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1. 親権者は変更できる?
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1-1. 親権変更調停や審判で認められれば親権者変更が可能
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1-2. 親権者変更がなされるケース
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2. 親権者変更調停、審判の流れ
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2-1. 家庭裁判所に対する申立て
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2-2. 調停期日
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2-3. 調停成立または不成立
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2-4. 調停不成立の場合の審判手続き
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3. 親権変更にかかる時間はどのくらい?
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4. 親権者変更を成功させるための要件(条件)は?
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5. 離婚後に親権を取り戻すためのポイント
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6. 親権者変更が認められた審判例
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7. 【2026年5月までに導入】共同親権制度が親権者変更に与える影響は?
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8. 親権者変更について弁護士に相談するメリット
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9. 親権者変更に関してよくある質問
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10. まとめ 親権変更はかなり難しい法分野であり、弁護士に相談することが大切
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1. 親権者は変更できる?
親権とは、未成年の子どもの養育費や教育、財産管理などを行う権利や義務のことを言います。親権は離婚時に定めることとされていますが、一度定めた親権を変更することができるか、できる場合はどういう場合かについて説明します。
1-1. 親権変更調停や審判で認められれば親権者変更が可能
親権者変更調停や審判によって、親権を変更することは可能です。
ただし、父母の合意のみでは変更することはできず、家庭裁判所が親権者の変更をすることが適切かどうかの判断に関与するかたちをとります。
一方、両親が婚姻関係にないなかで生まれた非嫡出子(ひちゃくしゅつし)を父親が認知し、その父を親権者と定める場合や、離婚後に生まれた子どもの親権者を父親と指定する場合は、父母の合意のみで親権者の変更を行えます。
1-2. 親権者変更がなされるケース
親権者変更が認められるケースで一番多いのは、離婚後の父母間で親権者変更の同意ができている場合です。
親権者変更に関する親権者の同意がない状況で強制的に変更が認められるのは、離婚後の親権者が子どもへの虐待などを行っている場合などです。このケースに該当するのは、たとえば児童相談所が実際に子どもを保護した事案や、離婚後に親権を持たずに子どもと離れて暮らす親(非監護親)が子どもから虐待に関する被害を面会交流などを通じて訴えられ、虐待に関する客観的な証拠を収集できた場合などです。特に性的虐待は児童相談所や警察の動きも速いです。
また、子どもが15歳以上となり、もう一方の親への親権者の変更を強く望んでいることをきっかけに、親権者変更の手続きがとられた事例もあります。
2. 親権者変更調停、審判の流れ
親権者変更に関して必要な手続きのほか、必要となる書類やその費用について説明します。
2-1. 家庭裁判所に対する申立て
【調停と審判】
親権者変更は家庭裁判所での調停あるいは審判で行うことができます。調停とは家庭裁判所の調停委員会を介した当事者間の話し合いで解決する方法をいい、審判とは当事者間での話し合いがまとまらない場合に、裁判官が法に照らした判断をする手続きをいいます。
【管轄】
親権者変更の調停は、相手の住所地を管轄する裁判所、あるいは相手と合意した管轄の裁判所に提起します。たとえば相手が神奈川県相模原市に居住している場合には、「横浜家庭裁判所相模原支部」に調停の申立てを行います。裁判所の管轄は裁判所の公式ホームページで確認することができます。
審判は、子どもの住所地を管轄する裁判所に対して申立てを行いますが、子どもは原則的に親権者と同居しているため、調停も審判も同じ裁判所が管轄する事例が多いです。いきなり審判を申し立てても、調停がふさわしいと判断される場合が多いため、例外的な事案を除き、基本的には調停の申立てから始めるのが一般的です。
【必要書類と費用】
調停などの申立書は、管轄の裁判所がその書式をホームページから入手できるようにしているケースが多いです。お住まいの地域の家庭裁判所の書式がない場合は、東京家庭裁判所の書式や記載例を利用するのがよいでしょう。ただし、書式はあくまで参考に過ぎず、それ以外だと受け付けてもらえないわけではありません。
