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1. 養育費の公正証書を作成するメリット
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1-1. 内容、形式ともに信頼性が高い
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1-2. 偽造、変造、紛失を防止できる
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1-3. 養育費がきちんと支払われやすくなる
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1-4. 不払いが生じたら、ただちに強制執行ができる
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2. 養育費の公正証書の作り方
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2-1. 養育費の公正証書はどこで作るのか
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2-2. 養育費の公正証書のテンプレートと記載事項
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2-3. 養育費の合意をする際の注意点
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2-4. 養育費の公正証書を作成する際の必要書類
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2-5. 養育費の公正証書の作成費用
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3. 公正証書作成後に、養育費の増額や減額はできる?
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4. 公正証書に基づく養育費の強制執行のやり方
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5. 養育費の公正証書作成を弁護士に相談するメリット
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6. 2026年5月までに導入|共同親権制度、法定養育費、先取特権が養育費に与える影響は?
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7. 養育費の公正証書に関してよくある質問
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8. まとめ 養育費に関する公正証書の作成は弁護士に相談を
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1. 養育費の公正証書を作成するメリット
公正証書とは、私人からの依頼により、公務員である公証人がその権限に基づいて作成する公文書のことです。養育費に関する取り決めを公正証書にすることには一般に以下のようなメリットがあります。
内容、形式ともに信頼性が高い
偽造、変造、紛失を防止できる
養育費がきちんと支払われやすくなる
不払いが生じたら、ただちに強制執行ができる
1-1. 内容、形式ともに信頼性が高い
公正証書は、公証役場にて公証人の立ち会いのもと、条項の内容を読み上げて当事者双方に異論がなければ双方が署名押印し作成されます。そのため、公正証書は、単に当事者双方が作成した文書と異なり、文書としての信頼性が高く、あとになって「そのような文書は作成していない」などと争われる可能性が極めて低くなります。
1-2. 偽造、変造、紛失を防止できる
公正証書は、その原本が公証役場で原則20年間保管されます。そのため、公正証書については偽造や変造のリスクは極めて小さいと言えるでしょう。
公正証書を作成した当事者は、公正証書の正本や謄本の交付を受けることができ、万が一正本や謄本を紛失した場合でも、公証役場に対して正本や謄本の再発行を請求することができるため、紛失のリスクはありません。
1-3. 養育費がきちんと支払われやすくなる
公証役場において、公証人の面前で作成する公正証書によって養育費の支払いに合意したことにより、自主的に養育費を支払う方向への心理的プレッシャーがはたらきます。結果、養育費がきちんと支払われやすくなるという点もメリットの一つです。
1-4. 不払いが生じたら、ただちに強制執行ができる
養育費の公正証書を作成する最大のメリットは、公正証書において「強制執行認諾文言」を記載しておけば、養育費が不払いとなった際にただちに強制執行を申し立てることができる点です。
離婚時に養育費の支払いについて合意したとしても、支払いが滞るケースがしばしばあります。こうした場合でも、現在の法律では、執行力のある「債務名義」がなければ、義務者の財産に対し強制執行の申立てを行うことができません。ここで言う「債務名義」とは、債権者が相手(債務者)に請求できる権利(請求権)があることを認める書類です。
