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1. 夫の借金を理由に離婚できる?
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1-1. 双方の合意があれば離婚できる
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1-2. 合意がなくても法定離婚事由があれば離婚できる
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1-3. 借金が原因で離婚が成立するケースの例
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2. 離婚した夫の借金を支払う義務はある?
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2-1. 原則支払い義務はない
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2-2. 妻に支払い義務があるケース
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3. 子どもが離婚した夫の借金を負うケースは?
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4. 借金がある夫と離婚した際の財産分与
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4-1. 夫婦共有の借金は財産分与の対象
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4-2. 個人の借金は分与の対象外
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4-3. 財産と借金を相殺して分ける例
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5. 借金がある夫と離婚する際、慰謝料や養育費は請求できる?
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5-1. 借金のみを理由とする慰謝料請求は認められにくい
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5-2. 養育費は通常どおり請求できる
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6. 夫の借金で離婚すべきかを見極める方法
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7. 夫の借金で離婚する際の注意点
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7-1. 法定離婚事由に該当する証拠を集める
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7-2. 弁護士に相談する
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8. 借金があっても夫婦生活を続ける方法
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8-1. 債務整理を検討する
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8-2. 誓約書を書いてもらう
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9. 夫の借金を理由に離婚したいと考えたときに弁護士に相談するメリット
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10. 夫の借金による離婚でよくある質問
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11. まとめ 借金で離婚するには法定離婚事由が必要
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1. 夫の借金を理由に離婚できる?
まずは「夫の借金を理由に離婚できるのか」について解説します。
1-1. 双方の合意があれば離婚できる
夫婦が同意していれば、離婚届を提出するだけで離婚は成立します。話し合いによる離婚を「協議離婚」といいます。お互いの合意があれば、「どちらに原因があるか」は特に問われません。
未成年の子どもがいる場合は、親権者をどちらにするかを必ず決める必要があります。また、養育費や財産の分け方、慰謝料などの条件についても、夫婦間の話し合いで取り決めます。
なお、2026年5月の改正民法の施行後は、離婚後の共同親権も可能になる予定です。
1-2. 合意がなくても法定離婚事由があれば離婚できる
夫婦の一方が離婚に同意しない場合でも、条件を満たせば裁判で離婚が認められることがあります。このようなケースでは、家庭裁判所に離婚訴訟を起こします。
裁判で離婚が認められるには、「法律で定められた離婚の理由(法定離婚事由)」があることが必要です。具体的には、以下のようなものが含まれます(民法770条1項)。
①不倫などの不貞行為があった
②悪意をもって生活を共にしなくなった
③生死が3年以上わからない
④回復の見込みがない深刻な精神疾患にかかっている
⑤その他、婚姻を継続するのが難しい重大な事情がある
いずれかに該当すると認められた場合、相手の同意がなくても離婚が認められる可能性があります。
1-3. 借金が原因で離婚が成立するケースの例
夫に借金があっても、それだけでは法律上の離婚理由にはなりません。ただし、⑤の「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当すると判断されれば、裁判で離婚が認められる可能性があります。
この「重大な事由」とは、夫婦関係が深刻に悪化し、修復が困難な状態を意味します。たとえば、借金により家計が破綻し、生活が困難な状況が長く続いているような場合です。
2. 離婚した夫の借金を支払う義務はある?
離婚した夫が借金を支払えなくなったとき、妻には返済を継続する義務があるのかを解説します。
2-1. 原則支払い義務はない
夫が個人的に借りたものであれば、妻に返済義務はありません。それは夫婦でも、離婚後でも同様です。ただし、借金の取り立てを受けたり、家計に影響を及ぼしたりするなど、夫の借金問題に家族が巻き込まれる場合もあります。状況に応じて専門家への相談を検討しましょう。
2-2. 妻に支払い義務があるケース
夫の借金を妻が支払わなければいけないケースはいくつかあります。
【妻が連帯保証人や連帯債務者になっている場合】
妻が連帯保証人や連帯債務者になっている場合、妻にも返済義務が生じます。代表的なのは住宅ローンです。
たとえば夫が借金をする際、妻を連帯保証人や連帯債務者にして契約したとします。その場合、夫が返済できなくなったら、妻が代わりに返済します。離婚したとしても、この返済義務はなくなりません。離婚後も引き続き責任を負うことになります。
【夫婦の生活のための借金の場合】
夫が生活費や教育費など、家庭の支出をまかなうために借金をした場合、民法761条により、妻にも返済義務が及ぶ可能性があります。これは「日常家事債務の連帯責任」と呼ばれるものです。
ただし家計とは関係のない、趣味や浪費目的での借金は日常家事に含まれないため、対象外です。
【夫が妻名義で勝手に借金をした場合】
夫が無断で妻の名前や署名を使って借金をした場合、形式上は妻が債務者とされ、返済を求められます。しかし、妻の同意がなければその契約は無効と主張できます。裁判で無効が認められれば、妻が返済する必要はありません。
3. 子どもが離婚した夫の借金を負うケースは?
