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1. 法定離婚事由とは
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1-1. 離婚手続きの種類
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1-2. 判決離婚には法定離婚事由が必要
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1-3. 判決離婚以外の離婚は、法定離婚事由がなくてもよい
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2. 5つの法定離婚事由|事例と証拠とともに解説
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2-1. 不貞行為
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2-2. 悪意の遺棄
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2-3. 3年以上の生死不明
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2-4. 回復の見込みがない強度の精神病
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2-5. その他、婚姻を継続し難い重大な事由
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3. 法定離婚事由があっても、離婚できないことがある|裁判例を紹介
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4. 法定離婚事由がなくても離婚したい場合の対処法
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4-1. 離婚について配偶者と合意する
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4-2. 長期間にわたって別居する
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4-3. 弁護士に相談する
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5. 法定離婚事由について慰謝料請求が認められるケースと認められないケース
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6. 法定離婚事由に関してよくある質問
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7. まとめ 法定離婚事由を立証したいなら、弁護士へまずは相談
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1. 法定離婚事由とは
「法定離婚事由」とは、訴訟(=法律トラブルを解決するための裁判手続き)の判決によって離婚を成立させるために必要な事情 です。民法によって法定離婚事由が定められています。
1-1. 離婚手続きの種類
離婚手続きには「離婚協議」「離婚調停」「離婚訴訟」の3種類があります。
①離婚協議
夫婦間で話し合い、合意に基づく離婚成立をめざします。離婚協議を通じて成立した離婚は「協議離婚」と呼ばれます。
②離婚調停
家庭裁判所において、中立である調停委員のサポートを受けながら夫婦間で話し合い、離婚の合意をめざします。離婚調停を通じて成立した離婚は「調停離婚」と呼ばれます。
③離婚訴訟
裁判所に対して、離婚を成立させる判決を求めます。夫婦の一方が離婚を希望しているものの、他方が拒否している場合などに離婚訴訟が提起されます。離婚訴訟を通じて成立した離婚は「裁判離婚」と呼ばれます。
裁判離婚は、判決によって強制的に成立する「判決離婚」のほか、被告側が原告の請求をすべて認めることにより成立する「認諾離婚」と、裁判上の和解(合意)により成立する「和解離婚」の3つに分類されます。
1-2. 判決離婚には法定離婚事由が必要
離婚を拒否し続ける配偶者と離婚するためには、離婚訴訟を通じて「判決離婚」を成立させる必要があります。
裁判所が離婚判決を言い渡すのは、民法で定められた法定離婚事由が認められた場合のみです。法定離婚事由が存在しなければ判決離婚は認められないため、配偶者の同意なく強制的に離婚を成立させることはできません 。
1-3. 判決離婚以外の離婚は、法定離婚事由がなくてもよい
裁判所による判決離婚以外の離婚、つまり協議離婚、調停離婚、認諾離婚、和解離婚については、法定離婚事由がなくても、配偶者の同意などがあれば成立します。
法定離婚事由を立証できるめどが立たないときは、離婚条件について譲歩するなどして、裁判所を通さず配偶者の説得を試みましょう 。
2. 5つの法定離婚事由|事例と証拠とともに解説
現行民法では、以下の5つの法定離婚事由が定められています(民法770条1項各号)。
不貞行為
悪意の遺棄
3年以上の生死不明
