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1. 離婚時の年金分割とは
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1-1. 年金分割の目的
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1-2. 年金分割の対象になるもの|厚生年金と共済年金
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1-3. 年金分割の対象にならないもの|国民年金、確定拠出年金、企業年金、民間の年金保険など
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1-4. 年金分割をすると、いくら年金が増えるのか?|平均月3万円程度
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1-5. 年金分割後の厚生年金を受け取れるタイミング
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1-6. 年金分割の期限|2年以内
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2. 年金分割の2種類の方法|合意分割と3号分割
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2-1. 合意分割|夫婦の合意や裁判手続きによって取り分を決める
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2-2. 3号分割|被扶養者が単独で請求可 割合は2分の1
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3. 合意分割の手続きと必要書類
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3-1. 「年金分割のための情報通知書」を取得する
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3-2. 年金分割の割合を協議する
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3-3. 家庭裁判所に調停を申し立てる
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3-4. 訴訟または審判で年金分割の割合が決定される
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3-5. 年金事務所などに合意分割を請求する
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4. 3号分割の手続きと必要書類
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4-1. 離婚を成立させる
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4-2. 年金事務所等に3号分割を請求する
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5. 婚姻期間20年なら、年金分割でいくらもらえる? 金額の計算方法を紹介
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5-1. 設例1|夫が会社員で、妻が専業主婦の場合
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5-2. 設例2|夫が会社員で、妻がパート勤務の場合
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5-3. 設例3|夫と妻が共働きで、2人とも厚生年金に加入している場合
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6. 30代や40代の離婚でも年金分割は請求できる
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7. 離婚時の年金分割に関してよくある質問
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8. まとめ 弁護士に相談して年金分割の請求を
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1. 離婚時の年金分割とは
「年金分割」とは、離婚の際に、将来受け取れる見込みの厚生年金の権利を公平に分ける手続きです。
1-1. 年金分割の目的
離婚時の年金分割が認められているのは、「財産分与」と同じ趣旨によります。
