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1. 接近禁止命令とは
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1-1. 【2024年改正】精神的・経済的DVにも対応
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1-2. 接近禁止命令の有効期間
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2. 接近禁止命令の効果
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2-1. 禁止できる行為
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3. 接近禁止命令と併せて申立てておくべき保護命令
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3-1. ①被害者への電話等禁止命令
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3-2. ②子への接近禁止命令
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3-3. ③子への電話等禁止命令
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3-4. ④親族等への接近禁止命令
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3-5. ⑤退去等命令
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4. 相手が接近禁止命令を破った場合
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5. 接近禁止命令が認められる条件
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5-1. 【2024年改正】「重大な危害」として認められるための要件
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6. 接近禁止命令の申立てのステップ
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6-1. ①DVセンターか警察に相談
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6-2. ②接近禁止命令の申立て
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6-3. ③口頭弁論・審問
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6-4. ④接近禁止命令の発令
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6-5. ⑤相手や警察、DVセンターへの告知
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7. 接近禁止命令の申立てに必要な費用
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7-1. 自分で申立てを行う場合の費用
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7-2. 弁護士に依頼する場合の費用
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8. 接近禁止命令の申立てについての注意点
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8-1. 発令されるためには証拠が必要となる
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8-2. 相手に住所を知られないようにする
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8-3. 相手が命令を必ず守るとは限らない
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9. 接近禁止命令でよくある質問
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10. まとめ 接近禁止命令の申立てを考えている場合には弁護士へ相談を
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1. 接近禁止命令とは
接近禁止命令とは、身体的暴力や生命・身体に対する脅迫をしてくる配偶者の接近を禁止する裁判所の命令 のことを言います。接近禁止命令は、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(以下「DV防止法」といいます。)第10条で定められている保護命令の一つです。
1-1. 【2024年改正】精神的・経済的DVにも対応
2024年4月1日に改正DV防止法が施行され、被害者への接近禁止命令の有効期間が6か月から1年に伸長されました。
また、接近禁止命令等の申立てができる被害者は、改正DV防止法の施行前は、身体に対する暴力(実際に殴る・蹴るなどの暴力)を受けた人や生命・身体に対する脅迫(「殺すぞ」などといった生命・身体に対する害悪の告知による脅迫)を受けた人に限定されてきましたが、改正DV防止法では、申し立てができる被害者に「自由、名誉、財産に対する脅迫を受けた者」が追加 されました。
接見禁止命令の対象となる「脅迫」に該当するか否かは、個別の事案における証拠に基づいて裁判所が判断しますが、例えば、以下のような行為が対象となり得ます。
・外出しようとすると怒鳴る(自由に対する脅迫)
・性的な画像をネットに拡散するなどと告げる(名誉に対する脅迫)
