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1. 未払いの養育費は請求できる?
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2. 養育費未払いの割合は?
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3. 養育費の未払いに罰則はある?
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4. 未払いの養育費を請求しないとどうなる?
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5. 未払いの養育費の請求方法
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5-1. 相手と直接話し合う|内容証明郵便の送付も検討
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5-2. 養育費請求調停
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5-3. 履行勧告
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5-4. 履行命令
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5-5. 強制執行
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6. 未払い養育費は、相手の親に請求できる?
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7. 未払い養育費の請求に関する注意点
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7-1. 口約束だけでは、未払い養育費の回収は難しい
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7-2. 養育費の強制執行は、給与の差し押さえが効果的
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7-3. 時効が完成していないかを確認
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8. 未払い時に備えて協議離婚でも公正証書の作成を
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9. 2026年5月までに導入|共同親権制度が未払い養育費に与える影響は?
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10. 未払い養育費の請求は弁護士に相談を
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11. 養育費の未払いに関してよくある質問
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12. まとめ 養育費の未払いで困ったらまずは弁護士に相談を
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1. 未払いの養育費は請求できる?
養育費とは、未成年の子どもが生活するために必要な費用のことで、衣食住や教育、医療などに必要となる費用を言います。
子どもの父母は、子どもが生活するうえで必要な経済的援助をする扶養義務(民法第877条第1項)を負っているため、離婚したとしても、養育費を分担して負担する義務があります。子どもに対して負う扶養義務は「生活保持義務」と呼ばれ、扶養義務を負っている義務者である父母は、自らと同程度の水準の生活を子どもにさせる必要があります。
離婚後、子どもと同居する親は、子どもと離れて暮らす親に対して、子どもの監護養育、つまり一緒に暮らして世話や教育をするために必要な費用である養育費の分担を請求することができます。
しかし、養育費の分担を請求することができるにもかかわらず、実際には何らかの理由で養育費の支払いを受けていないというケースは少なくありません。養育費が支払われていない場合、未払いの養育費を過去にさかのぼって請求することはできるでしょうか。
すでに養育費の取り決めがなされている場合には、未払い分の養育費を過去にさかのぼって請求することができます 。一方、養育費の取り決めがなされていない場合には、請求した時点から 養育費の支払い義務が生じます。
養育費は子どもの生活に必要な費用であり、親と同等の水準の生活を維持させるという生活保持義務に基づくものなので、養育費を分担する義務は、本来であれば子どもがその親と同等の水準の生活を維持していない時点から生じるのが原則です。しかし家庭裁判所の実務上は、養育費分担の調停または審判の申立てにより権利者が養育費を請求したときから支払い義務が発生するという運用が一般的です。
2. 養育費未払いの割合は?
厚生労働省の「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」の結果によると、養育費の取り決めをしていない世帯も含めて、母子世帯の母親が離婚した父親から養育費の支払いを「現在も受けている」と答えた割合は28.1%、父子世帯の父親が離婚した母親から養育費の支払いを「現在も受けている」と答えた割合は8.7%となっており、いずれも低い割合となっています。
養育費の支払いを「現在も受けている」または「受けたことがある」と答えた世帯のうち、養育費の額が決まっている世帯の平均月額は、母子世帯では5万485円、父子世帯では2万6992円という金額でした。
養育費の取り決めをしている世帯に限ると、養育費の取り決めをしているにもかかわらず養育費の支払いを「受けたことがない」と答えた割合は、母子世帯で19.2%、父子世帯で61.1%、「過去に受けたことがある」ものの現在は支払われていないと答えた割合は、母子世帯で21.5%、父子世帯で10.8%を占めています。なお、上記の割合はいずれも推計値です。
3. 養育費の未払いに罰則はある?