財産分与とは、離婚する夫婦が互いの財産を公平に分ける手続きです。婚姻期間中(=結婚してから離婚するまでの期間)に取得した財産は、原則として夫婦の協力により得られたものと考えられるため、財産分与の対象となります。
将来受け取れる厚生年金の額は、納付の実績に応じて決まります。婚姻期間中に保険料を納付すると、厚生年金の額が増えます。つまり、保険料の納付記録は資産の一種であり、夫婦の協力によって築き上げたものと捉えることができるため、離婚時において公平な分割を請求することが認められています 。
1-2. 年金分割の対象になるもの|厚生年金と共済年金
年金分割の対象となるのは、厚生年金または共済年金の加入記録です。なお、共済年金はかつて公務員や私立学校教職員などが加入することになっていましたが、2015年10月1日以降は厚生年金に統一されています。
婚姻期間中において、夫婦のいずれかまたは両方が会社員や公務員などとして雇用されていた場合や、役員として会社から給与を受け取っていた場合などには、年金分割の対象となります。
1-3. 年金分割の対象にならないもの|国民年金、確定拠出年金、企業年金、民間の年金保険など
厚生年金保険または共済年金以外の年金は、年金分割の対象になりません。たとえば国民年金、確定拠出年金、企業年金、民間の年金保険などは、いずれも年金分割の対象外です。
1-4. 年金分割をすると、いくら年金が増えるのか?|平均月3万円程度
年金分割をすると、婚姻期間中の厚生年金保険の納付額が多い側の厚生年金が減る一方で、納付額が少ない側の厚生年金が増えます 。
厚生労働省年金局が公表した「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」のp29の資料によると、合意分割(離婚分割)の場合で平均して月3万2734円、将来受け取れる厚生年金の額が増えています 。配偶者の扶養に入っていた人が対象の3号分割の場合は、平均して月7238円の増加となっています。
具体的な厚生年金の増加額(減少額)は、納付実績に応じて決まります(計算方法は後述)。
1-5. 年金分割後の厚生年金を受け取れるタイミング
年金分割によって増えた厚生年金を受け取れるのは、原則として65歳に達したときからです。ただし、最も早くて60歳から受給できる繰上げ受給、または最も遅くて75歳まで受給開始を遅らせる繰下げ受給を選択することもできます。
なお、働いていて収入がある場合は、厚生年金の全部または一部が支給停止となるケースがあります。
1-6. 年金分割の期限|2年以内
年金分割請求の期限は、次のいずれかの事由に該当した日の翌日から起算して2年以内です。
離婚をしたとき
婚姻の取り消しをしたとき
事実婚関係にある場合に国民年金第3号被保険者資格を喪失し、事実婚関係が解消したと認められるとき
離婚成立後2年間が経過すると年金分割請求ができなくなるため、早めに手続きを行いましょう。
2. 年金分割の2種類の方法|合意分割と3号分割
年金分割には「合意分割」と「3号分割」という2種類の方法があります。
2-1. 合意分割|夫婦の合意や裁判手続きによって取り分を決める
「合意分割」とは、夫婦間の合意または裁判手続きによって按分(あんぶん)割合を定めたあと、その割合に従って行う年金分割です。
以下の手続きによって年金分割の割合を決めた場合は、合意分割となります。
離婚協議
離婚調停
離婚訴訟
離婚後の年金分割の割合を定める調停や審判
按分割合は、もともと多い側が50%以上、かつもともと少ない側が減らない範囲で、夫婦で自由に決められます。ただし、裁判所の審判や訴訟で決める際には2分の1ずつが原則 とされています。
2-2. 3号分割|被扶養者が単独で請求可 割合は2分の1
「3号分割」とは、配偶者の扶養に入っていた専業主婦や専業主夫などが、単独で請求する年金分割です。
3号分割を請求できるのは、2008年4月1日以降の婚姻期間中に、国民年金の第3号被保険者だった期間がある人です。第3号被保険者には、専業主婦または専業主夫、あるいは配偶者の扶養内でパートをしていた人などが該当します。
3号分割は事前の合意などが必要なく、単独で請求できます。3号分割の請求がなされると、婚姻期間中に保険料納付記録が自動的に2分の1ずつに分割 されます。
3. 合意分割の手続きと必要書類
合意分割の方法によって年金分割を請求する際の手続きの流れと必要書類を解説します。
3-1. 「年金分割のための情報通知書」を取得する
まずは、年金事務所から「年金分割のための情報通知書」を取得する必要があります。年金分割のための情報通知書には、年金分割の対象となる期間などの情報が記載されています。
年金分割のための情報通知書は、協議によって年金分割割合を決める際の参考資料 になります。また、調停、訴訟、審判といった裁判手続きで年金分割を請求する際には、裁判所に年金分割のための情報通知書を提出しなければなりません。
年金事務所または街角の年金相談センターに「年金分割のための情報提供請求書」を提出すると、年金分割の情報通知書を取得できます。合意分割を請求する際には、早めに年金分割の情報通知書を取得しておきましょう。
3-2. 年金分割の割合を協議する
