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1. そもそも不倫慰謝料とは
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2. 相手が既婚者だと知らずに不倫した場合、慰謝料を支払う義務はある?
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2-1. 不倫相手が既婚者だと知らなかったら支払う必要はない
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2-2. 既婚者と知らなかったことに「過失」があれば支払う必要がある
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2-3. 不倫だと知らなかったことを証明する証拠
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2-4. 既婚者だと知っていた場合でも慰謝料の支払い義務がないケース
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3. 不倫相手が既婚者と知らなかったのに慰謝料を請求された際の対処法
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3-1. 請求内容と証拠の有無を確認する
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3-2. 相手との交際をすぐにやめる
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3-3. 不倫問題に強い弁護士に相談する
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4. 不倫慰謝料を支払う義務がある場合はどうなる?
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4-1. 不倫慰謝料の相場は数十万円~300万円程度
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4-2. 相手が独身と偽っていた場合は減額できる可能性が高い
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4-3. 慰謝料を支払う際に注意すること
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5. 不倫を知らなかったと主張して慰謝料が減額・免除になった裁判例
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5-1. 故意過失もないとされ、慰謝料の支払いを免れた事例
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5-2. 故意はなかったが、過失はあったとして、慰謝料の一部を払うことになった事例
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6. 独身だと嘘をついた相手に慰謝料を請求できる?
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6-1. 貞操権の侵害で慰謝料を請求できる
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6-2. 貞操権侵害の慰謝料相場
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6-3. 貞操権の侵害で慰謝料を請求できないケース
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7. 交際相手が既婚者と知らなかった場合の慰謝料に関連してよくある質問
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8. まとめ 不倫だと知らずに既婚者と交際してしまった場合は弁護士への相談がお勧め
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1. そもそも不倫慰謝料とは
法律上、既婚者と肉体関係を持つ「不貞行為」に対しては慰謝料請求が認められています。不貞行為は、他人を殴ってケガをさせる行為や交通事故を起こす行為と同様に、不法行為と判断されます。
法律では、夫婦は互いに貞操義務(配偶者以外の者と肉体関係を持たない義務)を負うと解釈されています。そのため、第三者が既婚者と肉体関係を持った場合、夫婦の貞操義務に違反したとして相手の配偶者から慰謝料請求を受ける可能性があります。
実際の裁判では、ホテルなどの密室で二人きりで過ごしたり、二人だけで旅行に行ったりするなど、不貞行為があったと判断される事情が認められるだけで、慰謝料請求が命じられる場合もあります。むしろ、不貞行為を直接立証することは難しいため、慰謝料が認められるのはこうした間接的な証拠によるケースがほとんどです。
2. 相手が既婚者だと知らずに不倫した場合、慰謝料を支払う義務はある?
相手が既婚者だと知らずに不倫した場合でも、既婚者と知らなかったことに「過失」があると判断されると、慰謝料を支払う義務が生じる可能性があります。以下で詳しく解説します。
2-1. 不倫相手が既婚者だと知らなかったら支払う必要はない
慰謝料請求が認められる根拠は、既婚者が法律上負う貞操義務にあります。したがって、交際中の相手が貞操義務を負っている既婚者であると知らなかった場合は、慰謝料を支払う必要はありません。
