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1. 被害届とは
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1-1. 被害届提出による効果
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1-2. 被害届と告訴・告発との違い
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2. DV(家庭内暴力)で被害届を提出するメリット
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2-1. ①DVの抑止力になる
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2-2. ②加害者に処罰を与えられる可能性がある
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2-3. ③示談交渉がまとまりやすくなる可能性がある
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2-4. ④避難の準備を整える猶予ができる
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2-5. 被害届を提出することでスムーズに解決する可能性がある
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3. DVの被害届を提出するデメリット
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3-1. ①逆恨みされる恐れがある
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3-2. ②警察の事情聴取に時間がかかる
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3-3. ③今後の生活費の問題
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3-4. ④逮捕による実名報道で二次被害を受ける可能性がある
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3-5. ⑤嫌疑不十分等の結果となった場合に反撃をしてくる可能性がある
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4. 被害届の出し方や出した後の流れ
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4-1. ①DVの証拠を集める
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4-2. ②被害届を提出する
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4-3. ③加害者が逮捕される
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4-4. ④加害者が起訴された場合は刑事裁判
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4-5. ⑤判決
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5. DVの被害届を提出する際の注意点
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5-1. ①被害届はできるだけ早く提出する
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5-2. ②被害届は詳細に書く
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5-3. ③できればDV被害の証拠も一緒に提出する
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5-4. ④被害届が受理されない可能性もある
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5-5. ⑤原則として本人が提出
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6. DVの被害届を提出する場合は弁護士に相談を
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7. DVの被害届でよくある質問
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8. まとめ DVの被害届で不安な場合は弁護士に相談しよう
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1. 被害届とは
被害届とは、犯罪の被害に遭った人が、その被害を警察に届け出ることです。被害届を提出することによる効果や、よく聞く刑事告訴や告発との違いについても解説します。
1-1. 被害届提出による効果
