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1. 熟年離婚とは
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2. 熟年離婚の主な原因
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3. 熟年離婚のメリット
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3-1. 配偶者に対するストレスから解放される
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3-2. 配偶者の親族と付き合う必要がなくなる
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3-3. 介護をしなくてよくなる
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3-4. 自由時間が増え、趣味などに割ける時間が増える
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3-5. 新しい人生のパートナーを探すことができる
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3-6. 子どもや孫と会える頻度が高くなる
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4. 熟年離婚のデメリット
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4-1. 経済的に困窮するおそれがある
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4-2. 孤独を感じる
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4-3. 入院や介護施設入所時の不安がある
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4-4. 子どもに負担をかける可能性がある
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4-5. 老後の資金繰りが大幅に狂う可能性がある
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5. 熟年離婚の手続きの流れ
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5-1. 離婚協議|夫婦で直接話し合い
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5-2. 離婚調停|調停委員を介しての話し合い
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5-3. 離婚訴訟|裁判所による判決
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6. 熟年離婚を経験した人の体験談
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6-1. 夫の退職金を差押えにより確保して熟年離婚できたケース
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6-2. 扶養的財産分与を得て熟年離婚できたケース
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6-3. 子どもが成人したら離婚しようと決意していたケース
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6-4. 夫の不貞行為があっても熟年離婚を断念したケース
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7. 悲惨な熟年離婚をしないための対処法
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7-1. 離婚後の生活を事前にシミュレーションする
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7-2. 財産分与について入念に調査をする
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7-3. 年金分割をきちんと行う
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7-4. 配偶者に有責性があれば慰謝料を請求する
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7-5. 弁護士に相談または依頼する
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8. 配偶者から熟年離婚を求められた場合、回避する方法は?
