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1. 事実婚とは
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1-1. 婚姻届を提出せず、実質的には夫婦同然である状態
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1-2. 事実婚と法律婚、同棲|定義の違い
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1-3. 事実婚カップルの割合は?
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2. 事実婚のメリット
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2-1. 姓の変更が不要(夫婦別姓)
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2-2. 関係を解消しても戸籍に記載されない
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2-3. 健康保険や厚生年金の被扶養者になれる
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2-4. 両親・親戚と距離を保てる
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2-5. 不妊治療についても法律婚と同様の助成が受けられる
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3. 事実婚のデメリット
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3-1. 子どもが非嫡出子になる
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3-2. 母親の単独親権になる
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3-3. 相続権がない
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3-4. 配偶者控除がない
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3-5. 勤務先で家族手当などが受けられない可能性
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4. 同性同士でも事実婚は認められるか?
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4-1. パートナーシップ制度とは
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4-2. 同性婚訴訟で続く「違憲」判断
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5. 事実婚と証明するための手続き
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6. 事実婚を解消するとどうなる?
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7. 事実婚について弁護士に相談するメリット
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7-1. 事実婚を選ぶとき|公正証書作成サポート
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7-2. 事実婚を解消するとき|解消条件について代理交渉など
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8. 事実婚に関するよくある質問
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9. まとめ 事実婚を選ぶなら法的リスクの把握と事前準備が大切
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1. 事実婚とは
婚姻届を出さずに、実質的に夫婦のような生活を続ける関係は「事実婚」と呼ばれています。法律婚とは異なり、戸籍上の記載はありませんが、一定の条件を満たすことで法的な保護が受けられる場合もあります。
法律婚との違いや、同棲との区別、事実婚カップルの割合などについて整理します。
1-1. 婚姻届を提出せず、実質的には夫婦同然である状態
事実婚とは、婚姻届を提出していなくても、夫婦と同じように生活をともにしている関係を指します。法律上は「内縁関係」とされ、一定の要件を満たしていれば、法律婚に準じた扱いを受けることがあります。
具体的には、次のような事情があると、事実婚であると認められる可能性があります。
法律婚の夫婦と同様の生活実態がある(目安として3年以上の同居)
社会的に夫婦として認識されている(住民票に「未届の妻(夫)」と記載されている、事実婚を証明する公正証書を作成している、パートナーシップ制度の利用など)
子どもの認知をしている、あるいは養子縁組をしている
これらの要素がそろっていれば、法律上も「事実婚」として認められる可能性が高くなります。ただし、婚姻届を提出していない以上、法律婚とは異なる扱いになる点には注意が必要です。
1-2. 事実婚と法律婚、同棲|定義の違い
事実婚・法律婚・同棲の違いは、婚姻届の提出の有無や婚姻の意思があるかどうかで区別されます。