被害届を提出したことで、犯罪が成立する可能性が高いと警察が判断すれば、捜査が開始されます。状況によって、加害者が逮捕されたり、逮捕に続き勾留されたりすることもあります。勾留とは、加害者が逃亡や証拠隠滅をする恐れがある場合に、一定期間警察署の留置場に身柄を拘束することです。さらに、悪質であると判断されれば、起訴されて裁判になることもあります。
1-2. 被害届と告訴・告発との違い
被害届のほか、告訴や告発といった言葉も聞くことがありますが、違いは何でしょうか。被害届と告訴や告発について、わかりやすくまとめたのが下の表です。
被害届 | 告訴 | 告発 | |
---|---|---|---|
提出者 | 被害者 | 被害者等の告訴権者 | 誰でも |
提出先 | 警察 | 警察、検察 | 警察、検察 |
内容 | 犯罪事実 | 犯罪事実、処罰意思 | 犯罪事実、処罰意思 |
受理後の 処理 | 犯罪の疑いがあれば 捜査が開始 | 警察から検察への送付義務、 | 警察から検察への送付義務、 |
どれも、犯罪があったことを捜査機関に伝えるという点は共通です。このうち、被害届と告訴は被害者など限られた人から出すもので、告発は誰でも出せます。
被害届には、加害者を処罰してほしいという意思までは必須でない一方、告訴と告発は、処罰を求める意思を示すものです。
どれも警察署に提出できますが、告訴と告発は、検察庁に直接提出することもできます。告訴や告発を受理したなら、捜査機関は必ず捜査して、検察官が起訴・不起訴の判断を出さなければなりません。一方、被害届はあくまでも被害の申告にとどまるため、捜査するかどうかは警察の判断次第となります。
2. DV(家庭内暴力)で被害届を提出するメリット
DVの被害に遭っている人にとって、被害届の提出は勇気が必要です。しかし、被害届を提出することで次のメリットがあります。
DVの抑止力になる
加害者に処罰を与えられる可能性がある
示談交渉がまとまりやすくなる可能性がある
避難の準備を整える猶予ができる
被害届を提出することでスムーズに解決する可能性がある
それぞれについて詳しく解説します。
2-1. ①DVの抑止力になる
DVで被害届を提出すれば、警察にDVの事実が知られることになります。加害者も逮捕・勾留や起訴に至る可能性があることを認識するため、再びDVをしないよう、一定の抑止力にはなります。身柄拘束まで至らずとも、警察から呼び出しを受けて事情聴取をされたり、警告されたりするため、効果はあるでしょう。
2-2. ②加害者に処罰を与えられる可能性がある
被害届を受けて捜査が開始され、加害者が刑事制裁を受けることになれば、DVの重大性を加害者が認識する可能性があります。起訴されて有罪となった場合、次のような刑罰が科されることが考えられます。
【傷害罪】
・暴力によりケガをさせた場合に成立
・傷害罪は15年以下の懲役または50万円以下の罰金
【暴行罪】
・ケガをしなかったものの暴力をふるった場合に成立
・暴行罪は2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金又は拘留(1日以上30日未満の拘束)もしくは科料(1000円以上1万円未満の罰金)
有罪となれば、執行猶予がついたとしても前科となります。
2-3. ③示談交渉がまとまりやすくなる可能性がある
加害者としても、逮捕・勾留や起訴・有罪判決、それによる失業などの社会的不利益は望まないでしょう。そのため、被害届の取下げなどと引き換えに慰謝料その他の離婚給付を払ってもらうなどの示談交渉が成り立ちやすくなります。離婚後も被害者に接近しないこと、子どもがいる場合は面会交流にも制限をつけるなども、条件に含められる可能性があります。
一方、示談をして被害届の取下げをするなら、加害者を処罰してもらうことは原則として期待できません。刑事手続きでは、示談が成立することで、当事者の問題は解決したと評価され、加害者への処分は軽くなる可能性が高いためです。後になってもう一度被害申告をしようとしても、受け付けてはもらえないでしょう。有利な条件と、加害者の処罰と、どちらを望むのかよく考えて選択することが必要です。
2-4. ④避難の準備を整える猶予ができる
加害者が身柄拘束されるなら、その間に転居先を見つけて荷物をまとめて引っ越しやすくなります。逮捕で最大3日間、勾留されるとプラス10~20日間、場合によっては起訴後も身柄拘束がなされる可能性があります。
2-5. 被害届を提出することでスムーズに解決する可能性がある
DVへの対処法は、警察に訴えて刑事手続き上で解決する方法と、民法にしたがって民事手続きで解決する方法があります。刑事手続きも加わることによって、実現困難な問題に対してスピーディーな解決が期待できるでしょう。
私が所属する法律事務所で対応した中でも、身柄拘束中の示談だったからこそ成立した印象的な事例があります。加害者は自営業者で離婚後の養育費の支払いが不安でしたが、示談の中で、加害者の親が養育費の連帯保証人に入ってくれました。他にも、別居後も執拗にストーカー的な行為に及び、あの手この手で裁判手続きを遅らせていた加害者について、警察の捜査や身柄拘束に至ったことでようやく示談や裁判による解決ができたケースもあります。
また、警察へのDV相談により、住民票の秘匿措置などの行政面でのサポート、保護命令の申し立てなどにもつながります。被害届という形を取るかどうかは別として、DVを警察に相談することは有益です。警察への相談記録が、後日、証拠として一定の効力を持つこともあります。
3. DVの被害届を提出するデメリット
3-1. ①逆恨みされる恐れがある
被害届を出そうか被害者が迷う理由の一つは、何と言っても逆恨みが怖いことです。被害届を提出することで、加害者側も身柄拘束によって一時的に反省したり、被害者側の避難や示談が容易になったりするメリットがあります。