義務者が養育費を支払わなかったとしても、養育費の未払い自体は犯罪ではなく、罰則はありません 。権利者は、民事上養育費を請求する権利があるに過ぎません。
ただし、養育費を請求する権利のある親(以下「債権者」と言います)が、支払い義務のある親(以下「債務者」と言います)の財産に関する情報を開示させるために裁判所に申し立てる「財産開示手続」(民事執行法第196条以下)を行った場合に、裁判所の呼び出しを受けた債務者が財産開示期日に正当な理由なく出頭しないときや、財産開示期日に裁判所に出頭し宣誓した債務者が、自分の財産状況について虚偽を述べたときには、6カ月以下の懲役(2025年6月1日に拘禁刑に一本化)または50万円以下の罰金という刑事罰が処せられることがあります(民事執行法第213条第1項第5号、第6号)。
4. 未払いの養育費を請求しないとどうなる?
養育費の請求権には時効があるため、未払いのまま請求せず放置していると、債務者から消滅時効を主張されるリスクがあります。消滅時効とは、ある権利が行使されない状態が一定期間続いた場合に、その権利の消滅を認める制度です。ある権利を一定期間行使せずにいることでその権利の時効が完成するまでの期間を「消滅時効期間」と言います。養育費の消滅時効期間が経過して時効が完成し、債務者によって時効が援用されると権利が消滅します。
養育費の支払いについて当事者間の話し合いで取り決めた場合、養育費の請求権の消滅時効期間は、原則として5年 です。
調停、審判、和解、判決などの裁判所の手続きで養育費の取り決めをした場合には、養育費の請求権の消滅時効期間は10年 となります。ただし、消滅時効期間が10年となるのは、裁判所の手続きで取り決めたときにすでに支払い期日が到来している分の養育費に限られます 。裁判所の手続きで養育費の取り決めをした場合でも将来発生する養育費の消滅時効期間は、この場合でも5年ですので注意してください。
なお、相手が支払い義務の履行を遅滞した場合にはただちに強制執行に服する旨を陳述したといった内容の強制執行認諾文言のある「公正証書」で養育費を取り決めた場合、強制執行が可能という点では裁判所による確定判決と同じ効力がありますが、あくまで当事者間の話し合いによる取り決めであるため、消滅時効期間は5年となります。

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5. 未払いの養育費の請求方法
未払いの養育費を請求するには、以下のような方法があります。
相手と直接話し合う|メリット:早期に養育費の支払いを受けることができる
養育費請求調停|メリット:強制執行などの法的手続きで、強制的に養育費を回収できる
履行勧告|メリット:裁判所から養育費の支払い義務を履行するように勧告してもらえる
履行命令|メリット:10万円以下の過料の制裁により、強いプレッシャーを与えられる
強制執行|メリット:不動産や預金など、相手の財産を差し押さえることができる
5-1. 相手と直接話し合う|内容証明郵便の送付も検討
養育費が支払われていないケースでは、相手が単に払い忘れている場合や、請求されるまで養育費を支払わなくてよいと思っている場合などがあります。そのような場合は、まずは相手と直接話し合い、養育費を支払うよう説得することが有効です。相手との話し合いで合意ができれば、早期に養育費の支払いを受けることができます。
説得だけでは相手が養育費の支払いに応じない場合、内容証明郵便で支払いの督促を送付することも効果的 です。内容証明郵便は、いつ、どのような内容の文書を誰から誰宛てに差し出されたかということを郵便局が証明する制度で、相手に心理的なプレッシャーを与えることができます。また、消滅時効期間が迫っている場合には、内容証明郵便で請求することで、時効の完成が6カ月間猶予されます。
しかし、説得や内容証明郵便には法的な強制力があるわけではないので、相手が任意の支払いに応じない場合には、養育費の支払いを受けることはできません。
5-2. 養育費請求調停
相手が任意の支払いに応じない場合には、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てます。
養育費請求調停で双方が養育費の額や支払い方法について合意した場合には、家庭裁判所で調停調書が作成されます。調停調書には判決と同一の効力があるため、相手が支払いに応じない場合には、強制執行などの法的手続きで強制的に養育費を回収することができます。
しかし、調停はあくまでも家庭裁判所での話し合いなので、調停で養育費について双方が合意できない場合には、調停不成立となります。
