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1. うつ病・精神病で離婚している人の割合
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2. 配偶者のうつ病・精神病で離婚はできる?
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2-1. 裁判では法定離婚事由があれば離婚できる
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2-2. 2026年5月までに施行|改正民法では精神病による離婚が認められない
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3. 裁判でうつ病・精神病による離婚が認められるケース
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3-1. これまで献身的に看病してきた
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3-2. 医学的に強度の精神病で回復の見込みがない
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3-3. 離婚後も配偶者が生活に困らない
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3-4. 婚姻を継続し難い重大な事由がある
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4. うつ病・精神病の配偶者と離婚する流れ
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4-1. 夫婦で話し合う
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4-2. 離婚調停で話し合う
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4-3. 離婚裁判で離婚を決めてもらう
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5. 配偶者のうつ病・精神病で離婚すべきタイミング
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6. うつ病・精神病の配偶者と離婚する際のポイント
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6-1. 離婚を決断する前に治療を試みる
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6-2. 離婚を迷うなら別居を検討する
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6-3. 病気で配偶者の判断能力が低下している場合は成年後見制度を利用する
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6-4. 裁判で離婚するなら証拠を集めておく
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7. 夫や妻のせいでうつ病になったら慰謝料は請求できる?
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7-1. DVやモラハラが原因なら慰謝料請求が可能
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7-2. 慰謝料を請求するために必要な証拠
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8. 配偶者のうつ病・精神病で離婚で弁護士に相談するメリットは?
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9. うつ病で離婚に関するよくある質問
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10. まとめ 配偶者のうつ病で離婚を検討した場合は一人で悩まず弁護士に相談を
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1. うつ病・精神病で離婚している人の割合
配偶者のうつ病や精神病を理由に離婚を希望する人はそれほど多くはありません。裁判所の統計資料「令和5年司法統計年報 3 家事編」では、離婚事件の申立の動機(複数回答)として「病気」を挙げた人は、夫側で592件(3.9%)、妻側で672件(1.6%)と、その割合は少ないです。この「病気」には身体的なものも含まれるため、精神病を理由とする申し立てはさらに少ないと考えられます。
2. 配偶者のうつ病・精神病で離婚はできる?
