-
1. オーバーローンとは?
-
2. オーバーローンの家は財産分与の対象になるか?
-
2-1. 財産分与の基本的な計算方法
-
2-2. オーバーローンの家のみの場合は財産分与の対象にならないのが原則
-
2-3. オーバーローンの家以外の財産もある場合|ほかの財産と通算できるか?
-
3. オーバーローンの家がほかの離婚条件に影響する?
-
4. オーバーローンの家の取り扱い方法
-
4-1. 名義人が住み続ける
-
4-2. 名義人以外が住み続ける
-
4-3. 売却する
-
5. 離婚でオーバーローンが払えないときの対処法
-
6. 家の住宅ローンがある場合の検討ポイント
-
6-1. ローンの残額を正確に把握する
-
6-2. 住宅ローン契約の内容に注意する
-
6-3. 取り決めた内容を書面にする
-
6-4. 弁護士に相談する
-
7. 離婚する際の住宅ローンについてよくある質問
-
8. まとめ 離婚にあたってオーバーローンの家がある場合は弁護士に相談を
無料相談OK 事務所も!
離婚問題に強い弁護士を探す
1. オーバーローンとは?
住宅ローンの残額が家の価値を上回っていることをオーバーローンと言います。
家の価値は新築から時間が経つにつれて低下していくのが一般的です。住宅ローンの返済スピードより家の価値の低下のほうが速い場合、オーバーローンが発生します。近年では、家の価値が下落傾向にあるため、オーバーローンとなっているケースが多いとも言われています。
また、高額な住宅ローンを組んだ場合にも、オーバーローンが生じることがあります。
2. オーバーローンの家は財産分与の対象になるか?
離婚時の財産分与でオーバーローンの家がどのように扱われるかについて説明します。
2-1. 財産分与の基本的な計算方法
財産分与とは、離婚の際、夫婦が結婚生活のなかで築いた財産を公平に分けることを言います。
財産分与には、離婚後の配偶者が生活に困窮する場合の扶養なども含めていくつかの役割がありますが、中心的な役割は、夫婦が婚姻中に築き上げた財産を清算することにあります(清算的財産分与)。そこで、以下では清算的財産分与を前提に解説します。
財産分与によって財産を清算する割合は、原則として2分の1ずつです。したがって、財産分与では、夫婦全体の財産をそれぞれ2分の1ずつ取得できるように計算するのが基本です。
夫婦全体の財産には、財産的に価値のある「プラスの財産」はもちろん、ローンなどの「マイナスの財産」も含まれます。ただし、ギャンブルでの借金など夫婦生活とは無関係の債務は考慮されません。
以上のような考え方をふまえて、家庭裁判所では、次の計算式で財産分与の額を算出するのが基本とされています。なお、計算式における「純資産」とは、プラスの財産からマイナスの財産を差し引いた金額のことです。
【財産分与の額を算出するための計算式】
財産分与の額=(請求される側の純資産額-請求する側の純資産額)÷2
この計算式を具体的な事例にあてはめると、以下のようになります。
【妻から夫に対して財産分与を請求する事例】
妻:プラスの財産が2000万円、マイナスの財産が1000万円
夫:プラスの財産が4000万円、マイナスの財産が2000万円
【計算式】
妻の純資産額=2000万円-1000万円=1000万円
夫の純資産額=4000万円-2000万円=2000万円
夫が妻に支払う財産分与の額=(2000万円-1000万円)÷2=500万円
プラスの財産とマイナスの財産を合計した夫婦全体の財産は3000万円です。したがって、夫が妻に500万円を分与すれば、それぞれの純資産額は1500万円となり、夫婦全体の財産が2分の1ずつで清算されたことになります。
2-2. オーバーローンの家のみの場合は財産分与の対象にならないのが原則
夫婦の財産がオーバーローンの家のみの場合、原則として、財産分与の請求はできないと考えられています。
次の事例で考えてみます。
【妻から夫に対して財産分与を請求する事例】
妻:プラスの財産はなし、マイナスの財産もなし
夫:プラスの財産は家2000万円、マイナスの財産は住宅ローンの残額3000万円
この事例では、住宅ローンの残額が家の価値を上回っており、1000万円のオーバーローンの状態にあります。財産分与の請求を受ける夫の純資産がマイナスである以上、清算すべき財産はないと考えられます。したがって、原則として財産分与の請求はできません。ただし、夫婦で話し合って財産分与を行うことは可能です。
次に、上の事例と逆のケースを考えてみます。
【妻から夫に対して財産分与を請求する事例】
妻:プラスの財産は家2000万円、マイナスの財産は住宅ローンの残額3000万円
夫:プラスの財産はなし、マイナスの財産もなし
この場合、妻としては、オーバーローンとなっている1000万円の半分である500万円を夫に負担してもらいたいと希望するでしょう。しかし、マイナスの財産を相手に負担させる財産分与はできないと考えられています。したがって、妻が夫に対して500万円を負担させる財産分与は認められないのが原則です。ただし、この場合も夫婦で話し合って、住宅ローンを夫に負担してもらうことは可能です。
2-3. オーバーローンの家以外の財産もある場合|ほかの財産と通算できるか?