親権者変更調停の申立て費用は子ども1人につき印紙代1200円のほか、切手代が必要で、切手代の金額は申立先の家庭裁判所により異なります。また、添付資料として申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)、相手の戸籍謄本(全部事項証明書)、未成年者の戸籍謄本(全部事項証明)が必要となります。
2-2. 調停期日
親権者変更調停の流れはほかの調停と同じく、調停委員と交互に面談します。初回は申立人から申立てに至った経緯を聞き、次に相手、また申立人という順番で話を聞いていきます。20分から30分ずつ話を聞き、次回までにお互いが準備することを確認し、次回期日を定めたらその回は終了です。
調停は1カ月から1カ月半の頻度で期日が開かれます。期間としては数カ月から1年程度かかるのが一般的です。
2-3. 調停成立または不成立
父母間で合意が得られ、家庭裁判所が親権者変更について問題ないと判断すれば調停が成立し、親権者が変更されます。一方、双方で合意の見込みがないときは、調停が不成立となります。
2-4. 調停不成立の場合の審判手続き
父母間で合意が得られないときは、審判手続きに移行し、家庭裁判所が親権者変更の可否を決定します。
申立人は、たとえば虐待に関する根拠資料や内容の説明、子どもの意見表明についてなど、親権者変更を必要とする事情を主張立証し、相手がそれに対して反論し、さらに申立人が安定的な監護状況が認められると反論するかたちになります。
また、親権者変更については、調停手続きの段階から調停委員のほかに家庭裁判所の調査官が同席していることが多いですが、審判手続きに移行する場合は、調査官調査をするのが一般的です。調査官調査では、裁判所での父母との面談での調査、保育園や学校の調査、父母の自宅の調査、非監護親と子どもとの交流場面の観察などについて、裁判所の判断で必要な範囲の調査を行います。
調査官の任務は、裁判官が親権者変更の是非を判断するために必要な判断材料を調査することです。親権者変更の是非の判断基準が、親権者を指定した経緯、その後の事情の変更の有無とともに、当事者双方の監護能力、監護の安定性などを具体的に考慮して、最終的には子どもの利益のための必要性の有無という観点から決められます。そのため、当然調査官もそれらをふまえて両親や子どもの状況を調査していきます。
その後、当事者の主張や調査官報告書をふまえて、裁判官が親権者変更の是非を判断するのが基本的な流れです。
3. 親権変更にかかる時間はどのくらい?
父母間で合意ができており、資料が十分に準備されていれば、調停成立まで2カ月程度で済むことがあります。一方、争いになった場合には審判に移行するため、裁判手続きとほとんど同じ複雑な主張立証が必要となります。その場合、親権者変更は双方譲らないことが多く、高等裁判所などの上級審を含め2年程度かかるケースもあります。

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4. 親権者変更を成功させるための要件(条件)は?
親権者変更の是非を決める際は、養育環境の変化、育児放棄や虐待、病気など変更を希望する事情、15歳以上の場合は子どもの意思、親権者の意思、離婚後の養育状況、経済状況、養育環境などを総合的に考慮して判断することとなります。
親権者変更を成功させるための要件を主張する際には、親権者変更がどうして必要なのかに加え、現在の親権者が養育していることで不登校や非行が生じているなど、子どもの福祉が著しく害されているという点に重点を置くと、説明が伝わりやすいです。
相談者のなかには、親権者変更は子どもに「よりよい」養育環境を与えるために親権者を選び直す手続きだという理解がありますが、これは誤解です。
お互いの同意がある調停であればともかく、審判で裁判所が親権者変更の是非を判断する際、現在の親権者の養育状況に大きな問題がない限りは、「こちらが育てるほうがよりよく育てることができる」という点をいくら主張しても、親権者変更は原則認められません。
現在の親権者の養育状況の問題とそれによる子どもの養育環境に客観的にどのような問題が生じているのか、それを立証することが非常に重要です。
5. 離婚後に親権を取り戻すためのポイント
離婚時の親権者をどちらに指定したかという点を、裁判所は非常に重視します。離婚後の親権者変更は、父母間で同意していない限り、あるいは虐待や病気など重大な事情がない限り、簡単には認められません。
そのため、親権者変更を実現するには、現在の親権者とよく話し合いをして、納得してもらうのが何より大事です。
審判が必要なのであれば、客観的な証拠をきちんと収集し、審判例などの親権者変更の基準に照らして論理的に説明することが大切です。そのため、そもそも、親権者変更の見込みがあるのか、どのような証拠の収集が考えられるか、ほかに相談したほうがよい機関があるかなど、弁護士に相談することをお勧めします。
6. 親権者変更が認められた審判例
審判で親権者変更が認められるケースは、少ないものの、存在しています。
たとえば、福岡高等裁判所平成27年1月30日決定、東京家庭裁判所平成26年2月12日審判などです。
福岡高裁の事例では、離婚時に子どもの親権者を母と定めたものの、その母が子どもを置いて家を出て行ってしまったため、事実上、子どもの面倒を見ていた父が自身への親権者変更の申立てをしました。
原審では、離婚時の親権者の指定を重視して父側が負け、親権者変更が認められませんでした。その後、福岡高等裁判所は母の監護状況や監護に関する意思を問題視し、父側の監護実績を評価、親権者の変更を認めました。
福岡高裁は、親権者変更の是非の判断基準について、親権者を指定した経緯、その後の事情の変更の有無とともに、当事者双方の監護能力、監護の安定性などを具体的に考慮して、最終的には子どもの利益のための必要性の有無から判断されるとも判示しています。
東京家裁のケースでは、10歳の子どもの親権者を母と定めて離婚をしたものの、母と疎遠となり、母の親族によって監護されている子どもについて、父が自身への親権者変更の申立てをした事例です。離婚後に母の監護状況に変化が生じたとして、父への親権者変更が認められました。
このように、親権者変更が審判で認められるケースは、親権者変更の必要性が第三者の目にも明らかである事例が多いです。
7. 【2026年5月までに導入】共同親権制度が親権者変更に与える影響は?