2-2. 既婚者と知らなかったことに「過失」があれば支払う必要がある
注意を払えば既婚者であると知ることができた場合、すなわち、既婚者と知らなかったことに「過失」がある場合は、慰謝料の支払いを免れることはできません。この「過失」の有無については明確な判断基準があるわけではなく、個別の事情ごとに判断されることが多いです。具体例を挙げます。
【過失がないと判断されるケース】
独身者しか登録できないシステムのマッチングアプリで知り合い、独身だと誤解しても仕方がない場合は「過失がない」と判断されます。
【過失があると判断されるケース】
職場が同じで、その人の身辺に関する情報が入りやすい環境だった場合は、既婚者であると気づく機会があったと考えられ、「過失がある」として判断されます。
ただし、事例によっては他の要素も考慮されるため、マッチングアプリで知り合った場合でも「過失あり」と結論づけられる場合もあります。職場が同じでも「気づけなかった」と判断される場合もあるため、難しいのが実情です。判断に悩む場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
2-3. 不倫だと知らなかったことを証明する証拠
もし相手の配偶者から慰謝料請求をされた場合、「既婚者であると知らなかった」ことを立証しなければなりません。そのため、それを立証できる証拠が必要です。
例えば、独身であると偽ったマッチングアプリのプロフィールや、LINEやメールの文面は典型的です。裁判でもこれらが提出されているケースはよく見かけます。また、既婚者であれば結婚はできないため、結婚を前提とした交際だったことが分かるようなLINEやメールの文面、婚約指輪なども証拠になると考えられます。
2-4. 既婚者だと知っていた場合でも慰謝料の支払い義務がないケース
法律上、慰謝料の支払いを免れるケースはいくつかあります。たとえば、請求側が不貞行為の事実と不貞相手を知った時から3年、もしくは、不貞行為自体から20年が経過している場合は「消滅時効」により慰謝料を請求できません。
また、夫婦の婚姻関係が完全に破綻した後に不貞行為が始まった場合も、慰謝料請求は認められません。婚姻関係の破綻とは、夫婦が長期間別居しているようなケースです。
さらに、請求側が不貞行為の存在を立証できない場合も慰謝料の支払いは認められません。
3. 不倫相手が既婚者と知らなかったのに慰謝料を請求された際の対処法
既婚者だと知らなかったのに、相手の配偶者から慰謝料を請求された場合は、落ち着いて以下の対処をすることが重要です。
3-1. 請求内容と証拠の有無を確認する
手紙などで慰謝料を請求された場合、脅迫に思えるほどの強い言葉が使われることもあり、突然のことにパニックになる人も少なくありません。しかし、まずは落ち着いて、請求内容を確認しましょう。慌てて相手に連絡を取るのは控えてください。混乱した状態で行動すると、自分が不利になる可能性があります。
確認すべき重要なポイントは以下のとおりです。
相手の請求の根拠は何か
相手の主張の裏付けとなる証拠はあるのか
請求されている金額はいくらか
これらの点を確認したうえで、こちらから伝えるべき内容を事前に整理しましょう。この段階で、慰謝料の支払いについて結論を出す必要はありません。たとえば、証拠が提示されていない場合は証拠の開示を求めたり、回答期限が設定されている場合は期限の延長を申し出たりすることも可能です。
なお、何も対応しないままでいると、話し合いの余地がないと判断され、相手が訴訟を提起する可能性があります。訴訟も無視すると「支払う義務を認めた」と判断されるため、状況を冷静に受け止め、必ず何らかの対応を行うことが重要です。
3-2. 相手との交際をすぐにやめる
慰謝料を請求された時点で、当然ながら既婚者であることは明らかです。その後も交際を続け、肉体関係を持つ行為は、明確な不貞行為と判断され、言い逃れができなくなります。
また、仮に「慰謝料を請求されたにも関わらず交際を続けている」などの事情があると、慰謝料が増額される要因にもなると考えられます。相手が既婚者であると分かった時点で、すぐに交際をやめることが賢明です。
3-3. 不倫問題に強い弁護士に相談する
理由のない慰謝料請求に対処する際は、弁護士への相談が必要です。「独身だと騙されたために交際したのだから、慰謝料を払う理由はない」と主張すれば解決できるように思えるかもしれません。しかし、請求をする側もそれなりの覚悟を持って請求に踏み切るため、「噓をつくな」と一蹴され、簡単に解決しないことが多いです。
このような場合、弁護士に相談することで、状況に応じた適切な対応方法を提案してもらえます。さらに、弁護士に代理人を依頼すれば、慰謝料請求の根拠がないことを法的観点から説明してもらえます。
実務上でも、弁護士からの説明を頭ごなしに否定されることはまずありません。弁護士が間に入ることで、冷静で建設的な話し合いが進み、早期解決につながるケースは多く見られます。

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4. 不倫慰謝料を支払う義務がある場合はどうなる?
不倫慰謝料を支払う義務があったとしても、相手が独身と偽っていた場合は慰謝料の金額はどうなるのでしょうか?
4-1. 不倫慰謝料の相場は数十万円~300万円程度
不倫慰謝料の金額は、法律で具体的に決められているわけではありません。その代わり、実務では「このような事案なら、一般的な人はこれくらいの怒りや苦しみを感じるだろう」という経験則によって、金額が決められています。具体的には、以下の事情が考慮されます。
不貞行為の具体的な内容や行われた経緯
不貞行為の相手の人数、属性
不貞行為をしていた期間、回数、頻度