父親が亡くなった場合、子どもは相続人になりますが、連帯保証人などになっていなければ、父の借金を返済する必要はありません。ただし、父の財産を相続すると、借金も一緒に引き継ぐことになります。
親の借金を引き継ぎたくない場合は、「相続放棄」という手続きをすれば返済義務はなくなります。ただし、相続放棄をするとプラスの財産も一切受け取れなくなる点に注意が必要です。
4. 借金がある夫と離婚した際の財産分与
借金がある夫と離婚する場合、財産分与の仕方を調整する必要があるかもしれません。考えられる財産分与の方法などを解説します。
4-1. 夫婦共有の借金は財産分与の対象
財産分与は、原則として夫婦が一緒に築いた「プラスの財産」を分け合う制度です。そのため、通常借金は分与の対象になりません。ただし、生活費や住宅ローン、教育ローンなど、夫婦の共同生活のために作った借金であれば、たとえ夫名義であっても財産分与の対象になる可能性があります。
4-2. 個人の借金は分与の対象外
ギャンブルや浪費、個人事業の失敗など、夫が個人的に作った借金は、基本的に妻が責任を負うものではありません。そのため、こうした借金は財産分与の際にも考慮されません。
4-3. 財産と借金を相殺して分ける例
一例として、夫名義の財産が1,000万円あり、夫婦の生活のためにした借金が300万円ある場合、
この300万円は財産分与の対象になります。
そのため、1,000万円から借金分の300万円を差し引いた700万円を、夫婦で分け合うことになります。差し引いた300万円は、借金返済に充てられます。
5. 借金がある夫と離婚する際、慰謝料や養育費は請求できる?
夫の借金が原因で離婚する場合、慰謝料や養育費を請求できるのかについて解説します。
5-1. 借金のみを理由とする慰謝料請求は認められにくい
夫に借金があるだけでは、慰謝料が認められることはほとんどありません。ただし、ギャンブルや無駄遣いによる借金で家計が破綻し、夫婦関係が壊れていたような場合は、慰謝料が認められる可能性があります。
なお、離婚後に夫が自己破産すると、夫の慰謝料の支払い義務も免除されて受け取れなくなるおそれがあります。そのため、慰謝料よりも財産分与で多く受け取る方法を検討するのがおすすめです。財産分与の支払いは、自己破産をしても基本的に支払い義務が免除されないからです。
5-2. 養育費は通常どおり請求できる
夫が自己破産した場合でも、養育費は免責の対象になりません。そのため、引き続き支払いを求めることが可能です。ただし、夫の収入が大きく減っている場合には、離婚後に養育費の減額を申し立てられる可能性もあります。
養育費の支払いを確実にするには、離婚時に公正証書を作成しておくのがおすすめです。不払いがあった場合でも、裁判を経ずに夫の給与や財産を差し押さえることができます。
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6. 夫の借金で離婚すべきかを見極める方法
夫の借金で離婚すべきかどうかの判断にはいくつかのポイントがあります。
夫の借金を許せるかどうか
借金が現実的に返済可能かどうか
夫が反省しているかどうか
これらの点をよく検討したうえで、離婚するか判断するとよいでしょう。夫を許す気持ちは、今後も夫婦としてやっていくうえで重要です。ただし、夫に反省の様子が見られない場合は、再び借金を繰り返すおそれもあります。現実的に今後も夫婦生活を続けられそうか、冷静に判断することが大切です。
7. 夫の借金で離婚する際の注意点
夫の借金が原因で離婚する際、焦って進めると離婚条件が不利になるおそれがあります。自分に有利な条件で離婚するには、証拠の確保や専門家への相談が重要です。
7-1. 法定離婚事由に該当する証拠を集める
夫が離婚に応じない場合は、最終的に裁判での解決を目指すことになります。その際には「法定離婚事由」と、それを裏付ける証拠が必要です。
借金を理由に離婚を求める場合は、金銭消費貸借契約書や請求書など、借金の存在を示す資料が重要になります。こうした証拠は別居後すると入手しづらくなるため、同居中にできるだけ集めておきましょう。