離婚成立前であれば、財産分与や慰謝料、子どもの親権などの離婚条件と併せて、年金分割の割合についても配偶者と話し合いましょう。離婚成立後でも、離婚後2年間が経過するまでは、配偶者との協議で決めた割合で年金分割を請求 できます。
配偶者との協議に基づいて合意分割を請求する際には、以下のいずれかの書類を作成し、年金事務所に提出しなければなりません。合意内容を記載した公正証書を作成しておくのがよいでしょう。公正証書は公務員である公証人が作成する公文書で、強い証拠力を持ちます。
①公正証書(謄本または抄録謄本を提出)
②公証人の認証を受けた私署証書
③年金分割することおよび按分割合について合意している旨を記入し、自らが署名した書類(年金事務所所定の様式による)
なお、③の場合は、夫婦(代理人可)がそろって年金事務所に直接、合意書を持参する必要があります。
3-3. 家庭裁判所に調停を申し立てる
年金分割に関する協議がまとまらないときは、家庭裁判所に調停を申し立てましょう。
離婚成立前なら「離婚調停」、離婚成立後なら「年金分割の割合を定める調停」を申し立てます。ただし、年金分割の割合を定める調停の申立ては省略して、家庭裁判所の審判を求めることも可能です。
調停の申立てにあたっては、申立書およびその写し1通、ならびに年金分割のための情報通知などを裁判所に提出します。離婚調停の場合は、財産分与や慰謝料、子どものことなど、ほかの離婚条件に関する資料も提出しましょう。
調停では、調停委員を介して夫婦間で年金分割の割合などを話し合います。合意が得られた場合は、その内容をまとめた調停調書が作成され、年金分割の割合などが確定します。
3-4. 訴訟または審判で年金分割の割合が決定される
離婚調停が不成立となった場合に、引き続き離婚を求めるときは、家庭裁判所に対して離婚訴訟を提起します。離婚訴訟では、離婚の可否や年金分割などの離婚条件を、裁判所が判決によって決定します。訴訟の判決は、控訴および上告の手続きを経て確定します。
また、年金分割の割合を定める調停が不成立となった場合は、家庭裁判所が審判を行って年金分割の割合を決定します。調停の申立てを省略して審判の申立てが行われた場合も、家庭裁判所が審判によって年金分割の割合を決定します。
審判に対しては、審判書の送達を受けた日から2週間以内に即時抗告(そくじこうこく)ができます。即時抗告期間が経過すると、審判が確定します。
3-5. 年金事務所などに合意分割を請求する
協議、調停、訴訟または審判によって年金分割の割合が確定したら、年金事務所または街角の年金相談センターに以下の書類を持参して、合意分割の請求を行います。
【常に必要な書類】
・標準報酬改定請求書
・元夫婦それぞれの戸籍謄本または戸籍抄本。ただし、請求日前6カ月以内に交付され、婚姻日と離婚日が確認できるものに限る
【事実婚関係にある期間を含む場合に必要な書類】
・住民票など、事実婚関係にある期間を明らかにできる書類
【請求書に個人番号を記入する場合に必要な書類】
・マイナンバーカードなど、個人番号を明らかにできる書類
【請求書に基礎年金番号を記入する場合に必要な書類】
・基礎年金番号通知書や年金手帳など、基礎年金番号を明らかにができる書類
【請求書に個人番号を記載しない場合に必要な書類】
・戸籍謄本、戸籍抄本または住民票など、元夫婦双方の生存を証明できる書類。ただし、請求日前1カ月以内に交付されたものに限る
【協議で年金分割の割合を定めた場合に必要な書類】
以下のいずれかの書類
・公正証書(謄本または抄録謄本を提出)
・公証人の認証を受けた私署証書
・年金分割することおよび按分割合について合意している旨を記入し、自らが署名した年金事務所所定様式の書類
【調停(和解)で年金分割の割合を定めた場合に必要な書類】
・調停調書(和解調書)の謄本または抄本
【審判(判決)で年金分割の割合を定めた場合に必要な書類】
・審判書(判決書)の謄本または抄本および確定証明書
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4. 3号分割の手続きと必要書類
3号分割の方法によって年金分割を請求する際の手続きの流れと必要書類を解説します。
4-1. 離婚を成立させる
3号分割の請求を行えるのは、原則として離婚が成立したあと です。したがって、3号分割の請求に先立って離婚を成立させる必要があります。
ただし、まだ離婚が成立していなくても、事実上離婚状態にある場合には、その状態を証明すれば3号分割を請求可能です。
4-2. 年金事務所等に3号分割を請求する
離婚成立後、年金事務所または街角の年金相談センターに以下の書類を持参して、3号分割の請求を行いましょう。
【常に必要な書類】
・標準報酬改定請求書
・元夫婦それぞれの戸籍謄本または戸籍抄本(請求日前6カ月以内に交付され、婚姻日と離婚日が確認できるもの)
【事実婚関係にある期間を含む場合に必要な書類】
・住民票など、事実婚関係にある期間を明らかにできる書類
【請求書に個人番号を記入する場合に必要な書類】
・マイナンバーカードなど、個人番号を明らかにできる書類
【請求書に基礎年金番号を記入する場合に必要な書類】
