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1. 精神的DVとは|言葉や態度によって心を傷つける暴力
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2. 精神的DVにあたる行為のチェックリスト
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3. 精神的DVをする人の特徴
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4. 精神的DVを受けたら離婚できる?
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4-1. 夫婦が合意すれば離婚できる
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4-2. 合意が得られなかった場合、裁判で認められたら離婚できる
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5. 精神的DVを理由に慰謝料を請求できる?
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5-1. 慰謝料を請求できる精神的DVの内容や程度
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5-2. 慰謝料額の目安|20万〜200万円が相場
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6. 精神的DVを立証するための証拠例
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7. 配偶者の精神的DVに悩んでいる場合の相談先
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8. 配偶者の精神的DVがひどい場合の対処法
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8-1. 民間シェルターなどの保護施設に避難する
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8-2. 裁判所に保護命令を申し立てる
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9. 精神的DVに関してよくある質問
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10. まとめ 精神的DVに苦しんでいるのなら弁護士の助けを借りて
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1. 精神的DVとは|言葉や態度によって心を傷つける暴力
DV(ドメスティック・バイオレンス、家庭内暴力)とは、配偶者などから振るわれる暴力のことです。その中でも、精神的DVとは、心ない言動などにより、相手の心を傷つける行為、いわば言葉や態度による暴力を指します。
精神的DVを含む家庭内暴力は離婚の要因にもなります。また、精神的DVによって、うつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)などの重大な精神疾患が引き起こされた場合は、傷害罪にあたる可能性もあります。
2. 精神的DVにあたる行為のチェックリスト
精神的DVは物理的な暴力ではないものの、その言動により配偶者やパートナーの心を大きく傷つけます。「人格を否定することを言う」「ささいなことで嫌味を言ったり長時間説教をしたりする」「一方的に大声で怒鳴る」といった行為が該当します。
心当たりがある場合、以下の「精神的DVにあたる行為のチェックリスト」を確認しましょう。チェックが多いケースでは、弁護士などへの相談も検討すべきです。
3. 精神的DVをする人の特徴
筆者が弁護士として受ける離婚や夫婦関係の相談で最も多いのは、実は精神的DVです。多くの相談を受けていると、精神的DVをする人には、いくつか特徴があることに気づきます。すべて当てはまるわけではないですが、以下のような特徴がみられます。
嫉妬深く束縛が激しい
支配欲が強く、自分の思いどおりに相手をコントロールしたがる
自分に自信がない
世間体を気にする
鬱憤(うっぷん)を溜めこみやすい
女性からの相談が多いものの、男性が妻からの精神的DVで悩んでいるケースもあります。配偶者やパートナーの特徴をあらためて見つめることで、精神的DVを受けているかどうかを自覚できる場合もあるかもしれません。

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4. 精神的DVを受けたら離婚できる?
精神的DVを受けたことを理由に離婚できるかどうかは条件次第です。
4-1. 夫婦が合意すれば離婚できる
まず、夫婦が合意すれば、離婚できます。夫婦の話し合いによる協議離婚、あるいは家庭裁判所を介する調停離婚については、お互いに合意すれば、どんな理由であっても離婚できます。従って、精神的DVが理由であっても何ら問題はありません。
ただし、精神的DVの場合はすぐに合意に至るケースは多くありません。
筆者は弁護士として数多くの精神的DVによる離婚を扱ってきましたが、精神的DVをしている人には「自分が悪いという」自覚がなく、「なぜ離婚しなければならないのか」と離婚を拒否するケースが大半です。少なくとも協議離婚が成立することは非常にまれです。また、支配欲が強いため、支配する対象を失いたくないがゆえに離婚を拒んでいると考えられるケースもあります。
4-2. 合意が得られなかった場合、裁判で認められたら離婚できる
相手が離婚を拒否する場合は、離婚訴訟で法定離婚事由(民法770条1項)を立証し、離婚判決を得る必要があります。精神的DVの場合は、その言動が「婚姻を継続し難い重大な事由」(同条同項4号)にあたると認められれば、裁判で離婚できます。
「婚姻を継続し難い重大な事由」として裁判で認められるには、どのような精神的DVを受けたのか立証した上で、それによって「夫婦の結婚生活が破綻し、回復する見込みがない」状況にあることを証明しなければなりません。
通常の夫婦げんかの範囲内にとどまる程度では「婚姻を継続し難い重大な事由」とは認められず、その場合、離婚は難しいと言わざるを得ません。
5. 精神的DVを理由に慰謝料を請求できる?