7-2. 弁護士に相談する
離婚を有利に進めたいと考えているなら、弁護士へ相談することをおすすめします。証拠の集め方や進め方のアドバイスが受けられるだけでなく、協議離婚・調停・訴訟などの手続きを任せることも可能です。
結果として、離婚が認められる可能性が高まったり、慰謝料や財産分与で有利に交渉できたりする場合もあります。
8. 借金があっても夫婦生活を続ける方法
借金の原因や夫の態度、家計の状況などを踏まえ、夫婦で協力して生活を立て直す選択肢もあります。ここでは、夫婦関係を維持するために考えられる対応策を紹介します。
8-1. 債務整理を検討する
債務整理で夫の借金問題を解決できる可能性があります。債務整理とは、借金を減額したり、支払い計画を見直したりする手続きのことです。
債務整理は主に以下の3種類があります。
任意整理:借入先と交渉し、利息や遅延損害金をカットできる手続き
個人再生:裁判所を介して、借金を最大10分の1まで減額できる手続き
自己破産:裁判所を介して、借金の返済を免除できる手続き
現在の収入で無理なく返済できるなら、任意整理が選ばれることが多いです。返済が難しい場合は、個人再生や自己破産を検討します。なお、自己破産をすると自宅を失う可能性があります。自宅を残したい場合は、個人再生を選ぶことで、住宅ローン以外の借金を減額できる可能性があります。
どの方法が最適かは状況によって異なるため、早めに弁護士に相談してアドバイスを受けることをおすすめします。
8-2. 誓約書を書いてもらう
夫が今後借金をしないように、誓約書を書いてもらうのも一つの方法です。たとえば、「クレジットカードを今後持たない」など、具体的なルールを文書にしておくことで、本人の意識改善が期待できます。
誓約書には法的な強制力はありませんが、合意の証拠として一定の効果を持つことがあります。
9. 夫の借金を理由に離婚したいと考えたときに弁護士に相談するメリット
夫の借金が原因で離婚を考える場合、ひとりで判断せずに弁護士に相談することをおすすめします。専門家に相談すれば、法的リスクを避けつつ、有利に離婚を進められます。
具体的なメリットは以下のとおりです。
離婚後に借金を背負わないための対策ができる
財産分与・慰謝料・養育費の交渉を任せられる
離婚を認めてもらうための証拠集めをサポートしてもらえる
調停や裁判の手続きを代行してもらえる
DVやモラハラから法的に保護してもらえる
離婚後の生活設計についても助言が受けられる
悩んでいるときこそ、専門家のサポートが大切です。問題解決に向かうだけでなく、精神的ストレスも軽減できます。
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10. 夫の借金による離婚でよくある質問
金額の基準はありません。どれだけ借金が多くても、返済できるのであれば問題ないです。
借金が多くなくても、生活に支障をきたすのであれば、離婚も選択肢に入ります。
原則として、夫の借金を妻が返す必要はありません。ただし、妻が連帯保証人の場合や、生活費のための借金だった場合は、返済義務が残ることもあります。
お互いが納得すれば、理由に関係なく離婚は可能です。もし夫が借金を隠して結婚し、それが原因で結婚生活に支障が出ている場合は、裁判でも離婚が認められる可能性があります。
11. まとめ 借金で離婚するには法定離婚事由が必要
夫の借金が理由でも、夫婦の合意があれば離婚は可能です。しかし、相手が離婚に応じない場合、最終的に裁判で決めることになります。その際は借金によって夫婦関係が破綻していることを示す証拠が求められます。
借金があるという理由だけでは離婚は認められにくいため、具体的な状況や経緯を踏まえた主張が重要です。離婚を有利に進めるには、早い段階で弁護士に相談し、法的な助言や証拠収集のサポートを受けることをおすすめします。
(記事は2025年11月1日時点の情報に基づいています)