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9. 熟年離婚に関してよくある質問
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10. まとめ 熟年離婚を計画している場合は弁護士に相談を
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1. 熟年離婚とは
婚姻20年以上で50歳代以上の夫婦の離婚を一般的に「熟年離婚」 と呼びます。
厚生労働省が公表している「令和4年人口動態統計」によると、2022年に離婚した夫婦のうち熟年離婚の割合は約23.5%で、統計のある1947年以降で最高 となりました。高齢化により夫婦だけで過ごす老後の生活が長くなったことから、人生を再設計しようと考える人が増えているようです。
2. 熟年離婚の主な原因
熟年離婚の原因は、ほかの離婚のケースと大きく変わりません。
ただし、弁護士である筆者が手がけた事案を見る限り、夫婦の一方が我慢に我慢を重ねた末に離婚に至るケースが多い印象 を受けます。配偶者の不倫や浪費、暴言、暴力などのわかりやすい理由よりも、価値観の不一致や家事育児への非協力、配偶者の親の介護に対する不満などに耐え続け、子どもの成長によって離婚を我慢する必要がなくなったり、夫の定年退職で一緒にいる時間が長くなったりしたことをきっかけに離婚するケース が多いように思います。
こうしたケースでは、若いころから離婚を検討している人が多いため、長年ため続けていた不倫や浪費の証拠を持っているなど、計画性をもって離婚に至ることが多いです。
3. 熟年離婚のメリット
熟年離婚をするメリットとして、主に次の6点が挙げられます。
配偶者に対するストレスから解放される
配偶者の親族と付き合う必要がなくなる
介護をしなくてよくなる
自由時間が増え、趣味などに割ける時間が増える
新しい人生のパートナーを探すことができる
子どもや孫と会える頻度が高くなる
3-1. 配偶者に対するストレスから解放される
熟年離婚の場合、長年の間、夫婦の一方が配偶者に我慢し続けてきたケースが多いため、離婚によって配偶者から解放される点は大きなメリットです。離婚成立時には「やっと終わった」と涙を流す依頼者も 少なくありません。
3-2. 配偶者の親族と付き合う必要がなくなる
配偶者の親族との折り合いが悪いことを離婚理由の一つに挙げる人もいます。そのような場合には、離婚によって配偶者だけでなく、その親族とも接することがなくなるため、精神的なストレスが軽減されます。
3-3. 介護をしなくてよくなる
実親の介護も必要な状況なのに、義理の両親の介護まで一手に行うことを求められる「主婦」や「主夫」もいます。配偶者や配偶者の兄弟姉妹らの援助もまったく得られないというケースが少なくありません。
介護を免れたいけれども断れない場合は、離婚をすることで介護を求められなくなる のも一つのメリットです。
3-4. 自由時間が増え、趣味などに割ける時間が増える
離婚することで家事などにかけていた時間が少なくなり、自分で生活スタイルを決められるようになります。自由時間が増え、これまで我慢していた趣味や旧友との交友関係に時間を割けるようになる のもメリットと言えるでしょう。
3-5. 新しい人生のパートナーを探すことができる
熟年離婚後、50代や60代で新しいパートナーと出会う人も少なくありません。本当に心を通わせられる、心休まる相手と一緒に健やかに過ごす時間を得られる可能性もあります。
3-6. 子どもや孫と会える頻度が高くなる
配偶者の性格や暴言、暴力などが原因で、子や孫が自宅に寄りつかず、会えない状態が続いているケースでは、離婚をきっかけに、自分との親子間の交流が再開する可能性があります。
4. 熟年離婚のデメリット
熟年離婚にはメリットが多い一方、次のようなデメリットもあることを知っておく必要があります。
4-1. 経済的に困窮するおそれがある
熟年離婚における最大のデメリットは、経済的側面です。特に専業主婦や専業主夫、あるいはパートで長年過ごしてい場合、20代から40代までと比較すると離婚しても安定した仕事への再就職が難しく、経済的に困窮してしまうおそれがあります。
そのため、たとえば配偶者の不倫が原因で50代や60代での熟年離婚を考えたとしても、経済的な自立のめどが立たないことを理由に、離婚そのものを断念するケースが散見されます。
子どもが独立するまでに十分な共有財産を築いてきた夫婦であれば問題ありませんが、それがない場合は財産分与が得られません。慰謝料が認められたとしても、老後の生活資金からすればごくわずかです。
総務省統計局による「家計調査報告(家計収支編)」のデータによれば、65歳以上の単身無職世帯(高齢単身無職世帯)における消費支出は14万5430円となっています。年金分割が得られたとしても、それだけで老後の支出を賄うことは難しいです。
4-2. 孤独を感じる
長年我慢されてきた人は、離婚によって解放感が上回ることが多いのですが、なかには一人での生活に孤独を感じる場面があるかもしれません。
4-3. 入院や介護施設入所時の不安がある
