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1. 年金分割とは
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1-1. 年金分割の目的
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1-2. 年金分割の対象になるもの|厚生年金、共済年金
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1-3. 年金分割の対象にならないもの|国民年金、確定拠出年金、企業年金、民間の年金保険など
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1-4. 年金分割の2種類の手続き|合意分割と3号分割
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2. 離婚時に年金分割しないとどうなる?
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2-1. 国民年金のみの支給額は月6万8000円|将来的に減額する可能性も
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2-2. 65歳以上の単身無職世帯の消費支出は、平均14万5430円
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2-3. 年金分割をしなかった場合の生活費シミュレーション|大幅に不足するおそれあり
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3. 年金分割を請求しなくても問題ないケース
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3-1. 【事例1】配偶者が厚生年金保険に加入したことがない
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3-2. 【事例2】配偶者よりも自分の給与収入の方が多い
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4. 年金分割をせずに離婚した場合、その後に請求はできる?
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4-1. 年金分割の期限は離婚後2年以内|期限内なら請求可能
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4-2. 本来の請求期限に間に合わない場合の特例
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5. 離婚後に合意分割を請求する手続き
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5-1. 「年金分割のための情報通知書」を取得する
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5-2. 協議、調停、審判で年金分割の割合を決める
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5-3. 年金事務所等に合意分割を請求する
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6. 離婚後に3号分割を請求する手続き
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7. 離婚後の年金分割請求を弁護士に相談するメリット
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8. 離婚と年金分割についてよくある質問
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9. まとめ 離婚した際は年金分割の請求を忘れずに行うのが重要
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1. 年金分割とは
「年金分割」とは、夫婦が離婚する際に、夫婦で納付した年金保険料を夫婦で公平に分け、それぞれが適切な額の年金を受け取るようにするための手続きです。
1-1. 年金分割の目的
年金分割の目的は、婚姻期間中の保険料納付記録を分けて、元夫婦の厚生年金の受給額を公平化 することです。老後に受け取れる厚生年金の額は、厚生年金保険料などの納付実績に応じて決まります。したがって、厚生年金保険料の納付記録は資産の一種と捉えることができます。
婚姻中に得た財産は夫婦の協力によって得られたものと考えられるため、その財産を公平に分ける「財産分与」が認められています。厚生年金保険料等の納付記録を公平に分ける年金分割も財産分与と同じ趣旨になります。
1-2. 年金分割の対象になるもの|厚生年金、共済年金
年金分割の対象となるのは、厚生年金保険または共済年金の加入記録です。共済年金は、かつて公務員や私立学校教職員などが加入対象とされており、2015年10月1日をもって厚生年金保険に統一されました。
夫婦のいずれか、または両方が会社の役員や従業員、または公務員などである場合は、年金分割の対象となる可能性が高いでしょう。
1-3. 年金分割の対象にならないもの|国民年金、確定拠出年金、企業年金、民間の年金保険など
すべての年金が年金分割の対象となるわけではありません。年金分割の対象は、厚生年金保険と共済年金に限られています。
それ以外の国民年金、確定拠出年金、企業年金、民間の年金保険などは、年金分割の対象外です。
1-4. 年金分割の2種類の手続き|合意分割と3号分割
年金分割の手続きには、「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。
【合意分割】
夫婦間の合意または裁判手続きによって按分割合を定めたあと、その割合に従って年金分割を行います。按分割合は、もともと多い側が50%以上、かつもともと少ない側が減らない範囲で、夫婦の話し合いで自由に決められます。ただし、裁判所の審判や訴訟で決める際には2分の1ずつが原則
とされています。
【3号分割】
専業主婦など配偶者の扶養に入っていた人で、2008年4月1日以降の婚姻期間中に国民年金の第3号被保険者だった期間がある人は、3号分割を請求できます。請求にあたって当事者双方の合意は必要なく、相手の厚生年金記録の2分の1を請求します。
2. 離婚時に年金分割しないとどうなる?
