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離婚のときに住宅ローンと養育費は相殺できる? メリットや可能なケース、注意点を解説

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離婚後、自分が住宅ローンを支払う家に元配偶者と子が住む場合、住宅ローンと養育費は相殺できるのでしょうか? (c)Getty Images
夫の不倫などが原因で離婚することになり、話し合いの結果、夫名義の住宅ローンが残る自宅に妻と子どもが住み続け、夫が自宅を出ていくケースがあります。このケースにおいて、夫が住宅ローンと養育費の両方を支払うことが難しい場合、養育費の支払いに代えて、妻と子どもが住む自宅の住宅ローンを夫自身が払い続けると合意することはできるのでしょうか。住宅ローンと養育費の相殺(そうさい)が可能なケースやそのメリットとデメリット、相殺合意の際の注意点について弁護士がわかりやすく解説します。
目 次
  • 1. 住宅ローンと養育費を相殺できるか?
  • 1-1. 法律上は相殺できない
  • 1-2. 合意があれば事実上の相殺はできる
  • 2. 住宅ローンと養育費を相殺できるケース
  • 3. 住宅ローンと養育費を相殺するメリット
  • 3-1. 権利者は子どもと一緒に自宅に住み続けられる
  • 3-2. 義務者は二重の負担なく自宅を残せる
  • 4. 住宅ローンと養育費を相殺するデメリット
  • 4-1. 名義人が居住していなければローン契約違反となる可能性がある
  • 4-2. 住宅ローン滞納で競売にかけられるおそれがある
  • 4-3. 名義人の意思で家を売却できてしまう
  • 4-4. 差額の調整が必要なケースもある
  • 5. 住宅ローンと関連して養育費の額を変更できる事情
  • 6. 住宅ローンと養育費の相殺合意をする際の注意点
  • 6-1. 公正証書を作成する
  • 6-2. 自宅の売却も検討する
  • 6-3. 弁護士に相談する
  • 7. 住宅ローンと養育費の相殺以外の離婚条件
  • 7-1. 財産分与や慰謝料との関係
  • 7-2. オーバーローンの自宅を売却する場合の取り扱い
  • 8. 住宅ローンと養育費の相殺に関してよくある質問
  • 9. まとめ 離婚にあたって住宅ローンと養育費の両方は支払えない場合は、弁護士に相談を
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1. 住宅ローンと養育費を相殺できるか?

特定の人に行為や支払いを請求できる権利を「債権」と言い、お互いに持ち合っている債権を消滅させることを「相殺」と言います。子どものいる夫婦が離婚する際の離婚条件として、親権者でないほうの親が、養育費の代わりに親権者と子どもが住む家の住宅ローンを支払うと合意することは可能かどうかについて解説していきます。

1-1. 法律上は相殺できない

法律上、当事者の一方的な意思表示で相殺できる債権と、相殺できない債権があり、養育費請求権は相殺ができない債権に分類されます(民法510条)。

そもそも、養育費は子どもが親に対して扶養を求める権利です。一方、住宅ローンは借り入れた名義人(親)が金融機関に対して負う支払い義務(債務)であって、子どもに対して支払うものではありません。したがって、夫と子どもが「お互いに債権を持ち合っている」状態ではないため、法律上、両者は相殺できる関係にありません。

1-2. 合意があれば事実上の相殺はできる

離婚する夫婦において、たとえば夫が養育費の支払いに代えて住宅ローンを支払うと合意することは可能です。このような合意があれば、養育費と住宅ローンは事実上、相殺できます。

「事実上の相殺」とは、仮に離婚後、住宅ローンの名義人である夫が住み続け、妻と子どもが家を出ていく場合と比較するとわかりやすいでしょう。この場合、妻は夫から養育費を受け取る一方で自ら賃貸物件を借りて家賃を支払う必要がありますが、養育費の金額が家賃と同じか低い場合は受け取った養育費は家賃に消えてしまい手元に残りません。手元に残らないということは、受け取った養育費と家賃の支払い義務がともに消滅したということであり、まさに相殺したと言えます。

これに対し、夫名義の住宅ローンが組まれた自宅に妻と子どもが住み続ける場合、「妻と子どもが自宅に住み続けるために支払う金銭」という意味では住宅ローンも家賃と同じ性質です。そのため、養育費の代わりに住宅ローンを支払う合意をすると、両者を事実上相殺したことになります

2. 住宅ローンと養育費を相殺できるケース

住宅ローンと養育費を相殺できるのは、住宅ローンの名義人ではないほうの親が親権者として子どもと一緒に自宅に住み続けるケースです。夫が住宅ローンの名義人となっている家に親権者である妻と子が住み続けるケースを想定すると、夫が支払う養育費と自宅の住宅ローンが相殺されることになります。

