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1. 親権と養育権の違い
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2. 監護権(いわゆる養育権)とは
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2-1. 監護・教育権
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2-2. 養子縁組の同意権
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2-3. 居所指定権
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2-4. 職業許可権
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3. 親権と監護権(養育権)は分けられる
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4. 親権と監護権を分けるケース
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5. 親権と監護権を分けることの問題点
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5-1. 監護権者では損害賠償の請求・預金口座の作成などができない
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5-2. 監護権は戸籍に記載されない
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5-3. 養子縁組の承諾を得られない可能性がある
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6. 親権と監護権を分けるには
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6-1. 協議(話し合い)
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6-2. 調停
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6-3. 裁判
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7. 親権と監護権を分ける際の注意点
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7-1. 協議の際は監護権を証明する書類を作成する
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7-2. 親権者の面会交流について条件を決めておく
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7-3. 再婚した場合の扱いを決めておく
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7-4. 弁護士に相談する
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8. 2026年4月に導入|共同親権制度が親権と養育権に与える影響は?
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9. 親権や監護権(養育権)の問題で弁護士に相談するメリット
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10. 親権と監護権(養育権)についてよくある質問
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11. まとめ 親権と養育権を分ける場合も、弁護士への相談がおすすめ
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1. 親権と養育権の違い
親権とは、未成年の子を適切に育てるために親に認められる権利・義務の総称です。親権には「財産管理権」と「監護権」の2つがあり、財産管理権は子の財産を管理したり、契約などの法的手続きを代理したりする権限を指します。
一方、監護権とは、子と一緒に暮らし、日常生活の世話や教育を行うための権限です。監護権は「養育権」と呼ばれることもありますが、養育権は法律上の正式な用語ではありません。
親権には責任を伴う義務的な性質が強く、単なる「権利」ではないことに注意が必要です。
2. 監護権(いわゆる養育権)とは
監護権とは、未成年の子どもと一緒に暮らしながら、日常生活の世話や教育を行うために必要な権限のことです。法律上は親権の一部とされていますが、親権者と監護権者を分けるケースもあります。ここでは、監護権に含まれる主な権限について解説します。
2-1. 監護・教育権
衣食住などの身の回りのお世話をし、又は必要な教育を行うことができます(民法820条)。これは監護権者の権利であり、義務でもあります。
2-2. 養子縁組の同意権
15歳未満の子どもが養子になろうとする場合、親権者がその承諾を代わりに行います(民法797条1項)。ただし、親権者と監護権者が別に定められている場合は、監護権者の同意も必要です(同2項)。
2-3. 居所指定権
監護権者には、子どもの住む場所を決める権限(居所指定権)があります(民法822条)。これにより、親権者は子どもと同居することが可能となり、日常的な監護・教育の環境を整えることができます。
2-4. 職業許可権
未成年の子どもが働くには、監護権者の許可が必要です(民法823条1項)。また、心身の状況などから就業が適さないと判断される場合は、その許可を取り消したり、制限を加えたりすることができます(同2項)。これは子どもの健全な発育を守るための制度です。
3. 親権と監護権(養育権)は分けられる
離婚の際には、父母のいずれかを親権者として定める必要があります。多くの場合、親権者がそのまま監護権者となり、子どもの財産管理と養育の両方を担うのが一般的です。
ただし、状況によっては、親権(財産管理権)と監護権(子どもと同居して育てる権限)を別々の親に分けることも可能です。たとえば、一方の親が海外に赴任していて日常的に子どもと暮らせない場合などには、親権と監護権を分ける選択が検討されることがあります。
