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1. 婚姻費用とは|別居中の配偶者に請求できる生活費
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1-1. 夫婦は婚姻費用を分担する義務を負う
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1-2. 婚姻費用に含まれるもの
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1-3. 婚姻費用の支払い期間|いつからいつまで
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2. 婚姻費用を分担するタイミングと分担方法(手続き)
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2-1. 婚姻継続中に金銭で分担する
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2-2. 離婚時に精算する
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2-3. 離婚後に精算する
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3. 婚姻費用はいくらもらえるのか?|計算シミュレーションも紹介
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3-1. 婚姻費用算定表|金額相場を簡単に求められる
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3-2. 婚姻費用の詳しい計算方法
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3-3. 婚姻費用の支払い状況の実態と相場|8万円以下が半数
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3-4. 婚姻費用が通常よりも増額・減額されるケース
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4. 婚姻費用をスムーズに支払ってもらうためのポイント
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4-1. 別居前に請求し、合意する
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4-2. 弁護士を代理人として婚姻費用の交渉をする
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4-3. 離婚公正証書に婚姻費用の金額などを定める
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5. 配偶者が婚姻費用の支払いを拒否したらどうすべき?
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5-1. 話し合いが進まない場合|内容証明郵便を送付して請求
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5-2. 内容証明郵便を送っても拒否された場合|調停や審判
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5-3. 調停や審判で決定した婚姻費用を支払わない場合|強制執行
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6. 婚姻費用に関してよくある質問
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7. まとめ|適正額の婚姻費用には弁護士の支援が有効
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1. 婚姻費用とは|別居中の配偶者に請求できる生活費
「婚姻費用」とは、生活費や子どもの教育費など夫婦の婚姻生活に必要な費用を言います。
1-1. 夫婦は婚姻費用を分担する義務を負う
夫婦は資産や収入などの事情に応じて、婚姻費用を分担する義務を負います(民法760条)。
同居している夫婦は、生活するなかで自然と婚姻費用を分担します。これに対して、別居している夫婦は、生活のなかで婚姻費用を分担することがありません。
そこで、夫婦のうち収入の多い側、または子どもと同居しない側が、配偶者に対して金銭で婚姻費用を支払うのが一般的です。
1-2. 婚姻費用に含まれるもの
