民事執行法による養育費の回収について
  • 3. 未払い養育費を請求する場合には時効に注意
  • 4. 養育費の支払い確保のためには、離婚時に公正証書の作成を
  • 5. 相手が養育費を支払ってくれない場合、どうしたらよい?
  • 6. 改正民法が養育費請求に与える影響は?
  • 7. 養育費を払ってくれない場合に関してよくある質問
  • 8. まとめ 養育費が支払われない場合は弁護士に相談を
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1. 債務名義(公正証書など)の有無による違い

財産の差押えなど、強制執行の際に必要な公的文書を「債務名義」と言います。養育費が支払われない場合、債務名義があるかどうかで対応が変わります

1-1. 債務名義(公正証書など)の有無によって回収方法が異なる

養育費の支払いを求めるには、前提として、当事者間で養育費の金額や支払いについて合意ができていなければなりません。

合意ができていない場合には、当事者の話し合いや裁判所を通した調停または審判などの手続きを通して養育費の金額、支払い時期などについて合意をする必要があります。合意ができている場合、養育費の回収方法は債務名義があるかどうかによって変わってきます。

債務名義とは、強制執行で実現するべき権利の内容を明らかにしたもので、差押えの際に必要 になります。具体的には、確定判決や仮執行宣言付の判決、和解調書や調停調書などの確定判決と同一の効力を持つもの、執行受諾文言付きの公正証書などがあります。執行受諾文言付公正証書とは、債務者が支払いをしない場合は強制執行を受けることを認める旨の記載がある公正証書です。

1-2. 債務名義がない場合の養育費の回収方法

当事者同士で養育費について合意した場合や、合意して書面を作成した場合など、債務名義がないときは、その合意に従い履行を求めることになります。しかし、相手が養育費を支払ってくれない場合、当事者のみで作成した合意書は債務名義とは認められず、この合意書に基づいて強制執行をすることはできません

強制的に相手に支払いをさせるためには、債務名義を取得する必要があります。債務名義を取得する方法としては、以下のような方法が考えられます。

  • 養育費の請求を求めて訴訟を提起し、請求を認める判決を受ける

  • 裁判所にあらためて養育費請求調停を申し立て、相手と合意が成立したら調停調書を作成する

  • 調停で合意に至らなかった場合に自動で移行する審判手続において、審判を受けて審判書を取得する

  • 相手との間で執行受諾文言付公正証書を作成する

1-3. 債務名義がある場合の養育費の回収方法

裁判所の調停で養育費の支払いについて合意し、合意内容を記載した調停調書が作成されているなど債務名義がある場合であれば、強制執行を行い、相手の財産から強制的に養育費を回収できます。

養育費は多くの場合、毎月発生するため、相手が支払いをしない場合、毎月未払いの養育費が積み重なっていきます。他方、養育費の支払が滞ると子どもの生活に支障が出てしまいます。そこで、養育費の場合には未払いとなっている養育費だけではなく、将来的な支払いの対象となる部分についても強制執行の申立てをすることができます

ただし、実際に差押えができる(支払いを受けられる)のは、すでに支払い期日を迎えている部分 に限られます。たとえば、2024年3月から9月まで、毎月末日支払いの養育費が未払いとなっている状態で2024年10月10日に強制執行を申し立てる場合、2024年2月から9月までの養育費に加え、2024年10月末以降の養育費の分も含めて強制執行の申立てができます。一方、2024年10月末日以降に支払い期日が到来する養育費については、支払い期限が到来したあとでなければ差押えをする(支払いを受ける)ことはできません。

強制執行の申立てを行うには、相手の住所地を管轄する裁判所や、差し押さえる財産の所在地を管轄する裁判所に対し、強制執行の申立書を提出する必要があります。申立書には、相手の住所と氏名のほか、請求する債権の内訳、差し押さえる債権の内容などを記載します。

強制執行の申立てにあたっては、債務名義などの必要書類、申立1件あたり4000円の印紙、裁判所に納める切手(数千円程度ですが裁判所により異なります)も併せて提出しなければなりません。また、債務名義の種類によっては、債務名義に執行文(強制執行ができる効力があることを公的に証明する文言)の付与が必要であるなど、債務名義や差押えの対象財産によって必要な書類が変わるため、事前に手続きについて確認しましょう。

