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1. 退職金は財産分与の対象になる?
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1-1. 財産分与の対象になる退職金
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1-2. 財産分与の対象にならない退職金
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2. 財産分与で退職金を取られない方法は? 独り占めできる?
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2-1. 退職金の財産分与をしないことにつき、配偶者と合意する
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2-2. 退職金が特有財産であることを主張する
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2-3. 退職金を受け取る確実な見込みがないことを主張する
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3. 財産分与の対象となる退職金額の計算方法
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3-1. 退職金がすでに支払われている場合の計算方法
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3-2. 退職金がまだ支払われていない場合の計算方法
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4. 退職金に関する書類の開示を請求されたらどうすべき?
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5. 離婚時に退職金を取られない方法に関連してよくある質問
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6. まとめ 退職金は同意があれば財産分与しなくても済む
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1. 退職金は財産分与の対象になる?
会社などを退職した際に支払われる退職金は、離婚時に夫婦の財産を公平に分ける財産分与の対象になるケースと、財産分与の対象にならないケースの両方があります。
1-1. 財産分与の対象になる退職金
財産分与の対象になる退職金は、すでに支払いを受けたか、または支払いを受けられることが確実であるもののうち、婚姻期間中の労働に対応する部分の金額 です。
財産分与の対象となる賃金は、婚姻期間中の労働に対応するものに限られます。婚姻前の労働に対応する賃金は、夫婦の一方が単独で有する財産(=特有財産)に当たるためです(民法762条1項)。
退職金にはさまざまな性質がありますが、その一つとして「賃金の後払い的性質 」が挙げられます。本来であれば毎月の賃金として受け取るべき金額を、退職金としてまとめて受け取るという考え方です。
賃金の後払い的性質を踏まえて、退職金についても婚姻期間中の労働に対応する金額のみが財産分与の対象となります。したがって、婚姻前から在職していた職場を辞めた際の退職金は、婚姻前後の期間などに応じて比例配分した上で、婚姻中の期間に対応する金額だけを財産分与の対象とします。
まだ受け取っていない退職金については、支払いを受けられることが確実である場合に限って財産分与の対象となります。支払いの確実性の有無は、退職金規程の内容や勤続期間、退職までの期間などに応じて判断します。
1-2. 財産分与の対象にならない退職金
退職金のうち、婚姻期間中の労働に対応しない部分の金額は特有財産として扱われるため、財産分与の対象になりません 。婚姻前から在職していた職場を辞めた際の退職金は、婚姻前後の期間などに応じて比例配分したうえで、婚姻前の期間に対応する金額を財産分与の対象から除外します。
また、支払いを受けられることが確実とはいえない将来の退職金は、財産分与の対象外 です。たとえば、明確な退職金規程がない場合、勤続年数が短い場合、退職が相当先になると思われる場合などには、退職金の財産分与請求は認められない可能性が高いでしょう。
2. 財産分与で退職金を取られない方法は? 独り占めできる?
