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1. 面会交流を拒否されたら、損害賠償(慰謝料)は請求できる?
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1-1. 正当な理由のない面会交流の拒否は不法行為|損害賠償を請求可能
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1-2. 面会交流の拒否を理由に損害賠償を請求するための要件
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2. 面会交流の拒否による損害賠償額
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2-1. 面会交流を拒否された場合の損害賠償額の相場
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2-2. 面会交流拒否の損害賠償が高額になるケース
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3. 面会交流を拒否できるケース
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3-1. 子どもや同居親に対する暴力のおそれがある
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3-2. 子どもの連れ去りのおそれがある
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3-3. 子どもが面会交流を拒んでいる
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4. 面会交流を拒否された場合の対処法
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4-1. 履行勧告を申し出る
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4-2. 強制執行
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4-3. 面会交流調停を申し立てる
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4-4. 損害賠償請求(慰謝料請求)
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5. 面会交流拒否に対する損害賠償請求の弁護士費用相場
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6. 面会交流の拒否に対し、高額な損害賠償請求が認められた実例
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7. 2026年5月までに導入|改正法が面会交流に与える影響は?
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8. 面会交流を拒否されたときの注意点
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8-1. 養育費の支払いを止めてしまう
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8-2. 子どもを連れ去る
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9. 面会交流を拒否された場合に、弁護士へ相談するメリット
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10. 面会交流の拒否と損害賠償に関してよくある質問
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11. まとめ 面会交流を拒否された場合は弁護士に相談を
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1. 面会交流を拒否されたら、損害賠償(慰謝料)は請求できる?
未成年の子どもと離れて暮らす親(以下、別居親)が定期的に子どもと面会し、交流する機会を「面会交流」と言います。
面会交流が親の権利なのか子どもの権利なのかは常に議論されていますが、いずれにしても、面会交流を実施すべきかどうかは子どもの利益を最優先に考慮して決定すべきものとされており、結論に大きな違いはありません。
そして、面会交流が拒否された場合は、正当な理由の有無が慰謝料請求の可否に関わります。
なお、2024年の民法改正で条文(民法766条1項)から「面会」という用語が削除されたことに伴い、今後は「親子交流」や「子との交流」という用語が用いられるようになるのではないかと考えられます。
1-1. 正当な理由のない面会交流の拒否は不法行為|損害賠償を請求可能