債務名義には、判決正本、和解調書正本、家事調停調書正本、家事審判書正本、強制執行認諾文言付きの公正証書正本などがありますが、強制執行認諾文言付きの公正証書正本以外の書類は、調停、審判、訴訟などの法的な手続きをとらなければ取得できません。他方で、強制執行認諾文言付きの公正証書正本は公証役場で作成すればよいため、ほかの債務名義と比べて簡易迅速に取得できるというメリットがあります。
また、強制執行が可能であるという点については、養育費を受け取る側(以下、権利者)から養育費を支払う側(以下、義務者)に対するプレッシャーにもなりえます。養育費の支払いが滞った場合、強制執行をされるかもしれないという精神的負荷があると、義務者が養育費をきちんと支払ってくれる展開が期待できます。
2. 養育費の公正証書の作り方
公正証書を作る際に役立つ養育費の公正証書のテンプレートと記載事項を紹介し、養育費の合意をする際の注意点や養育費の公正証書を作成する際の必要書類などについても解説します。
2-1. 養育費の公正証書はどこで作るのか
公正証書は、全国に所在する公証役場にて作成することが可能です。公証役場の所在地は日本公証人連合会のホームページで確認できます。
公正証書の作成の流れとしては、まず当事者(代理人がいる場合には代理人)間で養育費の金額、支払いの始期や終期などの具体的な条件を定めます。その後、公証役場に連絡し、合意内容を公正証書の文案に落とし込みます。
文案が確定し、当事者双方がその文案に合意した場合には、公証人と日程調整を行い、当事者または代理人が公証役場に赴き、公正証書を作成します。公正証書の作成の際には、原則として当事者双方の立ち会いを要しますが、弁護士が代理人として立ち会うことも可能です。
2-2. 養育費の公正証書のテンプレートと記載事項
養育費の支払いを定める公正証書のテンプレートは以下のとおりです。なお、以下のテンプレートでは、離婚することに加え、養育費や面会交流などについても定めていますが、離婚時の公正証書にはこのほかに慰謝料や財産分与について定めることも少なくありません。内容については弁護士などに相談のうえ、具体的な状況に応じて検討することをお勧めします。
離婚公正証書
●●(以下「甲」という)と▲▲(以下「乙」という)は、令和●年●月●日、表題の件に関し、以下のとおり契約を締結した。
第1条
甲及び乙は、本日、協議離婚(以下「本件離婚」という)することに合意し、離婚届にそれぞれ署名・押印し、 乙は、本公正証書作成後に速やかにその届出をするものとする。
第2条
甲及び乙は、甲乙間の未成年の子**(令和●年●月●日生、以下「丙」という)の親権者を乙と定め、乙において監護養育することに合意する。
第3条
甲は、乙に対し、離婚の成否にかかわらず、丙の養育費として、令和●年●月から令和●年●月まで、1か月あたり金●円の支払義務があることを認め、これを、毎月末日限り乙の指定する金融機関の預金口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は甲の負担とする。
第4条
前条に定める養育費のほか、丙の病気や事故による負傷、高等学校・大学等への進入学その他の事由により特別の出費を必要としたときは、誠実に協議してお互いの負担分を決めることとする。
第5条
乙は、甲が丙と面会交流することを認める。ただし、面会の具体的な回数、日時、場所、方法等は、甲及び乙が、丙の意思を尊重するととともに丙の福祉に十分に配慮しながら協議して定めるものとする。
第6条
甲が勤務先又は住所を変更したときは、甲は直ちに乙に通知する。乙が預金口座又は住所を変更したときは、乙は直ちに甲に通知する。
第7条
甲と乙は、本件離婚に関し、本契約に定めるほか、何らの債権債務関係も存在しないことを相互に確認する。
第8条
甲は、本契約に定める金銭債務の履行をしないときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。
2-3. 養育費の合意をする際の注意点
養育費の合意をする際は、養育費の支払いの終期について注意する必要があります。養育費は、自分一人の収入では生活できない子どもに支払われるものであり、養育費の終期は成人年齢と一致する必然性はありません。現在では子どもが大学に進学するケースも多いことから、「子どもが大学を卒業する月まで」といった定めをする方法もあります。
もっとも、この場合、浪人や留年をした場合の取り扱いが不明確となる可能性もあり、強制執行ができないおそれもあります。そのため、養育費の終期については「2030年8月まで」などの具体的な時期や、「22歳の3月まで」など子どもの年齢で定めるなど、一義的に明確な定めとしておくことも考えられます。
そのうえで、養育費の支払いの対象となる子どもが病気にかかった場合や事故により負傷した場合、高等教育を受けることとなった場合などに養育費の見直しを行う旨の規定を置く選択肢も考えられます。
また、仮に義務者が養育費の支払いを怠った場合には強制執行を行う必要がありますが、相手の住所がわからなければ強制執行ができません。そのため、養育費に関する合意をする際には、住所などに変更があった場合にはその旨を通知するという条項を入れておくことが望ましいです。
加えて、強制執行を行う場合、義務者の預金債権や給与債権を対象とすることが多く、その前提として義務者の預金口座や勤務先を把握している必要があります。そのため、勤務先についても変更があった場合には通知する旨の条項を入れておくことが重要です。