オーバーローンの家とそれ以外の財産がある場合について、次の事例で考えてみます。
【妻から夫に対して財産分与を請求する事例】
妻:プラスの財産はなし、マイナスの財産もなし
夫:プラスの財産は家2000万円と預金1000万円、マイナスの財産は住宅ローンの残額3000万円
この事例でも、住宅ローンの残額が家の価値を上回っており、オーバーローンの状態にあります。一方で、それ以外の財産として預金が1000万円あります。
このような場合に財産分与の額をどのように計算するのかについては、「通算説」と「非通算説」の2つの考え方があります。
通算説とは、オーバーローンの部分、つまり住宅ローン残額と家の価値の差額部分をほかの財産から差し引く(通算する)考え方です。
上記の事例では、家の価値が2000万円、住宅ローンの残額が3000万円であり、1000万円のオーバーローンの状態です。これを預金1000万円から差し引くと、夫の純資産は0円となります。財産分与の請求を受ける夫の純資産が0円である以上、清算すべき財産はなく、妻から夫に対する財産分与の請求は認められません。
この通算説に対して、非通算説とは、オーバーローンの家の価値をゼロとし、オーバーローンの部分をほかのプラスの財産から差し引くことをしない(通算しない)考え方です。
上記の事例では、まず、オーバーローンの状態にある家の価値を0円とします。そして、1000万円のオーバーローン部分を預金1000万円から差し引く計算は行いません。そうすると、夫には預金1000万円が残り、夫の純資産は1000万円と算定されます。
したがって、妻は夫に対して、1000万円÷2=500万円の財産分与の請求ができることになります。
裁判例では通算説を採用するケースも非通算説を採用するケースも存在していますが、通算説のほうが家庭裁判所の実務に沿う計算方法であると言われています。
なお、夫婦で合意ができれば、どちらの計算方法によって財産分与を行うことも可能です。
3. オーバーローンの家がほかの離婚条件に影響する?
住宅ローンの問題が養育費や慰謝料などの財産分与以外の離婚条件に影響することは原則としてありません。結婚期間中に取得した家の住宅ローンの問題は、財産分与のなかで考慮されるものだからです。
ただし、家がオーバーローンの場合、財産分与のなかで住宅ローンの問題が清算されないケースがあります。そのような場合、例外的に住宅ローンの支払いを養育費の算定の際に考慮するのが公平なこともあります。
また、話し合いによって、養育費や慰謝料の支払いに代えて住宅ローンの負担をする合意もできます。
4. オーバーローンの家の取り扱い方法
離婚時に家がオーバーローンとなっている場合、次のような方法を検討する必要があります。
名義人が住み続ける
名義人以外が住み続ける
売却する
4-1. 名義人が住み続ける
名義人が住み続けるというのは、住宅ローンを借り入れたほうが離婚後も家に住み続ける方法です。
たとえば、住宅ローンを契約した夫が、離婚後も自分名義の家に住み続けるケースなどです。この場合、夫が住宅ローンの支払いを続けられるのであれば、大きな問題は生じないでしょう。
ただし、妻が住宅ローンの連帯保証人になっており、離婚を機に連帯保証人から外してもらいたい場合には、金融機関と交渉する必要があります。
4-2. 名義人以外が住み続ける
名義人以外が住み続けるというのは、住宅ローンを借り入れていないほうが離婚後も家に住み続ける方法です。
たとえば、住宅ローンの契約者は夫であるものの、離婚後は妻が家に住み続けるケースなどです。この場合、住宅ローンを夫が負担するのか妻が負担するのかを話し合う必要があります。
また、家の名義を変更するかどうかなども問題となり、金融機関との調整が必要となるケースもあります。
4-3. 売却する
夫婦の財産がオーバーローンの家のみの場合、財産分与の請求はできないのが原則ですが、家の売却そのものは可能です。
しかし、オーバーローンの場合、住宅ローンの残額が家の価値を上回っている状態にあるため、家の売却代金でローンを支払ったとしてもローンが残ってしまいます。したがって、残った住宅ローンを夫婦のどちらが負担するのかについて話し合う必要があります。
また、オーバーローンの家を売却する際には、家に設定されている抵当権を抹消してもらう必要があるため、金融機関の協力を得なければなりません。事前に金融機関と交渉し、売却について調整する必要があります。

相談アリ
得意な弁護士
探せる
5. 離婚でオーバーローンが払えないときの対処法
住宅ローンの支払いが難しい場合には、金融機関に相談する対応が考えられます。
また、配偶者が連帯保証人になっているケースでは、配偶者とも話し合わなければなりません。場合によっては、親族などに相談し、資金を援助してもらう選択肢も考えられます。
6. 家の住宅ローンがある場合の検討ポイント
離婚時に家の住宅ローンが残っている場合、次の3点に留意しましょう。