精神的DVが不法行為にあたると認定されれば、慰謝料の請求が認められます。ただし、どのような精神的DVを受けたのかについて立証しなければなりません。
5-1. 慰謝料を請求できる精神的DVの内容や程度
精神的DVの回数が極めて少ない場合、通常の夫婦げんかにとどまっているとみなされ、慰謝料は認められません。一方、「長期にわたり無視をする」「何度も物を投げたりわざと大きな音を立てたりする」といった精神的DVがある程度継続的、ないし頻繁に行われている場合は、慰謝料が認められる可能性があります。
また、被害を受けている配偶者が精神的DVによりうつ病や適応障害などの精神疾患を患えば、重大な結果が発生したとして慰謝料が認められやすくなります。
つまり、慰謝料を得るためには、被害者が単に精神的苦痛を感じているだけでは十分ではありません。客観的にも精神的苦痛を受けるのが自然だと思われる程度であることが必要で、精神科や心療内科による診断書が重要や役割を果たします。
5-2. 慰謝料額の目安|20万〜200万円が相場
精神的DVによる慰謝料は、20万円から200万円が目安です。金額に大きな差があるのは、精神的DVの程度、期間、回数のほか、精神疾患になっているかなどの結果の重大性、離婚の原因としての重要性などが考慮されるためです。
6. 精神的DVを立証するための証拠例
離婚や慰謝料を裁判で認めてもらうには、どのような精神的DVを受けたのかを立証する必要があり、その証拠が不可欠です。精神的DVを実証する裏づけとしては主に以下のようなものがあります。
【録音や録画】
客観的な証拠なので、有力な証拠となります。ただし、録音や録画はタイミングが難しいため、証拠を取れる場面はそれほど多くはありません。また、録音をしていることが配偶者にばれるリスクもあります。
【日記やメモ】
被害者が作成したものとはいえ、日記やメモは内容によっては十分証拠となります。日付を書き、受けた言葉や態度について、できる限り詳細に内容を記載しておくことが重要です。
【警察や相談機関への相談記録】
警察は警察相談専用電話 「#9110」番で、DVなどの相談を受け付けています。交番や警察署、あるいは専用電話などで精神的DVについて相談した際には、その相談履歴が証拠となる場合があります。
【友人や家族への相談記録】
友人や家族への相談した際も、日記や録音などで内容を残しておくのが望ましいです。裁判では友人や家族の証言が証拠となる場合もあります。できるだけ多くの第三者に、できるだけ多く相談しておくに越したことはありません。
【子どもの証言】
子どもの年齢が高く、協力を得られる場合は、陳述書を作成してもらったり、裁判で証人になってもらったりすることもあります。
【診断書】
配偶者からの精神的DVによる精神疾患と言い切れる診断は少ないものの、精神的苦痛がひどい場合は、すぐに精神科や心療内科を受診してください。うつ病やPTSDといった精神疾患にかかっていたら、その診断書が証拠となります。
筆者の経験では、録画や録音などの証拠がなくても、詳細な日記、本人による供述、子どもの陳述書のみで、精神的DVが認定され、離婚と慰謝料が認められたケースがあります。また、日記がなくても、本人による供述と子どもの証言のみや、本人の供述のみで裁判離婚が認められた事例もあります。これらの判決は、精神的DVをしている配偶者への尋問によって、裁判官は「この人はひどい精神的DVをしている」という心証を得たためと思われます。
7. 配偶者の精神的DVに悩んでいる場合の相談先
精神的DVの被害者は、自分でも気づかないうちに感覚が麻痺してしまったり、自分が悪いと思い込んでしまったりしがちです。そのため、早い段階で、以下のような相談先に相談をすることお勧めします。証拠の確保という点でも、公的な機関に相談する意義は小さくありません。
【女性相談支援センター】
法律に基づき、各都道府県に配置されています。配偶者からの暴力の被害を受けた女性などからのさまざまな相談に応じています。
【配偶者暴力相談支援センター】
女性相談支援センターが同様の機能を果たしているところもあります。その他、男女共同参画センターや福祉事務所が指定されているところもあります。
【DV相談+(プラス)】