【法律婚】
婚姻届を提出し、戸籍にも正式な夫婦として記載されている状態
【事実婚】
婚姻届を出していないが、夫婦と同じような共同生活を営み、婚姻の意思もある関係
【同棲】
婚姻の意思を持たず、形式的な届出もせずに共同生活を送っている状態
法律婚と事実婚では法律上の取り扱いに大きな差があるため、両者の違いを正しく理解することが重要です。
1-3. 事実婚カップルの割合は?
事実婚を選ぶ人は少しずつ増えているものの、まだ多数派とはいえません。内閣府の調査(2021年度)では、「婚姻届は出していないが、夫婦のように暮らしている」と答えた人は全体の2~3%にとどまっています。多くの人が法律婚を選択していることがわかります。
ただ、姓を変えたくない、結婚という形式にとらわれたくないといった理由から、若い世代を中心に事実婚への関心は高まりつつあります。今後は、こうした多様な生き方に制度がどこまで対応できるかが課題となりそうです。
2. 事実婚のメリット
事実婚には、姓を変えずに生活できる、戸籍に履歴が残らないといった特徴があります。健康保険や年金制度で配偶者と同様に扱われることもあり、法的な面でも一定のメリットがあります。ここでは、事実婚を選ぶ利点について整理します。
2-1. 姓の変更が不要(夫婦別姓)
法律婚では、婚姻にあたって夫婦のどちらかの姓を選ぶ必要があり、いずれかが改姓するのが一般的です。一方、事実婚であれば婚姻届を提出しないため、それぞれが元の姓のまま生活を続けることができます。
改姓にともなう各種手続きの手間を避けられるだけでなく、職業上の名前を変えずに済むといった実務上の利点もあります。
2-2. 関係を解消しても戸籍に記載されない
法律婚では、婚姻や離婚の事実が戸籍に記載されます。これに対して、事実婚は婚姻届を出していないため、関係を解消しても戸籍上に履歴が残ることはありません。
戸籍に離婚歴を記載されたくないと考える人にとっては、この点が事実婚のメリットとなる場合があります。ただし、法律婚と異なり、関係の存在を示す公的な記録が残らないことには注意が必要です。
2-3. 健康保険や厚生年金の被扶養者になれる
一定の条件を満たしていれば、事実婚の相手でも健康保険や厚生年金で配偶者と同様の取り扱いを受けられる場合があります。たとえば、健康保険の被扶養者として認定されることで、保険料の負担を抑えつつ医療サービスを受けることが可能になります。
また、内縁関係にある配偶者が亡くなった場合、状況によっては遺族年金を受け取れるケースもあります。
2-4. 両親・親戚と距離を保てる
法律婚では、配偶者の両親などと義理の親族関係が生じますが、事実婚ではそのような法的つながりはありません。
親戚づきあいを負担に感じている人にとっては、相手の家族と距離を保ちやすいという利点があります。法的な義務や関係が生まれないことも、事実婚を選ぶ理由のひとつです。
2-5. 不妊治療についても法律婚と同様の助成が受けられる
事実婚でも、条件を満たせば不妊治療の助成を受けられることがあります。厚生労働省の通達では、住民票が同一世帯であることや、関係を示す書類の提出などを要件に、法律婚と同様の扱いを認めています。
助成の内容や手続きは自治体によって異なるため、事前に確認しておくと安心です。
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3. 事実婚のデメリット
事実婚は自由な形で生活をともにできる反面、法律婚とは異なる扱いを受けることがあります。とくに子どもの扱いや相続、税金の制度では違いがあり、不利益を感じる場面もあります。ここでは、事実婚を選ぶときに知っておきたい注意点を整理します。
3-1. 子どもが非嫡出子になる
事実婚のカップルのあいだに子どもが生まれた場合、その子は民法上「非嫡出子(ひちゃくしゅつし)」とされます。これは、法律上の婚姻関係がない男女の間に生まれた子どもという意味です。
いわゆる「正式に結婚している夫婦」の子どもは「嫡出子」と呼ばれ、出生と同時に父母双方の子どもと認められます。
認知がされていれば、相続においては嫡出子と同じ取り扱いになり、相続分に差はなく、法的な不利益もありません。ただし、「非嫡出子」という記載が戸籍に残ることから、その表記に抵抗を感じる人も少なくありません。
3-2. 母親の単独親権になる
事実婚のもとで生まれた子どもは、原則として母親の単独親権になります。父親が認知していても、そのままでは親権は発生せず、家庭裁判所に届け出て両親が合意する必要があります。
手続きをしなければ、父親が子どもの進学や医療の場面で意思表示できないこともあるため、希望がある場合は早めに対応しておくと安心です。
3-3. 相続権がない
事実婚のパートナーには、法律上の相続権がありません。財産を残したい場合は、遺言書などで遺贈の意思をはっきりさせておく必要があります。
ただし、法律婚のような配偶者控除などの特例は使えないため、相続税の負担が重くなることがあります。ほかの相続人との間で調整が必要になるケースもあるため、早めに準備しておくことが大切です。
3-4. 配偶者控除がない
税金の面でも、事実婚のパートナーは「配偶者」として扱われません。そのため、所得税や住民税における配偶者控除や配偶者特別控除を受けることができません。
生活実態が法律婚と変わらなくても、税金の負担が重くなることがあります。とくに共働きではない家庭では、影響が大きくなる傾向があります。
3-5. 勤務先で家族手当などが受けられない可能性
事実婚のカップルについては、勤務先の制度によって扱いが分かれます。法律婚と同様に家族手当や休暇制度を認める企業もありますが、婚姻届を提出していないことを理由に対象外とされるケースもあります。
実態に応じた対応をする企業も増えていますが、制度の内容は会社ごとに異なるため、事前に確認しておくと安心です。
4. 同性同士でも事実婚は認められるか?