過去の類似事案で認められた慰謝料額
その他の個別の事情やさまざまな要素が考慮されます。不倫慰謝料の相場は、おおよそ数十万円から300万円と考えられます。裁判で判決まで至ったケースでは、300万円以上の慰謝料額が認められた例もあり油断は禁物ですが、300万円を超えることは少ないと考えられます。
4-2. 相手が独身と偽っていた場合は減額できる可能性が高い
相手が独身と偽って騙していた場合は、それを理由に慰謝料の減額を主張できます。特に「相手の方が積極的かつ主導的に交際関係を維持し、その一環で独身であると嘘をついて騙していた」と言える場合、不貞行為についての責任は相手の方が大きいと主張してよいです。ただし、以下のような証拠が必要です。
・相手が独身と偽り騙していたことの証拠
・相手の方が積極的・主導的だったことがわかる証拠
例えば、マッチングアプリやLINEでのやり取りの中で「自分は独身である」と発言した内容や、「結婚したい」など独身と誤解させるような内容が挙げられます。また、婚活アプリや婚活パーティーで出会ったといった事情も証拠となる可能性があります。
他にどのようなものが証拠となるのか、現在集めた証拠が有効であるか知りたい場合は、弁護士に相談してアドバイスをもらいましょう。
4-3. 慰謝料を支払う際に注意すること
慰謝料を支払う際は、後々の追加請求や支払いがなかったと主張される事態を防ぐため、必ず合意内容を書面化してから支払いを実行しましょう。また、銀行振込で支払う、領収書を作成してもらうなど、支払った事実が確認できる証拠を残すことも重要です。
5. 不倫を知らなかったと主張して慰謝料が減額・免除になった裁判例
不倫を知らなかったと主張して、慰謝料が減額・免除となった裁判例を以下で紹介します。
5-1. 故意過失もないとされ、慰謝料の支払いを免れた事例
お見合いパーティーで知り合い交際を始めたカップルの一方が既婚者であり、知らずに交際をしていた側が、既婚者の配偶者から慰謝料請求を受けた事例です。
判決では、既婚者であることを知らなかったうえ、知らなかったことに過失もなかったと判断されました(東京地方裁判所平成23年4月26日)。
この事例では、お見合いパーティーという独身者が集うことを前提とした場で出会ったことや、既婚者が氏名・年齢・住所・学歴を偽ったため、被害者側から事実確認をすることが極めて困難であった点が判断の決め手となったと考えられます。
5-2. 故意はなかったが、過失はあったとして、慰謝料の一部を払うことになった事例
既婚者側が不貞相手に対して「自分はバツイチである」と説明し、不貞相手側はそれを信じて離婚歴のある独身者だと思い込んだ事例です。
判決では、不貞相手は既婚者であることを知りながら不貞行為に至ったとは認められませんでしたが、信じたことに過失があると判断されました(東京地方裁判所平成19年4月24日)。この事例では、「自分はバツイチである」という説明を簡単に信じてしまった点に不注意があったと判断されています。
例えば、交際相手が夜間や休日だけ連絡が取れなくなる、または一人暮らしだと言いながら自宅に招かないなど不自然な行動が見られる場合には、既婚者である可能性を疑ったり知り得る状況にあるとされます。そのような注意を怠ると、過失があると判断される可能性があります。
6. 独身だと嘘をついた相手に慰謝料を請求できる?
相手から独身だと騙されて交際してしまった場合、騙された側もまた被害者だと言えます。そのようなケースでは、「貞操権の侵害」で慰謝料を請求できます。
6-1. 貞操権の侵害で慰謝料を請求できる
真剣に交際を考えている場合、相手が既婚者だと知っていれば肉体関係を持たないと考えられます。相手に騙されて肉体関係を持った場合、自分が誰と性的関係を持つかを決定する権利(貞操権)が侵害されたと主張し、慰謝料を請求できます。
ただし、この請求は相手の配偶者からの慰謝料請求と表裏一体の関係にあります。相手の配偶者がこちらの関係性に気づいていない場合、こちらからの慰謝料請求をきっかけに相手の配偶者が不貞行為を認識する可能性があります。慰謝料を請求する際は慎重な行動が必要です。
6-2. 貞操権侵害の慰謝料相場
貞操権侵害の慰謝料の相場は、おおよそ数十万円から300万円だと考えられます。騙されて交際していた期間が長い場合や、実際に結婚指輪を買いに行った場合には、結婚への期待度が高いと判断され、慰謝料が増額される可能性があります。
6-3. 貞操権の侵害で慰謝料を請求できないケース
相手が独身であると嘘をついていたとしても、その嘘を見抜き、了承して肉体関係を持った場合、慰謝料請求はできません。また、いわゆるセックスフレンドやワンナイトラブなど、身体だけの関係であった場合も、慰謝料請求は難しいと考えられます。このような関係では、その人物と性的関係を持つかを決定するにあたって、相手が既婚であるかどうかの判断にさほど影響しないと言えるためです。
7. 交際相手が既婚者と知らなかった場合の慰謝料に関連してよくある質問
8. まとめ 不倫だと知らずに既婚者と交際してしまった場合は弁護士への相談がお勧め
不倫相手が既婚者と知らなかった場合、不倫慰謝料の支払い義務があるかどうかは、注意を払えば
「既婚者だと気づけたかどうか」という過失の有無によって決まります。ただし、明確な判断基準があるわけではなく、個別の事情ごとに判断されることが多いです。
不倫相手が既婚者だと知らず、また過失もない場合は慰謝料の支払いを免れるだけでなく、貞操権の侵害で逆に慰謝料を請求できるケースもあります。
いずれにしても、相手が独身だと偽っていた証拠を集めておくこと、そして既婚者だと知ったらすぐに別れることが重要です。こうした対処法には法的知識が不可欠であるため、不倫問題に注力している弁護士に相談しましょう。
(記事は2025年4月1日時点の情報に基づいています)