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1. 夫婦が離婚する際の「財産分与」に関する基礎知識
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1-1. 財産分与とは
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1-2. 財産分与の種類(性質)
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1-3. 財産分与の割合|2分の1が原則
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1-4. 財産分与の請求期限
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2. 財産分与の対象になる財産、ならない財産
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2-1. 財産分与の対象になる財産
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2-2. 財産分与の対象にならない財産
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3. 財産分与の方法
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3-1. 現物分割
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3-2. 代償分割
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3-3. 換価分割
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3-4. 共有分割
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4. 財産分与の金額相場
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5. 財産分与の手続きの流れ
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5-1. 【STEP1】共有財産のリストアップ
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5-2. 【STEP2】共有財産の評価
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5-3. 【STEP3】財産分与の方法に関する協議
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5-4. 【STEP4】調停、訴訟(審判)
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5-5. 【STEP5】財産の名義変更
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6. 財産分与について弁護士に相談するメリット
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6-1. 相手の財産を正確に把握できる
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6-2. 財産分与の方法について的確なアドバイスができる
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6-3. 冷静な話し合いが可能になる
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7. 離婚時の財産分与に関してよくある質問
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8. まとめ|財産分与で困ったら弁護士に相談を
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1. 夫婦が離婚する際の「財産分与」に関する基礎知識
財産分与とは何か、対象となる財産や分割の割合、請求できる期限などの基礎的な知識について説明します。
1-1. 財産分与とは
財産分与とは、夫婦が結婚生活を始めた日以降に協力して得た共有財産を、離婚時に公平に分けることです。夫婦共有名義で取得した財産はもちろん、夫婦のいずれか一方の名義になっている財産も、夫婦の協力によって形成されたものであれば、財産分与の対象となります。
1-2. 財産分与の種類(性質)
財産分与には、次の3種類があります。
【清算的財産分与】
清算的財産分与とは、婚姻期間中に夫婦で協力して得た財産について、名義が夫婦どちらかに関わらず、実質上の共有財産として清算分配するものです。離婚原因をつくった側からも請求できます
。財産分与の中心はこの清算的財産分与です。
【扶養的財産分与】
扶養的財産分与とは、離婚によって夫婦のどちらかが生活に困窮する可能性がある場合、生活を補助する目的で行われる財産分与です。離婚時に夫婦のどちらかが病気や高齢で働けない場合などに、扶養的財産分与が認められるケースがあります。
ただし、扶養的財産分与が認められるのは、清算的財産分与と後述の慰謝料的財産分与を行ってもなお、夫婦の一方が離婚後の生活に困窮する場合で、かつ財産を分与する側に扶養能力がある場合に限られます。
【慰謝料的財産分与】
慰謝料的財産分与とは、慰謝料の性質をもつ財産分与です。夫婦の一方の不貞行為やDV(ドメスティックバイオレンス、家庭内暴力)などが原因で離婚を余儀なくされた場合、その精神的苦痛に対する慰謝料を請求できます。慰謝料請求権と財産分与請求権は、性質が異なるものですが、財産分与の際に慰謝料を含めて請求してもよいとされています。