回復の見込みがない強度の精神病
その他、婚姻を継続し難い重大な事由
それぞれの法定離婚事由について、事例と立証に役立つ証拠を紹介しながら解説します。
2-1. 不貞行為
「不貞行為」とは、配偶者以外の人と自由な意思で性交渉 をすることを言います。夫婦は互いに、配偶者以外の人と性交渉をしないという「貞操義務」を負うと解釈されているため、不貞行為は法定離婚事由とみなされます。
不貞行為の事例
・既婚者である女性が、久しぶりに出会った同級生の男性と意気投合して親密になり、性交渉をした。
・既婚者である男性が、性風俗店で出会った女性と性交渉をした。※性交渉に至らず、手をつなぐ、キスをする、体を触るなどの行為にとどまっている場合は、原則として不貞行為にあたりません。
不貞行為を立証し得る証拠の主な例
・性交渉の場面を撮影した写真や動画
・性交渉が行われる可能性が高い、自宅やホテルなどへ出入りする場面を撮影した写真や動画
・性交渉を連想させるメールやLINEなどのメッセージの記録
・性交渉をしたことを認める内容について、配偶者または不倫相手の自白を記録した音声や動画
2-2. 悪意の遺棄
「悪意の遺棄」とは、正当な理由なく夫婦間の義務を放棄 する行為です。夫婦間の義務とは、「同居義務」「協力義務」「扶助義務」の3つ を指します(民法752条)。
これらの義務は、夫婦が協力して生活するための前提となるものです。それを夫婦の一方が正当な理由なく果たさない場合は、夫婦としての前提条件を欠いていると考えられるので、悪意の遺棄は法定離婚事由とされています。
悪意の遺棄の事例
(a)同居義務違反
・妻が夫の承諾を得ることなく、勝手に家を出て行った。別居は数カ月以上に及んでいるが、現在でも妻は戻ってきていない。別居前の夫婦関係には、特に問題がなかった。(b)協力義務違反
・夫が家事や子育てをまったくせずに遊び歩いている。妻は夫に対して家事や育児への協力を再三求めているが、夫はまったく聞き入れようとしない。(c)扶助義務違反
・夫はエリート会社員として多くの収入を得ているが、そのほとんどを自分の趣味のために使っており、家計にお金をまったく入れようとしない。妻は再三にわたって、夫に生活費を負担するよう求めたが、夫は一貫して拒否している。
悪意の遺棄を立証し得る証拠の主な例
(a)同居義務違反
・住民票の写し
・別居を始めた時期の前後に配偶者とやりとりしたメッセージの記録や会話の録音
・配偶者に対して家に戻ってくるように求めたメッセージの記録や会話の録音
・無断で別居した理由について、配偶者が述べているメッセージの記録や会話の録音
(b)協力義務違反
・家事や育児に関して話し合い、配偶者が協力を拒絶したメッセージの記録や会話の録音
・家事や育児の状況に関する親族や知人などの証言
(c)扶助義務違反
・自分や配偶者の預貯金の入出金明細
・自分や配偶者のクレジットカードの利用明細
・家計簿
2-3. 3年以上の生死不明
配偶者の生死が3年以上明らかでない ときは、法定離婚事由に該当します。長年行方不明の配偶者との婚姻関係の継続を強いることは、残された側にとって酷だからです。
3年以上の生死不明の事例
・妻が4年前に家を出て行ったきり音信不通になった。警察に捜索願を出しているが、まったく見つからない。
・5年前、夫が外国へ留学中に行方不明になった。いつか帰ってくると信じていたが、全然戻って来る様子がない。
3年以上の生死不明を立証し得る証拠の主な例
・警察に提出した捜索願の写し
・配偶者とやりとりしたメッセージの記録(3年以上前から途絶えていることがわかるもの)
・配偶者の親族の証言
2-4. 回復の見込みがない強度の精神病
配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない ことは法定離婚事由とされています。難病の配偶者の介護などを半永久的に強いることは、もう一方にとって酷であると思われるためです。
ただし、後述する裁判例のように、回復の見込みがない強度の精神病を理由とする離婚請求は制限される傾向にあります。
また、2026年5月までに施行される改正民法により、回復の見込みがない強度の精神病は法定離婚事由から削除される予定 です。改正民法の施行以降、配偶者の精神病を理由とする離婚請求の可否は、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するかどうかによって判断されることになります。
回復の見込みがない強度の精神病の事例
・夫が重度の統合失調症にかかり、日常的なコミュニケーションすら十分にできない状態が長期間にわたって続いている。
回復の見込みがない強度の精神病を立証し得る証拠の主な例
・精神科医が作成する診断書
・配偶者の生活状況に関する親族や知人などの証言
2-5. その他、婚姻を継続し難い重大な事由
上記のほか、夫婦関係が破綻して関係修復が不可能と認められる事情がある場合 には、「婚姻を継続し難い重大な事由」による離婚請求が認められます。
婚姻を継続し難い重大な事由の典型例は、DV(家庭内暴力)、侮辱や嫌がらせが続くモラハラ、過度なギャンブル依存や長期間の別居、あるいは犯罪による服役など です。
婚姻を継続し難い重大な事由の事例
・妻が夫から日常的に暴力を受けている。
・夫が妻から日常的にひどい侮辱や嫌がらせを受けている。
・夫または妻がギャンブルに依存しており、家族は苦しい生活を強いられている。