年金分割の恩恵を受けられるのは、配偶者よりも給与収入が少ない側です。専業主婦または専業主夫、パート勤務、自営業者らです。
これらの人は厚生年金保険に加入しておらず、厚生年金を受給できないケースが多いと考えられます。そのため、離婚時に年金分割を請求しないと、老後の生活費が足りなくなるおそれがある ので要注意です。
2-1. 国民年金のみの支給額は月6万8000円|将来的に減額する可能性も
老齢年金が国民年金のみである場合、1カ月あたりの支給額は、2024年度の時点で満額でも6万8000円です。近年は少子高齢化が加速しているため、将来的には国民年金の支給額がさらに減額される可能性もあります。
2-2. 65歳以上の単身無職世帯の消費支出は、平均14万5430円
総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2023年(令和5年)平均結果の概要」によると、65歳以上の単身無職世帯の消費支出は、月額平均14万5430円です。最近では物価上昇の傾向が続いているため、将来的にはより多くの支出が必要になるおそれもあります。
2-3. 年金分割をしなかった場合の生活費シミュレーション|大幅に不足するおそれあり
現在の数値を前提として計算すると、収入が国民年金のみである65歳以上の人間が平均的な消費をした場合、毎月の生活費は「7万7430円」不足します。
仮に65歳から90歳ちょうどまで25年間、つまり300カ月間生きたとすると、単純に計算して生活費の不足額は「2322万9000円」 に及びます。これを現役時代の貯蓄や家族の援助などによってまかなうのは難しいと言えるでしょう。
離婚時に年金分割を請求しないと、このような経済的に苦しいシミュレーションが現実的になります。
年金分割によって少しでも年金額が増えれば、老後の生活の大きな助けとなります 。合意分割の場合で平均して月3万円程度、将来受け取れる年金額が増えています 。年金が月3万円増えれば、65歳から90歳ちょうどまでの25年間、300カ月間では「900万円」増加することになり、生活費の不足額は「1422万9000円」となります。
老後の生活を楽にするため、年金分割を請求できる場合は確実に請求しましょう。
3. 年金分割を請求しなくても問題ないケース
離婚時に年金分割を請求すべきかどうかは、自分と配偶者の厚生年金保険への加入状況や収入を照らし合わせて判断します。
年金分割をすることで自分の年金が増えるなら請求すべきですが、逆に自分の年金が減るようであれば、相手から請求されない限り年金分割を求める必要はありません 。
具体的には、以下のようなケースでは、年金分割を請求しなくてもよいと考えられます。
3-1. 【事例1】配偶者が厚生年金保険に加入したことがない
婚姻期間中において、配偶者が厚生年金保険に加入していなかった場合は、年金分割を請求しても自分の年金は増えません。
たとえば、配偶者がずっと自営業者だった場合や、ずっと専業主婦あるいは専業主夫だった場合などには、年金分割の請求は不要です。
ただし、配偶者から年金分割を請求される可能性が高い点にご留意ください。
3-2. 【事例2】配偶者よりも自分の給与収入の方が多い
夫婦がいずれも給与所得者で、自分の婚姻期間中の給与収入が配偶者を上回っている場合は、年金分割をすると自分の年金が減ってしまいます。
この場合、相手から年金分割を請求されるまでは、特に年金分割の話題を出さなくてもよいでしょう。
4. 年金分割をせずに離婚した場合、その後に請求はできる?
年金分割をせずに離婚したとしても、離婚後2年間は年金分割の請求が可能です。2年以内に年金分割の手続きが間に合わない場合でも、以下のように一定の条件を満たせば期限の延長が認められます。
4-1. 年金分割の期限は離婚後2年以内|期限内なら請求可能
年金分割は、原則として離婚成立日の翌日から起算して2年以内に年金事務所または街角の年金相談センターに対して請求する必要があります。2年間の期限内であれば、離婚後でも年金分割の請求が可能 です。
ただし、離婚成立後に元配偶者が死亡した場合は、死亡日から起算して1カ月を経過すると年金分割を請求できなくなります。
4-2. 本来の請求期限に間に合わない場合の特例
離婚成立日の翌日から起算して2年以内に年金分割の請求ができないときでも、以下のいずれかに該当する場合に限り、請求期限の延長が認められます。
①離婚から2年を経過するまでに年金分割に関する審判または調停を申し立て、本来の請求期限が経過した後、あるいは本来の請求期限が経過する日の前6カ月以内に審判が確定、または調停が成立した場合
請求期限は、審判の確定日または調停の成立日から6カ月以内となります。
②按分割合に関する附帯処分を求める申立てを行い、本来の請求期限が経過したあと、あるいは本来の請求期限が経過する日の前6カ月以内に按分割合を定める判決が確定、または和解が成立した場合
請求期限は、判決の確定日または和解の成立日から6カ月以内となります。
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5. 離婚後に合意分割を請求する手続き
元配偶者との合意、または裁判手続きによって年金分割の割合を決める場合は、合意分割の手続きを行います。