このように、親権と監護権は原則として一体ですが、家庭の事情によっては例外的に別々の親が分担することもあります。
4. 親権と監護権を分けるケース
親権者が子どもの財産を適切に管理できないおそれがある場合、財産管理は別の親が担い、子どもと暮らす役割はもう一方の親が担う形も検討されます。また、親権者が海外赴任などで長期間子どもと同居できない場合にも、監護権を他方の親に委ねることも考えられます。
さらに、離婚の話し合いで親権をめぐって対立が激しいとき、一時的に親権と監護権を分けることで協議が進展することも考えられます。
ただし、親権と監護権を分離させることは理論上は可能ですが、実務では非常にまれです。
親権と監護権をそれぞれ別の親が持つ場合、互いの信頼関係が不可欠です。実際には、親権を争うほど対立が深い夫婦間で、信頼を前提とした役割分担を成立させるのは難しいことが多く、裁判所でも親権と監護権の分離を認める例はほとんど見られません。弁護士としても、慎重な検討が必要なケースと言えるでしょう。
5. 親権と監護権を分けることの問題点
親権と監護権を別々の親が持つ場合には、実務上いくつかの支障が生じるおそれがあります。親権者と監護権者が十分に連携できないと、子どもの生活や将来に影響を及ぼす可能性もあるため、あらかじめ注意が必要です。
5-1. 監護権者では損害賠償の請求・預金口座の作成などができない
監護権者には、子どもの財産管理に関する権限がありません。法律上、これらは親権の一部(財産管理権)として親権者に与えられているからです。
そのため、監護権者であっても、以下のような手続きは親権者の同意なく単独で行うことができません。
子ども名義の預金口座の開設
スマートフォンの契約や住宅の賃貸契約
子どもが事故にあったときの損害賠償請求
とくに、急ぎの対応が必要な場合に親権者がすぐに連絡できない状況だと、手続きが滞ってしまうおそれもあります。
5-2. 監護権は戸籍に記載されない
子どもと一緒に暮らす監護権者であっても、その事実は戸籍には反映されません。一方、親権者は戸籍に記載されるため、公的な場面では親権者のほうが「法的な保護者」として扱われがちです。
たとえば、保育園や学校の入園・入学手続き、医療機関での説明同意などで、監護権者であることを証明する必要が出てくることがあります。その場合は、公正証書や離婚協議書などの書面を提示して証明しなければなりません。
5-3. 養子縁組の承諾を得られない可能性がある
監護権者が再婚し、再婚相手と子どもを養子縁組させたいと考えた場合でも、15歳未満の子どもの養子縁組には親権者の承諾が必要です。
監護権者としては、子どもの生活環境や家族の一体感を重視して養子縁組を希望する場合もありますが、親権者が感情的な理由などで承諾しないことも考えられます。こうした事態は、子どもにとっての安定した環境づくりを妨げる要因になりかねません。
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6. 親権と監護権を分けるには
親権者と監護権者を分けるには、当事者間の合意や家庭裁判所での手続きが必要です。ただし、実際に親権と監護権を分けることはまれであり、家庭裁判所では一体として扱うのが原則とされています。以下では、手続きごとの流れを説明します。
6-1. 協議(話し合い)
協議離婚をする際には、必ずどちらか一方を「親権者」として定める必要があります(ただし、後述のとおり、共同親権の導入後は、父母双方を親権者とすることもできるようになります)。親権と監護権を分けたいと考えた場合も、まずは当事者同士で話し合いを行い、合意することが前提です。
ただし、監護権は戸籍に記載されないため、話し合いの内容を離婚協議書や公正証書といった書面で残すことが大切です。そうすることで、監護権者であることを第三者に証明しやすくなります。
6-2. 調停
話し合いでまとまらないときは、家庭裁判所に調停を申し立てる方法があります。調停では、裁判所を通じて親権や監護権についての合意を目指します。
調停が成立すれば、その内容は調停調書に記載されます。これは法的な効力を持つ公的文書となるため、監護権者であることの証明手段としても有効です。
6-3. 裁判
調停でも合意できない場合には、家庭裁判所が最終的に親権者を判断する「審判」や「裁判」に進みます。ただし、裁判所は原則として親権と監護権を分ける判断を行いません。子どもの利益を最優先に考慮し、一体として親権者を指定するのが通例です。
そのため、裁判手続きにおいて親権と監護権を分けて判断されるのは、きわめて例外的なケースに限られます。
7. 親権と監護権を分ける際の注意点
親権と監護権を分ける場合は、あとからトラブルが起こらないように事前の取り決めや準備が重要です。協議内容を文書で明確に残すことや、将来を見越した条件設定などをしておくと安心です。
7-1. 協議の際は監護権を証明する書類を作成する
監護権者は戸籍に記載されません。つまり、親権者とは異なり、公的な書類で監護権者であることを示す手段が限られます。
そのため、親権と監護権を分けることに合意した場合は、「言った・言わない」の争いを避けるためにも、離婚協議書や公正証書といった形で文書を残すようにしましょう。これにより、保育園や学校の手続きなどでもスムーズに対応できます。
7-2. 親権者の面会交流について条件を決めておく
親権と監護権を分けた場合、親権者は子どもと一緒に暮らさないケースが一般的です。そのため、離れて暮らす親が子と会えるよう、面会交流のルールをあらかじめ定めておくことが大切です。
たとえば、面会の頻度や時間帯、場所、連絡方法などを具体的に取り決め、公正証書などに残しておくと、のちのトラブルを防ぎやすくなり、子どもにとっても安心できる環境づくりにつながります。
7-3. 再婚した場合の扱いを決めておく
監護権を持つ親が再婚し、再婚相手と15歳未満の子どもとの間で養子縁組を希望する場合でも、親権者の同意がなければ養子縁組は成立しません。
また、養子縁組が成立した場合は、再婚相手が法律上の扶養義務を負うことになるため、親権者による養育費の負担が減る可能性もあります。こうした点を踏まえ、離婚時に再婚時の取り扱いについても取り決めておくと安心です。
7-4. 弁護士に相談する
親権と監護権を分けるかどうかは、子どもの生活や将来に大きく影響する重要な問題です。当事者同士では感情的になってしまったり、法律的な見落としがあったりすることもあります。
弁護士に相談すれば、法的な観点から妥当な選択肢を提案してもらえ、協議書の作成や面会交流の調整、将来の紛争予防まで幅広くサポートが受けられます。早めに専門家の助けを借りることが、円満な解決への第一歩です。
8. 2026年4月に導入|共同親権制度が親権と養育権に与える影響は?
