-
1. 親権とは?
-
2. 専業主婦でも、離婚後の親権者になれるのか?
-
3. 専業主婦が親権を獲得しやすいケース
-
4. 専業主婦が親権を獲得しにくいケース
-
5. 専業主婦が親権を獲得するためのポイント
-
5-1. 養育の実績に関する資料を確保する
-
5-2. 引き続き積極的に子どもと関わり、良い関係性を築く
-
5-3. 夫と別居する場合は、子どもと一緒に住む
-
5-4. 弁護士に相談する
-
6. 専業主婦が親権を得られない場合に監護権のみを得ることは有効?
-
7. 2026年5月までに導入|共同親権制度などが専業主婦の親権獲得に与える影響は?
-
8. 専業主婦の離婚と親権に関するよくある質問
-
9. まとめ 離婚時に専業主婦でも親権は獲得できる
無料相談OK 事務所も!
離婚問題に強い弁護士を探す
1. 親権とは?
親権とは、子どもの利益のために監護・教育を行ったり、子どもの財産を管理したりする権限です。漢字のイメージからは「親の権利」と捉えられるかもしれませんが、むしろ「親としての義務」という側面が強いと考えられています。
これらのうち、子どもがどこに住むかを決めて、そこで監護・教育を行う権利を「身上監護権」、子どもの財産を管理したり、財産的な法律行為を代理したりすることを「財産管理権」といいます。
なお、親権の保護下にあるのは「未成年の子ども」です。日本では2022年から18歳で成人となったため、高校生であっても18歳になれば、親権者の同意なく契約をしたり、仕事をしたりすることができるようになります。つまり、18歳の誕生日が過ぎていれば、その子に「親権者」はいないということになります。
もっとも、18歳未満の子どもについては、両親が結婚している間は両親が親権を共同行使することが法律で決まっています。しかし、離婚する場合には、未成年の子どもの親権者を指定しなければなりません。現時点の法律では、離婚後は、両親のどちらか一方だけが単独で親権をもつことになります。
2. 専業主婦でも、離婚後の親権者になれるのか?
離婚の相談を受ける際、「自分は専業主婦で収入がない。それでも親権を取得できますか?」と質問されることがよくあります。もちろんその家庭の状況によりますが、専業主婦であるということだけで、親権を取得できなくなるわけではありません。
実際に筆者が担当する離婚事案でも、母親側が親権を取得する場合の方が圧倒的に多いです。よく夫が妻に対し「自分には経済力がある。無収入のお前に親権は渡さない」などと言っているケースがありますが、実際には経済力だけで親権が決まることはありません。
親権を決める場合、家庭裁判所では次のような事情を考慮します。
双方の親側の事情 | ・監護に関する意欲と能力 ・健康状態 ・経済的・精神的家庭環境 ・監護補助者(祖父母など)がいるかどうか など |
---|---|
子ども側の事情 | ・年齢 ・兄弟姉妹関係(兄弟不分離の原則) ・心身の発達状況 ・子ども自身の意向 など |
もっとも、家庭裁判所が一番重要視するのは「監護の継続性」、すなわちどちらが「主な監護者」だったかです。家庭裁判所では、別居あるいは離婚に至るまで、父母のどちらが主に監護をしてきた人で、主にどちらとの心理的な結び付きが強いか、という点を必ず確認します。
そういう意味では、収入は高いけれども子育ては手伝う程度だった父親と、専業主婦として育児に専念してきた母親とでは、親権者を決めるにあたって圧倒的に後者が有利だといえます。
なお、協議離婚であれば、夫婦二人の合意だけで親権を決められます。したがって、家庭裁判所が考えるポイントなどとはまったく異なる視点で、親権を決めていることもあるでしょう。
しかし、夫婦の双方が親権を主張し、お互いに譲らない場合は「もし裁判で親権を争ったらどうなるか」を弁護士に相談するケースも多くあります。そのような場合に、弁護士は家庭裁判所が考慮する要素を踏まえてアドバイスを行い、夫婦もそれを前提として協議するので、結果としては家庭裁判所の裁判官が指定するであろう方の親が親権者に決まる、ということになりがちです。