2. 2020年4月施行 改正民事執行法による養育費の回収について

2020年4月1日に施行された改正民事執行法により、財産開示手続について以下のような改正がされました。

①申立てができる人の範囲が拡大
判決だけではなく、執行受諾文言付公正証書といった金銭債権の強制執行の申立てに必要な債務名義を持っていれば財産開示手続を申し立てられるようになった。

②罰則の強化
財産開示手続の開示義務者が正当な理由なく財産開示期日に出頭しない場合や、虚偽の陳述をする場合、あるいは陳述をしない場合には、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられるようになった。

③財産についての情報を第三者から取得可能
不動産や給与、預貯金、上場株式、勤務先情報など差押えの対象となる財産について、第三者から情報を取得する手続きが新設された。

なお、財産開示手続を行うためには、先に行った強制執行の成果が得られないことなど、いくつかの条件が必要になります。また、第三者からの情報取得手続きのうち、勤務先の情報取得手続きを申し立てられるのは養育費請求権など一部の債権を有する者に限られます。

3. 未払い養育費を請求する場合には時効に注意

養育費請求権は時効により消滅することがありますが、時効によって消滅するまでの期間は、養育費を定めた方法によって次のように異なります。なお、以下の解説は2022年4月1日に施行された改正民法を前提としています。

①養育費を当事者の合意のみで決めた場合
養育費の請求をすることができると知ったとき(実際には合意した支払い期限)から5年 で、養育費請求権は時効により消滅します(=消滅時効)。たとえば、支払い期限が2024年10月31日の養育費については、2029年10月31日が過ぎると請求できなくなります。

②調停や審判、訴訟などで養育費の金額が決められた場合
調停や審判、訴訟により養育費の請求権が確定した時点で養育費の支払い時期が到来しているかどうかによって、時効が変わってきます。支払い時期が到来している養育費については10年、支払い時期が到来していない養育費については5年 となります。

たとえば、2024年11月15日に調停で養育費の支払いについて合意した場合、それまでに支払う必要のある養育費については10年で消滅時効にかかり、11月15日より後に支払い期限が到来する養育費は5年で消滅時効にかかることになります。

③執行受諾文言付公正証書で養育費を定めた場合
養育費を当事者の合意のみで決めた場合と同じく、養育費の請求をすることができると知ったとき(実際には合意した支払期限)から5年 で、毎月の養育費は消滅時効にかかることになります。

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4. 養育費の支払い確保のためには、離婚時に公正証書の作成を

離婚にあたり、当事者同士で話し合って養育費について合意をした、あるいは合意書を作成したにもかかわらず、養育費の支払いがストップした場合、すぐに強制執行できるわけではありません。

養育費の支払いを確保するためには、合意書を作成するだけではなく、合意の内容を公正証書とし、執行受諾文言をつけておくことが有効 です。この文言をつけることで、養育費の不払いがあった場合に強制執行ができるため、養育費の回収が容易になります。また、相手も「養育費を支払わなかったら強制執行される」という心理的なプレッシャーを受けることになるため、任意の支払いも期待できます。

執行受諾文言付きの公正証書は各地の公証役場で作成できますが、作成前に公証人に文章を確認してもらう必要があるほか、本人確認書類の提示も必要になります。事前に公証役場に連絡して相談し、必要書類などを確認したうえで作成することが望ましいでしょう。

5. 相手が養育費を支払ってくれない場合、どうしたらよい?

養育費の支払いについて相手と合意したにもかかわらず、支払いがされない場合、養育費等相談支援センターなどの機関に相談する方法が考えられます。ただし、養育費等相談支援センターは手続きに関する相談を行っており、法律相談は受け付けていません。

養育費の話し合いを行ったり、裁判所に養育費請求調停を申し立てたりすることは当事者本人でも可能です。しかし、差押えなども考えている場合、当事者が自力で行うのが難しいこともあるため、弁護士に相談をするほうがスムーズであると言えます。

弁護士に相談する場合、法律事務所で相談する方法のほか、法テラス(日本司法支援センター)や各弁護士会で行っている法律相談に行くことも考えられます。相談費用については事務所や弁護士会ごとに異なり、法テラスの場合には、収入や資産が一定水準程度以下であれば無料で法律相談をすることができます。ただし、無料相談は居住地域により利用条件が異なるため、事前に法テラスに確認したほうがよいでしょう。

6. 改正民法が養育費請求に与える影響は?