これまで離婚後の親権は、父母のどちらか一方を親権者として定める「単独親権」が原則でした。しかし、2024年5月に成立した民法改正により、2026年4月に離婚後の「共同親権」制度が導入される予定です。
共同親権が認められると、離婚後も父母がともに親権を持つことが可能になります。そのうえで、監護権については必ずしもどちらか一方に決める必要はなく、父母の双方が監護権を持つことも可能です。
ただし、実務上は、子どもと実際に暮らす親の方をあらかじめ「監護権者」と定めておくケースが多くなると見込まれます。その場合、監護権者ではない親権者は、相手の監護行為を妨げてはならず、子どもの教育や生活に関する日常的な行為についても制限があることに注意が必要です(民法824条の3第2項)。
共同親権は、子どもと両親との関係を維持するうえで意義のある制度ですが、制度の具体的な運用や影響は今後の議論や実務の積み重ねによって定まっていく部分も多いため、導入後の動向にも注意が必要です。
9. 親権や監護権(養育権)の問題で弁護士に相談するメリット
親権や監護権(養育権)をめぐる問題は、子どもの将来にも関わる重大なテーマです。離婚の当事者同士で話し合おうとしても、感情的になりやすく、冷静に判断するのが難しい場合もあります。
弁護士に相談すれば、冷静な第三者の立場から、法的観点にもとづいたアドバイスや交渉のサポートを受けることができます。たとえば、話し合いが難航したときは、弁護士が代理人となって相手とやりとりを行うことで、心理的な負担を大きく減らすことができます。
また、交渉がまとまらなかった場合には、そのまま調停や裁判といった法的手続きへの移行にも対応してもらえます。合意書の文案作成なども含めて、将来のトラブルを防ぐための支援が期待できます。
親権や監護権の扱いに少しでも不安がある場合は、早めに弁護士に相談することで、後悔のない判断につながる可能性があります。
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10. 親権と監護権(養育権)についてよくある質問
一概にどちらが有利とはいえません。親権は財産管理や養子縁組など重要な判断を行う権限、監護権は衣食住の世話や教育など日常的な養育を担う権限です。
子どもと暮らすことを重視するなら監護権、将来を支える財産管理を重視するなら親権の意義が大きいといえます。
大切なのは子どもの利益を優先し、自分が果たしたい役割を踏まえて判断することです。
養育費は「どちらが親権者か」ではなく、「子どもと実際に一緒に暮らしているかどうか(監護しているか)」に応じて負担が決まります。
たとえば、父親が親権者であっても、母親が子どもと一緒に暮らして養育している場合には、父親が養育費を支払う立場になります。逆に、父親が監護していれば、母親が養育費を支払うことになります。
あります。たとえば、子どもが15歳未満で再婚相手と養子縁組を希望する場合、親権者の同意がなければ手続きができません。
また、養子縁組が成立すると、再婚相手に一時的な扶養義務が生じるため、親権を持つ親がそれまで支払っていた養育費が減額されたり、免除されたりする可能性もあります。
将来のトラブルを避けるためにも、再婚時の取り扱いについては、離婚の段階であらかじめ話し合っておくのが理想的です。
11. まとめ 親権と養育権を分ける場合も、弁護士への相談がおすすめ
親権と養育権(監護権)は通常は一体で考えますが、事情によっては父母で分けることも可能です。ただし、親権と監護権を分けることで発生する法的・実務的な問題も少なくなく、慎重な判断が必要です。
子どもの将来にかかわる大切な問題だからこそ、感情的な対立を避け、冷静かつ適切に対応するためにも、弁護士への相談を検討するとよいでしょう。法律や手続きに詳しい専門家のサポートを受けることで、より納得のいく形で解決を目指すことができます。
(記事は2025年12月1日時点の情報に基づいています)