近年、同性カップルの生活のかたちは少しずつ社会に認められつつあります。ただし、法制度の上では、異性のカップルと同じように扱われるわけではありません。ここでは、同性カップルが利用できる制度や、現在の法的な課題について整理します。
4-1. パートナーシップ制度とは
パートナーシップ制度は、同性カップルを公的に認めるために一部の自治体が導入している仕組みです。届出をすると証明書が交付され、病院での面会や公営住宅への入居などで家族に近い扱いを受けられることがあります。
ただし、法的な効力はないため、婚姻関係としては認められておらず、相続や税金、親権などは法律婚とは異なる扱いになり、異性の事実婚と同じ保護が受けられるわけではありません。
4-2. 同性婚訴訟で続く「違憲」判断
同性婚が認められていないのは、民法や戸籍法が異性間の結婚を前提としているためです。これに対し、「憲法に違反する」として、全国で国を相手取った訴訟が起こされています。
2023年以降は、高等裁判所で3件続けて「違憲」または「違憲状態」とする判決が出ており、裁判所も制度の問題点を認める流れが続いています。最高裁の判断はまだ出ていませんが、今後の法改正や司法の動きに注目が集まっています。
5. 事実婚と証明するための手続き
事実婚は婚姻届を出さないため、関係を証明するには別の方法が必要になります。書類や制度を活用することで、第三者に対して関係の実在性を示すことができます。主な手続きは次のとおりです。
【住民票の備考欄に「未届の妻(夫)」と記載してもらう】
同一世帯であれば、関係を住民票上に反映することができます。役所に申し出が必要です。
【パートナーシップ制度を利用する】
一部自治体で導入されている制度で、証明書の交付を受けられる場合があります。法的効力はありませんが、病院での対応などで役立つことがあります。
【公正証書を作成する】
関係継続の意思や財産分与の合意などを文書にしておくことで、事実婚の実態を明確にできます。
【子どもの認知・養子縁組を行う】
父親が認知をすることで、法的な親子関係が成立します。必要に応じて養子縁組をするケースもあります。
【遺言書を作成する】
事実婚のパートナーに財産を残したい場合は、遺言で意思を明確にしておくことが重要です。
これらの手続きを通じて、関係の継続性や法的保護を補完することが可能になります。
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6. 事実婚を解消するとどうなる?
事実婚を解消する際も、夫婦同然の生活をしていたことが証明できれば、法律婚に近い扱いが認められることがあります。たとえば、ふたりで築いた財産は共有財産とみなされ、財産分与の対象になることや、不貞行為があった場合には、慰謝料を請求できる場合もあります。
年金については、第3号被保険者として届出をしていれば、離別後に年金分割が認められることがあります。また、子どもがいる場合、父親が認知していれば、養育費の請求も可能です。
こうした権利を主張するには、事実婚であったことを示す証拠が必要です。トラブルを避けるためにも、日ごろから記録や書面を整えておくことが大切です。
7. 事実婚について弁護士に相談するメリット
事実婚は法律婚と異なり、制度上のサポートが十分ではない場面もあります。公的な証明を整えたり、解消時の条件を決めたりするには、法律の知識が必要になることもあります。こうした手続きに不安がある場合は、弁護士に相談することで、より安心して進められるでしょう。
7-1. 事実婚を選ぶとき|公正証書作成サポート
事実婚を始める際は、後のトラブルを防ぐためにも、関係を証明できる書面を準備しておくと安心です。たとえば、公正証書を作成すれば、同居や生活費の分担、財産の扱いなどを明確に残すことができます。
弁護士に相談すれば、必要な内容の整理や文案の作成、公証役場との調整までサポートが受けられます。関係の証明が必要になる場面に備えて、準備しておくことが大切です。
7-2. 事実婚を解消するとき|解消条件について代理交渉など
事実婚の解消時には、お金の問題や子どもの養育費などで意見が分かれることがあります。話し合いが難しいときは、弁護士に代理交渉を依頼することで、冷静に手続きを進められます。
また、合意内容をまとめた離婚協議書や、公正証書の作成も弁護士が対応可能です。専門的なサポートを受けることで、関係の整理をよりスムーズに進められるでしょう。
8. 事実婚に関するよくある質問
住民票で同じ住所に登録されているか、公正証書があるか、パートナーシップ制度を利用しているかなどが判断材料になります。
長い付き合いでも別居している場合には事実婚としては認められません。法律上の夫婦と同様に、共同生活の継続が前提となります。婚姻の意思をもって5年以上継続して共同生活しているような場合には事実婚と認められやすいです。
事実婚が法律婚より優遇されている点は特になく、「ずるい」という批判は当てはまりません。
事実婚であっても、法律婚と同様、夫婦の相互に貞操義務があります。そのため、他の異性と浮気をした場合、慰謝料請求の対象となります。
事実婚にも法律の保護があるため、簡単に別れられるとは限りません。離婚と同様の正当な理由がなければ、関係の解消が認められないこともあります。配偶者が不貞行為をした場合には慰謝料請求が可能です。また、財産分与請求も可能です。
9. まとめ 事実婚を選ぶなら法的リスクの把握と事前準備が大切
事実婚には、姓の変更が不要であったり、戸籍に離婚歴が残らないといった利点があります。一方で、相続権がない、税制上の控除が受けられないなど、法律婚とは異なる点も多く存在します。
事実婚を選ぶ際は、公正証書の作成や遺言の準備など、将来に備えた対策が重要です。また、関係解消時のトラブルを防ぐためにも、必要に応じて弁護士に相談しながら進めることが望ましいでしょう。
(記事は2025年11月1日時点の情報に基づいています)