3. 専業主婦が親権を獲得しやすいケース
子育てに専念してきた専業主婦は「主な監護者」であることが多く、親権を取得しやすいといえます。これに加えて、以下のようなケースでは専業主婦が親権を獲得しやすいでしょう。
子どもが乳児、かつ授乳中である
子どもが小学校高学年以上で、本人が母親と暮らしたいと希望している
子どもに病気や障害があり、母親によるケアを必要としている(あるいは子どもの病気や障害について父親に理解がない)
子どもと父親との関係が希薄、父親になついていない
父親から子どもに対して虐待があった
父親から母親に対して、子どもの目の前で暴言や暴力があった
母親側の親族(祖父母や兄弟など)が離婚後の育児に協力してくれる
傾向としては、子どもの年齢が低いほど一緒に過ごしてきた時間が長い方が有利となり、専業主婦が親権を取得しやすいといえます。
4. 専業主婦が親権を獲得しにくいケース
子どもの年齢が高い場合は、子ども本人の気持ちが尊重されることが多いです。そのため、いくら多くの時間を一緒に過ごしてきた専業主婦でも親権を獲得できないケースがあります。
例えば、両親のどちらかを選ぶことはできないと思っている子どもでも、「今がんばっているスポーツを続けるためには、お父さんと一緒に暮らした方がよい」「お母さんについて行くなら転校が必要となる。お母さんとは一緒にいたいが転校は嫌だ」などと、具体的な考えや希望を話すこともあるでしょう。その場合に、子どもが父親と暮らすことを希望すれば、母親が親権を取得できない可能性が高くなります。
また、母親からの虐待が疑われるようなケースや、母親自身の精神的な不安定さが懸念されるケースでも、母親が親権を取得できない可能性は高まります。
母親が親権を取得しにくい事案で一番多いのは、母親が「主な監護者」とはいえないケースです。別居してから数年間、父親と同居して、父親だけが子どもの世話をしてきたという場合であれば、母親が親権を取得できる可能性はかなり低くなります。
筆者が担当した離婚の事案でも、子どもが幼いころは「主な監護者」だった専業主婦の母親が、病気などの事情によって数年間子どもと離れ、その間ずっと父親が子どもを養育してきたため、離婚に際して親権者が父親となったことが複数件ありました。このケースからも、やはり監護の継続性が極めて重視されるのだといえます。
5. 専業主婦が親権を獲得するためのポイント
実際に親権が争いになりそうな場合に、親権取得のために何をするべきでしょうか。
5-1. 養育の実績に関する資料を確保する
重要なのは、これまで「主な監護者」は母親だったと主張・立証することです。そのためには、以下のようなことを意識的に行うのがおすすめです。
母子手帳には手書きで詳しく書き残す
保育園や幼稚園の連絡帳を取っておく
予防接種などに連れていった記録は残しておく
保育園や幼稚園、学校の先生と密にコミュニケーションをとっておく
協議離婚に向けた話し合いのなかではあまり問題にならないかもしれませんが、家庭裁判所で離婚調停をする場合には、親権に争いがあれば上記を提出するよう指示される場合があります。また、先生とのコミュニケーションについては、家庭裁判所調査官という裁判所の専門職が、保育園や幼稚園、学校などに照会をかけたり、先生の話を聞きに行ったりすることもあります。
大切なのは、誕生日や発表会といった特別なイベント的な場面ではなく、日常生活においていかに母と子の時間が長かったのか、いかに母と子の関わりが深かったのかを示すことです。
5-2. 引き続き積極的に子どもと関わり、良い関係性を築く
家庭裁判所の調査官が関与する調停事件などでは、調査官が子どもと面談して、本人の気持ちを聴き取ることがあります。また、調査官が子どもの周りの人たち(学校の先生や療育の担当者、かかりつけの小児科医など)から話を聴き取ることもあります。子ども自身や周りの人たちから、母子関係が良いという話が出てくれば、親権者指定において良い方向にはたらきます。
