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1. 元配偶者に自己破産されたら、離婚慰謝料はどうなる?
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1-1. 自己破産とは
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1-2. 離婚慰謝料も自己破産によって原則、免責される
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2. 自己破産しても離婚慰謝料が免責されないケース
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2-1. 免責不許可事由がある場合|ただし裁量免責が認められることが多い
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2-2. 離婚慰謝料が非免責債権に当たる場合
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3. 不倫慰謝料が非免責債権に当たるかどうかが争われた裁判例
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4. 自己破産した相手に離婚慰謝料を請求する方法
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5. 離婚に関するお金のうち、自己破産されても免責されないもの
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5-1. 養育費
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5-2. 婚姻費用
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5-3. 年金分割
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6. 離婚慰謝料と自己破産に関する質問
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7. まとめ 元配偶者が自己破産すると慰謝料の回収は難しい
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1. 元配偶者に自己破産されたら、離婚慰謝料はどうなる?
元配偶者が自己破産をすると、未払いの離婚慰謝料はほとんど回収できなくなってしまいます。自己破産とは何か、および慰謝料が回収できなくなってしまう理由を解説します。
1-1. 自己破産とは
自己破産とは、借金など支払い義務のあるお金(債務)を支払えなくなった人が、裁判所に申し立てを行い、債務全額を免除してもらう手続きです。
自己破産の手続きが開始されると、債務者の財産は最低限のものを残して破産管財人が管理します。破産管財人が管理する財産は換金され、支払いを受ける権利がある人(債権者)に対して分配(配当)が行われます。その後、残った債務全額が免除されます。
債権者にとっては大きな損失となりますが、債務者の経済的更生を促すために、自己破産による債務の免除が認められています。
1-2. 離婚慰謝料も自己破産によって原則、免責される
前述の通り、自己破産をすると離婚慰謝料の支払い義務も免除される可能性が高いです。破産手続きにおける配当は、優先順位の高い債権(破産手続きの費用や税金など)が支払われた後、債務者の財産が残っていれば行われます。しかし自己破産をする状況では、十分な配当ができるだけの財産は残っていないのが通常です。配当を受けられても、請求していた金額の数%程度にとどまるケースが多く、全く配当を受けられないこともあります。
配当が完了した後に残った支払いは、免責となるケースが大半です。離婚慰謝料も、配当を受けられなかった額は免責されます。
2. 自己破産しても離婚慰謝料が免責されないケース
元配偶者が自己破産をしても、離婚慰謝料の支払いが免除されないケースについて説明します。
2-1. 免責不許可事由がある場合|ただし裁量免責が認められることが多い
自己破産によって債務者の財産が処分され、債権者に対して配当が行われた後、裁判所は免責許可の決定を行い、残った債務を免除することが原則とされています。しかし、免責不許可事由がある場合には、裁判所は免責を許可しないことができます(破産法252条1項)。
<免責不許可事由の例>
債権者を害する目的で、破産財団(配当される財産)の価値を不当に減少させたこと
特定の債権者を優遇し、または特定の債権者に不利益を与える目的で、弁済期の到来していない債務を弁済し、または義務のない担保提供をしたこと
浪費や賭博などによって著しく財産を減少させ、または過大な債務を負担したこと
裁判所の調査に対する説明を拒み、または虚偽の説明をしたこと
不正の手段によって破産管財人などの職務を妨害したこと
自己破産の申し立て前7年間に、破産免責などを受けたことがあること
自己破産によって債権者が不当に害されないように、上記のような免責不許可事由がある場合は、原則として慰謝料を含めた全ての債務が免除されません。