5-3. 履行勧告
調停や審判などで養育費の取り決めをしても、相手から取り決めどおりに養育費が支払われないケースがあります。その場合には、家庭裁判所にその状況を伝え、裁判所から相手に養育費の支払い義務を履行するよう勧告 してもらうことができます。この手続きを「履行勧告」と言います。
調停や審判を行った家庭裁判所に対し、申出書と調停調書や審判書のコピー、相手が支払い義務を守っていないことがわかる預金通帳などの資料があるときはそのコピーを提出するだけで、家庭裁判所が相手に連絡してくれます。費用はかかりません。
しかし、履行勧告は家庭裁判所から連絡をしてもらえるだけで法的な強制力はないため、相手が支払いに応じない場合に強制的に回収することはできません。
5-4. 履行命令
裁判所から履行勧告をしても養育費が支払われない場合には、家庭裁判所は相当の期間を定めて履行命令を出すことができます。相手が正当な理由なく履行命令に従わない場合には、裁判所は10万円以下の過料に処することができるため、履行勧告よりも相手に心理的なプレッシャーを与えることができます 。
しかし、履行命令も法的な強制力はないため、相手が支払いに応じない場合には、強制的に回収することはできません。
5-5. 強制執行
履行勧告や履行命令によっても養育費が支払われない場合には、強制執行を検討すべきです。
強制執行の申立てには、確定判決や調停調書、審判書、強制執行認諾文言付きの公正証書など「債務名義」と呼ばれる文書が必要です。債務名義に養育費の支払い義務が定められている場合に利用できる手続き です。
裁判所に強制執行を申し立て、申立てが認められると、相手の不動産や預金などの財産を差し押さえることができます。債務名義のなかに養育費の定めがあり、毎月定期的に養育費の支払いを受けることになっている場合、その一部について支払いが遅れた場合は、まだ支払い期日が来ていない分の養育費についても、強制執行を申し立てることができ、給与など毎月定期的に支払いを受ける債権差し押さえることが可能 です。
強制執行には法的な強制力があるため、相手の財産から強制的に支払いを受けることができます。しかし、履行勧告や履行命令に比べて手続きが複雑で、手間や費用もかかります。そもそも相手の財産状況や勤務先などを把握していなければ、どの財産に対して強制執行をすればよいかわかりません 。預金債権を差し押さえても銀行口座からすでにお金が引き出されている場合や給与債権を差し押さえても相手がすでに転職している場合なども多く、申立てが空振りに終わるケースもあります。
相手の財産状況や勤務先などが不明な場合には、相手の財産などに関する情報を得るために、裁判所に「財産開示手続」や「第三者からの情報取得手続」の申立てを行うことも可能です。
6. 未払い養育費は、相手の親に請求できる?
養育費の支払い義務を負うのはあくまで子どもの父または母である相手本人であり、相手の親には養育費の支払い義務はありません。そのため、相手の親に対して未払い養育費を相手の親に対して請求することは原則としてできません 。
ただし、相手からの養育費の支払いがないことなどを説明することで、相手の親から任意の支払いを受けることができる場合もあります。また、養育費を取り決めた際に相手の親を連帯保証人としている場合には、相手の親に対して請求することができます。
7. 未払い養育費の請求に関する注意点
未払い養育費を請求する際には、主に以下の3点に注意が必要です。
7-1. 口約束だけでは、未払い養育費の回収は難しい
協議離婚のケースでは、養育費についての取り決めが口約束のみの場合も少なくありません。口約束のみでも契約としては有効ですが、後々争いになった場合に合意があったことを証明するのは難しいため、養育費について取り決めたときには、書面を作成すべきです。
子どもと同居する親としては、将来的にも養育費の支払いをきちんと受けられるように、強制執行認諾文言付きの公正証書で養育費の取り決めをしておく ことが重要です。特に離婚時に子どもが小さい場合には養育費の支払いが長期に及ぶため、途中で支払いが滞ることがないよう、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成すべきです。公正証書は全国各地にある公証役場で作成することが可能です。
7-2. 養育費の強制執行は、給与の差し押さえが効果的
養育費が未払いとなっている場合、調停調書や強制執行認諾文言付きの公正証書などの債務名義があるときには、強制執行の申し立てをすることで、相手の不動産や預金などの財産を差し押さえ、未払いの養育費として強制的に支払わせることができます。
