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1. 扶養的財産分与とは
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2. 扶養的財産分与が認められるケース
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2-1. 夫婦間の収入格差が大きい
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2-2. 離婚後の経済的自立が難しい|専業主婦や熟年離婚、うつ病、障害など
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2-3. 清算的財産分与の金額が少ない
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2-4. 頼れる親族がいない
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3. 扶養的財産分与が認められる可能性はどのくらい?
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4. 扶養的財産分与の金額相場と期間|金額も期間もケースバイケース
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5. 扶養的財産分与に関する裁判例
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5-1. 扶養的財産分与が認められた裁判例
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5-2. 扶養的財産分与が認められなかった裁判例
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6. 扶養的財産分与の手続きや、スムーズに進めるコツ
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7. 扶養的財産分与の期限
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8. 離婚後の生活が不安な場合に弁護士へ相談するメリット
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9. 扶養的財産分与に関してよくある質問
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10. まとめ 離婚後の生活に経済的不安がある場合は弁護士に相談を
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1. 扶養的財産分与とは
離婚の際、離婚後の夫婦間の財産上の均衡を図るために夫婦の財産を分配することを財産分与と言います(民法768条)。
財産分与は、次の3種類に分けられます。
①清算的財産分与
夫婦が結婚期間中に共同で形成した資産を公平に離婚時に分配します。2分の1ずつ分けるかたちが原則となっています。「夫婦が共同で形成した資産」が対象であり、親からの贈与や結婚前から保有していた資産は対象外です。
②慰謝料的財産分与
不倫やDV(ドメスティック・バイオレンス、家庭内暴力)など、夫婦の一方に責任がある有責行為が原因で離婚に至った場合、被害者側が被った精神的苦痛を回復するための慰謝料の意味合いで財産分与を行うことがあります。
③扶養的財産分与
離婚によって生活が苦しくなってしまう配偶者に対し、自立して生活できるようになるまでの援助を主たる目的として支払われる財産分与です。養育費をもらっていても扶養的財産分与が認められることがあります。
本記事では、扶養的財産分与について取り上げます。
2. 扶養的財産分与が認められるケース
離婚後は、夫婦それぞれが自身の経済力に応じて生活するのが原則であるため、離婚した配偶者がもう一方に対して生活を保証する義務はありません。そのため、扶養的財産分与は、自立して生活することが困難な場合に極めて例外的に認められるものです。
扶養的財産分与について、法律には具体的な定めがなく、事案に応じて裁判所が判断を下します。「〇〇の事情があれば扶養的財産分与が認められる」といった基準はありませんが、次のようなケースでは扶養的財産分与が認められやすいでしょう。
夫婦間の収入格差が大きい
離婚後の経済的自立が難しい
清算的財産分与の金額が少ない
頼れる親族がいない
2-1. 夫婦間の収入格差が大きい
夫婦間の収入格差が大きい場合、離婚によって収入が少ない側の生活水準が大幅に低下してしまいます。この落差を補填(ほてん)するために、一定の期間に限って扶養的財産分与が認められることがあります。
なお、支払いを受ける側にある程度の収入があっても、相手との収入格差が大きい場合や収入が不安定な場合は、扶養的財産分与が認められるケースもあります。
2-2. 離婚後の経済的自立が難しい|専業主婦や熟年離婚、うつ病、障害など
扶養的財産分与が認められるためには、支払いを受ける側に「要扶養性」がなければなりません。離婚後に経済的に自立して生活していくことが困難な場合、要扶養性があるとされ、扶養的財産分与が認められるケースがあります。このとき、「離婚後に就労できる可能性があるかどうか」が判断基準の一つとなります。
【扶養的財産分与が認められやすい事情】
・結婚を機に退職して専業主婦または専業主夫になってから長い時間が経っている
・熟年離婚で再就労が難しい
・病気や障害などによって満足に働けない状態にある
・結婚期間中の仕事がアルバイト程度で低収入だった
【扶養的財産分与が認められにくい事情】
・結婚後も安定して仕事を続けている
・高学歴である
・就職しやすい資格を保有している
たとえば、結婚を機に退職して専業主婦や専業主夫になってから長い時間が経っている場合や、熟年離婚の場合、離婚後に再度就職先を探すことは容易ではありません。ほかにも、病気や障害などによって満足に働けない状態にある場合も、生活の援助がなければ一人で生活することは難しいでしょう。
上記のような場合には、離婚後の経済的自立が難しいとされ、扶養的財産分与が認められることがあります。
なお、元配偶者のDVや不貞、相手を精神的に傷つけるモラル・ハラスメントなどが原因で病気が深刻化していた場合、慰謝料的財産分与が別に認められますし、扶養的財産分与が認められる可能性も高くなります。
逆に、結婚後も仕事を続けていたり、高学歴であったり、就職に有利な資格を持っていたりする場合には、離婚後も就労できる可能性が高いとされ、扶養的財産分与が認められにくくなります。
もっとも、結婚期間中に仕事をしていてもアルバイト程度で低収入だった場合などは、扶養的財産分与が認められるケースもあります。扶養的財産分与が認められるかどうかについては、一度弁護士に相談することをお勧めします。
2-3. 清算的財産分与の金額が少ない
扶養的財産分与が認められるためには要扶養性が必要ですが、清算的財産分与である程度の金額を受け取れる場合、要扶養性がないと判断される場合があります。
一方、離婚時に受けられる清算的財産分与の金額が少ない場合、再出発に充てられる資金も少なくなってしまいます。そのため、収入によっては経済的自立が難しいと判断され、扶養的財産分与が認められる可能性があります。
2-4. 頼れる親族がいない
離婚後に生活を援助してくれる親族がいない場合、扶養的財産分与が認められることがあります。
逆に、離婚後に実家に戻り、両親や親族の援助を得て生活できるような場合には、扶養的財産分与は認められにくいでしょう。
3. 扶養的財産分与が認められる可能性はどのくらい?