ただし実際のケースでは、離婚慰謝料は離婚訴訟の際に請求されることが多く、慰謝料が財産分与として分配されることはほとんどありません 。
1-3. 財産分与の割合|2分の1が原則
財産分与は、2分の1ずつ分けるのが原則です。どちらかが専業主婦(夫)で収入がない場合でも、家事労働によって夫婦の共有財産の形成に貢献したと判断されるため、割合が減ることはありません。ただし、夫婦間で合意ができれば、異なる割合で財産分与をしてもかまいません 。
実際のケースでは、財産形成にあたって夫婦間で貢献度に差がある場合などに、この2分の1ルールが修正される ことがあります。主に以下のようなケースです。
夫婦の一方の特別な努力や才能(プロスポーツ選手、芸能人、医師、経営者など)によって高額な財産が形成された場合
夫婦の一方が勤労や家事労働を引き受けて、他方がこれを行わなかった場合
夫婦の一方が他方に無断で多額の浪費をした場合
開業医の夫とその妻が離婚したケースでは、夫の特殊な技能によって多額の財産が形成されたとして、2分の1ルールを重視しつつも、財産分与の割合を夫6:妻4にした判例 があります(大阪高裁2014年3月13日判決)。
1-4. 財産分与の請求期限
財産分与を請求できるのは、離婚後の2年間 です。財産分与について当事者間の話し合いがまとまらない場合や話し合いができないときは、離婚から2年以内に調停または審判を申し立てる必要があります。
もっとも、相手が自らの意思で財産分与に応じた場合には、離婚後2年が経過していても、財産分与をすることは可能です。ただし、離婚から2年経過後の財産分与では、税務上は財産分与と認められず、贈与税などが課される可能性があるため、慎重な検討が必要です。
離婚から2年経過後に相手が財産を隠していたことが判明した場合は、財産分与の請求はできませんが、本来得られるはずだった財産が得られなかったことに対して損害賠償請求が可能です。
なお、2024年5月17日に民法改正法が成立し、期限が「2年」から「5年」に延長されます。2026年5月24日までに施行予定です。
2. 財産分与の対象になる財産、ならない財産
財産分与の際に、対象になる財産とならない財産があります。それぞれどのように区別するか解説します。
2-1. 財産分与の対象になる財産
財産分与の対象となる財産は、婚姻期間中に夫婦で築いてきたすべての財産です。主に以下のものが該当し、借金などマイナスの財産も財産分与の対象となります。
【不動産】
婚姻期間中に購入した不動産は、夫婦どちらかの単独名義であっても財産分与の対象
となります。ただし、ローン残高が不動産価格を上回ってしまうオーバーローンの状態にあり、預貯金などほかのプラスの財産と合算してもなお債務超過となる場合は、財産分与の対象になりません。
【現金、預貯金】
婚姻期間中に蓄えた現金や預貯金は、夫婦どちらかの単独名義であっても財産分与の対象となります。
【車や宝飾品などの動産】
婚姻期間中に得た車や宝飾品など、経済的価値がある動産は財産分与の対象です。
【株式】
婚姻期間中に購入した株式は財産分与の対象です。一般的に離婚が成立したときの評価額で分けます。
【年金】
個人型確定拠出年金、企業型確定拠出年金、確定給付企業年金、個人年金は財産分与の対象となります。厚生年金(国民年金は対象外)は財産分与ではなく年金分割という制度で分割します。
【生命保険や学資保険】
生命保険や学資保険など、解約返戻金が発生するものは財産分与の対象
となります。婚姻前から加入しているものは、婚姻後から財産分与の基準時までの解約返戻金が対象です。
【住宅ローンなどの借金】
住宅ローンや車のローンなどの借金も財産分与の対象となります。一般的にプラスの財産よりもマイナスの財産が多い場合は、財産分与は行われません
。なお、婚姻前につくった借金や個人的な浪費でつくった借金は財産分与の対象になりません。
2-2. 財産分与の対象にならない財産
財産分与の対象とならないのは、婚姻前から所有していた財産や、相続や贈与により取得した財産です。
夫婦が協力して得た財産とは無関係のもので、具体的には以下のものが該当します。
【独身時代に購入、貯蓄したもの】
独身時代に購入した不動産や車、貯蓄してきたものは財産分与の対象となりません。
【結婚後に親や親族から相続した財産】
結婚後に親や親族から相続した財産は、財産分与の対象となりません。
【別居期間中に得た財産】
別居期間中に夫婦それぞれが得た財産は、原則として財産分与の対象となりません。
3. 財産分与の方法
財産分与の方法には、現物分割、代償分割、換価分割、共有分割の4つがあります。
3-1. 現物分割
現物分割は、夫婦共有の財産を物理的に分ける方法です。たとえば不動産は夫が取得して、それ以外のすべての現金や動産は妻が取得するケースです。手続きとしては簡単ですが、不動産の評価額に見合ったほかの財産がないと難しい面があります。
3-2. 代償分割
代償分割は、夫婦のどちらかが単独で財産を取得する代わりに、他方に一定の金額を代償金として支払う方法です。現物分割に似ていると思うかもしれませんが、現物分割ではほかの共有財産を渡すのに対して、代償分割では財産を取得する人の資産から代償金が支払われる点に違いがあります。
3-3. 換価分割
換価分割は、財産を売却してそのお金を分ける方法です。たとえば不動産を所有する夫婦が離婚する際、公平に財産分与ができる方法としてよく用いられます。夫婦のどちらも不動産の取得を希望していない場合や、住宅ローンの支払いが残っている場合に適しています。ただし、子どもを転校させたくないなどの理由で、離婚後も環境を変えずに同じ場所に住みたいと思っている場合には、避けたほうがよい方法です。
3-4. 共有分割
共有分割は、共有財産を離婚後も元夫婦の共有名義にする方法です。たとえば不動産が夫婦どちらか一方の名義になっている場合、法務局に財産分与を理由とした所有権一部移転登記を申請すれば夫婦共有名義にできます。ただし、不動産を共有名義にすると、一方が不動産を処分したいと考えたときに相手の同意が必要となるため、あまりお勧めできる方法ではありません 。