特に効果的なのは、給与の差し押さえ です。債務名義に養育費の定めがあり、その支払いが遅れた場合は、まだ支払い期日が来ていない分の養育費についても、強制執行を申し立てることができ、毎月定期的に支払いを受ける給与債権を差し押さえることが可能 だからです。
なお、相手の財産状況や勤務先がわからない場合には、「財産開示手続」や「第三者からの情報取得手続」を裁判所に申し立てることで、それらの情報を取得できる場合があります。
7-3. 時効が完成していないかを確認
養育費の請求権には時効があるため、未払いのまま放置していると消滅時効を主張される可能性があります。未払いの期間が長期にわたる場合には、請求権が消滅時効が完成していないか注意 が必要です。
養育費について当事者間の話し合いで取り決めた場合、養育費の請求権の消滅時効期間は原則として5年、調停や審判、和解、判決などの裁判所の手続きで取り決めをした場合には、養育費の請求権の消滅時効期間は10年となります。
8. 未払い時に備えて協議離婚でも公正証書の作成を
協議離婚の場合でも、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成しておけば、養育費が未払いとなったときに権利者本人が請求したり、弁護士を通じて請求したりすることで、すぐに支払いを受けられることがあります。
協議離婚の際には離婚を急ぐあまり、養育費については口約束だけで書面を作成しないケースも多く見られますが、約束どおり養育費の支払いを受けることは離婚後の子どもとの生活のために重要であるため、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成することを強くお勧めします。
公正証書は自分で公証役場に行って公証人に作成してもらうことも可能ですが、弁護士に依頼すれば公証人とのやりとりを弁護士に任せることができるため、公正証書をスムーズに作成することができます。また、弁護士に代理人として公証役場に出向いてもらうこともできるため、平日は仕事などで忙しいという場合は、協議離婚であっても弁護士への依頼を検討してみてください。

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9. 2026年5月までに導入|共同親権制度が未払い養育費に与える影響は?
2026年5月までに施行予定の改正民法では、離婚時に父母の両方を親権者と定めることができる共同親権制度が導入されます。
しかし、子どもの父母はいずれも子どもに対して扶養義務(民法第877条第1項)を負っているので、共同親権制度が導入された場合でも、子どもと離れて暮らす親に養育費を分担して負担すべき義務があることには変わりません。
また、改正民法では、養育費がきちんと支払われるようにするための見直しもされています。養育費に、ほかの債権よりも優先して請求できる先取特権という優先的に弁済を受けることができる権利が与えられ、債務名義がなくても差し押さえが可能に なる予定です。さらに、法定養育費制度が導入され、父母の協議による取り決めがない場合でも養育費請求が可能に なる予定です。そのほかにも、執行手続きの負担軽減策や、収入情報の開示命令などの裁判手続きのルールも整備される予定です。
これらの改正により、養育費が支払われない場合に法的な手続きを取るハードルが低くなるでしょう。
10. 未払い養育費の請求は弁護士に相談を
未払いの養育費を請求する際には、必要な法的手続きや注意点があるため、まずは弁護士に相談することをお勧めします。弁護士から相手に内容証明郵便を送って請求することで、養育費が支払われるようになるなど、弁護士に相談することで早期に支払いを受けられるようになるケースもあります 。
また、請求にあたって裁判手続きを検討する場合、自分一人では対応が難しい場面も多くありますが、弁護士に依頼することでスムーズに手続きを進めることができます。
11. 養育費の未払いに関してよくある質問
12. まとめ 養育費の未払いで困ったらまずは弁護士に相談を
何らかの理由で養育費が支払われていないひとり親世帯は少なくありませんが、未払い養育費の請求は、子どもの生活や教育に直結する問題です。未払いの養育費を放置していると消滅時効を主張される可能性があるため、内容証明郵便の送付や裁判手続きなどで請求することが重要です。
請求の際には法的な手続きや注意点をふまえた対応が必要となるため、未払いの養育費がある場合は、まずは弁護士に相談 することをお勧めします。
(記事は2025年2月1日時点の情報に基づいています)