・キャッシュカードなどを取り上げるなどと告げる(財産に対する脅迫)
また、改正DV防止法では、保護命令の発令要件が改正前の「生命・身体に対する重大な危害を受けるおそれが大きいとき」から、改正後は「生命・心身に対する重大な危害を受けるおそれが大きいとき」に拡大され、「大声で怒鳴られる」、「無視される」といったモラルハラスメントなどの精神的な攻撃も対象になりました。
1-2. 接近禁止命令の有効期間
上記のとおり、接近禁止命令の有効期間は、1年間ですが、期間を延長したいときは、再度の申し立てを行うことができます。ただし、申立ての度に、上記の発令要件を満たす必要があります。
2. 接近禁止命令の効果
接近禁止命令が発令されると、地方裁判所から警察やDVセンター(配偶者暴力相談支援センター)に通知されますので、関係機関からの迅速な対応を期待することができます。
また、接近禁止命令に違反した場合には罰則の対象となりますので、相手方へのけん制ないし抑止力になります。
2-1. 禁止できる行為
接近禁止命令は、被害者の周辺のつきまといや、被害者の住宅・勤務先・常在している周辺へのうろつき行為を禁止 することができます。
一方で、被害者に対するメールや電話での接触や、被害者以外の人、例えば被害者の子どもへの接近や実家への押しかけについては禁止できません。そのような行為の禁止を求める場合には、次項で説明する別の保護命令を追加する必要があります。
3. 接近禁止命令と併せて申立てておくべき保護命令
被害者への接近禁止命令が発せられ、または発せられる状況にあることを前提に、以下の4つの命令を申し立てることも法律上可能です。
3-1. ①被害者への電話等禁止命令
被害者への電話等禁止命令は、DV防止法の改正により禁止対象となる行為が拡大されました。同命令の趣旨は、恐怖心等から被害者が加害者の元に戻らざるを得なくなることや、要求に応じて接触せざるを得なくなり、生命・身体への危険が高まることを防ぐことです。
被害者に対する電話等禁止命令の対象となる行為は、面会を要求すること、無言電話をかけること、緊急時以外に連続して架電またはメールを送信すること 、などです(10条2項)。
これらに加え、改正DV防止法では、緊急時以外に連続して文書の送付・SMS等の送信を行うこと、緊急時以外に午後10時から午前6時までの間に(すなわち深夜から早朝にかけて)SMS等の送信を行うこと、被害者の承諾を得ないでGPSを用いて位置情報を取得すること、卑猥な画像・動画等を送信すること などが新たに禁止行為に追加されました。
3-2. ②子への接近禁止命令
子への接近禁止命令とは、被害者と同居する未成年の子の身辺につきまとったり、住まい・学校等の付近をうろついたりすることを禁止 する命令をいいます。
被害者が、子どものことに関して加害者と面会を余儀なくされることを防止し、被害者に対する接近禁止命令の実効性を確保する趣旨です。
3-3. ③子への電話等禁止命令
また、改正DV防止法では、被害者と同居する未成年の子への電話等禁止命令が新設 されました(10条3項)。この命令も、子に対する接近禁止命令と同趣旨です。
例えば、子どもへの電話等により、「戻らないといつまでも嫌がらせをされるのではないか」「もっと怖い目に遭わされるのではないか」などといった恐怖心等から、被害者が配偶者のもとへ戻らざるを得なくなることや、子どもが恐怖を抱くこと等によりその子が配偶者のもとに戻った場合に、被害者自ら配偶者に会いに行かざるを得なくなることを禁止します。
3-4. ④親族等への接近禁止命令
親族等への接近禁止命令とは、被害者の親族の身辺につきまとい、またはその通常所在する場所の付近を徘徊してはならないことを命ずる 保護命令をいいます。
相手方が被害者の親族等の住居に押し掛けて暴れたりすることなどから、被害者がその親族等に関して相手方と面会せざるを得ない事態が生じるおそれがある場合に、被害者の生命または心身に対する危険を防止するために発令されます。
3-5. ⑤退去等命令
退去等命令は、被害者と共に生活の本拠とする住居からの退去等を命じ、その住まいの付近をうろつくことを禁止するものです。
同命令の期間中に、被害者が転居のための引越し作業等をできるようにする趣旨です。
退去等命令の期間は2ヶ月ですが、改正DV防止法では、同居していた建物が、被害者が単独で所有または貸借するものである場合については、被害者の申出により退去等命令期間を6ヶ月とする特例が新設されました(DV防止法10条の2)。

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4. 相手が接近禁止命令を破った場合
接近禁止命令に違反した場合には、2年以下の懲役 (刑法等の改正により、2025年6月からは「拘禁刑」)または200万円以下の罰金が科されます(DV防止法29条)。接近禁止命令以外の保護命令に違反した場合も同じです。改正前は、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」でしたが、改正により厳罰化されています。こうした刑罰を設けることで、保護命令の内容がより実現されやすいようにしています。
5. 接近禁止命令が認められる条件
接近禁止命令が認められるためには、以下のような厳格な要件を満たす必要があります。
①申立人と相手方が、婚姻関係、事実婚関係、同性関係のいずれかにあること
② ①の関係継続中に相手方による暴力行為または脅迫行為が行われたこと
③ 将来的に身体的暴力を振るわれて生命や心身に重大な危害を受けるおそれがあること
接近禁止命令の対象となると、「配偶者」は男性、女性の別を問いません。また、離婚後も引き続き暴力を受ける場合も対象となります。ただし、同棲をしていない恋人関係の場合には①の要件を満たさないため、接近禁止命令の対象にはなりません。
同棲をする恋人関係の場合は、恋人関係を解消した後も引き続き暴力を受ける場合、接近禁止命令の対象となります。一方、恋人関係の継続中に暴力を受けておらず、関係解消後に暴力が開始されたような場合には接近禁止命令の対象にはなりません。
なお、保護命令について、同性カップルも対象となった例があります。
5-1. 【2024年改正】「重大な危害」として認められるための要件