逆に、離婚について夫婦間の対立を子どもに見せてしまうことで、子どもが母親に対して不信感を抱いたり、拒絶的になったりすると、そのことが調査官をとおして裁判所に伝わってしまう可能性もあります。夫婦間の対立で母親自身のストレスが高い時期であっても、子どもへの説明を尽くしたり、子どものメンタルケアを考えたりして、親子関係を良好に保つことは重要です。
5-3. 夫と別居する場合は、子どもと一緒に住む
夫婦の同居中は、どちらが「主な監護者」であるかを立証することが難しい場合もありますが、別居した後は一緒に住んでいる親が「主な監護者」であるということは明らかです。そのためにも、暴言や暴力で一刻も早く家から出たい場合であっても、あるいは子どもの将来を考えて直ちに子どもを連れて出ることに躊躇する場合であっても、できるだけ別居に際して子どもを連れて出ることが重要となります。
もっとも、離婚するまでは夫婦共に「親権者」です。夫にも親権がある以上、夫側にも子どもの住む場所を決める権利があります。そのため、夫に別居の相談をすることなく独断で子どもを連れて転居してしまうと、そのこと自体が新たな争いを生んでしまう可能性があります。
そこで、別居の際の子どもの生活については、事前に夫婦間で話し合いをしておく必要があります。もし、それができないくらいの切羽詰まった状況であれば、別居後すぐに「監護者の指定」(離婚するまでの間、子どもをどちらが育てるかを決める手続き)の調停を申し立てることを考えましょう。
5-4. 弁護士に相談する
親権について夫婦で話し合うときは、それぞれの思いや考えからさまざまな話が出てくるものですが、基本的に家庭裁判所の考え方は一定しています。家庭裁判所の考え方に沿って必要な資料を揃えたり、必要事項を書き記したりする必要があるため、できるだけ早い時期に弁護士へ相談することをおすすめします。
特に、別居や離婚条件について何も話し合わないまま子どもを連れて家を出てしまうと、離婚するまでの監護者の指定について争いになることもあります。その場合は、必ず弁護士の意見を参考にするか、弁護士を代理人としてつけることを考えてください。
専業主婦の場合、強い立場の夫から「親権は絶対に渡さない」と言われて、離婚を躊躇している人も多いです。しかし、弁護士から見ると、専業主婦の妻が親権を取得できないケースの方がまれです。「主に監護してきたのがあなたなら、親権の取得に問題はありませんよ」とお話しすると、とてもほっとした顔をされる人も多くいます。
なお、行政の相談窓口や法テラスなどを利用すれば、無料で法律相談を受けられる場合もあります。費用が気になる場合でも、相談だけは躊躇せずに受けていただいた方がよいでしょう。

相談アリ
得意な弁護士
探せる
6. 専業主婦が親権を得られない場合に監護権のみを得ることは有効?
筆者の元へ相談に来る人のなかには「夫がどうしても親権を譲らないので、親権は夫に渡して監護権だけ得ることを考えている」と言う人がいます。子どもと一緒に暮らせるのなら親権はなくてもよいのではないかと思うようですが、そう単純な話ではありません。
親権がないということは、法定代理権がないということです。父親が反対した学校には入学させてあげられないだけでなく、子どもがアルバイトをしたい、携帯電話を契約したいというときに、法定代理人として許可することもできません。子どもが交通事故に遭ってケガをしても、示談できるのは父親だけです。
さらに、もし自分自身が再婚したとして、新しい夫と子どもとの養子縁組を望んでも、子どもが15歳未満なら元夫である実の父親の承諾がなければ養子になることもできません。
親権と監護権を分けることは弁護士としてはおすすめできず、家庭裁判所の実務でも消極的に運用されています。
7. 2026年5月までに導入|共同親権制度などが専業主婦の親権獲得に与える影響は?