2024年5月に成立し、公布された民法等の一部を改正する法律により、法定養育費制度が設けられるとともに、養育費請求権に対し先取特権が付与されました(公布後2年以内に施行)。

法定養育費とは、父母が養育費の取り決めをせずに離婚した場合において、最低限度の生活の維持に必要な標準的な費用の額やその他の事情を考慮して、子どもの数に応じて法務省令の定めにしたがって算定した金額の養育費を請求できるものです。これまでは父母の間で協議が成立するか、裁判所の審判などがなければ養育費を請求できませんでしたが、このような手続きなしで養育費を請求できることになります。

先取特権の付与とは、養育費請求権に対し、債務名義がなくても差押えができる優先権が認められたということです。法定養育費の具体的な金額はまだわかりませんが、養育費の請求および回収を容易にする方向での改正がされたと言えます。

7. 養育費を払ってくれない場合に関してよくある質問

Q. 離婚の際に「養育費を支払わない」と言われたらどうすればよい?
離婚後、子どもの監護をしない親であっても、子どもに対し扶養義務を負うため、養育費を支払う義務があります。しかし、相手が離婚の際、「養育費を支払わない」と言うケースもあります。そのような場合には、離婚協議の際、養育費についても併せて協議し、支払いを求めることになります。 当事者同士での協議で養育費の支払いについて合意できない場合には、離婚調停の手続きのなかで養育費についても協議し、合意できれば調停調書に記載して債務名義化します。 離婚調停で離婚そのものや、養育費などの離婚に伴う条件について合意できない場合には、離婚訴訟を提起し、離婚に附帯する処分として、養育費の金額について判断を求めることになります。 また、養育費を定めずに離婚した場合、離婚後に養育費の請求をすることも可能です。この場合も当事者同士の協議で養育費の合意ができなければ、裁判所に養育費請求調停を申し立て、調停で合意できなければ審判で裁判所の判断を受けることになります。
Q. 養育費を払ってくれない場合、相手の親に請求できる?
相手の親には養育費の支払い義務はありません。したがって、相手の親に子どもの養育費を請求することはできません。 直系血族および兄弟姉妹には互いに扶養の義務があるため(民法877条1項)、子どもから祖父母に対し扶養料を請求することは理屈上考えられます。実際には親権者が未成年の子どもを代理して扶養料を請求することになるでしょう。 しかし、親子間の扶養義務と孫と祖父母の間の扶養義務は程度が異なり、祖父母の場合は余力の範囲で扶養する義務にとどまるという違いがあります。 実際に、父が所在不明、母に生活余力がないため未成年の子どもから祖父母に対する扶養料の請求がされた事例では、祖父母の扶養義務を二次的なものとしたうえで、「子どもの両親には子どもを扶養する余力がないと認められるが、祖父母にも資力がなく扶養義務を果たせない」として、子どもからの扶養請求が棄却されたものがあります。 したがって、祖父母に養育費を請求することはできず、扶養料を請求することも容易ではない、と言えるでしょう。
Q. 未払いの養育費について話し合いたいが、相手と連絡がつかない場合はどうすべき?
養育費の支払いを求める相手の所在がわからない場合、弁護士に養育費の請求を委任し、請求に必要な範囲で相手の所在を調査する選択肢が考えられます。具体的には、判明している最後の住所地の住民票を取得し、移転先を探す、携帯電話番号の契約者住所について通信会社に弁護士会照会を行う、といった調査方法が挙げられます。 相手の所在がわからない場合、当事者が単独で請求をすることは難しいケースが多いため、一度弁護士に相談することをお勧めします。
Q. 未払い養育費は国が立て替えてくれる?
現在のところ、養育費を国が立て替える制度はありません。

8. まとめ 養育費が支払われない場合は弁護士に相談を

養育費の支払いがされない場合、公正証書などの債務名義があるかどうかで回収方法が変わります。債務名義があれば相手の財産を差し押さえて養育費を確保できる一方、債務名義がなければ養育費の請求訴訟や調停の手続きなどを行う必要 があります。

このように状況によって相手との協議や差押えといった対応が必要になるため、当事者本人が単独で行うのが難しい場面も少なくありません。弁護士に相談や依頼をすることで、適切な対処法を示してもらえるほか、当事者にかかる負担が軽減 されると期待できます。

養育費の支払いを求めたい場合には、交渉の進め方なども含めて一度弁護士に相談することをお勧めします。

(記事は2025年1月1日時点の情報に基づいています)

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