しかし、その後に恨みが募り「ある日復讐しに来るのではないか」という恐怖が頭から離れないこともあるでしょう。確かにそうしたリスクは否定しきれませんが、被害届を出さなければ加害者から恨まれない、とも言えません。離婚だけで恨んだりストーカー化したりする加害者は大勢います。離婚後にも警察のお世話になる可能性に備えて、離婚前にもDV被害を警察に伝えておく、という考え方もあります。
3-2. ②警察の事情聴取に時間がかかる
被害届により捜査が開始されると、被害者側も、警察や検察の事情聴取に何度か応じる必要が生じます。その度に数時間は取られますので、仕事を休んだり、子どもを見てくれる人を探したりと、余分な手間がかかると感じるかもしれません。
3-3. ③今後の生活費の問題
加害者が逮捕・勾留されたり起訴されたりすると、失業・左遷などにつながる可能性は大きいです。そうなると、特に子どもがいる場合は、養育費への影響が避けられません。
3-4. ④逮捕による実名報道で二次被害を受ける可能性がある
逮捕などの報道された場合、加害者である親の名前が公表されることで、子どもがいじめなどに遭うなどの副作用が懸念されることもあります。
実名報道については、明確な基準はありません。各メディアによって、重大な犯罪や社会的な関心が高い事件、そして公務員や大企業の従業員、医師・弁護士などの有資格者や著名人といった社会的地位が高い人の不祥事を報道する傾向にあります。子どもの名前が公表されることはありませんが、報道により近隣住民が知る可能性はあるかもしれません。
3-5. ⑤嫌疑不十分等の結果となった場合に反撃をしてくる可能性がある
被害届を提出し、捜査がなされたものの、嫌疑不十分(犯罪の証拠がない)などの結果に終わった場合、加害者側が「自分の正しさ(相手の間違い)が証明された」「DVがでっちあげだと証明された」と認識し、逆に名誉毀損などで慰謝料を請求してくるなども考えられます。
犯罪の証拠がなければ、刑事裁判で裁いてもらうことができません。ゆえに、被害届を提出する際は、証拠が十分にあるか、犯罪が成立するレベルかどうか、その後の自分や家族への影響などを慎重に検討することも大切です。

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4. 被害届の出し方や出した後の流れ
4-1. ①DVの証拠を集める
被害届を受理してもらうには、証拠が不可欠です。DVの現場の録画・録音、ケガや物が散乱したり壊れたりしている写真、ケガの診断書などが証拠となります。どのような経緯で暴力に至ったのかを記憶が鮮明なうちに書き出すことも有用です。激しいDVを受けている場合はすぐに110番通報してください。110番通報は、自分の身を守るだけでなく、警察が出動した記録にもなります。
4-2. ②被害届を提出する
被害届は、警察署で「被害届を出したい」と伝えれば、その場で警察官が話を聞いて作成してくれることが多いでしょう。110番通報したり、DV相談に赴いたりした時も、警察が被害届を出すかどうかと聞くときは、犯罪が成立するという感触を得ていることが考えられます。デメリットを考慮して問題なければ、前向きに検討してもよいでしょう。
なお、自分、または弁護士に依頼して作成したものを警察署に持参することも可能です。もし加害者に対して刑事罰を強く希望するなら、被害届ではなく捜査を行ってもらえる刑事告訴を検討する方法もあります。
4-3. ③加害者が逮捕される
DVの程度や頻度、加害者の対応、前科・前歴などによっては、加害者が逮捕される可能性があります。逮捕のみで釈放されることもあれば、事案の重大さ・深刻度・緊急性などによって、勾留が最長20日間続くこともあります。
4-4. ④加害者が起訴された場合は刑事裁判
加害者が起訴された場合、公判(裁判)で審理がなされて判決に至ります。起訴から1~2カ月後に初回の公判が開かれ、事実関係に大きな争いがなければ審理はその日に終了して、1カ月ほど後に判決が言い渡される流れとなることが多いです。
一方で捜査の結果、犯罪が成立しない(嫌疑なし)、または成立すると言うには証拠が不十分(嫌疑不十分)である場合、犯罪が成立するものの情状酌量の余地が大きく起訴までは必要ない(起訴猶予)と判断されれば、不起訴となり、裁判までは行われません。
犯罪が成立して起訴が必要だと判断されても、罰金または科料が相当である時は、略式起訴といって、公判までは開かれずに処理されるケースもあります。
4-5. ⑤判決
起訴された場合、犯罪の内容や、前科前歴、被害の程度などを考慮して刑事処分が決定します。
加害者に粗暴犯(暴力によって他人に損害を与えた犯罪者)の前科が多数あったり、DVによる被害が極めて重篤であったりする事情がなければ、執行猶予付き判決になることが多いと考えられます。例えば「懲役1年・執行猶予3年」などです。これは、再犯などせずに執行猶予期間(上記の例では3年)を過ごせば、刑務所に行かずに済むという意味です。逆に、執行猶予期間中に再犯に至れば、原則として、猶予されていた刑(上記の例では懲役1年)を再犯に対する刑に合わせて服することになります。
加害者の執行猶予期間中やその後、あるいは実刑(実際に刑務所に行くこと)になっても出所した後など、被害者の不安は尽きません。転居して住民票の秘匿措置などを利用しつつ、安全に気をつけて生活してください。
刑事手続きに関わらず、DVが原因で別れた後は、できれば転居後の職場や学校にも理解を得て個人情報の管理に特に注意してもらうほか、自分自身や子どもたちのSNSでの情報発信などにも注意が必要です。
5. DVの被害届を提出する際の注意点