配偶者のうつ病や精神病で離婚するには、夫婦の合意または裁判で離婚が認められる必要があります。2025年5月には改正民法が施行されるため、その点についても以下で詳しく解説します。
2-1. 裁判では法定離婚事由があれば離婚できる
協議離婚の場合、離婚の理由が何であろうと、双方が同意すれば離婚は成立します。しかし、一方が離婚に応じない場合には、裁判を起こして離婚を認めてもらわなければなりません。裁判で離婚が認められるためには、法定離婚事由が必要です。法定離婚事由とは、民法770条1項が定める離婚理由のことで、夫婦の一方は次のいずれかの場合に限り、離婚の訴えを提起できます。
1 配偶者に不貞な行為があったとき
2 配偶者から悪意で遺棄されたとき
3 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
4 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
5 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
うつ病や精神病を理由とした離婚は、4項の「強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」に該当するかが問題となります。
2-2. 2026年5月までに施行|改正民法では精神病による離婚が認められない
法定離婚事由に該当すれば、配偶者のうつ病や精神病による離婚は認められます。ただし、2024年に民法が改正され、法定離婚事由のうち強度の精神病について定めた4項は削除されることになりました。この改正は、2026年5月までに施行されます。
法改正の背景には、以前より同項が障がい者に対する差別的規定であるとの批判がありました。しかし、この規定の削除により、精神病の配偶者との離婚ができなくなるわけではありません。配偶者の言動など他の事情も相まって、5項の「その他婚姻を継続し難(がた)い重大な事由」があると認められれば離婚は成立する可能性があります。
3. 裁判でうつ病・精神病による離婚が認められるケース
単に配偶者がうつ病や精神病である事実だけで、離婚が認められるわけではありません。これまで献身的に看病してきた点などが重視されます。
以下のケースに該当する場合は、裁判でうつ病や精神病による離婚が認められる可能性があります。
これまで献身的に看病してきた
医学的に強度の精神病で回復の見込みがない
離婚後も配偶者が生活に困らない
婚姻を継続し難い重大な事由がある
それぞれについて詳しく解説します。
3-1. これまで献身的に看病してきた
精神病を理由に離婚する場合、これまで精神病の配偶者を献身的に看病してきたことが前提となります。夫婦には協力扶助義務(民法752条)があり、配偶者の精神病を経済的・精神的に支える義務があるためです。献身的な看病といえるためには、長年配偶者の通院に付き添ったり、自身で介護をしたり、これまでの療養費を負担してきたという事情が必要です。
3-2. 医学的に強度の精神病で回復の見込みがない
うつ病や精神病を理由に裁判で離婚を認めてもらうには、配偶者が「強度の精神病」に該当し、さらに「回復の見込みがない」ことを証明する必要があります。
「強度の精神病」とは、正常な婚姻共同生活の継続を期待できない程度の重い精神的障害を意味し、精神病の具体的な症状は必ずしも重要ではないとされています。「強度の精神病」の典型例としては、認知症により夫婦のコミュニケーションがほとんど取れない状態が挙げられます。
配偶者の精神病が「強度の精神病」として認められても、「回復の見込みがない」といえなければ離婚は認められません。この「回復の見込みがない」との判断は、医学的にも難しく、医師による判断に依存することが多いため、実務上、強度の精神病を理由とする離婚は認められにくい傾向があります。
3-3. 離婚後も配偶者が生活に困らない
配偶者の精神病が強度の精神病に該当し、回復の見込みがない場合でも、裁判所は離婚を認めないことがあります。民法770条2項には、「裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由があっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる」と定められています。
強度の精神病において考慮される「一切の事情」とは、端的に言えば「離婚後の治療や生活の見通し」です。重度の精神病の配偶者は通常就労ができないため、離婚をすると治療費が捻出できず、生活も成り立たなくなります。
そのため、裁判所に離婚を認めてもらうためには、離婚後の配偶者が生活費に困らないことが前提となります。具体的には将来の生活費援助の約束や財産分与として自宅の分与、公費負担による治療の見通し、親族による配偶者の引き受けなどの事情が必要です。
3-4. 婚姻を継続し難い重大な事由がある
実務上、強度の精神病を理由とした離婚は難しいため、法定離婚事由の「婚姻を継続し難い重大な事由」を理由に離婚請求することが多いです。ただし、単に配偶者が精神病であるという理由だけでは「婚姻を継続し難い重大な事由」には該当しません。