「DV相談+(プラス)」は内閣府が運営する相談窓口です。電話(0120-279-889)、メール、チャットでの相談が可能です。
【警察】
精神的DVでも、物を投げる、近所に聞こえるほどの大声を繰り返す、脅迫に該当するなど程度がひどい場合は、警察に相談するとよいでしょう。
【弁護士】
精神的DVを理由に離婚や慰謝料請求を検討している際には、弁護士に相談するとよいでしょう。どのような証拠が必要なのかアドバイスしてもらえます。また正式に依頼すれば、あなたの代わりに、相手と交渉してくれるので、精神的な負担が大きく軽減されます。適切な離婚条件が得られる可能性も高まり、離婚調停や離婚裁判になった場合でも一貫してサポートしてくれます。

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8. 配偶者の精神的DVがひどい場合の対処法
精神的DVがひどい場合は、逃げ道を活用したり、保護を受けたりする選択肢も検討しましょう。
8-1. 民間シェルターなどの保護施設に避難する
シェルターは、主にDVの被害に遭っている際に一時的に避難できる場所です。公的シェルターは要件が厳しいため精神的DVではなかなか受け付けてもらえないものの、民間シェルターは柔軟に相談に応じてくれるところもあります。利用を検討する場合は、公的機関の相談窓口で紹介してもらうか、各民間シェルターのホームページから問い合わせをします。
8-2. 裁判所に保護命令を申し立てる
保護命令制度とは、配偶者からの暴力などを受けている場合に利用できる措置です。裁判所に申し立てることにより、裁判所が加害者に対して被害者への接触禁止などを命じます。2024年4月に法律が改正され、身体的暴力だけでなく、脅迫も対象になりました。
ただし、保護命令は、特定の人の行動を制限する強力な措置であるため、精神的DVの場合は、身体的暴力に準ずるような脅迫が必要であり、その立証は簡単ではありません。保護命令の申立てをしたい場合は、DVに精通している弁護士に相談したほうがよいでしょう。
9. 精神的DVに関してよくある質問
物を投げるなど身体への危害が生じるおそれがある、近所に聞こえるほどの大声を上げ続ける、脅迫を受けているといった場合には、警察に対応してもらえることがあります。状況によっては、被害の拡大を防止するために必要な措置を講じてもらえます。警察は警察相談専用電話 「#9110」番で、DV相談を受け付けています。
配偶者やパートナーからの言動で心が傷ついている際は、精神科や心療内科を受診したり、臨床心理士のカウンセリングを受けたりするなどしてください。精神的DVを長期間受けている場合は深刻な状態になっていることもあるため、早めの受診をお勧めします。
内閣府の男女共同参画局も述べているとおり、DVは「配偶者や恋人など親密な関係にある、またはあった者から振るわれる暴力」という意味で使用されることが多いです。子どもに対する殴る蹴るといった暴力や、言葉による脅しや無視といった行為は、精神的DVというより「児童虐待」にあたります。児童虐待が疑われる場合は、「児童相談所虐待対応ダイヤル」(電話番号:189)などに相談しましょう。
10. まとめ 精神的DVに苦しんでいるのなら弁護士の助けを借りて
精神的DVは、その言動が「婚姻を継続し難い重大な事由」(同条同項4号)にあたると認められれば、裁判で離婚できます。
ただし、筆者は弁護士として精神的DVを理由に離婚を考えている相談者と数多く向き合ってきましたが、明らかに精神的DVを受けているのに、感覚が麻痺してそれが精神的DVだと気づいていない、責められ続けているうちに「自分が悪い」「自分が気をつければよい」と思い込んでしまう「被害者」が少なくありません。自分が被害者かどうかを確認するために、ぜひ本記事のチェックリストを活用してください。
精神的DVは、不貞や身体的暴力と異なり、加害者側が悪いことをしているという認識がない場合が多く、また、その行為を実証する裏づけが必要となるため、離婚するまでに労力と時間がかかるケースが多いです。
精神的DVを受けているのではないか、離婚したほうがよいのではないか、と思ったときは、早めに弁護士に相談することをお勧めします。弁護士が証拠集めをはじめ、しかるべき対策をサポートしてくれます。
(記事は2025年6月1日時点の情報に基づいています)