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1. 親権がないとどうなる?困ることやデメリット
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1-1. 養育費を支払う義務が生じる
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1-2. 子どものための意思決定ができなくなる
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1-3. 子どもに会いにくくなる
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1-4. 子どもとの心理的な距離が離れてしまう
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2. 親権争いを避けることのメリット
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3. 親権がなくても困らないための対処法
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3-1. 面会交流のルールをきちんと決める
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3-2. 養育費の額を適正に決める
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3-3. 重要なことは事前に相談するように約束しておく
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4. 家庭裁判所に親権者変更を申し立てる
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5. 親権者はどのように決まるのか?
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5-1. 親権者を決定する手続き
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5-2. 親権者を決める(変更する)際の考慮要素
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6. 親権を取得する場合のポイント
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7. 2026年4月に導入|共同親権制度が親権や面会交流に与える影響
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8. 親権問題について弁護士に相談するメリット
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9. 親権に関してよくある質問
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10. まとめ 離婚の検討時、親権や面会交流については弁護士に相談するのがお勧め
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1. 親権がないとどうなる?困ることやデメリット
「親権」とは、未成年の子どもを育て、教育し、その財産を管理する権利と義務を指します。また、離婚や別居によって子どもと離れて暮らす親が子どもと会って交流することを「面会交流(親子交流)」と言います。
この10年で、子どもを取り巻く親権や面会交流の問題は目まぐるしく変わってきました。共同親権制度の施行を2026年4月に控え、その後は離婚後も共同親権のもとで子どもの面倒を見るケースも多くなることが予測されます。
しかし、裁判所の決定や、ご本人たちの選択によって、単独親権になることもあり得るでしょう。親権がないことで困ることやデメリットについて解説します。
1-1. 養育費を支払う義務が生じる
養育費は、子どもを育てていない親(非監護親)が、子どもを育てている親(監護親)に支払うものです。離婚後は親権者が子どもを育てることが多いため、デメリットというわけではもちろんないですが、子どもと離れて暮らす親は養育費を当然支払わなければなりません(民法766条)。
養育費は「生活保持義務」に基づくもので、自分と同じ生活水準を保障するために支払うものです。具体的な養育費の額は、家庭裁判所で利用されているいわゆる「養育費算定表」を参考に決めるのが一般的です。
1-2. 子どものための意思決定ができなくなる
親権者でない側には「法定代理権」がないため、子どものための契約など、法律行為をする際に自ら意思決定をすることができなくなります。
一方、親権者は単独でさまざまな法律行為を行うことが可能なため、元配偶者に相談することなく、子どもに関する重要な事項について単独で決めてしまうことができ、結果として、親権を持たないでいると、子どもの成長に関わる場面が少なくなります。
1-3. 子どもに会いにくくなる
子どもと会うために面会交流権はあるものの、その回数について現在は月1、2回程度にとどまるのが平均的で、元配偶者の申し出に対し親権者が面会交流を拒否した場合、結果的にまったく会えなくなってしまうこともあります。現在の裁判所実務では、子どもと会えない場合の強制執行手続きのハードルが極めて高く、あまり現実的な手段ではないと言えます。
1-4. 子どもとの心理的な距離が離れてしまう
一緒に暮らさない状況、あるいは面会交流の回数が限られている状況では、子どもとの間で心理的な距離感ができてしまいます。その結果、親密な親子関係を保てなくなるおそれがあります。
2. 親権争いを避けることのメリット
親権を失うことのデメリットを避けるため、離婚を迎えるにあたって、互いに親権を主張するのが一般的です。しかし、どちらも譲らず親権争いが激化した場合、親権を定めなければ離婚ができないという仕組み上、離婚調停と離婚裁判手続きで、数年以上の時間がかかることになります。