面会交流は、具体的な親子関係に照らし合わせ、実施することが子どもの利益のために望ましいと判断されるのであれば、その阻害は許されません。つまり、子どもと同居している親(以下、同居親)が正当な理由なく面会交流を拒否することは不法行為に該当し、それによる精神的苦痛への損害賠償金を、慰謝料として同居親に請求できる可能性があります。
ただし、面会交流は別居親と子どもの精神的な交流を通じて子どもが自己のアイデンティティーを形成し、健全な育成を図るという子どもの利益にかなうものである必要があります。そのため、別居親との面会に実害があるなど、面会交流を実施すべきでない正当な理由がある場合には、面会交流の拒否は不法行為にあたらず、損害賠償請求も認められません。
1-2. 面会交流の拒否を理由に損害賠償を請求するための要件
損害賠償(慰謝料)の請求が認められるためには、以下の要件を満たす必要があると考えられます。
面会交流の具体的な日時、場所、方法が定められている
同居親が別居親と子どもの面会交流を拒否または妨害した
面会交流の拒否について正当な理由がない
面会交流の拒否によって損害が生じた
【面会交流の具体的な日時、場所、方法が定められている】
当時者間における話し合いや、家庭裁判所における調停または審判によって面会交流の具体的な日時、場所、方法が定められると、面会交流の権利が具体的なものとなります。
ただし、それまでの間は、面会交流を求める別居親の権利は抽象的なものにとどまると考えられます。そのため、その間に面会交流が実施されないとしても、不法行為には該当しないと判断される可能性があります。
なお、子どもと一緒に住む同居親が面会交流の実現に向けて誠実に対応せず、話し合い自体を拒否しているなどの場合は、この態度自体が不法行為に該当すると判断される場合があります。
【同居親が別居親と子どもの面会交流を拒否または妨害した】
同居親が、面会交流の取り決めに反して面会交流を実施しない場合や、形式的に面会交流を実施したものの、意図的な妨害をして面会交流を中止させるような行為も、慰謝料請求の対象となり得ます。
【面会交流の拒否について正当な理由がない】
面会交流の拒否に正当な理由がある場合、慰謝料請求の対象とはなりません。ただし、この正当な理由は面会交流を拒否する側が立証する責任を負っており、証明できなければ「正当な理由はない」ものとして扱われます。
【面会交流の拒否によって損害が生じた】
通常は面会交流の拒否によって精神的な苦痛が生じるため、これが損害と認められ、慰謝料を請求できます。
2. 面会交流の拒否による損害賠償額
面会交流を拒否された場合に請求できる慰謝料の金額には相場があり、なかには高額の慰謝料が請求されたケースもあります。
2-1. 面会交流を拒否された場合の損害賠償額の相場
面会交流を拒否された場合の慰謝料の金額は、過去の裁判例によると10万円から80万円程度が一般的です。
慰謝料を請求した事例のなかには、慰謝料請求自体が認められなかったケースもあります。認められたとしても上記の金額にとどまっており、精神的苦痛に見合わない金額になる可能性が高いと言えます。
2-2. 面会交流拒否の損害賠償が高額になるケース
以下のようなケースでは、慰謝料が高額になる可能性があります。
長期間にわたり意図的に面会交流が妨害された
裁判所の決定に違反して面会交流を拒否し続けた
子どもの意思に反して面会交流を拒否、妨害した
【長期間にわたり意図的に面会交流が妨害された】
子どもに会えない状態が長期間続くと、それだけ精神的な苦痛が積もります。裁判例のなかには、長期間、面会交流が実施されなかった間に子どもが大きく成長し、そのような大切な時期に面会交流できなかった精神的な苦痛を重く見たものもあります。
【裁判所の決定に違反して面会交流を拒否し続けた】
面会交流を認めた決定があるにもかかわらず面会交流を実施せず、裁判所の履行勧告にも従わなかった場合などには、悪質性があると判断され、慰謝料が高額になる可能性があります。
【子どもの意思に反して面会交流を拒否、妨害した】
子どもが別居親との面会交流を望んでおり、面会交流を実施すべきでない事情がないにもかかわらず、同居親が面会交流を拒否、あるいは妨害するような行動をとった場合、悪質性が高いものと判断され、慰謝料が高額となる可能性があります。
3. 面会交流を拒否できるケース
以下のような場合には、面会交流を拒否する正当な理由があると認められる可能性があります。
子どもや同居親に対する暴力のおそれがある
子どもの連れ去りのおそれがある
子どもが面会交流を拒んでいる
3-1. 子どもや同居親に対する暴力のおそれがある
別居親が、子どもに対して暴力をふるっていた過去があり、将来的にも暴力をふるうおそれがある場合は、面会交流を拒否する正当な理由となります。
また、子どもに対してだけでなく、同居親に対する暴力についても、子どもにとっては精神的なショックが大きく、拒否事由に該当する可能性はあります。
なお、暴力の有無は、当時者の主張だけでなく、暴力をふるわれたときの動画や診断書など、客観的な証拠に基づいて判断すべきであると考えられています。
3-2. 子どもの連れ去りのおそれがある
同居親の許可なく子どもを連れ去る行為も、子どもの福祉に反するものとして、面会交流を拒否する正当な理由になると考えられます。