DVの被害届を提出する場合、いくつか注意点があります。
被害届はできるだけ早く提出する
被害届は詳細に書く
できればDV被害の証拠も一緒に提出する
被害届が受理されない可能性もある
原則として本人が提出
特に証拠を確保して提出することが重要です。詳しく解説しますので、参考にしてください。
5-1. ①被害届はできるだけ早く提出する
被害届を提出するなら、できるだけ早く動くに越したことはありません。遅れるほど被害の証明が難しくなりますし、警察も緊急性や本気度に疑問を持つため、積極的に動いてもらいにくくなる可能性があります。踏ん切りがつかない人は、弁護士に相談してみるのも1つの方法です。
5-2. ②被害届は詳細に書く
被害届の内容は、具体的かつ正確である必要があります。一つひとつの暴力について、できる限り厳密な事実を伝えてください。
【いつ】
年月日、可能であれば時刻や時間帯まで。特定が困難である場合「~の支度をしていた最中だったので、午後○時頃だったはず」など、根拠を挙げて説明する
【どこで】
自宅、車内、店内、公共の場所といった区別に加え、自宅ならどの部屋だったか、その場に誰がいたかなどを含めて詳述する
【どのような経緯で】
口論の末なのか、一方的に攻撃されたのかなど
【何をされたか】
殴る・蹴る・首を絞めるなどの暴力の内容や、頭・腕・脚など暴力を受けた部位、何分間または何時間暴力が続いたか、その間にどのような発言がなされたか、など
【どのような結果が生じたか】
ケガ、物の破損、子どもへの影響、別居の有無など
【生じた結果に対する加害者の反応】
怪我の治療への協力や謝罪の有無など
具体的な内容があれば、警察も犯罪事実があったと判断する可能性があります。すぐに被害届が提出できない場合、日記やスマホのメモ、ケガの部位を撮影するなど記録を残すことが重要です。
5-3. ③できればDV被害の証拠も一緒に提出する
DVの被害届を提出する際や、起訴してもらうためには何より証拠が重要です。証拠がなければ、具体的な犯罪の事実を立証することができません。
上記②の点とも関連しますが、例えば次の証拠があれば、受けた被害を客観的に立証することができるでしょう。
・写真:暴力を受けた日時や場所、発生した被害を示す証拠になる
・診断書:ケガや後遺症の種類・重篤度などが分かる
・暴力の録画や録音:暴力が発生した経緯や、暴力行為の内容がわかる
110番通報で警察官が来れば、到着した際の現場の様子などを記録してくれます。DV直後に被害者が警察署に駆け込んだ場合も、言い分の記録や、ケガの写真を撮るなどしてくれるでしょう。ケガの程度によっては病院に連れて行ってくれることもあります。
5-4. ④被害届が受理されない可能性もある
証拠が足りずDVの事実が曖昧なときや、時間が経ちすぎているときなどは、残念ながら被害届を受け付けてもらえないことがあります。犯罪の被害に遭ったこと、犯罪の事実があったことを立証するためにも、証拠をしっかりと残すことが重要です。
5-5. ⑤原則として本人が提出
被害届は、一般的には被害者の話を警察が聞き取って作成されます。被害者でなければ、具体的な被害の程度や被害状況などはわからないため、被害者本人が警察に赴くようにしましょう。
6. DVの被害届を提出する場合は弁護士に相談を
被害届を提出すべきかどうか、受理してもらえそうか、被害届と告訴のどちらが適切なのかなど、自己判断だけでは難しいです。いざ提出した後は、刑事手続きがどのように進行する見込みか、示談交渉にどのように対応するかなど、さらに判断が複雑になります。そもそも加害者と被害者が直接の連絡や交渉をすること自体、避けたほうがよいでしょう。被害届を検討するほど深刻なDV事案では、その後の離婚手続きも含め、DV対応に熟達している弁護士に相談することが望ましいです。
無料の法律相談に対応している法律事務所もありますので、まずは弁護士に相談してから判断するのでも問題ありません。また、自分の身が危険であれば、迷わず警察に通報して身を守ってください。一人で対峙せず、専門家を頼るようにしてください。

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7. DVの被害届でよくある質問
傷害罪は10年、暴行罪は3年で公訴時効(刑事裁判ができなくなる時効)になります。なお、刑事処分とは別に、民法の不法行為として、損害賠償請求をすることも可能です。民事の損害賠償を請求できる時効は、生命・身体への被害に関しては5年とされています。
担当の警察に、取り下げたい旨を伝えに行きます。その場で取下書を記載することになるでしょう。いったん取り下げると、その後に被害届を再提出することは困難となるため、慎重に判断してください。
逮捕された場合、前科ではなく逮捕の前歴がつきます。前歴は公開されませんが、捜査機関内部の記録として残り、別の犯罪の嫌疑がかけられたときに参照されることがあります。起訴されて有罪判決を受けた場合は前科がつきます。
8. まとめ DVの被害届で不安な場合は弁護士に相談しよう
被害届は、警察に犯罪の被害を申告することです。捜査が開始されるきっかけにはなりますが、処分を約束するものではありませんし、受理されないこともあります。また、被害届の提出にはそれぞれ、メリットやデメリットがあります。
DVの被害に遭っている場合、恐怖から踏み出せないこともあるでしょう。不安な人は、弁護士に相談することをおすすめします。DVの被害届を提出すべきかどうか、相手がどの程度の処分を受けるのか、注意点や被害届提出に必要な証拠といった助言が受けられる可能性があります。一人で抱え込まず、弁護士を頼りましょう。
(記事は2025年6月1日時点の情報に基づいています)