この点、親権の主張について譲歩することで、早期に離婚を成立させることができる可能性があります。
また、親権争いはどうしても夫婦が裁判などで互いに相手のことを激しく非難し合うという状況になることが多いため、親権争いをしたことで、お互いに信頼関係を失い、その後の面会交流の実施に非常に悪影響をもたらすケースが少なくありません。
弁護士としての筆者の経験でも、離婚することになったとしても、親権争いをせずに相手との最低限の信頼を保ったまま、お互いが円満に離婚した事例では、離婚後も充実した面会交流条件を定めてもらえるというケースが多々ありました。一方、親権者争いを激しく行ったあとではもはや互いの意思疎通がまったく困難な状況に陥り、第三者機関を介入させるケースが多いです。
ほかに、親権争いを避ける手段として、親権と、子どもと一緒に暮らして身の回りの世話をするといった監護権を分け、親権は普段子どもと一緒に住まないほうが取得するものの、監護権については子どもと一緒に住むほうが取得するという方法を取られる方もいます。ただし、親権と監護権を分離する際には、お互いの同意があるケースが大半であるものの、どちらかが分離に同意しない場合が多いため、事例としては少ないと言えます。
3. 親権がなくても困らないための対処法
親権がなくても困らないための対処法は、主に次の4つです。
面会交流のルールをきちんと決める
養育費の額を適正に決める
重要なことは事前に相談するように約束しておく
家庭裁判所に親権者変更を申し立てる
3-1. 面会交流のルールをきちんと決める
離婚時に親権を取得しない場合は、離婚後の面会交流のルールをきちんと定めておく必要があります。男女としての信頼はなくても、ともに子どもの親としての信頼は維持されていれば、たとえば「毎月2回程度面会交流させる。面会交流の具体的な日程、場所、方法などは、都度、協議して定める」とすれば足ります。
一方で、子どもと会わせてもらえないのではないかという不安がある場合、ある程度具体的な条件を定める必要があります。面会交流は、裁判所が強制的に実行する直接強制が認められておらず、「面会をさせないごとに金銭を支払うように」という、間接強制の方法しか認められていないからです。間接強制は当然に認められるものではなく一定のハードルがあります。
間接強制が認められる条件として、最高裁平成25年3月28日判決は「面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流時間の長さ、子どもの引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定性に欠けるところがないと言える場合は(中略)間接強制決定をすることができる」としています。
しかし、離婚協議時にここまで具体的な条項を定めてしまうと、子どもを育てていく側の親としては、生活設計が立てられないと感じるため、応じてもらえることのほうが少ないです。
相手が拒否しているにもかかわらず、間接強制の申立てができるように、無理に詳細かつ具体的な条項の定めを求めることは、かえって相手との関係性を悪化させることとなりかねないため、話し合いの際には注意が必要です。
そして、仮に詳細かつ具体的な条項を定めたとしても、子どもがたとえば10歳などの年齢に達していて、かつ面会交流を強く拒絶している場合には間接強制は認められないとされています(大阪高等裁判所平成24年3月29日)。したがって、面会交流を担保する制度としては実効性に乏しいところがあります。
結局、現行法では法的に「実際に子どもと会える」という結果を保障することはかなり難しく、離婚後も、親権を持たず子どもと離れて暮らす親は、子どもを監護養育する相手と信頼関係を構築し、子どもとも円満な関係性を続けることでしか、面会交流の継続的な実施はなし得ないとも言えます。
3-2. 養育費の額を適正に決める
離婚時には子どもの養育費の定めが必要となります。養育費額は家庭裁判所が使用するいわゆる養育費算定表などを参考にして、適正な金額の養育費を取り決めることが多いです。
一度定めた養育費は、法的に減額するためには裁判所の「養育費減額調停」という審判手続きが必要となります。
養育費の金額は、あとで簡単に変えられるという誤解もありますが、一度決めた養育費は容易に変更できません。収入が大幅に変動するなど、「事情変更」というものが認められない限り、変更することはできません。
また、養育費は、支払わないと給与の差し押さえなども容易に行えることから、養育費額についてはきちんと離婚後の生活設計をもとによく考えたうえで定める必要があります。
3-3. 重要なことは事前に相談するように約束しておく
裁判所を介した離婚調停や離婚訴訟では、基本的に法が想定している最低限の離婚条件しか定められませんが、当事者同士の話し合いによる離婚協議の場合、それ以外の条項を定めることも相手の同意があれば可能です。
たとえば、子どもの住所の変更や、進学や留学などの重要な意思決定に関与できるように、重要な事柄については、自分にも事前に相談してもらえるように約束をして、離婚条件について合意した内容を書面にする離婚協議書に定めておくといいでしょう。ただし、あまりに細かい要望をして、相手との信頼関係を損なわないように慎重に対応する必要があります。
また、これらはあくまで紳士条項であり、直接的な法的拘束力があるわけではないと一般的に整理されているため、違反した場合の直接的なペナルティーはありません。相手に配慮しながら、お互いが自主的に約束を守れる環境を維持していくことが大切です。
4. 家庭裁判所に親権者変更を申し立てる
一度相手に親権を定めたあとに、どうしても親権を主張したいのであれば、家庭裁判所に親権者変更を申し立てる方法もあります。
しかし、これは認められるためのハードルがかなり高いです。たとえば、相手に虐待などの事実が認められる、相手が病気で親権者の変更に同意している、子どもが15歳以上で親権変更を強く希望しているなど、客観的に証拠で立証ができる事情がない場合には基本的に認められません。
5. 親権者はどのように決まるのか?