暴力の有無と同様、連れ去りの危険の有無も客観的に考えられるべきであり、過去に連れ去った実績があったり、連れ去りを予告する発言を繰り返したりしている場合は、連れ去りの危険があると判断されるでしょう。
3-3. 子どもが面会交流を拒んでいる
面会交流は子どものために行うものですから、子どもが面会交流の実施を強く拒んでいる場合には、面会交流の無理強いはできません。
子どもの年齢によっては、同居親に気を遣う、あるいは一時的な気分などで面会交流を拒否する可能性もあります。子どもが面会交流を拒否している場合は、子どもの真意がどうであるか、慎重に見極める必要があります。
4. 面会交流を拒否された場合の対処法
理由なく面会交流の実施を拒否された場合、以下の対応を検討しましょう。それぞれ一長一短ありますので、自分の状況に合った手続きをとらなければなりません。
4-1. 履行勧告を申し出る
家庭裁判所の調停、審判で定められた面会交流が実施されない場合、家庭裁判所は面会交流の実施を拒否している親に対して実施を促します。これを「履行勧告」と言います。
履行勧告の申し出がなされると、家庭裁判所の調査官が状況を調査します。そして面会交流が実施されていないことが明らかになった場合は、実施するように勧告がなされます。
ただし、履行勧告には強制力がなく、勧告が無視され続ければそれまでとなってしまう弱点があります。また、家庭裁判所の調停や審判で取り決めた面会交流を実施するよう求めるものであるため、当事者間の話し合いなど家庭裁判所外でなされた合意は対象とはなりません。
4-2. 強制執行
面会交流の強制執行は、面会を物理的に強制するものではなく、面会交流をしないことに対して一定額の金銭を支払うよう命じ、間接的に面会交流を行うように促す「間接強制」となります。
間接強制は、調停や審判で、面会の日時や頻度、面会交流の時間の長さ、子どもの引き渡し方法が具体的に特定されている場合に限って認められるため、間接強制を利用できるケースは限られます。
4-3. 面会交流調停を申し立てる
面会交流調停とは、裁判所の調停委員などを交えて、面会交流に関する取り決めをする手続きです。
過去に面会交流調停を申し立てていない場合はもちろん、一度、面会交流調停が成立したにもかかわらず、面会交流が理由なく拒否された場合も、面会交流調停を再度、申し立てられます。
再度の面会交流調停では、一度決まった調停においてうまくいかなかった部分について重点的に協議し、面会交流の実施方法を決定します。
4-4. 損害賠償請求(慰謝料請求)
損害賠償請求(慰謝料請求)には、間接強制と同様、面会交流を間接的に促す効果があります。
ただし、裁判によって認められる慰謝料の金額が高額になるとは限らず、「慰謝料を支払えば面会交流を拒否してよい」と同居親が開き直った場合、面会交流の実施にはつながりません。損害賠償請求によって面会交流が実現できるケースは極めて限られると言えます。
5. 面会交流拒否に対する損害賠償請求の弁護士費用相場
面会交流拒否に対する慰謝料請求を弁護士に依頼する場合、費用の相場は以下のとおりです。
着手金:10万円~30万円
成功報酬:獲得金額の10%~20%
具体的な事情、証拠の有無によって、金額は上下する可能性があります。
6. 面会交流の拒否に対し、高額な損害賠償請求が認められた実例
実際に高額な慰謝料請求が認められた裁判例(静岡地裁浜松支部平成11年12月21日判決)を紹介します。
【事案の概要】原告:父(X)、被告:母(Y)
平成4年11月4日:XとYが結婚。
平成6年1月28日:長男(A)出生。
平成7年7月25日:YがAを連れて実家に帰り、別居状態に。
平成7年8月:Yが離婚調停を申し立て→不成立
平成7年12月:Xが面会交流調停を申し立て→不成立
平成8年7月17日:Yが離婚等請求訴訟を提起→後に付調停(裁判所の判断で調停に移行)
平成10年6月3日:調停離婚が成立。同調停で「Yは、XがAと2カ月に1回の面会を認める」旨を取り決める。
平成10年7月:Xが面会交流の実施場所に赴くもYとAは現れず。その後の履行勧告についてもYは応じず、以降、面会交流は実施されず。
同年、XはYに対し、500万円の慰謝料を求める裁判を提起。
【結論】
離婚後、Xに対する面会交流を拒否したのは違法であるとして、Yに対し、500万円の支払いが命じられた。
【判決の理由(要約)】
・Yが別居するに至ったのは、Xが自己本位でわがままであるからではなく、むしろYのわがままが要因であり、別居に至る経緯が面会交流を拒否する理由とはならない。
・Xの親としての愛情に基づく自然の権利を、長男の福祉に反する特段の事情がないにもかかわらず故意に妨害したと言え、妨害に至る経緯、約4年間という期間、Yの態度などから、Xの精神的苦痛を慰謝するには500万円が相当。
【コメント】
面会交流の拒否に対する慰謝料の相場が100万円未満である点と比較すると、非常に大きな金額が認められた裁判例です。
判決文によれば、父Xが別居後間もなく面会交流調停を申し立てた点、この調停の席上で6カ月ぶりに会った長男がXのことを忘れているような様子を見せた点、面会交流を実施する旨の調停が成立したものの、一度も面会交流を実施せず、履行勧告にも応じなかった点などの事情が認定されており、面会交流を拒否した期間、当事者の態度が慰謝料金額を認定する際に考慮されたようです。
7. 2026年5月までに導入|改正法が面会交流に与える影響は?