ただし、免責不許可事由が存在する場合でも、裁判所は破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して、免責が相当と認めるときは免責許可の決定をできるとされています(同条2項)。実務上は、免責不許可事由が存在しても、大半のケースで免責が許可されている状況です。
2-2. 離婚慰謝料が非免責債権に当たる場合
非免責債権とは、自己破産をしても免責の対象外とされている債権のことです。以下の債権は、自己破産をしても免責されません。
租税等の請求権(税金)
破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
破産者が故意または重大な過失により加えた、人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
夫婦間の協力扶助義務、婚姻費用の分担義務、子の監護に関する義務、扶養義務、またはこれらに類する契約上の義務に係る請求権
雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権、および使用人の預り金の返還請求権
破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(債権者が破産手続開始の決定があったことを知っていた場合を除く)
罰金等の請求権
たとえば、DVによる離婚慰謝料は非免責債権に該当する可能性があります。「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」または「破産者が故意または重大な過失により加えた、人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」に当たり得るためです。
破産免責が認められないので、元配偶者が自己破産をしても引き続き請求可能です。
3. 不倫慰謝料が非免責債権に当たるかどうかが争われた裁判例
相手の不倫を理由に離婚せざるを得なくなった場合には、相手に対して不倫慰謝料を請求できます。
不倫慰謝料については、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」として非免責債権に当たるかどうかが争われるケースがあります。しかし、実務上は不倫慰謝料は非免責債権に当たらないと判断されることが多いようです。
一例として東京地裁平成15年7月31日判決では、5年間にわたって不貞関係が継続し、さらに不倫相手との間で結婚式を挙げていた事案が問題となりました。東京地裁は、不法行為としての悪質性を指摘しつつも、被害者に対する「積極的な害意」があったとまでは認められないとして、不倫慰謝料の破産免責を有効と判示し、慰謝料の免責が認められました。
「積極的な害意」とは、相手に対して積極的に危害を加えたり、損害を与えたりしようとする意思のことです。不倫の場合、不倫をした配偶者が「妻(夫)を傷つけてやろう」と思って不倫をしたケースでなければ、積極的な害意は認められないと思われます。

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4. 自己破産した相手に離婚慰謝料を請求する方法
自己破産によって免責された離婚慰謝料は、相手に対して強制的に支払いを求めることはできません。
任意の支払いを求めることは可能ですが、拒否されれば回収は難しいでしょう。免責されない養育費などの回収に集中した方が得策と考えられます。
5. 離婚に関するお金のうち、自己破産されても免責されないもの
自己破産によって離婚慰謝料が免責されても、養育費、婚姻費用、年金分割などは免責されません。これらのお金を請求できる場合は、忘れずに請求を行いましょう。
5-1. 養育費
養育費は、子どもの養育に必要な生活費や教育費などの費用です。離婚後に子どもと同居しない親は、同居する親に対して養育費を支払う義務を負います。
養育費は扶養義務に基づくため、非免責債権です。したがって、相手が自己破産をした場合でも、養育費は引き続き請求可能です。
5-2. 婚姻費用
婚姻費用は、婚姻生活に必要な生活費などの費用です。離婚前に別居期間がある場合、収入が少ない側は、収入が多い側に対して婚姻費用を請求できることがあります。
婚姻費用は非免責債権なので、相手が自己破産をしても、婚姻費用は引き続き請求できます。
5-3. 年金分割
年金分割は、婚姻中の厚生年金保険または共済年金の保険料納付記録を、夫婦間で公平に分ける手続きです。相手が会社の役員や従業員、公務員などであった場合は、年金分割によって将来の年金が増える可能性があります。
年金分割請求権は、自己破産によって免責されないため、相手が自己破産をしても年金分割を請求可能です。ただし、年金分割請求の期限は原則として、離婚成立日の翌日から2年間に限られているため、注意しましょう。
6. 離婚慰謝料と自己破産に関する質問
7. まとめ 元配偶者が自己破産すると慰謝料の回収は難しい
未払いの離婚慰謝料は、相手が自己破産をすると免責されてしまうケースが多いです。相手の経済状況が悪そうな場合は、できる限り速やかに離婚慰謝料の回収を図ることが重要です。
もし離婚慰謝料が免責されてしまったら、養育費など免責されないお金を回収しましょう。離婚に伴うお金がきちんと支払われない場合は、回収方法について弁護士に相談することをおすすめします。
(記事は2025年6月1日時点の情報に基づいています)