退職金が財産分与の対象になる場合は、それを一切取られないようにすることは難しいでしょう。しかし、法的に財産分与の対象外であることを示せれば、退職金を取られずに済む可能性があります 。離婚時の財産分与によって退職金を取られないようにする主な方法は、以下の通りです。
退職金の財産分与をしないことにつき、配偶者と合意する
退職金が特有財産であることを主張する
退職金を受け取る確実な見込みがないことを主張する
2-1. 退職金の財産分与をしないことにつき、配偶者と合意する
配偶者と合意すれば、退職金の財産分与をしなくても構いません 。離婚協議書において、退職金を除外する形で財産分与の内容を定めた上で、追加の請求をしない旨の条項(=清算条項)を設けましょう。
2-2. 退職金が特有財産であることを主張する
前述のとおり、退職金のうち婚姻中の労働に対応しない部分は、特有財産に当たるため財産分与の対象になりません。婚姻前から在職している職場の退職金については、後述する計算方法を参考にして金額を比例配分し、婚姻前の期間に対応する部分は特有財産であることを主張しましょう。
2-3. 退職金を受け取る確実な見込みがないことを主張する
支払いを受けられる確実な見込みがない退職金は、財産分与の対象になりません。まだ受け取っていない退職金について財産分与を求められた場合は、退職金規程の内容や勤続年数、退職までの年数などを踏まえて、受け取れる確実な見込みがないことを主張 しましょう。
3. 財産分与の対象となる退職金額の計算方法
婚姻前から在職している職場の退職金については、財産分与の対象になる部分とならない部分を区別する必要があります。退職金がすでに支払われている場合と、まだ支払われていない場合のそれぞれについて、財産分与の対象となる退職金額の計算方法を紹介します。
3-1. 退職金がすでに支払われている場合の計算方法
退職金がすでに支払われている場合は、退職金規程の定めに従い、婚姻前と婚姻中の各期間に応じて金額を比例配分します 。
たとえば、勤続20年の会社を退職した際に、1000万円の退職金が支払われたケースを考えます。退職金規程では、1年目から10年目までは勤続1年ごとに20万円、11年目から20年目までは勤続1年ごとに80万円の退職金が加算される旨が定められていたとします。
仮に6年目が始まる時点で結婚したとすると、婚姻中に対応する退職金は、6年目から20年目までに加算された900万円(5年×20万円+10年×80万円)です。したがって、退職金1000万円のうち900万円が財産分与の対象となります。
3-2. 退職金がまだ支払われていない場合の計算方法
まだ支払われていない退職金について、財産分与の対象とする金額を計算する方法には複数のパターンがあります。主な計算方法を2つ紹介します。
1つ目は、離婚時(または離婚を前提とした別居の開始時)に自己都合退職したものと仮定して、財産分与の対象額を計算する方法 です。退職の具体的な予定がないか、あるとしても相当先である場合によく用いられます。
たとえば、離婚する時点で勤続20年であり、その時点で自己都合退職すると1000万円の退職金が支払われるとします。退職金規程では、1年目から10年目までは勤続1年ごとに20万円、11年目から20年目までは勤続1年ごとに80万円の退職金が加算される旨が定められていたとします。仮に6年目が始まる時点で結婚したとすると、婚姻中に対応する900万円のみが財産分与の対象です。
2つ目は、将来の退職時に受け取る退職金額から、中間利息を控除して財産分与の対象額を計算する方法 です。定年などによる具体的な退職の予定がある場合によく用いられます。中間利息控除には、ライプニッツ係数(=法定利率年3%による複利減価率の係数)を用います。
たとえば、長年勤めた会社を3年後に定年退職する予定で、その際には2000万円の退職金が支払われる見込みだとします。この場合、3年に対応するライプニッツ係数(=2.829)を用いて計算すると、財産分与の対象となる金額は1886万円(=2000万円×2.829/3)となります。

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4. 退職金に関する書類の開示を請求されたらどうすべき?
配偶者から退職金に関する書類(退職金規程など)の開示を求められたら、基本的には応じた方がよいでしょう。開示を拒否しても、弁護士会照会や調査嘱託などを通じて、結局開示されてしまうことが多い です。また、開示を拒否した状態では財産分与に関する話し合いが進まず、離婚成立が長引いてしまうおそれ があります。スムーズに財産分与の話し合いを進めるためにも、退職金に関する書類の開示を求められたら、速やかに応じることをおすすめします。
5. 離婚時に退職金を取られない方法に関連してよくある質問
6. まとめ 退職金は同意があれば財産分与しなくても済む
離婚時に退職金を取られないようにするためには、配偶者との間で退職金の財産分与をしない旨を合意するか、または財産分与の対象外であることを主張する
ことが考えられます。退職金の財産分与には、難しい法的な論点が多数含まれ、計算方法も複雑です。弁護士のアドバイスやサポートを受けながら、配偶者との間で建設的に話し合い、公平な形で財産分与を行いましょう。
(記事は2025年1月1日時点の情報に基づいています)