・基礎年金番号通知書や年金手帳など、基礎年金番号を明らかにできる書類
【離婚成立前に3号分割を請求する場合に必要な書類】
・事実上離婚状態にあることを明らかにできる書類
5. 婚姻期間20年なら、年金分割でいくらもらえる? 金額の計算方法を紹介
婚姻期間20年の夫婦が離婚した場合に、年金分割後の厚生年金がどのくらいの金額になるのか、計算例を紹介します。なお、実際の年金額は納付実績に応じて決まるので、自身の正確な年金額を知りたい場合は弁護士や社会保険労務士に相談するとよいでしょう。
【前提事項】
・2003年4月以降に結婚
・夫と妻はいずれも1956年4月2日以降に生まれた
・厚生年金は65歳から受給(繰上げ受給または繰下げ受給をしない)
・経過的加算と加給年金額は考慮せず、報酬比例部分のみを計算する
・婚姻期間中を除く期間の納付実績は考慮しない
・年金分割の割合は2分の1ずつ
5-1. 設例1|夫が会社員で、妻が専業主婦の場合
【婚姻期間中における標準報酬総額】
夫:1億円
妻:0円
設例1では、夫と妻の婚姻期間中における標準報酬総額の合計が1億円です。これを2分の1ずつに年金分割すると、夫と妻がそれぞれ5000万円ずつとなります。
2003年4月以降の加入期間においては「1000分の5.481(0.005481)」の給付乗率が適用されるので、厚生年金の年額は夫と妻がそれぞれ「27万4500円」(=5000万円×5.481/1000)となります。1カ月あたりに直すと「2万2875円」です。
年金分割をしなかった場合、妻の婚姻期間中における標準報酬総額は0円なので、妻は厚生年金を受給できません。したがって、妻にとっては年金分割によって月額2万2875円分、将来の年金が増える ことになります。
5-2. 設例2|夫が会社員で、妻がパート勤務の場合
【婚姻期間中における標準報酬総額】
夫:1億円
妻:2000万円
設例2では、夫と妻の婚姻期間中における標準報酬総額の合計が1億2000万円です。これを2分の1ずつに年金分割すると、夫と妻がそれぞれ6000万円ずつとなります。
2003年4月以降の加入期間においては、「1000分の5.481(0.005481)」の給付乗率が適用されるので、厚生年金の年額は夫と妻がそれぞれ「32万8860円」(=6000万円×5.481/1000)となります。1カ月あたりに直すと「2万7405円」です。
年金分割をしなかった場合、妻の婚姻期間中における標準報酬総額は2000万円なので、妻が受給できる厚生年金の年額は「10万9620円」(=2000万円×5.481/1000)、1カ月あたり「9135円」です。したがって、妻にとっては年金分割によって月額1万8270円分、将来の年金が増える ことになります。
5-3. 設例3|夫と妻が共働きで、2人とも厚生年金に加入している場合
【婚姻期間中における標準報酬総額】
夫:1億円
妻:8000万円
設例3では、夫と妻の婚姻期間中における標準報酬総額の合計が1億8000万円です。これを2分の1ずつに年金分割すると、夫と妻がそれぞれ9000万円ずつとなります。
2003年4月以降の加入期間においては、「1000分の5.481(0.005481)」の給付乗率が適用されるので、厚生年金の年額は夫と妻がそれぞれ「49万3290円」(=9000万円×5.481/1000)となります。1カ月あたりに直すと「4万1107.5円」です。
年金分割をしなかった場合、妻の婚姻期間中における標準報酬総額は8000万円なので、妻が受給できる厚生年金の年額は「43万8480円」(=8000万円×5.481/1000)、1カ月あたり「3万6540円」です。したがって、妻にとっては年金分割によって月額4567.5円分、将来の年金が増える ことになります。
6. 30代や40代の離婚でも年金分割は請求できる
30代や40代など、年金受給開始がずっと先である世代でも、婚姻期間中に夫婦のいずれか、または両方が厚生年金保険に加入していれば年金分割を請求できます。
婚姻期間が比較的短くても、年金分割によって将来の年金が月数千円、あるいは月数万円変わるケースはよくあります 。年金分割は老後の生活に直結するので、30代や40代であっても、請求できる場合は確実に請求しましょう。
7. 離婚時の年金分割に関してよくある質問
8. まとめ 弁護士に相談して年金分割の請求を
「年金分割」とは、結婚してから離婚するまでの期間の厚生年金保険や共済年金の加入記録を、離婚時において公平に分ける手続きです。「合意分割」と「3号分割」という2種類の方法があります。
合意分割は、協議や裁判手続きで決まった割合によって年金分割を行いますので、配偶者と共同での手続きが必要です。これに対して、配偶者の扶養に入っていた人(専業主婦、専業主夫、パートなど)が対象の3号分割は、事前の合意などが必要なく、単独で請求できます。
離婚時に年金分割を請求すると、老後の年金額を増やせる可能性があります。特に自営業者、専業主婦や専業主夫、あるいは配偶者よりも収入が少なかった方などは、弁護士に相談して年金分割の請求を検討しましょう。
(記事は2025年1月1日時点の情報に基づいています)