接近禁止命令の要件である「心身に重大な危害」とは、少なくとも通院加療を要する程度の危害をいいます。このうち、心(精神)への重大な危害としては、うつ病、心的外傷後ストレス(PTSD)、適応障害、不安障害、身体化障害(以下「うつ病等」という。)が考えられます。
具体的には以下を満たすような状況では、「心身に重大な危害を受けるおそれが大きい」と考えられるでしょう。
・配偶者等からの暴力が原因で、通院加療を要する程度のうつ病等の症状が出ている
・配偶者等からさらなる身体に対する暴力等を受けるおそれがある
ただし、接近禁止命令等の要件において、さらなる身体に対する暴力等により心身に重大な危害を受けるおそれが大きいことを求めていますので、「被害者の気分がめいっている場合」であっても、うつ病等で通院加療を要するものと認められないときは、接近禁止命令等が発令される場合には該当しないものと考えられます。
6. 接近禁止命令の申立てのステップ
次に接近禁止命令の申立ての流れについて、下記のイラストに沿って説明していきます。
6-1. ①DVセンターか警察に相談
接見禁止命令の申立てをするにあたり、警察または配偶者暴力相談支援センター(DVセンター)に事前に相談した事実が必要になります。まずは警察や各県に設置されているDVセンターに相談しましょう。
相談実績がない場合には、接近禁止命令の申立てをする前提として、公証役場に行って「宣誓供述書」を作成する必要があります。
6-2. ②接近禁止命令の申立て
その後、裁判所に接近禁止命令の申立てを行います。申立てができるのは、配偶者から身体的暴力または生命等に対する脅迫を受けた被害者本人のみで、親族や友人などが代理で申し立てることはできません。
申立てには、以下のような書類が必要になります。
申立書2部
戸籍謄本・住民票(申立人と相手方の関係を証明する書類)
生命・心身に対する暴力の証拠(診断書、録音データ、第三者の陳述書等)
6-3. ③口頭弁論・審問
申立ての受理後、その当日か直近の日に申立人本人に面談が行われます。申立人の面談から1週間程度で相手方が呼ばれ、暴力や脅迫の審議について相手方の意見が聴取されます。いわゆる口頭弁論や審問の手続きです。
裁判所は、それぞれの意見を聞いたうえで、接近禁止命令を発令するか否かを判断します。ただし、生命や身体に危険がある場合など緊急を要する場合には、口頭弁論や審問を行わずに接近禁止命令を発令させることもあります。
6-4. ④接近禁止命令の発令
接近禁止命令は、基本的に口頭弁論・審問の際に直接言い渡され、効力が発生します。申立てから発令までの期間は1週間程度です。
6-5. ⑤相手や警察、DVセンターへの告知
相手方が口頭弁論・審問に来なかった場合は、相手方宅に決定書が送達されます。仮に相手方が受け取りを拒否した場合でも、送達したものとみなされて接近禁止命令の効力は発生します。
7. 接近禁止命令の申立てに必要な費用
接近禁止命令の申し立てを行うのに必要な費用としては、主に、裁判所に支払う手数料と、弁護士に支払う報酬がありますが、弁護士に依頼せず、自分で手続きすることも可能です。
7-1. 自分で申立てを行う場合の費用
接近禁止命令の申立てを自分で行う場合は、収入印紙1000円分と、裁判所からの連絡用に予納郵券(金額は裁判所により異なります)が必要になります。
7-2. 弁護士に依頼する場合の費用
接近禁止命令の申立てを弁護士に依頼する場合には、上記の実費に加え、税込みで22万円~33万円 程度が相場となります。
弁護士に依頼するメリットとしては、法的な観点から必要な証拠についてのアドバイスを受けられるので、接近禁止命令が発令される可能性を高めることができますし、手続きに精通しているため迅速に申し立てることが期待できます。

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8. 接近禁止命令の申立てについての注意点
接近禁止命令の申立てをするにあたっての注意点を紹介します。これを理解していないと、申立てが認められなかったり、相手方に自分の住所が知られてしまったりといったリスクがあります。
8-1. 発令されるためには証拠が必要となる
接近禁止命令が発令されるためには、暴力等を受けたことや将来的に受ける可能性が高いことなどについて、客観的な証拠が必要 となります。
具体的には、医師の診断書や暴力で負った傷の写真やデータ、脅迫やモラルハラスメントを受けた際の録音データ、経緯や被害内容を記載した本人や第三者の陳述書等が証拠となり得ます。
ただし、申立ての数か月前の証拠しかないときは、将来、生命や心身に重大な危害をうけるおそれが大きくなるとはいえないと判断され、申立てが却下される可能性もあります。
8-2. 相手に住所を知られないようにする
接近禁止命令の申立書は、相手方にも送付されますので、避難先である現在の住所を記載してしまうと、相手方に居所が知られる ことになってしまいます。
したがって、申立書には、避難先の現在の住所ではなく、住民票上の住所や元々相手方と一緒に住んでいた住所を記載するべきです。
また、提出した証拠は相手方も閲覧できるので、現在の住所が特定できそうな部分については黒塗りにして提出するようにしましょう。
8-3. 相手が命令を必ず守るとは限らない
接近禁止命令が発令された場合でも、相手方は物理的な強制を受けるわけではありません。そのため、相手方が接近禁止命令を守らない可能性もあります。
したがって、接近禁止命令が出ても安心せず、相手方の行動範囲に近づかないようにしましょう。
また、接近禁止命令が発令されると、裁判所から管轄の警察本部長または警視総監まで連絡がいきますので、身の危険を感じたらすぐに警察に連絡するようにしましょう。
9. 接近禁止命令でよくある質問
10. まとめ 接近禁止命令の申立てを考えている場合には弁護士へ相談を
接近禁止命令は、同居する配偶者や恋人からの肉体的・精神的暴力から、被害者を守るためにある法的な措置です。接近禁止命令が命令されると、加害者は被害者に対して接触したり、連絡を取ったりすることができなくなります。これによって被害者は安心して生活をすることができるでしょう。
接近禁止命令は、自分でも申立ての手続きが出来ますが、弁護士に依頼することが可能です。自分で手続きするより、弁護士に依頼した方が命令が認められる可能性が高くなりますので、検討するとよいでしょう。
(記事は2024年12月1日時点の情報に基づいています)