病気に加え、長期間の別居や配偶者の暴力、日常的な暴言などの事情が必要です。なお、うつ病によりこうした感情的・攻撃的な言動が生じている場合には、治療によって夫婦関係が修復される可能性があるため、夫婦関係は破綻していないと判断されることもあります。この点には注意が必要です。

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4. うつ病・精神病の配偶者と離婚する流れ
うつ病や精神病の配偶者と離婚する場合、まずは夫婦で話し合います。話し合いで離婚の合意に至らない場合は、離婚調停や裁判を行うことになります。以下、詳しく解説します。
4-1. 夫婦で話し合う
まずは夫婦で離婚について話し合いましょう。配偶者が離婚に同意すれば、精神病を理由に離婚できます。協議離婚の場合、理由は特に問われません。ただし、精神病の配偶者は判断能力が低下している可能性があるため、成年後見制度(後述)の利用や弁護士・医師に相談しながら、慎重に進めるべきです。
4-2. 離婚調停で話し合う
話し合いで決着がつかない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。離婚調停とは、裁判所で調停委員を交えて離婚の話し合いを行う手続きです。夫婦が直接顔を合わせることはなく、交互に部屋に呼ばれて調停委員と話をします。
調停では、これまで献身的にサポートしてきたことや、離婚後の生活支援策について資料を提示しながら具体的に説明します。ただし、離婚調停を経ても、離婚や離婚条件で折り合いがつかなければ、調停は不成立となります。
4-3. 離婚裁判で離婚を決めてもらう
調停が不成立となった場合は、離婚訴訟を提起します。裁判では、配偶者が「強度の精神病にかかり、回復の見込みがない」ことを証拠を提示して証明する必要があります。裁判所に離婚を認めてもらうための証拠としては、診断書や治療履歴、介護の日記などが挙げられます。
5. 配偶者のうつ病・精神病で離婚すべきタイミング
うつ病や精神病は、患っている本人にとっても辛いものですが、支える家族にとっても非常に苦しい状況です。配偶者が病気で働けないために、家計を支え、家事や育児も一手に引き受けるケースが多いです。そのような状況で、自分が倒れてしまうと、家族全員が路頭に迷うことになります。
これまで献身的に看病してきた人が精神的・肉体的に限界を迎えた場合は、離婚を決断すべきタイミングといえます。
また、うつ病の患者はイライラして家族に当たることもあり、子どもの成長に悪影響を与えることもありえます。暴力的、精神的に不安定になるなど、子どもの様子に異変があるときも離婚を検討すべきです。
6. うつ病・精神病の配偶者と離婚する際のポイント
配偶者のうつ病や精神病は、看病している家族にとっても大きな精神的負担となります。やむを得ず離婚を選択せざるを得ない場合もあります。うつ病や精神病の配偶者と離婚する際は、以下の点を検討して進めることが望ましいです。
6-1. 離婚を決断する前に治療を試みる
配偶者の精神病を理由に離婚するためには、献身的に看病してきたことが前提となります。そのため、離婚を決断する前に、無理のない範囲で治療を試みることが大切です。うつ病の場合、薬物療法や認知行動療法によって症状が軽くなることがあります。
ただし、配偶者が病気を認めなかったり、治療を拒否したりする場合もあります。その際は、繰り返し治療を提案したなど最大限努力してきたことや、専門家に相談した記録などを証拠として残しておくとよいでしょう。
6-2. 離婚を迷うなら別居を検討する
病気の配偶者を助けたい気持ちがあっても、自身が精神的・肉体的に限界を迎えているなら、別居をすることも一つの選択肢です。いきなり離婚するのではなく、例えば週末だけ一緒に過ごすなど、距離を置くことで心の余裕が生まれれば、落ち着いて配偶者の病気に向き合えるかもしれません。
ただし、別居を決める前に配偶者とよく話し合い、相手の病状が悪化しないよう配慮することが重要です。まずは担当医とよく相談してください。
6-3. 病気で配偶者の判断能力が低下している場合は成年後見制度を利用する
うつ病や精神病で配偶者の判断能力が低下しているために離婚の話し合いが難しい場合、成年後見制度を利用することになります。成年後見制度とは、精神的障害により判断能力が欠けている人を保護するための制度で、家庭裁判所に選任された後見人が、本人を代理して財産管理や法律行為をします。
離婚のような身分行為については本人の意思が尊重されるため、成年後見人の同意は不要です。しかし、離婚の意味を理解できないほど判断能力が低下している場合には、離婚協議が進められません。その際には、成年後見の申し立てを行い、成年後見人を相手に離婚訴訟を提起します。自分がすでに配偶者の成年後見人となっている場合は、成年後見監督人を相手に訴訟を提起することになります。
6-4. 裁判で離婚するなら証拠を集めておく
裁判で重度の精神病を理由に離婚を求める場合、これを裏付ける証拠を集めて裁判所に提出する必要があります。以下は有効な証拠の例です。
診断書
通院履歴
医師の意見書(回復の見込みがないことについて)
介護記録・日記
公的支援制度(離婚後の治療の見通しについて)
記録や日記の内容など証拠については、弁護士に相談して証拠を集めるとよいでしょう。
7. 夫や妻のせいでうつ病になったら慰謝料は請求できる?