住宅ローンの名義人が自宅に住み続ける場合は、どちらが親権者となるかにかかわらず、養育費との相殺はできません

3. 住宅ローンと養育費を相殺するメリット

住宅ローンと養育費の相殺には、次のようなメリットがあります。

  • 権利者は子どもと一緒に自宅に住み続けられる

  • 義務者は二重の負担なく自宅を残せる

3-1. 権利者は子どもと一緒に自宅に住み続けられる

養育費を受け取る側は、家賃を負担せずに自宅に住み続けられます。

住宅ローンの名義人ではない妻が親権者となる場合、新たに家を借りて家賃を負担するのが困難なケースもあるため、生活の基盤を安定させる意味で、住宅ローンと養育費の相殺にはメリットがあります

3-2. 義務者は二重の負担なく自宅を残せる

養育費を支払う側も、養育費と住宅ローンの二重負担を免れ、ローンの支払いに集中できます。また、養育費の支払いのために自宅を手放す必要がないため、自宅を資産として残せる点もメリットです。

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4. 住宅ローンと養育費を相殺するデメリット

 住宅ローンと養育費の相殺には、次の4つのデメリットがあります。

  • 名義人が居住していなければローン契約違反となる可能性がある

  • 住宅ローン滞納で競売にかけられるおそれがある

  • 名義人の意思で自宅を売却できてしまう

  • 差額の調整が必要なケースもある

4-1. 名義人が居住していなければローン契約違反となる可能性がある

住宅ローン契約の内容には、名義人が住宅に住み続けることが契約条件として含まれている場合があります。この場合に住宅ローンと養育費を相殺すると、名義人は住宅に住まないため契約違反となる可能性があります。住宅ローン契約は、名義人の返済能力をもとに審査のうえ組まれており、離婚したからといって名義を変更することは難しいと言えます。

ローン契約違反となれば、住宅ローンの一括返済を求められる可能性もあります。

4-2. 住宅ローン滞納で競売にかけられるおそれがある

住宅ローンの名義人である夫がローンを滞納すると、自宅が差し押さえられたうえで強制的に売却(競売)され、妻と子どもが住む場所を失う可能性があります。

居住している妻と子どもは住宅ローンの名義人ではないため、夫がローンの返済を滞納していても気づかず、退去を余儀なくされるケースも考えられます

4-3. 名義人の意思で家を売却できてしまう

通常、住宅ローンの名義人は家の所有名義人でもあります。そのため、名義人が夫である場合は、相殺の約束をしていたとしても夫の意思で自宅を売却できます

売却された場合、買主から退去を求められれば妻と子どもは退去しなければなりません。

4-4. 差額の調整が必要なケースもある

養育費の金額と住宅ローンの金額に差がある場合、差額の調整が必要になるケースがあります。具体的には、住宅ローンの金額が養育費よりも高い場合、差額を妻が負担する、反対に、養育費が住宅ローンの金額より高い場合、夫は差額を追加で支払う、といった調整をします。

5. 住宅ローンと関連して養育費の額を変更できる事情

離婚時に養育費の金額を合意しても、離婚後に事情が変化した場合は、裁判所を介した調停などを通じて養育費の金額を変更できます

たとえば、養育費の金額変更が必要となるケースとして、次のようなものが考えられます。

  • 離婚した夫婦のうち、どちらかに収入の増減があった

  • どちらかが再婚や養子縁組をしたことによって扶養しなければならない対象が増えた

  • 子どもが経済的に自立し扶養する必要がなくなった

もっとも、養育費の減額は一度合意したあとに客観的な事情の変更があった場合のみ認められるものです。そのため、次のようなケースでは減額が認められません。

  • 養育費を受け取る側が新たな交際相手と同居を始めたものの、結婚はしていない

  • 養育費を支払う側に収入の増減はないが、借金の返済のために養育費を減額したい

6. 住宅ローンと養育費の相殺合意をする際の注意点

住宅ローンと養育費を相殺するための合意においては、次の3点に注意しましょう。

  • 公正証書を作成する

  • 自宅の売却も検討する

  • 弁護士に相談する

6-1. 公正証書を作成する

公正証書とは公証役場で公証人によって作成される公文書であり、高い証明力と執行力を持ちます。

ローンを支払う側からすると、公正証書の形で養育費の支払いに代えてローンを支払う旨を合意しておけば、あとになってローンとは別に養育費を支払う事態を防げます

また、ローンを支払ってもらう側(自宅に住み続ける側)からしても、ローンが養育費の代わりであることを公正証書に残しておけば、ローンの滞納があった場合に支払いを強制的に確保する手段を取りやすいというメリットがあります。