婚姻費用に含まれるのは、夫婦の婚姻生活に必要な費用全般です。
具体的には、家賃や水道光熱費あるいは食費などの生活費、子どもの学費、医療費、合理的な範囲の交際費などが含まれます。
1-3. 婚姻費用の支払い期間|いつからいつまで
別居している夫婦の間で婚姻費用の精算を行うべき期間は、実務上、婚姻費用の請求がなされたときから離婚が成立するまでとされています。
婚姻費用の分担は、婚姻関係が続いている間はずっと行う必要があります。したがって、別居開始時から離婚成立時までの婚姻費用を請求できるように思われますが、実務上は請求時以降の婚姻費用しか認められないケースが多いです。そのため、婚姻費用を請求できる場合は、できる限り早く請求することが大切です。
婚姻費用の請求方法としては、家庭裁判所に対する調停の申立てが最も確実です。そのほか、内容証明郵便によって請求書を送付することも、速やかに請求を行う観点からは有力な選択肢と言えます。
なお、離婚後に支払うのは婚姻費用ではなく養育費となります。
2. 婚姻費用を分担するタイミングと分担方法(手続き)
別居する夫婦が婚姻費用を分担(精算)するタイミングは、婚姻継続中、離婚時、離婚後の3つに大別されます。婚姻費用の分担を請求する手続きも、精算のタイミングによって異なります。
2-1. 婚姻継続中に金銭で分担する
将来的に離婚するかどうかにかかわらず、別居中の婚姻費用は、婚姻の継続中に請求できます。婚姻費用は本来、支出が必要になる都度精算すべきものだからです。
別居期間が長引くと、収入が少ない側の生活は苦しくなるおそれがあります。また、前述のとおり、婚姻費用の精算は請求時以降に限って認められるのが一般的なので、早い段階で婚姻費用の請求を行いましょう。
婚姻継続中に婚姻費用を請求する場合は、配偶者と協議して金額や精算方法を決めるか、または家庭裁判所に「婚姻費用の分担請求調停」を申し立てます。
2-2. 離婚時に精算する
離婚する場合は、離婚時において別居中の婚姻費用を精算するのが一般的です。
夫婦で話し合って離婚する「協議離婚」をするときは、離婚協議書に、財産分与、慰謝料、親権、養育費、面会交流などその他の離婚条件と併せて、婚姻費用の精算についても定めておきましょう。
家庭裁判所の離婚調停を通じて「調停離婚」をするときは、調停手続きのなかで婚姻費用の精算について話し合い、合意内容を調停調書に記載してもらいます。
裁判所の判決によって強制的に離婚が成立する「裁判離婚」では、判決主文において婚姻費用の精算方法が示されます。
2-3. 離婚後に精算する
別居中の婚姻費用は、離婚後に精算することも可能です。
ただし、離婚成立後に婚姻費用を請求しても、その請求が認められる可能性は低いと考えられます。婚姻費用の請求は実務上、請求時以降の分しか認められないことが多いからです。
そのため、実際の婚姻費用の精算は離婚後に行うとしても、婚姻費用の請求は離婚前に行い、精算内容をあらかじめ合意しておきましょう。
3. 婚姻費用はいくらもらえるのか?|計算シミュレーションも紹介
別居中の婚姻費用として精算すべき金額は、婚姻費用算定表を算定すれば大まかな目安を簡単に知ることができます。ただし、あくまでも婚姻費用の目安額を計算するものにすぎません。実際に精算する婚姻費用の金額は、具体的な事情によって増額または減額されることがある点にご留意ください。
3-1. 婚姻費用算定表|金額相場を簡単に求められる
裁判所は、婚姻費用の目安額(月額)を簡単に計算できる「婚姻費用算定表」を裁判所のホームページで公表しています。
婚姻費用算定表は、子どもの有無および子どもの年齢に応じて、参照すべき表が分かれています。自身の状況に応じて、該当する表を参照しましょう。
婚姻費用の目安額を知るためには、義務者(=支払う側)と権利者(=支払いを受ける側)の年収が交差する部分の金額を確認します。
義務者の年収が縦軸、権利者の年収が横軸です。自営業者と給与所得者で年収の数値が異なるので、該当するほうを参照します。
自営業者の場合は確定申告における申告所得、給与所得者の場合は税金や社会保険料を控除する前の総支給額を用いるのが原則です。
一例として、夫が給与所得者で年収600万円、妻が給与所得者で年収200万円で、子ども1人(14歳以下)の場合における婚姻費用の目安額(月額)は10~12万円となります。下記の図表「婚姻費用の目安額(月額)」を参照ください。
夫婦の年収は同じでも、子どもの人数や年齢に応じて、婚姻費用の目安額(月額)は以下のように変化します(子どもは同居の前提)。
婚姻費用の目安額(夫が年収600万円で妻が年収200万円、いずれも給与所得者)
子どもの人数(年齢) | 目安額(月額) |
---|---|
子どもなし | 6~8万円 |
子ども1人 (14歳以下) | 10~12万円 |
子ども1人 (15歳以上) | 10~12万円 |