公正証書に基づき義務者の財産に対し強制執行を行うには、養育費の支払いについての条項を入れるだけではなく、強制執行認諾文言を盛り込んでおく必要があるため、この点も忘れないようにしましょう。
2-4. 養育費の公正証書を作成する際の必要書類
当事者本人が公正証書を作成する場合には、印鑑登録証明書と実印、運転免許証、マイナンバーカードなどといった本人確認書類に加え、戸籍謄本などが必要となります。
また、代理人によって公正証書を作成する場合には、本人から代理人への委任状、本人の印鑑登録証明書及び代理人の本人確認書類などが必要です。作成する公正証書の内容によっては、これら以外の書類が必要となる場合もあります。
2-5. 養育費の公正証書の作成費用
公正証書の作成に要する費用には、公証役場の手数料と弁護士に依頼した場合の弁護士費用があります。公証役場の手数料は、日本公証人連合会によって以下の表のとおり定められています。
公証役場の手数料
目的の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5000円 |
100万円を超え 200万円以下 | 7000円 |
200万円を超え 500万円以下 | 1万1000円 |
500万円を超え 1000万円以下 | 1万7000円 |
1000万円を超え 3000万円以下 | 2万3000円 |
3000万円を超え 5000万円以下 | 2万9000円 |
5000万円を超え 1億円以下 | 4万3000円 |
1億円を超え 3億円以下 | 4万3000円に超過額5000万円までごとに 1万3000円を加算した額 |
3億円を超え 10億円以下 | 9万5000円に超過額5000万円までごとに 1万1000円を加算した額 |
10億円を 超える場合 | 24万9000円に超過額5000万円までごとに 8000円を加算した額 |
たとえば、毎月6万円の養育費を10年間支払うことで合意した場合、養育費の総額は6万円×12カ月×10年=720万円となるため、手数料は1万7000円です。
一方、弁護士費用については、依頼する内容や弁護士によって費用が異なるため、依頼前に弁護士に確認しましょう。
3. 公正証書作成後に、養育費の増額や減額はできる?
公正証書で養育費について取り決めたあとに、義務者や権利者の再婚、収入の増減などを理由として養育費の金額を増減させることは原則的にできません。なぜなら、一度双方が合意した養育費が事後的に自由に変更できるとなれば、義務者や権利者の利益を害することになるからです。
一度合意した養育費について自由に増額や減額を求めることはできないものの、義務者や権利者、子どもに関し大きな事情変更があったときには、例外的に養育費の増減が認められるケースもあります。具体的には、子どもが大きな病気にかかった場合、義務者が再婚して子どもが生まれた場合、権利者が再婚し養育費が支払われている子どもが再婚相手の養子となった場合、義務者や権利者の収入が大きく増減した場合などが挙げられます。
ただし、単にこれらの事情があるだけではなく、養育費の合意の時点でこれらの事情が予測できたかどうかかが重要となります。養育費を合意した時点で予測できた事情については、養育費の合意において織り込み済みと考えることができるためです。
他方で、養育費の合意時点で予測できなかった事情については、養育費の増減が認められる可能性があります。この場合、当事者間で新たに養育費の取り決めをするか、または調停や審判を別途提起することで養育費の金額などを変更します。
4. 公正証書に基づく養育費の強制執行のやり方
公正証書に基づいて強制執行を行うには、強制執行認諾文言付公正証書に公証人の執行文を付与してもらってから裁判所に提出し、強制執行を申し立てます。
養育費について強制執行を申し立てる場合、義務者の預金口座や勤務先からの給与などを対象とすることが一般的です。通常、給与の差し押さえができる債権の範囲は給料などの4分の1までしか認められないものの、養育費の場合は給料などの2分の1まで認められており、強制執行による回収がしやすくなっています。
義務者の財産に対して強制執行を申し立てるには、義務者の預金口座や勤務先を特定する必要があります。権利者が義務者の預金口座や勤務先を認識していない場合、地方裁判所が義務者を呼び出し、義務者がどのような財産を持っているか、誰から給料が支払われているかなどを述べさせる「財産開示手続」や、金融機関を含む第三者に対し、取扱支店名、預貯金の種別、口座番号、残高といった義務者の預貯金に関する情報などの提供を命じる「第三者からの情報取得手続」という制度などを利用することができます。

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5. 養育費の公正証書作成を弁護士に相談するメリット
公正証書は公証人が作成するものの、公証人は当事者の代理人ではないため、養育費の算定などはしてくれません。
養育費に関する合意を自身のみで行った場合、不利な条件で合意してしまうおそれがあります。弁護士に相談すれば、養育費の金額が適切であるかなどについて適切なアドバイスがもらえます。
6. 2026年5月までに導入|共同親権制度、法定養育費、先取特権が養育費に与える影響は?