共同親権制度が導入されたあとは、過去に単独親権で離婚した場合についても、親権者変更調停や審判の申立てを利用して、単独親権から共同親権への変更をすることは法的に可能とされています。
まず、現在の親権者から共同親権への移行の同意が得られれば、特段の問題なく共同親権への親権者変更は認められるはずです。
親権者が共同親権に反対している場合、単独親権から共同親権への移行は審判で審理されることになるでしょう。ただし、その判断基準はまだ明らかになっておらず、どのような場合に認められるかはよくわかっていません。
審判の場合、子どもの福祉の観点から判断される見込みですが、従来の単独親権下での親権者変更とは異なり、もともとの親権者の親権を失わせたり、子どもの監護状況を抜本的に変更したりするわけではないため、それよりは緩い基準で運用される可能性はあります。
ただし、これについては確たることは言えず、今後の審判例の蓄積を待つ必要があります。
8. 親権者変更について弁護士に相談するメリット
親権者の変更について父母間の同意がない場合、調停では不成立となり、審判に移行します。審判は主張立証などが必要となり、裁判とほとんど同じであるため、専門家以外が独力で対応するのは困難です。
親権者の変更が認められるかどうかについては、審判例上の基準があり、裁判所が重視する要素があります。ほかの事件でも同じですが、どの事情がどの要素にあたるかの判断をする際には専門的な知見と経験が必要となります。
たとえば自分では重要と思って何ページも陳述書を書いて提出したら、かえってマイナスの方向で使われてしまったという話はよくあります。そのため、弁護士への相談は必須だと言えるでしょう。

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9. 親権者変更に関してよくある質問
最近の裁判所の判断で、性別の差異を持ち込むことは基本的にありません。そのため、親権者変更の可否は、父親から母親への変更でも、母親から父親への変更でも同じ基準で判断されます。
親権者変更の審判では、子どもが15歳以上の場合、裁判所は子どもの意思を確認しなければならないとされています。
ただし、子どもの意思表明に裁判所が拘束されるわけではないため、子どもの意思をふまえても、親権者の変更をしないほうが望ましいと裁判所が判断する可能性はあります。
面会交流が実施されないというだけでは、親権者変更は認められにくいです。面会交流を実現するためには面会交流調停の申立てをする必要があります。
ただし、面会交流をしないことについて正当な事由がなく、かつ裁判所の履行勧告や決定に故意に従わないような悪質なケースでは、親権の適格性を疑い、親権者の変更を認めたような例外的な事例もあります。
離婚の際と同じで、子どもの戸籍は自動的には変わりません。
子どもの戸籍を移したいなら、家庭裁判所の許可を得て子どもの氏を変更したあと、市区町村役場に入籍届を提出する必要があります。
離婚時の親権者指定を家庭裁判所は重要視するため、離婚後に親権を取り戻すことは、虐待など特段の事情がない限り難しいです。離婚時にしっかりと話し合っておく必要があります。
筆者も弁護士として相談を受ける際に、離婚を急ぐあまりに親権を譲ってもよいかと尋ねられることがありますが、あとで取り戻すことは基本的にできないため、「絶対にやめてください」と伝えています。
養子縁組をすれば、子どもの祖父母が孫の親権者になることも可能です。
10. まとめ 親権変更はかなり難しい法分野であり、弁護士に相談することが大切
離婚後に18歳未満の子どもの監護や教育を行い、その財産を管理する権限や義務を担う親権者を変更するには、家庭裁判所を介した調停や審判を経る必要があります。調停でお互いに同意を得られれば親権者変更ができますが、双方譲らないケースが多い審判で親権者変更を勝ち取るには特に、弁護士が持つ専門的な知見と経験が不可欠です。
親権変更はかなり難しい法分野です。子どもや自分の人生に関わる重要なことであるため、見通しや主張の整理、証拠収集の方法など、弁護士に相談したうえで、進めていくことが大切です。
(記事は2025年7月1日時点の情報に基づいています)