子ども2人 (いずれも14歳以下) | 12~14万円 |
子ども2人 (第1子15歳以上、 第2子14歳以下) | 12~14万円 |
子ども2人 (いずれも15歳以上) | 12~14万円 |
3-2. 婚姻費用の詳しい計算方法
婚姻費用算定表を用いれば、婚姻費用の大まかな目安額はわかりますが、1円単位で婚姻費用を計算することはできません。
1円単位で婚姻費用(年額)を計算するには、以下の式を用います。
(権利者の基礎収入+義務者の基礎収入)
×権利者世帯に属する人の生活費指数の合計
÷権利者世帯と義務者世帯に属する人の生活費指数の合計
-権利者の基礎収入
※基礎収入=総収入×基礎収入割合(給与所得者であれば38%から54%、自営業者であれば48%から61%の範囲で設定)
※生活費指数は、夫婦本人は各100、14歳以下の子どもは1人あたり62、15歳以上の子どもは1人あたり85
詳しい計算は省きますが、義務者である夫が給与所得者で年収600万円、権利者である妻が給与所得者で年収200万円、子はすべて同居の場合における婚姻費用の金額は以下のとおりです。
詳細な婚姻費用の金額(夫が年収600万円で妻が年収200万円、いずれも給与所得者)
子どもの人数(年齢) | 婚姻費用(月額) |
---|---|
子どもなし | 6万6667円 |
子ども1人 (14歳以下) | 9万9402円 |
子ども1人 (15歳以上) | 10万7924円 |
子ども2人 (いずれも14歳以下) | 11万9609円 |
子ども2人 (第1子15歳以上、 第2子14歳以下) | 12万5269円 |
子ども2人 (いずれも15歳以上) | 13万225円 |
3-3. 婚姻費用の支払い状況の実態と相場|8万円以下が半数
2022年度の司法統計によると、婚姻費用の取り決めが行われた婚姻関係事件について、婚姻費用の月額は、以下の円グラフからわかるように、夫が義務者で妻が権利者の場合、8万円以下が50%近くを占めます。
なお、離婚後は婚姻費用の分担義務が生じませんが、子どもの監護や教育のために必要な養育費の精算が発生します。養育費については、義務者が給与所得者で年収600万円、権利者が給与所得者で年収200万円で子どもが14歳以下の1人である場合、1カ月あたり4〜6万円が目安です。
3-4. 婚姻費用が通常よりも増額・減額されるケース
婚姻費用を受け取る権利者側の生活に通常よりも多くの費用がかかる場合は、別居中の婚姻費用として精算すべき金額も多めに認められる傾向にあります。たとえば、権利者や子どもが障害者であるため医療費が多めにかかるケースや、子どもが私立学校に通っているケースなどでは、婚姻費用が通常よりも増額される可能性が高いです。
反対に、婚姻費用を支払う義務者側の生活に通常よりも多くの費用がかかる場合は、別居中の婚姻費用として精算すべき金額が通常よりも減らされることがあります。たとえば、義務者が家族のために住宅ローン全額を支払っているケースなどでは、婚姻費用が通常よりも減額される可能性があります。
4. 婚姻費用をスムーズに支払ってもらうためのポイント
別居中の婚姻費用をスムーズに支払ってもらうためには、以下の対応が望ましいです。
別居前に請求し、合意する
弁護士を代理人として婚姻費用の交渉をする
離婚公正証書に婚姻費用の金額などを定める
4-1. 別居前に請求し、合意する
婚姻費用は、できる限り別居する前に請求し、金額や支払い方法を合意しておきましょう。あらかじめ合意しておけばスムーズに婚姻費用の支払いを受けられますし、別居後の生活費のめども立ちます。
別居後に婚姻費用を請求することも可能ですが、話し合いが難航し、スムーズに支払いを受けられないおそれがあります。少なくとも、別居する前に婚姻費用に関する話し合いを提案することをお勧めします。
4-2. 弁護士を代理人として婚姻費用の交渉をする
婚姻費用の金額について合意がまとまらないときは、弁護士を代理人として配偶者と交渉しましょう。
前述のとおり、婚姻費用の適正額は、夫婦の収入バランスに加え、子どもの有無や人数、その年齢によって客観的に定まります。弁護士が法的根拠を示して適正額の婚姻費用を提案すれば、配偶者もそれを受け入れる可能性が高まります。
もし配偶者に婚姻費用の提案を拒否されても、弁護士に依頼していれば、スムーズに調停や審判、あるいは強制執行の手続きへと移行することができます。
4-3. 離婚公正証書に婚姻費用の金額などを定める
婚姻費用の金額等について合意できたら、合意内容を書面にまとめて締結しましょう。
特に配偶者と離婚する場合は、離婚協議書を公正証書によって作成し、そのなかで婚姻費用を定めましょう。婚姻費用が未払いになった際に、スムーズに強制執行を申し立てることができます。

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5. 配偶者が婚姻費用の支払いを拒否したらどうすべき?