実際には、裁判で扶養的財産分与が認められるケースはかなり少ないと言えます。弁護士である筆者の経験でも、扶養的財産分与をもらえたケースの大半が夫婦間の話し合いによるものです。
財産分与の額が不十分だと感じた場合は、扶養的財産分与を求めるよりは、慰謝料や婚姻費用、養育費などのほかの離婚条件で交渉をしていくほうが現実的です。
不貞をした夫が妻に対して離婚を求めた事案で、「夫が妻に対して子どもが成人するまで婚姻費用と同額の生活費を毎月支払う」という条件で離婚が成立したケースがありました。
通常、離婚すると婚姻費用は養育費に切り替わります。婚姻費用は子どもだけでなく配偶者の生活費も含まれているため、離婚後に養育費に切り替わると、もらえる金額は減ります。したがって、このケースでは、婚姻費用と養育費の差額部分が扶養的財産分与の意味合いで支払われたことになります。
このように、不貞をした配偶者からの離婚請求は子の扶養義務がなくなるまで原則認められないため、離婚の交渉に扶養的財産分与を使うこともあります。

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4. 扶養的財産分与の金額相場と期間|金額も期間もケースバイケース
扶養的財産分与の金額や期間について、裁判所は「当事者の資力、健康状態、就職の可能性等の事情を考慮して定める」としています(名古屋高裁平成18年5月31日判決)。要するに、援助する側と援助される側の双方の事情から決まります。援助する側の生活を犠牲にするような扶養的財産分与を支払うべきだという判断にはなりません。
金額の相場は、数十万円から1000万円まで幅があります。一括払いが原則ですが、婚姻費用と同額を毎月×数年間支払うかたちになる場合もあります。
金銭の給付のほかに、次のようなかたちで扶養的財産分与が行われることもあります。
自宅不動産の所有権を与える
自宅不動産の利用権を設定する
転居のための費用(敷金や礼金など)を援助する
期間は「援助される側が自立して生活できるようになるまで」が基準になるため、ケースバイケースです。離婚時の年齢や、専業主婦であった期間、資格の有無などから、就業可能性の高さによって期間が定まります。高齢の場合、「生存する限り」という定め方がされることもあります。
5. 扶養的財産分与に関する裁判例
扶養的財産分与が認められたケースと認められなかったケースを3つ紹介します。
5-1. 扶養的財産分与が認められた裁判例
【離婚の原因は夫にあると判断された事例】
東京家裁平成19年8月31日判決は、結婚16年で別居した定年を控えた夫婦の事案です。
夫は会社員のかたわら駐車場経営の会社を持っており、年収は約1430万円でした。一方、妻は結婚前に仕事を辞め、夫と別居したあとはしばらく仕事をしていたものの、裁判当時は腰痛やホルモンバランスの乱れで働けない状況でした。
夫が離婚を求めて裁判を起こしましたが、裁判所は、婚姻関係破綻の原因は夫(および義母)にあると判断しました。婚姻関係を破綻させた有責配偶者からの離婚請求は原則として認められません。しかし、裁判所は、夫が妻に扶養的財産分与を支払うことを条件に離婚を認めました。
具体的な扶養的財産分与については、すでに夫婦間の婚姻費用分担請求調停で月14万円の合意がされていることから、離婚成立後3年間分の婚姻費用額に相当する504万円の支払いを命じました。
なお、清算的財産分与はありませんでした。ほかに、婚姻関係を破綻に至らしめた慰謝料として500万円が認められています。
5-2. 扶養的財産分与が認められなかった裁判例
【妻が別居後に別の男性と同居し、パート収入も得ていた事例】
名古屋家裁平成10年6月26日判決は、内縁関係を6年続けて別居した夫婦の事例です。
夫は会社経営者、妻は専業主婦のかたわら夫の会社の社員寮の仕事を月15日程度手伝っていました。妻は財産分与として2億円の支払いを求めて訴えを起こしました。しかし、裁判所は、妻が夫と別居後に別の男性と同居を始めており、妻には月7万円のパート収入があり、同居の男性(会社員)にも月30万円の収入があることに注目して、扶養的財産分与を認めませんでした。
なお、清算的財産分与については、夫婦共有財産3700万円のうち約26%の1000万円が妻に支払われるべきであると認定されています。