病院や介護施設では入院や入居時に身元引受人などを求めることが多く、頼りになる子どもや親族がいない場合は、不安を感じるケースがあると考えられます。
4-4. 子どもに負担をかける可能性がある
離婚時にしっかりとした経済的自立の見通しを立てないと、離婚後の生活が成り立たず、子どもに援助を求めなければならない状態になることもあります。
4-5. 老後の資金繰りが大幅に狂う可能性がある
夫婦共有財産の多くを占めるのが「不動産」である場合、離婚すると財産分与のために自宅を売却せざるを得ないケースが多いです。
定年退職後に住宅ローンを支払い終わった自宅で過ごそうと考えていた人にとっては、所有不動産を失うことで、「家賃」という想定外の出費が生じ、老後の資金繰りに大きく影響 する可能性があります。
5. 熟年離婚の手続きの流れ
熟年離婚の手続きは、ほかの離婚と大きくは変わらず、次のようなステップを踏みます。
5-1. 離婚協議|夫婦で直接話し合い
離婚協議は夫婦間で話し合って離婚条件を決めるもので、離婚届の提出によって離婚が成立します。熟年離婚では、特に財産分与と年金分割についてきちんと決めておくべき必要 があります。熟年離婚の場合は老後の生活に関する不安から離婚を拒否されるケース が多いです。今後の生活をお互いにどのように成り立たせるか、これが離婚協議を成功させるうえで重要なポイントとなります。
5-2. 離婚調停|調停委員を介しての話し合い
離婚協議がまとまらない場合は、家庭裁判所の離婚調停を通じて話し合うことが必要です。
離婚調停は相手の住所地の家庭裁判所に離婚調停の申立書を提出することによって申立てをします。男女2名の調停委員と裁判官1名が、当事者双方から交代で話を聞き、1カ月から1カ月半ごとに1回、調停期日を開きながら、調停成立に向けて手続きを進めていきます。
合意が成立しなければ、「不成立」というかたちで終了し、あとは離婚訴訟を起こすかどうかの選択になります。
5-3. 離婚訴訟|裁判所による判決
離婚調停が不成立となったときは、裁判所の判決によって強制的な離婚成立をめざします。判決で離婚が認められるためには、不貞行為など法的に定められた「法定離婚事由」が必要です。それ以外の事由の場合には、最低3年程度の長期間の別居が必要とされることが多いです。
離婚訴訟を起こしたからといって、必ず判決になるわけではなく、多くの場合、裁判官が間に入り、和解での離婚ができないかと当事者双方に勧めてきます。
この場合、判決で負けそうだと感じた側が、判決を得るよりは自分に有利かもしれないと考えて譲歩するケースが少なくありません。そのため、和解できる範囲が調停の場合より広がるため、合意が成立する可能性が高まります。

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6. 熟年離婚を経験した人の体験談
ここでは、筆者が手がけた熟年離婚の事例を4つ紹介します。
6-1. 夫の退職金を差押えにより確保して熟年離婚できたケース
夫の暴言や暴力、浪費が原因で10年前に別居をしたものの、別居当時は離婚を拒絶されていた50代女性のケースです。その後、家族の関わりを絶って別居だけ続けてきたものの、夫の定年退職が数カ月後に迫り、離婚をしたいと考えました。
しかし、夫には借金と浪費癖があるため、一度支給されると退職金がすぐになくなってしまうと考え、退職金の仮差押えと離婚調停、離婚訴訟 を行いました。
夫は結局、離婚訴訟などには一度も出席しませんでしたが、退職金の仮差押えはできたため、退職金だけは確保して離婚できました。依頼者である女性は安堵するとともに、長年ストレスだった離婚問題が解放されました。
6-2. 扶養的財産分与を得て熟年離婚できたケース
夫の暴言や暴力、不貞が原因で離婚を決意した50代女性のケースです。
夫の実家が資産家であり、かつ、夫が特有財産から妻の生活費相当額を分与すると合意したため、数千万円の財産分与が認められられました 。このように、夫婦のうち経済的余裕がある側がもう一方の離婚後の生活費相当額を財産分与として支払うことを扶養的財産分与と言います。これにより、依頼者は自らのもともとの資産と合わせると、離婚後も一切働くことなく、生活を送れるようになりました。
夫の家から「妻の役割」「母親の役割」という考えを一方的に押し付けられ、自分の趣味なども我慢して、長年、夫やその実家の顔色をうかがって生活をしてきた依頼者は、離婚により一人で生活でき、自由な時間を得られたことを非常に喜んでいました。
6-3. 子どもが成人したら離婚しようと決意していたケース
家事育児のいわゆる「ワンオペ」や夫の浪費、不貞に長年苦しみ、子どもたちが全員大学を卒業したら離婚をしようと決意していた50代女性のケースです。長年証拠を集め続け、夫の両親の介護を一人でしてほしいと言われたことをきっかけに離婚に動き出しました 。
夫は「離婚したら誰が親の面倒をみるのか。自分の食事はどうすればいいのか」と離婚を拒絶し続けていましたが、離婚訴訟の途中で断念し、和解離婚に応じました。夫の借金が多く、財産分与そのものはほとんどありませんでしたが、依頼者はもともと経済的に自立していたため、離婚をして今後、関わらなくて済むことにとても満足していました。
6-4. 夫の不貞行為があっても熟年離婚を断念したケース
熟年離婚を断念した60代女性のケースも紹介します。