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4. 財産分与の金額相場
財産分与に金額の相場はなく、夫婦が持っている財産の状況に応じて決まります。原則として2分の1ずつ分けるので、たとえば対象となる財産が500万円だった場合は、250万円ずつ分けます。
2023年の司法統計における「第27表 「離婚」の調停成立又は調停に代わる審判事件数―財産分与の 支払額別婚姻期間別」によると、2023年の調停またはそれに代わる審判事件2万3035件のうち、財産分与の取り決めがあったのは7786件で、その半数以上は財産分与の支払い額が600万円以下で、100万円以下のケースも約2割 ありました。
もっとも、財産分与の金額は夫婦それぞれの事情によって異なりますので、参考程度にしておきましょう。
5. 財産分与の手続きの流れ
財産分与を行う際は、大まかに次のような流れで手続きを進めます。
5-1. 【STEP1】共有財産のリストアップ
まずは夫婦の共有財産を漏れなくリストアップします。把握に漏れがあると、本来受け取れるはずだった財産が受け取れません 。配偶者の財産を把握できない場合や相手が財産を隠すおそれがある場合は、弁護士への相談をお勧めします。
5-2. 【STEP2】共有財産の評価
夫婦の共有財産をリストアップしたら、財産の評価額を出します。不動産や車は、原則として購入時ではなく協議時の価格で算定 をします。不動産は不動産会社に、車はディーラーなどに査定を依頼します。それぞれ複数の業者に見積もりを出してもらい、比較検討するとよいでしょう。
5-3. 【STEP3】財産分与の方法に関する協議
共有財産がすべてリストアップできたら、夫婦でどのように分けるか協議をします。原則としては2分の1ずつ分けますが、実際にはぴったり2分の1ずつ分けるのは難しいため、夫婦間で合意ができる方法で調整をしながら話し合いを進めるケースがほとんど です。
財産分与の話し合いがまとまったら、離婚協議書を作成します。金銭による分与を受けるときは、公証役場で強制執行認諾文言付き公正証書を作成することをお勧め します。もしも合意どおりに金銭が支払われなかった場合に、強制執行が実施できるからです。
5-4. 【STEP4】調停、訴訟(審判)
夫婦間で財産分与の話し合いがまとまらなければ、調停または訴訟(審判)を申し立てます。
離婚前であれば、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、養育費、慰謝料などと一緒に財産分与について話し合いをします。調停委員が当事者双方の間に入って、合意をめざします。申し立てには、裁判所所定の申立書のほか、夫婦の戸籍謄本が必要となり、1200円分の収入印紙と連絡用の郵便切手代がかかります。
離婚成立後2年以内であれば、家庭裁判所に財産分与請求調停を申し立てて財産分与を求めます。調停委員が当事者双方の間に入って、合意をめざします。申し立ての際は、裁判所所定の申立書のほか、離婚時の夫婦の戸籍謄本、元夫婦の財産に関する資料などが必要です。
話し合いがまとまらず調停が不成立になると自動的に審判手続きが開始され、裁判官による審理でさまざまな事情が考慮され、審判の結論が出されます。
5-5. 【STEP5】財産の名義変更
財産分与の内容が決定したら、決められたとおりに財産を分けます。
不動産の名義変更が必要な場合は、不動産の所在地を管轄する法務局に、財産分与を理由とした所有権移転登記を申請します。
普通自動車は新しい所有者の居住地を管轄する運輸局で、軽自動車は軽自動車検査協会で名義変更の手続きをします。道路運送車両法により、所有者の変更日から15日以内の名義変更手続きが義務づけられているため、早めに手続きを済ませてください。
6. 財産分与について弁護士に相談するメリット
財産分与は当事者同士で話し合いを進めることも可能ですが、不安があれば弁護士に相談することをお勧めします。弁護士に依頼すれば次のようなメリットがあります。
6-1. 相手の財産を正確に把握できる
弁護士は引き受けた事件に必要な範囲で、所属する弁護士会を通じて官公庁や企業などに必要な報告を求めることができます(弁護士法23条の2に基づく照会)。この弁護士会照会制度では、特定の金融機関に対して口座の有無や残高の調査が可能なため、相手の財産を正確に把握できます 。相手が隠し口座を持っているのではないかといった疑念がある場合は、早い段階で弁護士に依頼するとよいでしょう。
6-2. 財産分与の方法について的確なアドバイスができる
弁護士は財産分与の方法について豊富な知識と経験があります。不動産や動産など物理的に分けられない財産がある場合、どのようにすれば公平に分けられるか、弁護士はさまざまな方法を提示できます。
6-3. 冷静な話し合いが可能になる
離婚に関する話し合いでは、双方が感情的になって建設的な議論ができないケースが少なくありません。第三者である弁護士が間に入ることで、相手と冷静に向き合うことが可能になり、本来すべき話し合いに集中できます。
7. 離婚時の財産分与に関してよくある質問
8. まとめ|財産分与で困ったら弁護士に相談を
財産分与は、離婚後の生活の経済的安定を左右するため重要です。専業主婦(夫)だったとしても、婚姻期間中に形成された共有財産は夫婦の協力で得たものであるため、原則として2分の1の財産を請求する権利があります。離婚時に養育費や慰謝料などを優先して財産分与の話し合いをしなかった人も、離婚成立から2年以内であれば請求が可能なので、あきらめずに行動を起こしてください。
離婚後に元配偶者と会いたくないという場合は、弁護士に依頼する選択肢もありますす。弁護士が代理人として対応することで、自分の精神的負担が軽減されますし、相手と冷静に建設的な話し合いが可能です。今後の生活のためにも、財産分与を得ることをあきらめず、一度弁護士に相談することをお勧めします。
(記事は2024年12月1日時点の情報に基づいています)