【フルタイム勤務を続けていたため経済的に困窮しないと判断された事例】
東京高裁平成23年9月29日判決は、結婚9カ月で別居した40代の夫婦の事例です。
妻は派遣社員としてフルタイムで働きながら主に家事を担当しており、夫は年収540万円程度でした。妻は扶養的財産分与として300万円の支払いを求めて訴えを起こしました。
しかし、裁判所は、妻が婚姻前から派遣社員として働いており、婚姻後も仕事を辞めることなく継続し、夫と別居後も手取り13万円程度の給料を得ている事実に注目し、「離婚によって経済的に困窮する状況にあるとは認められない」として扶養的財産分与を認めませんでした。なお、当該事案では同居期間が短かったこともあって、清算的財産分与もありませんでした。
6. 扶養的財産分与の手続きや、スムーズに進めるコツ
扶養的財産分与を求める場合、まずは夫婦間で話し合いをし、合意をめざしましょう。
話し合いのコツは、「生活がいかに苦しいか」を相手にわかってもらうことです。希望する金額を伝えるうえでも、「これまでと同じ生活水準を維持できる分のお金」というよりは、「必要最低限の生活を送るためのお金(の一部)」という認識で臨んだほうが、スムーズに話を進められるでしょう。離婚をする以上、相手に頼り切る姿勢ではなく、自分も頑張ったうえでそれでも足りないという事情を丁寧に説明しましょう。
合意ができた場合、あとで「言った言わない」をめぐってトラブルにならないよう、最低でもメールやLINEなどの文面で残しておきましょう。
相手が協力してくれれば、公正証書にしておくことをお勧めします。公正証書は公務員である公証人に作成してもらう公文書で、強い証拠力をもちます。公正証書にすることで、相手が支払いを怠った場合には裁判手続きをせずに相手の財産を差し押さえられます。
夫婦での話し合いが決裂した場合は、家庭裁判所に財産分与請求調停を申し立て、調停委員を間に挟んで話し合いをします。調停でも合意ができなかったときは、審判移行して裁判官が判断を下します。
財産分与は、離婚時だけでなく、離婚後も2年間は家庭裁判所に調停や審判を申し立てて請求することができます(民法768条2項)。
7. 扶養的財産分与の期限
離婚後2年が経過してしまうと、以後は調停または審判を申し立てることができません。
この期間はいわゆる「除斥期間」と言い、「時効」と異なり期間経過によって当然に権利が消滅してしまいます。扶養的財産分与を求める場合には、余裕を持って動き出すようにしましょう。離婚後に請求できるとはいえ、有利な条件を勝ち取るためには、離婚前から話し合っておいたほうが安心です。
なお、2024年5月17日に民法改正法が成立し、財産分与の期限が「2年」から「5年」に延長されます。施行日は未定ですが、2026年5月24日までに施行予定です。自身の事案で改正前と改正後どちらの民法が適用されるかは、弁護士に相談してください。
8. 離婚後の生活が不安な場合に弁護士へ相談するメリット
扶養的財産分与は、清算的財産分与や慰謝料的財産分与と比べて認められるハードルが高いため、交渉力が必要です。弁護士に任せれば手続きを一任できます。自身で交渉を進める場合でも、裏で弁護士に相談しながら進めるほうが安心です。
また、扶養的財産分与を求めたいと考えるということは、離婚後の生活に不安があると推察されます。扶養的財産分与以外に、その不安を解消する方法がある場合もあります。離婚の話し合いを進める前に、弁護士に相談して視野や選択肢を広げることをお勧めします。
弁護士に相談することで、児童手当や児童育成手当、住宅手当、医療費助成、自立支援教育訓練給付金、寡婦控除のような離婚後の生活支援についても案内を受けられます。

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9. 扶養的財産分与に関してよくある質問
10. まとめ 離婚後の生活に経済的不安がある場合は弁護士に相談を
扶養的財産分与は比較的ハードルが高く、金額についても事案によってさまざまです。離婚前に扶養的財産分与を求める場合には、ほかの離婚条件も合わせて交渉することが求められるケースもあります。
離婚したいけれど離婚後の生活が不安な場合や、離婚はすでにしたものの養育費では生活を賄えないような場合は、弁護士に相談することをお勧めします。
(記事は2025年8月1日時点の情報に基づいています)