2024年5月、夫婦の離婚後も父と母の双方が親権を持つ「共同親権」を新たに導入するなどの民法改正案が国会で成立しました。改正法は2026年5月までに施行される予定です。
養育費との関係で大きな影響があるのは法定養育費制度の新設と養育費請求権に一般の先取特権(さきどりとっけん)が認められる点で、改正法により養育費の履行の確保が非常に強化される見込みです。
法定養育費制度とは、養育費を定めることなく協議離婚をした場合に、民法の規定に従い、離婚の日にさかのぼって養育費を請求できる制度です。現在の法律では、養育費を受け取るためには相手との間で公正証書などにより合意するか、調停や審判、訴訟などによって養育費の支払い義務を確定される必要があります。一方、改正法の施行後は、養育費の金額について確定していなくとも民法の規定によって養育費を請求することができるようになります。
また、先取特権とは、ほかの債権者に先立って自分の債権の弁済を受けることができる権利です。先取特権を行使する場合、債権者は、担保権の存在を証する文書を提出すれば、判決などの債務名義がなくとも債務者の財産に対して強制執行を申し立てることができます。
7. 養育費の公正証書に関してよくある質問
養育費の金額などの具体的な条件については、あらかじめ当事者において合意したうえで公証役場に連絡するのが一般的です。そのうえで公正証書の原案を公証人に作成してもらうこともできますが、自身の意思に沿った内容で公正証書を作成するためには、自ら原案を作成したほうがよいでしょう。弁護士に原案を作成してもらうことも可能です。
公正証書の作成自体に期間制限はありません。しかし、すでに発生している養育費請求権は、権利者が権利を行使できることを知ったときから5年間行使しない場合に時効により消滅します。養育費が月払いの場合、各月に発生する個別の養育費請求権が5年の消滅時効にかかります。
離婚届の提出と公正証書の作成はどちらを先にしなければならないという決まりはありません。離婚後に養育費を請求することも可能であるため、離婚届の提出後に公正証書で養育費の定めをする流れもあり得ます。
もっとも、義務者が離婚を求めている場合に、いったん離婚に応じてしまうと、離婚に応じる代わりに養育費の金額を多めにしてもらうといった交渉ができなくなり、交渉上不利になる可能性があります。そのため、離婚届の提出前に養育費などの離婚条件について話し合ったうえで合意し、公正証書にまとめる順番が一般的です。
公正証書を作成する際には、当事者双方が出席する必要があります。しかし、代理人を立てれば、相手に会うことなく公正証書を作成することも可能です。この場合、弁護士への委任状など追加で必要となる書類があります。
8. まとめ 養育費に関する公正証書の作成は弁護士に相談を
公正証書とは、公務員である公証人がその権限に基づいて作成する公文書であり、強い効力があります。養育費については、公正証書によって合意する際、公正証書に「強制執行認諾文言」を記載しておけば、養育費が不払いとなった場合にただちに強制執行を申し立てることができます。
離婚時の公正証書を作成する際は本記事で紹介したテンプレートを利用するのが効率的ですが、適切な合意書になっていなければ、強制執行などができないおそれがあります。養育費の算定については、専門的な知識が必要となることも多いため、養育費を請求したい場合や、養育費について公正証書によって合意したい場合は、弁護士に相談することをお勧めします。
(記事は2025年7月1日時点の情報に基づいています)