・夫婦が別居している状態が10年以上続いており、同居を再開するめどが立たない。子どもはすでに独立していて、夫婦間のやりとりもほとんど行われていない。
・夫または妻が犯罪によって刑務所に服役し、出所は早くとも10年後の見込みである。
婚姻を継続し難い重大な事由を立証し得る主な証拠の例
(a)DV(家庭内暴力)
・暴力の場面を記録した動画や音声
・けがに関する医師の診断書
・暴力の様子を描写した日記
(b)モラハラ
・侮辱や嫌がらせを受けている場面を記録した動画や音声
・侮辱や嫌がらせを原因とする精神疾患に関する医師の診断書
・侮辱や嫌がらせの様子を描写した日記
(c)過度なギャンブル依存
・配偶者の預貯金の入出金明細
・配偶者のクレジットカードの利用明細
・配偶者のギャンブル依存に関する親族や知人などの証言
(d)長期間の別居
・住民票の写し
・別居を始めた時期や、それ以降に配偶者とやりとりしたメッセージの記録、会話の録音
など
(e)犯罪による服役
・確定した刑事訴訟の判決書
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3. 法定離婚事由があっても、離婚できないことがある|裁判例を紹介
離婚訴訟において法定離婚事由を立証できたとしても、必ず離婚請求が認められるとは限りません 。
裁判所は、法定離婚事由が存在する場合でも、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却できるとされているためです(=裁量的棄却。ただし、婚姻を継続し難い重大な事由による離婚請求を除きます。民法770条2項)。
実務上、裁判所が離婚請求の裁量的棄却を行うのは、回復の見込みがない強度の精神病による離婚請求を制限するケースが大半となっています。
たとえば最高裁昭和33年7月25日判決では、配偶者が不治の精神病にかかった場合でも、病者の今後の療養や生活などについてある程度めどを立てなければ、離婚請求は認めない旨を示しています。
なお、前述のとおり「回復の見込みがない強度の精神病」は、2026年5月までに施行される改正民法によって、法定離婚事由から削除される予定です。そのため、改正民法の施行以降、「回復の見込みがない強度の精神病」に関する裁量的棄却は行われなくなります。
4. 法定離婚事由がなくても離婚したい場合の対処法
法定離婚事由を立証できるめどが立たないものの、配偶者と離婚する決意が固い場合は、以下の対応を検討しましょう。
4-1. 離婚について配偶者と合意する
法定離婚事由の有無にかかわらず、配偶者と合意すれば離婚できます。離婚条件について譲歩するなどして、離婚してもらえるように配偶者の説得を試みましょう。
4-2. 長期間にわたって別居する
現時点で法定離婚事由が存在しなくても、別居が長期間に及べば婚姻関係の破綻が認められ、「婚姻を継続し難い重大な事由」による離婚請求ができるようになる可能性 があります。
ただし、長期間の別居を理由に婚姻関係の破綻が認められるためには、5年〜10年程度の別居期間を要するケースが多い です。速やかに離婚を成立させたい場合には、別居と並行して離婚協議を試みるのが望ましいです。
4-3. 弁護士に相談する
適正な条件でスムーズに離婚を成立させたい場合は、弁護士に相談 することをお勧めします。離婚事件を豊富に経験している弁護士に相談すれば、ノウハウを生かして配偶者と交渉し、早期の離婚成立をめざして尽力してもらえます。
また、弁護士には離婚手続きの対応全般を任せることができます。調停や訴訟などの手続きにも適切に対応してもらえるほか、労力やストレスが大幅に軽減される点も、弁護士に相談や依頼をするメリットと言えます。
5. 法定離婚事由について慰謝料請求が認められるケースと認められないケース
法定離婚事由が存在するとしても、配偶者に対する慰謝料請求が認められるのは「不法行為」に該当する場合のみ です。
不法行為とは、故意または過失によって、他人に対して違法に損害を与える行為を指します(民法709条)。したがって、法定離婚事由をつくり出したことについて、配偶者に故意または過失がある場合に限って 慰謝料を請求できます。
慰謝料請求が認められる法定離婚事由の主な例
・不貞行為
・悪意の遺棄
・DV(家庭内暴力)
・モラハラ
・過度なギャンブル依存
・犯罪による服役
慰謝料請求が認められない法定離婚事由の主な例
・3年以上の生死不明(配偶者の故意または過失を立証できない場合)
・回復の見込みがない強度の精神病
・長期間の別居による婚姻関係の破綻(夫婦が合意したうえで別居した場合)
6. 法定離婚事由に関してよくある質問
7. まとめ 法定離婚事由を立証したいなら、弁護士へまずは相談
離婚を頑なに拒否する配偶者との離婚を強制的に成立させるためには、訴訟において法定離婚事由を立証する必要 があります。できるだけ多くの証拠を集めて、不貞行為、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、回復の見込みがない強度の精神病、その他、婚姻を継続し難い重大な事由のいずれかを証明できれば、離婚できる可能性は高まります。
離婚協議が難航している場合は、早い段階で弁護士に相談して、離婚訴訟を見据えた準備を整えましょう。
(記事は2024年12月1日時点の情報に基づいています)