これまで、離婚後は両親のどちらかが単独で親権者となる話をしてきましたが、実はすでに離婚後も元夫婦が共同で親権を行使するための法律が制定されており、2026年5月までに施行される予定です。その後は、親権者の指定について「父親」「母親」「父母共同親権」の3つの選択肢が示されることとなります。
離婚する夫婦は、基本的に家族としてやっていけない関係性にある人同士なので、離婚した後は親として割り切り、子どものことについてだけ円満に協議して進めるというのは難しいのではないでしょうか。
特に、家庭内の不平等や夫の暴言・暴力に苦しんできたような専業主婦の場合は、その関係性が離婚後も続くことになりがちであるため、共同親権を選択することには慎重な検討が必要です。
もっとも、離婚後共同親権を希望する人のなかには「親権を失うと子どもと会えなくなる」という心配を抱いている人がいるようです。しかし、親権者になるかどうかの問題と、一緒に暮らしていない子どもに会えるかどうかの問題はまったく別の話です。そのような誤解をしている場合は、離婚して母親が親権者となっても、父親との面会交流ができることを丁寧に説明することによって、親権の問題も解決できるかもしれません。
8. 専業主婦の離婚と親権に関するよくある質問
経済力も親権者指定の考慮要素の1つではありますが、決定的なポイントではありません。母親が無職の専業主婦だというその事実だけで、親権者になれないということはありません。
親権者を父親として離婚する場合、母親には養育費の支払義務が発生します。これまで専業主婦だったとしても、離婚後は働くことになるのであれば少額であっても支払いは必要です。
親権者を一度指定した後に変更するためには「親権者変更」の調停や審判が必要になります。これは極めてハードルの高い手続きです。両親の双方が変更に同意している場合であれば可能ですが、話し合いがつかないときに審判(裁判官による決定)で親権者を変更してもらうことは、非常に難しいです。
親権者変更が審判で認められるのは、親権者が父であるのに実際には母と暮らしていたような場合や、中高生くらいの年齢の子どもが母親との同居を望んでいる場合、父親の虐待が発覚した場合など、特別な事情がある場合に限られます。ある程度の経済力がついたというだけでは難しいでしょう。
なお、共同親権導入後に共同親権に変更したいという形であれば、変更される可能性もあります。ただ、制度が始まっていないため裁判例の蓄積がなく、どの程度認められるのかは未知数です。
例えば、実家を頼れるなどの状況があれば、養育費の支払いを受けながら育てていくことは可能だろうと判断できます。しかし、支援がない場合、専業主婦だった人が働き始めたとしても、直ちに自分と子どもの生活費を稼ぎ出すことは難しいかもしれません。
専業主婦で離婚後に仕事を始める予定だが、現在は貯金なしといった場合は、以下4つを合算した金額で暮らしていけるかどうか考えてみてください。
・自分の収入見込み
・以前は父親が受け取っていた児童手当
・市町村から支給される児童扶養手当(ひとり親世帯への給付)
・父親からの養育費
さらに、支出についても離婚後は保育料が下がったり、一人親世帯として就学援助が受けられたりする可能性があります。支出が減った場合であれば生活していけるのかどうかも検討する必要があるでしょう。ただし、全部を検討したがやはり暮らしていけないという場合は、一時的に生活保護に頼ることも考えてみてください。
親権者の指定において、経済力や収入の額は考慮要素ではあるけれども重要事項ではありません。「お金がない」だけでは、親権者の変更は基本的に難しいといえます。
9. まとめ 離婚時に専業主婦でも親権は獲得できる
離婚時の親権者の指定について、専業主婦であること自体は特にマイナス要素にはなりません。しかし、親権について悩んでいるのであれば、ぜひ一度弁護士に相談することをおすすめします。離婚に際し、正しい知識をもって適切な選択をすることで、子どもと一緒に生活できる環境を手にしましょう。
(記事は2025年7月1日時点の情報に基づいています)