専業主婦だった依頼者は、ある日夫から「今まで黙っていたが、自分には好きな女性がいて、交際をやめるつもりもない。最低限の生活費は払うから今度はお互い好きに生きよう」と告げられ、一時は離婚を決意しました。しかし、依頼者本人の資産はもちろん、夫婦共有財産がまったくなく、資格や職歴もなかったために働くことも難しい状況でした。
結果的に、離婚による経済的な困窮をまず避けたいという理由から、法律相談の段階で離婚を断念 するに至りました。
7. 悲惨な熟年離婚をしないための対処法
満足のいく離婚をするためには、離婚後の生活を見通し、次のような対策をしておく必要があります。
離婚後の生活を事前にシミュレーションする
財産分与について入念に調査をする
年金分割をきちんと行う
配偶者に有責性があれば慰謝料を請求する
弁護士に相談または依頼する
7-1. 離婚後の生活を事前にシミュレーションする
離婚によって生活は大きく変わります。特に生活費のシミュレーションは非常に重要です。また、年齢が上がるにつれて病気などの心配も増えます。頼れる親族がいるかどうかを含め、その後の生活を具体的にシミュレーションすると納得のいく離婚後の生活を送れるはずです。
7-2. 財産分与について入念に調査をする
夫婦共有財産をしっかりと築いてきた夫婦では、多額の財産分与を受けられることが多いため、相手の収入や財産をきちんと調べておく必要があります。しかし、投資信託や保険をはじめとする金融商品や、預金の取引履歴など、財産分与に必要な証拠を得にくいことがあります。
たとえば、親から受け継いだ遺産や、独身時代の財産は「特有財産」として財産分与の対象から外されますが、特有財産を得るためには、結婚時の資産の状況、婚姻から別居までの資産の推移を明らかにしないといけません。しかしながら、多くの金融機関で取引履歴を確実に取得できる期間は10年に満たないことが多く、数十年前の取引履歴を得られることはまずありません 。また、10年程度の別居を経てから離婚する場合は、財産分与の基準時である別居時の資料を提出する必要がありますが、10年前の別居時の取引履歴を取得することはかなり難しいことがあります。
そのため、熟年離婚をめざす場合は、将来に備え、今から計画的に証拠収集を進めていく必要があります。また、10年前の別居時の取引履歴を取得するのは困難であるため、あまりに長期間の別居を行うのはお勧めできません。
7-3. 年金分割をきちんと行う
年金分割は、結婚期間中に2人で納めた保険料納付額に対応する厚生年金を分割する制度です。
そのため、配偶者が会社員や公務員の場合は、年金分割によって将来の年金を増やせる可能性 があります。一方、相手配偶者が婚姻期間中ずっと国民年金だった場合、年金分割という制度は適用されません。
年金分割には合意分割と3号分割という制度があります。
3号分割は、専業主婦や専業主夫など、国民年金の扶養を受けていた第3号被保険者からの請求で、平成20年4月1日以後の年金を2分の1ずつ、当事者間で分割できる制度です。当事者双方の合意は必要ありません。
平成20年4月1日以降、全期間3号被保険者だった場合を除き、相手の合意を得たうえで年金を分割(=合意分割)する必要があります。年金分割の期間制限は、離婚成立の日の翌日から2年です。
7-4. 配偶者に有責性があれば慰謝料を請求する
離婚をしたい理由が不貞行為や暴力など、配偶者に非がある場合、離婚請求の際に慰謝料を請求できます。熟年離婚の場合は結婚期間が長いため、若い夫婦の離婚に比べると相対的に高い慰謝料が認められる傾向があります。
7-5. 弁護士に相談または依頼する
熟年離婚の場合、夫婦双方の権利関係が絡み合い、財産分与の主張や立証に弁護士の助力が必要となるケースが多くなります。また、財産分与そのものの金額が大きくなるため、弁護士への依頼をするかしないかで、分与額の差が大きく開くケース も多く見られます。そのため、早めに弁護士に相談または依頼することをお勧めします。
8. 配偶者から熟年離婚を求められた場合、回避する方法は?
法的に離婚が認められるための法定離婚事由がなければ、同意しない限り離婚は成立しません。
しかし、それは単に今は離婚をしないで済んでいるだけで抜本的な解決になり得ず、離婚の先延ばしに過ぎません。
本当の意味で離婚を回避したいのであれば、夫婦関係を改善するために話し合い、相手の不満に耳を傾ける必要があります 。その結果、不満が受け入れられないと考えるのであれば、離婚に応じるのも一つの方法です。
9. 熟年離婚に関してよくある質問
10. まとめ 熟年離婚を計画している場合は弁護士に相談を
熟年離婚は、直接的な原因が突然発生して離婚するというよりも、家事や子育てなどで我慢し続けた末に離婚に至るケースが圧倒的に多く見られます。
熟年離婚では、転職や就職が容易にできる若年の場合より経済的自立が重要です。自分で働くのか、財産分与を頼るのか、親族を頼るのか、しっかりと離婚後のプランを立てて計画的に行動していく必要があります。
納得のいく熟年離婚をするためには、まずは熟年離婚に精通した弁護士に相談することが大切です。
(記事は2024年12月1日時点の情報に基づいています)
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