配偶者が婚姻費用の支払いを拒否したら、以下の対応をとるのが適切です。
話し合いが進まない場合|内容証明郵便を送付して請求
内容証明郵便を送っても拒否された場合|調停や審判
調停や審判で決定した婚姻費用を支払わない場合|強制執行
5-1. 話し合いが進まない場合|内容証明郵便を送付して請求
婚姻費用に関する話し合いが進まないときは、配偶者に対し、内容証明郵便で婚姻費用の請求書を送付しましょう。
内容証明郵便で請求書を送付すれば、本気で婚姻費用を請求していることを配偶者に理解させることができます。
また、内容証明郵便は郵便局に記録が残るため、いつ請求を行ったかを証明できます。前述のとおり、婚姻費用は請求時から認められるのが実務上の取り扱いなので、早めに内容証明郵便を送付することが大切です。
5-2. 内容証明郵便を送っても拒否された場合|調停や審判
内容証明郵便で請求書を送付しても、配偶者が婚姻費用の支払いを拒否する場合には、家庭裁判所に婚姻費用の分担請求調停を申し立てる方法があります。
調停では、民間の有識者から選任される調停委員が夫婦間の話し合いを仲介し、婚姻費用に関する合意形成をサポートします。
調停が不成立となった場合には、家庭裁判所が審判を行い、婚姻費用の金額などを決定します。
5-3. 調停や審判で決定した婚姻費用を支払わない場合|強制執行
調停や審判で決まった婚姻費用を配偶者が支払わないときは、裁判所に強制執行を申し立てましょう。
強制執行の手続きでは、配偶者の財産を差し押さえて、婚姻費用の弁済へ強制的に充当します。特に配偶者が勤務先から受け取る給与を差し押さえれば、継続的に婚姻費用を回収できます。
強制執行を申し立てる際には、差し押さえる配偶者の財産を特定しなければなりません。
どのような財産があるかわからない場合には、財産開示手続(民事執行法196条以下)や第三者からの情報取得手続(同法204条以下)を利用しましょう。配偶者の財産を特定できる可能性があります。
6. 婚姻費用に関してよくある質問
婚姻費用は、別居の理由を問わず請求できます。正当な理由なく自ら別居した場合も同様ですが、金額については通常よりも減額されることがあるので注意が必要です。
また、無断で別居すると、婚姻費用に関する話し合いが難航するケースが多いです。さらに、配偶者から慰謝料を請求されるおそれもあります。直ちに別居すべき差し迫った事情がない限り、別居の際には配偶者の同意を得ることが望ましいでしょう。
別居や離婚の原因をつくった側でも、婚姻費用は請求できます。ただし、不倫などについて権利者に帰責性があることを考慮して、婚姻費用が減額されることがあります。
また、配偶者から慰謝料を請求されることがある点にご留意ください。
婚姻費用を取り決めたあとに事情変更が生じた場合には、婚姻費用の増額または減額を請求できます。たとえば、夫婦いずれかの収入が増減した場合などには、婚姻費用の増額か減額が認められる可能性があります。
婚姻費用を増額または減額するかどうかは、夫婦間での合意、または家庭裁判所の調停や審判によって取り決めます。
生活のなかで婚姻費用を分担しなくなっている状態であれば、配偶者と同居中(家庭内別居中)であっても婚姻費用を請求できる可能性があります。
7. まとめ|適正額の婚姻費用には弁護士の支援が有効
離婚前に別居する場合は、配偶者に対する婚姻費用の請求を検討しましょう。特に自身の収入が少ない場合や、子どもと同居する場合には、生活費のめどを立てるため婚姻費用の請求をお勧めします。
適正額の婚姻費用をスムーズに受け取るためには、弁護士のサポートが役立ちます。
弁護士に依頼すれば、適正な婚姻費用の額を正しく計算したうえで、法的根拠に基づいて配偶者に請求できます。配偶者との交渉に加え、調停や審判の対応を弁護士に一任し、労力やストレスを軽減できることもメリットの一つです。別居中の婚姻費用を請求したい場合は、一度弁護士に相談してみましょう。
(記事は2025年7月1日時点の情報に基づいています)