親権者を決定する手続きや、親権者を決めたり、変更したりする際の考慮要素について解説します。
5-1. 親権者を決定する手続き
親権者は、離婚協議、離婚調停、離婚訴訟などを通じて定めます。
離婚協議は、当事者間で、あるいは代理人を介して話し合いを行い、離婚協議書と離婚届を作成して、そのなかで親権者を定めます。互いの納得と合意がなければ親権者は定められません。
離婚調停も、家庭裁判所で2名の調停委員を介して話し合いを行う一方、親権者を定めるには互いの納得と合意が必要です。互いに合意ができなければ、不成立として結論が決まらないまま、調停は終了します。
親権者を定める話し合いをするための判断材料として、家庭裁判所が調査官を選任し、親権に関する調査を行うケースもあります。ただし、あまりにお互いの主張が強く、調停成立の見込みが当初からない場合は、調査官調査を経ずに不成立となり、裁判の結果に委ねるかたちになります。
なお、制度上は審判離婚という制度もあるものの、これは調停で合意がかなり固まっていたものの、最後の期日で相手が病気等で出頭できなくなり、相手もその条件での離婚を望んでいる場合などに例外的に利用されます。争いがある事案では利用されません。そのため、調停が不成立となったら、次は離婚訴訟を提起する必要があります。
離婚訴訟は、裁判官が親権者としてどちらが適格かを判断し、原告あるいは被告のどちらかを親権者に定めます。調停段階で調査官調査を経ていない場合は、訴訟段階で調査官調査を行います。そして、裁判官が判決で親権に関する判断をします。
5-2. 親権者を決める(変更する)際の考慮要素
親権を定める場合に考慮される要素として、一般的に次のようなものが挙げられます。
母性優先の原則
兄弟不分離の原則
継続性の原則
子ども本人の意思
互いの監護計画
養育環境
監護補助者の有無
弁護士としての経験上、親権については「過去の監護実績」「現在の監護実績」「将来の監護計画」の3つに分けて考慮され、幼い子の場合は「過去の監護実績」と「現在の監護実績」において主たる監護者であると認められることが多いです。
一方、子どもの年齢が13歳や14歳など、15歳に近づくと、上記の3つに加え、子どもの意思の比重が大きくなり、15歳を超えると特に養育環境に問題がなければ、基本的にその意思を尊重するようになります。
親権者変更が認められる理由としては、現親権者による育児放棄や虐待、あるいは不登校や親権者の病気など養育環境の著しい悪化、子どもが15歳以上の場合に親権者変更を望んでいる場合などが挙げられます。
なお、現親権者の年収が低いことなど、経済的格差はあまり考慮されません。その分、養育費をきちんと分担することである程度解決されると裁判所は認識しているためです。
6. 親権を取得する場合のポイント
親権を取得するために必要なのは、過去と現在の監護実績です。そのため、親権を取得するためには、子どもを主として監護養育してきたと主張できるように子育ての記録を残しておくことが重要です。
具体的に説明すれば、たとえば幼い子どもだと、出産後、育児休暇を年単位できちんと取得しているかは非常に重要です。ただし、育児休暇を取得しただけで、自宅にいる他方の配偶者が実は育児をしていたといった事例もあるため、取得時に自分が主として家事や育児を自発的かつ主体的にしているかが大事です。育児の内容としては、おむつ替え、着替え、食事の用意、歯磨き、入浴、片づけ、寝かしつけ、健診や発熱時の病院の付き添い、保育園の送り迎え、保育園の準備などが挙げられます。
ほかにも、親権を得るうえでは、育児休暇終了後も時短勤務を選択している、フルタイムであれば、残業をしなくて済むように会社と話し合いをした、平日に限らず土日も子どもの世話をしたなど、さまざまな点が考慮されます。養育実績が多いか少ないかは、親権だけではなく面会交流の頻度、方法にも事実上影響します。
筆者の経験に照らしても、育児休暇を可能な限り取得し、平日は時短勤務、あるいは定時で帰れるようにし、土日は子どもや家事にすべての時間を使っているように、主たる監護者として子どもときちんと関わっている場合は、親権の取得ができているように思います。