6-2. 自宅の売却も検討する

養育費と住宅ローンの相殺はあくまで双方の合意が前提となるため、お互いがデメリットをクリアできない場合は断念せざるを得ません。

相殺しない場合、ローンを支払う側としては、ローンと養育費の二重払いを免れるために自宅の売却も検討したほうがいいでしょう。

6-3. 弁護士に相談する

住宅ローンを養育費と相殺するには、双方の協力が不可欠です。また、金融機関との交渉が必要となる場合もあります。

財産分与などのほかの離婚条件も考慮しながら相殺の合意を取りつけるには、専門的な知見を持つ弁護士に相談するとよいでしょう。

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7. 住宅ローンと養育費の相殺以外の離婚条件

住宅ローンと養育費の相殺以外にも、離婚の際には次のような条件について協議しましょう。

7-1. 財産分与や慰謝料との関係

結婚期間中に夫婦が共同で築いた財産を離婚時に分配することを「財産分与」と言います。

マイホームの評価額が住宅ローン残高を下回る、いわゆるオーバーローンの場合、マイホームは財産分与の対象になりません。したがって、養育費と住宅ローンの金額に差がある場合に両者を相殺するには、慰謝料などのほかの離婚条件で調整することになります。

住宅ローンと養育費の相殺を念頭においた離婚協議は複雑になりやすく、個別の事情によって解決策が異なるため、専門的知識を持つ弁護士に相談することをお勧めします。

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7-2. オーバーローンの自宅を売却する場合の取り扱い

住宅ローンと養育費の相殺におけるデメリットを解決できない場合は、自宅の売却を検討するケースも考えられます。

マイホームの評価額が住宅ローン残高を上回るアンダーローンの場合は、基本的に売却価格から住宅ローンを一括返済すれば済みます。

しかし、オーバーローンの場合は自宅が財産分与の対象とならず、ローンだけが残ることになります。そもそも、住宅ローンを一括で返済できなければ、自宅を担保とする「抵当権」を金融機関が解除してくれず、売却そのものが進まないおそれもあります。売却も住宅ローンの一括返済もできなければ、ローンの名義人がローンを支払い続けなければなりません。

こうしたオーバーローン状態での離婚の場合は、財産分与において住宅ローンの名義人が離婚後に負担するローン残高を考慮し、残ったローンの半分に相当する金額を名義人ではないほうの取り分から差し引くなどの方法で、父母が実質的に平等に負担するケースがあります。

8. 住宅ローンと養育費の相殺に関してよくある質問

Q. 住宅ローンがある場合に養育費までは払えないというときはどうすればいい?

離婚した配偶者と子どもが住み続けているのであれば、住宅ローンと養育費の相殺を提案しましょう。


当事者間で相殺の合意が難しい場合は、養育費減額調停を申し立てるなどして経済状況が苦しいことを説明したうえで、住宅ローンとの事実上の相殺を提案し、実質的な負担軽減をめざすことになります。

Q. 離婚時の養育費の取り決めに住宅ローンは考慮される? 養育費は相殺禁止?

養育費の取り決めにあたり、住宅ローンは当然には考慮されません。

また、法律の趣旨からすると養育費の相殺は難しいものの、双方の合意があれば事実上の相殺が可能です。

Q. 離婚後に養育費を減額する原因が生じたら、相殺したはずの住宅ローンはどうなる?

離婚後に事情が変わった場合、養育費の減額は可能です。

減額により発生した住宅ローンとの差額の取り扱いは、減額原因や双方の生活実態にもよりますが、住み続けている側が負担する可能性が高いでしょう。

Q. 住む家はそのままでシングルマザーになり、元夫から養育費の代わりに住宅ローンを払ってもらう場合、母子手当(児童扶養手当)はどうなる?

養育費の代わりに住宅ローンが支払われているなど、実質的に養育費を受け取っているとみなされると、母子手当(児童扶養手当)の受給額が減ったり、場合によってはゼロになったりする可能性があります。

9. まとめ 離婚にあたって住宅ローンと養育費の両方は支払えない場合は、弁護士に相談を

養育費と財産分与における住宅ローンの取り扱いは、離婚協議で争点となりやすい問題です。

法律上、住宅ローンと養育費は別々の債権であるため、相殺はできません。しかし、夫婦双方の合意がある場合に限り、事実上の相殺が可能です。相殺により、支払う側は住宅ローンと養育費という二重の負担から解放され、支払いを受ける側は子どもといっしょに自宅に住み続けられるといったメリットがあります。ただし、名義人でない者が居住することがローン契約違反となる可能性があるなどのデメリットに注意が必要です。

子どもの年齢や人数、ローン残高によって解決の方法が変化する場合もあるため、住宅ローンと養育費の相殺を検討している場合は専門家である弁護士に相談することをお勧めします。

(記事は2025年7月1日時点の情報に基づいています)

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