離婚後に合意分割を請求する手続きの流れは、以下のとおりです。
【STEP1】「年金分割のための情報通知書」を取得する
【STEP2】協議、調停、審判で年金分割の割合を決める
【STEP3】年金事務所などに合意分割を請求する
各項目について説明していきます。
5-1. 「年金分割のための情報通知書」を取得する
まずは「年金分割のための情報通知書」を取得します。
年金分割のための情報通知書は、年金分割の対象となる期間などの情報が記載された書面です。年金分割の協議をする際の参考資料となるだけでなく、調停や審判の申立てを行う際にも提出が求められます。
年金事務所または街角の年金相談センターに「年金分割のための情報提供請求書」を提出すると、年金分割の情報通知書を取得できます。
5-2. 協議、調停、審判で年金分割の割合を決める
年金分割のための情報通知書に記載された情報をもとに、元配偶者との間で年金分割の割合を協議します。合意が得られたら、その内容をまとめた公正証書などを作成します。
協議がまとまらないときは、家庭裁判所に調停または審判を申し立てます。調停は調停委員を介した話し合いの手続き、審判は家庭裁判所が年金分割の割合を決定する手続きです。
5-3. 年金事務所等に合意分割を請求する
年金分割の割合が確定したら、年金事務所または街角の年金相談センターに対して合意分割の請求を行います。
離婚後の合意分割請求に必要な書類は、以下のとおりです。
【常に必要な書類】
・標準報酬改定請求書
・元夫婦それぞれの戸籍謄本または戸籍抄本。ただし、請求日前6カ月以内に交付され、婚姻日と離婚日が確認できるものに限る
【事実婚関係にある期間を含む場合に必要な書類】
・住民票など、事実婚関係にある期間を明らかにできる書類
【請求書に個人番号を記入する場合に必要な書類】
・マイナンバーカードなど、個人番号を明らかにできる書類
【請求書に基礎年金番号を記入する場合に必要な書類】
・基礎年金番号通知書や年金手帳など、基礎年金番号を明らかにできる書類
【請求書に個人番号を記載しない場合に必要な書類】
・戸籍謄本、戸籍抄本または住民票など、元夫婦双方の生存を証明できる書類。ただし、請求日前1カ月以内に交付されたものに限る
【協議で年金分割の割合を定めた場合に必要な書類】
以下のいずれかの書類
・公正証書の謄本または抄録謄本
・公証人の認証を受けた私署証書
・年金分割すること、および按分割合について合意している旨を記入し、自らが署名した年金事務所所定様式の書類
【調停で年金分割の割合を定めた場合に必要な書類】
・調停調書の謄本または抄本
【審判で年金分割の割合を定めた場合に必要な書類】
・審判書の謄本または抄本および確定証明書
6. 離婚後に3号分割を請求する手続き
2008年4月1日以降の婚姻期間中に、国民年金の第3号被保険者だった期間がある場合は、離婚後に単独で3号分割を請求できます。
3号分割の請求は、合意分割と同じく、年金事務所または街角の年金相談センターに対して行います。3号分割の請求に必要な書類は以下のとおりです。
【常に必要な書類】
・標準報酬改定請求書
・元夫婦それぞれの戸籍謄本または戸籍抄本。ただし請求日前6カ月以内に交付され、婚姻日と離婚日が確認できるものに限る
【事実婚関係にある期間を含む場合に必要な書類】
・住民票など、事実婚関係にある期間を明らかにできる書類
【請求書に個人番号を記入する場合に必要な書類】
・マイナンバーカードなど、個人番号を明らかにできる書類
【請求書に基礎年金番号を記入する場合に必要な書類】
・基礎年金番号通知書や年金手帳など、基礎年金番号を明らかにできる書類
【離婚成立前に3号分割を請求する場合に必要な書類】
・事実上離婚状態にあることを明らかにできる書類
7. 離婚後の年金分割請求を弁護士に相談するメリット
離婚後の年金分割請求にあたっては、元配偶者との協議や裁判手続きが必要になるうえに、提出書類の取得にも手間がかかります。
弁護士に依頼すれば、離婚後の年金分割請求に必要な手続きを全面的に代行してもらえます。自力で対応する場合に比べて大幅に手間が省けるとともに、適切な割合で年金分割を受けることができるでしょう 。
そのため、離婚後の年金分割請求は弁護士に相談するのがお勧めです。
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8. 離婚と年金分割についてよくある質問
9. まとめ 離婚した際は年金分割の請求を忘れずに行うのが重要
夫婦が離婚した際、婚姻期間中に厚生年金保険または共済年金の保険料を納付していた場合は、年金分割を請求して厚生年金の受給額を公平化することができます。
専業主婦または専業主夫や自営業者、パート勤務者などは、離婚時に年金分割を請求しないと、老後の生活費が大幅に足りなくなるおそれがあります。
年金分割の手続きには「合意分割」と「3号分割」の2種類があり、それぞれ必要な書類や手続きの方法が異なります。また、元配偶者との話し合いがまとまらずに、家庭裁判所への調停や審判の申立てが必要となるケースもあります。
自分で対応するのが難しい場合は、弁護士のサポートを受けて、適切な割合による年金分割を請求するようにしましょう。
(記事は2025年1月1日時点の情報に基づいています)