また、ともに同レベルの養育実績を持っていると、相手への子どもの養育能力に対する信頼につながり、自由なときに会ってほしい、仕事などで自分が帰れないときは子どもを預かってほしいなど、柔軟な面会条件につながっているように感じます。
7. 2026年4月に導入|共同親権制度が親権や面会交流に与える影響
共同親権制度が導入されたあとは、過去に単独親権で離婚した場合でも、親権者変更調停や審判の申立てを利用して、単独親権から共同親権への変更を求めることは法的に可能とされています。相手の同意があれば変更が認められる可能性が高いものの、相手が争った場合に変更が認められるかどうかの判断基準は、今後の審判例の蓄積を待つ必要があります。
また、離婚時に共同親権を選択する場合は、父母双方がともに子どもを育てるための共同監護計画を策定することとなります。子どもとの接点は、面会交流というよりも共同監護を通じて持つことになります。
共同親権下でも他方が主に監護をすることとなる場合や、離婚時に単独親権を選択した場合などは、これまでどおり面会交流という方法で子どもと交流をすることとなります。
面会交流は子どもの福祉の観点から決定されるため、共同親権が導入されたからと言って、すぐに回数などが大幅に増えることにはならないと予想されています。しかし、離婚後の面会交流に対する社会の考え方が変化していけば、家庭裁判所が決定する面会交流の回数等が増えていく可能性はあり得るでしょう。
8. 親権問題について弁護士に相談するメリット
親権の問題は、お金にかえられないという意味で、離婚問題で最も重要な問題です。たとえば、一方が専業主婦で、他方がフルタイムの会社員であるなど、主たる監護者の認定が容易な事例を除き、共働きでお互いが養育してきたといえるケースだと、どちらが親権者として適格か、裁判所としても結論を出すのが容易ではありません。親権者として認めてもらうには、複雑な主張と立証が重要となるため、弁護士がいるかいないかで結論が変わります。早期に弁護士に相談することが必要です。
9. 親権に関してよくある質問
親権者でない側でも、親権者の同意のもとで子どもと一緒に暮らすことは可能です。この場合は、離婚協議書などで親権者と監護権者を分離して定めます。
親権者を決めるにあたっては、養育の実績や、15歳以上の子であれば子どもの意思が重視されます。子どもが希望していても、その親の収入がまったくなく、養育費をもらっても生活が維持できない状況なのに、具体的な生活のめどを立てようとしないケースだと、不利に考慮される可能性があります。ただし、こうした事例は一般的ではありません。
また、子どもと不倫相手を頻繁に会わせていたなど、養育状況に悪影響がある場合は不倫がネガティブな事情として考慮される可能性があります。
子どもが18歳に達したら、親権はなくなります。
子どもの精神状況が本当に不安定になっている可能性もあるため、嘘をついていると決めつけず、よく話を聞く必要があります。当事者間で解決できない場合は、面会交流調停を申し立て、第三者である調査官調査によって状況を確認してもらえることがあります。
10. まとめ 離婚の検討時、親権や面会交流については弁護士に相談するのがお勧め
親権を持たない親は、養育費を支払う義務が生じる、子どものための意思決定ができなくなる、子どもに会いにくくなる、子どもとの心理的な距離が離れてしまうといった状況に立たされます。
にもかかわらず、離婚の際に、早く離婚をしたいがために、安易に親権や面会交流に関する取り決めをしてしまうことがあります。しかし、離婚協議書で定めた内容というのは一つの契約です。相手が身内だからといって安易に考えてしまうと、あとで「こんなはずじゃなかった」「法律を知らなかった」と後悔するケースは少なくありません。
これらの離婚トラブルを解消するには専門性の高い知識が必要となるため、離婚を考え始めた際、親権や面会交流について不安がある場合は、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
(記事は2025年12月1日時点の情報に基づいています)