ローンの残額を正確に把握する
住宅ローン契約の内容に注意する
取り決めた内容を書面にする
6-1. ローンの残額を正確に把握する
家に住宅ローンが残っている場合、オーバーローンなのかどうか確認する必要があります。
そのためには、住宅ローンの残額と家の価値を把握しておかなければなりません。住宅ローンの残額は、ローンを借り入れた人が金融機関に照会することで確認できます。
家の価値については、不動産業者に査定を依頼する方法が考えられます。査定は無料で依頼できるため、複数の不動産業者に査定を依頼するのもよいでしょう。売却を検討している場合には、査定してもらった不動産業者に売却の仲介を依頼することも可能です。
なお、不動産鑑定士に鑑定してもらえば、より客観的な家の価値を知ることができますが、数十万円程度の費用がかかります。鑑定の必要があるかどうかは、事案に応じて慎重に検討する必要があります。
6-2. 住宅ローン契約の内容に注意する
住宅ローンの契約内容によって対応方法が異なるため、事前に契約内容を確認しておく必要があります。内容を十分に確認せずに契約していた場合、自分の認識と実際の契約内容が異なるといった事態もあり得ます。
たとえば、配偶者名義のローンだと認識していたところ、実際は夫婦のペアローンになっていたり、自分が連帯保証人になっていたりする可能性があります。
6-3. 取り決めた内容を書面にする
住宅ローンの負担や家の財産分与について取り決めた場合、その内容を書面にしておきましょう。書面化する際には、公証役場で公正証書のかたちで作成しておくのが望ましいです。公正証書は、公証人が作成する公的な文書であり、私的に作成された文書に比べて証拠としての価値が高いと言われています。
また、公正証書で一定額の金銭の支払いを約束し、その約束に違反したときは「強制執行を受けることを承諾する」旨の条項を設けた場合には、裁判をせずに相手の財産を差し押さえられます。
たとえば、家に妻が住み続けるにあたって、夫名義の住宅ローンを妻が代わりに支払うこととし、夫が妻に対し返済資金を事前に支払うといった内容の公正証書を作成するケースなどが考えられます。
6-4. 弁護士に相談する
離婚の際に住宅ローンが残っている家がある場合、ローンや家をどのように取り扱うのか慎重に検討しなければなりません。場合によっては、金融機関との交渉やほかの離婚条件との調整も必要となります。取り決めた内容を適切に書面化することも重要です。
これらの対応には専門的な知識が必要となるため、弁護士に相談または依頼することをお勧めします。
弁護士に依頼すれば、離婚やオーバーローンの家に関する手続きを一任できるため、物理的にも精神的にも負担を軽減できるでしょう。
7. 離婚する際の住宅ローンについてよくある質問
住宅ローンについて特に取り決めがない場合、ローンの契約者が支払いを続けることになります。
住宅ローンの負担について夫婦で取り決めることも可能です。しかし、あくまでも夫婦間の約束に過ぎないため、金融機関との関係でローンの契約者が変更されることはありません。
ローンの契約者を変更したい場合には、金融機関の同意が必要です。
夫婦の財産がオーバーローンの家のみの場合、財産分与の請求はできないのが原則です。ただし、夫婦で話し合って財産分与を行うことは可能です。
オーバーローンの家以外にも財産がある場合には、通算説と非通算説という2つの考え方のどちらかが適用されます。それぞれ計算の方法が異なるため、財産分与の額が変わる可能性があります。
夫名義の住宅ローンが残っている家に、離婚後も妻と子どもが住み続ける場合を考えてみます。
夫に養育費の支払い義務がある場合、夫は住宅ローンを返済しつつ養育費も支払わなければなりません。一方で、家に住み続けるのが妻なのであれば、妻側で住宅ローンを負担するのが公平と言えるケースもあります。
そこで、養育費の代わりに住宅ローンを支払うことを夫婦で合意する選択肢が考えられます。
ただし、夫が住宅ローンの支払いを怠ると、金融機関によって家が差し押さえられてしまうといったリスクがあるため、事前に弁護士に相談したほうがよいでしょう。
8. まとめ 離婚にあたってオーバーローンの家がある場合は弁護士に相談を
離婚する際にオーバーローンの家をどのように取り扱うのかは非常に悩ましい問題です。安易に対応すると自分に不利になったり、取り返しがつかないことになったりするリスクがあります。オーバーローンの家以外にも財産がある場合には、計算方法によって財産分与の額が変わることもあります。
また、オーバーローンの家の取り扱いについては配偶者や金融機関との話し合いも必要となり、自分一人で対応するのは大変です。
弁護士に相談または依頼することで、負担が軽減され、事案に応じた総合的な解決が期待できます。オーバーローンの家がある場合の離婚について悩んでいる場合は弁護士に相談または依頼することをお勧めします。
(記事は2025年7月1日時点の情報に基づいています)