2024年の民法改正により、2026年5月までに離婚後の共同親権制度を選択できるようになるなど、大きな制度変更がなされる予定です。
改正法では、離婚前の親子交流について直接規定する条文が新設されたほか、子どもの利益のため特に必要があると認められる場合には、祖父母など父母以外の親族との交流も認められるとされました。
まだ施行前の段階であり、上記改正が面会交流にどのような影響を与えるかは定かではありません。改正後の経過を見守る必要があります。
8. 面会交流を拒否されたときの注意点
正当な理由なく面会交流を拒否された場合であっても、以下のような行動はかえって自身の立場を不利にするため注意しましょう。
8-1. 養育費の支払いを止めてしまう
面会交流が拒否されたとしても、養育費の支払いを勝手に止めてはいけません。
養育費は面会交流の対価ではなく、面会交流が拒否されても支払う義務があります。
なお、養育費の支払いを止めてしまった場合、給与や財産を差し押さえられる可能性があります。また、養育費の支払いを止めたあと、面会交流を求める審判において、不払いの事実が不利益だと判断され、面会交流を認めないとした審判も存在します。養育費の支払いを止めるリスクは非常に大きいと言えます。
8-2. 子どもを連れ去る
子どもを連れ去る行為は、暴力的に脅して連れ去る略取や誘拐に該当する可能性があります。
また、連れ去ったあとに子どもを返したとしても、連れ去った事実はなくなりません。「連れ去りの危険」があるとして面会交流を拒否する理由となり、面会交流の実施が非常に難しくなるリスクもあります。
9. 面会交流を拒否された場合に、弁護士へ相談するメリット
面会交流を実施できず、子どもと会えない期間が長くなれば、子どもとの関係を元どおりにするのは難しくなります。面会交流が拒否された場合は、速やかに、最適な行動に出る必要があります。
面会交流を拒否された場合、親同士の話し合いによって実施を求めるのか、速やかに裁判所に調停を申し立てるべきなのか、面会交流を実施する場合にはその頻度や時間、場所はどうすべきかなど、考慮しなければならない要素は数多くあり、決定も容易ではありません。
面会交流の実施に向けてとるべき行動を示せるのは、離婚問題の経験が豊富な弁護士になります。
また、面会交流を拒否された場合の精神的なダメージは計り知れません。弁護士の助言があれば、心理的な負担の軽減も期待できます。
10. 面会交流の拒否と損害賠償に関してよくある質問
以下のような証拠が考えられます。
・面会交流の話し合いがまとまる前であれば、面会交流を実施するよう求めた旨、実施する際の条件が記載された文面、メールなど
・面会交流が拒否された際にやりとりしたメールやLINEなどの文面
養育費は面会交流の対価ではないため、面会交流の拒否を理由に養育費の減額はできません。
養育費の減額は、収入が減少した、あるいは相手の収入が増えたなどの事情が必要です。
11. まとめ 面会交流を拒否された場合は弁護士に相談を
面会交流は、子どもの利益のために望ましいと判断されるのであれば、正当な理由なく拒否することは許されません。「正当な理由」とは、子どもや同居親に対して暴力をふるう可能性がある、子どもを連れ去る可能性がある、子どもが面会交流を拒否している、といったケースです。
正当な理由なく面会交流を拒否された場合は、履行勧告の申し出や強制執行、面会交流調停の申し出、損害賠償(慰謝料)の請求などの対応をとるのが望ましいでしょう。慰謝料を請求する場合、相場は10万円から80万円で、過去にはさらに高額の慰謝料が請求された例もあります。
ただし、いざ面会交流が拒否されると冷静な行動が難しくなり、どうしてよいかわからなくなるケースも珍しくありません。その際に養育費の支払いを停止したり、子どもを連れ去ったりといった行動を起こすと、自分が不利な立場になります。
面会交流を拒否された場合は、現状に見合った適切な対処法をとるために、弁護士への相談をお勧めします。弁護士の助言があれば精神的な負担が軽減されますし、適切な対処法へと導いてくれるはずです。
(記事は2025年7月1日時点の情報に基づいています)