配偶者の行為が原因でうつ病や精神病になった場合、必要な証拠があれば慰謝料を請求することが可能です。
7-1. DVやモラハラが原因なら慰謝料請求が可能
単に自分がうつ病や精神病であるという理由だけでは慰謝料は発生しません。慰謝料を請求できるのは、相手の行為が不法行為に該当する場合に限られます。不法行為とは、権利や法律上保護された利益を侵害する、違法性のある行為を指します。病気は本人に責任がないため、不法行為には該当しません。
しかし、相手にDVやモラハラといった事情があれば、不法行為に該当し、慰謝料が発生することがあります。相手のDVやモラハラで離婚する場合の慰謝料相場は50万円から300万円です。
7-2. 慰謝料を請求するために必要な証拠
配偶者のDVやモラハラが原因でうつ病になった場合、慰謝料を請求するためには証拠が必要です。具体的には以下のような証拠を収集するとよいでしょう。
医師の診断書
ケガの写真
暴力や暴言を受けたときの録画・録音
暴言を内容とするメール・LINE
警察や女性相談所への相談記録
暴力や暴言を受けた時の録画や録音を残す場合は、相手に見つからないように行うことが重要です。他にもいま手元にある証拠が有効かどうか、どのように証拠を集めればよいのか迷ったら、弁護士に相談しながら進めるようにしましょう。

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8. 配偶者のうつ病・精神病で離婚で弁護士に相談するメリットは?
配偶者がうつ病や精神病になると、支える側も看病疲れで精神的・肉体的に追い込まれることがあります。長年看病してきた人は、何とか配偶者を支えようと一人で抱え込んでしまい、自身も精神的に苦しむケースが少なくありません。また、配偶者の精神病を理由とする離婚は立証が難しく、場合によっては成年後見人を付ける必要があるなど手続きも煩雑です。
弁護士に相談すれば、複雑な手続きを全て任せられるため、精神的負担を軽減できます。また、どのような方策を講じれば離婚が認められやすくなるのか、具体的なアドバイスも得られるでしょう。精神病の配偶者との離婚で悩んでいる人は、ぜひ弁護士に相談することをお勧めします。
9. うつ病で離婚に関するよくある質問
配偶者のDVやモラハラが原因でうつ病になったことを立証できれば、慰謝料請求が認められる可能性があります。
配偶者が離婚を希望していることから、実際にはうつ病以外の理由で夫婦関係がうまくいっていない可能性も考えられます。修復を望むのであれば、配偶者の体調を考慮しながら会話を試みることや、具合が悪そうであれば少し様子を見ることも対応として考えられます。
配偶者が婚前に精神疾患により入院していたことを隠して婚姻した事例において、詐欺による婚姻取り消しを認めた裁判例もあります(東京地判昭和7年2月26日)。しかし、この裁判例には批判もあり、かなり昔の裁判例であるため、妥当性は疑問視されています。
基本的には過去にうつ病を患っていたことだけを理由に、詐欺による婚姻取り消しや離婚が成立する可能性は低いです。離婚が認められる可能性があるのは、婚姻後にうつ病が再発し、婚姻共同生活が不可能になったような場合などに限られると考えられます(青山道夫編『新版 注釈民法(21)親族(1)』有斐閣2004年p329,330)
10. まとめ 配偶者のうつ病で離婚を検討した場合は一人で悩まず弁護士に相談を
配偶者がうつ病や精神病になると、支える家族も精神的、肉体的、金銭的に追い込まれることがあります。自分自身も精神的に疲弊すると、共倒れになるリスクが高まります。
離婚手続きは通常の離婚よりも複雑で、精神的な負担も大きくなります。弁護士に依頼すれば、煩雑な手続きをすべて任せることができ、負担を一人で背負う必要がなくなります。うつ病や精神病を理由とした離婚で悩んでいる人は、ぜひ弁護士に相談してください。心強い味方になってくれるでしょう。
(記事は2025年8月1日時点の情報に基づいています)