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1. 契約結婚とは
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1-1. 婚姻生活に関する契約を結んでから結婚すること
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1-2. 通常の結婚や事実婚、偽装結婚との違い
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2. 契約結婚のメリット
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2-1. 結婚前にお互いの価値観を共有できる
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2-2. 良好な夫婦関係を築きやすい
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2-3. 離婚時のトラブルを防ぎやすい
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3. 契約結婚のデメリット
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3-1. 結婚後に気持ちが変わる可能性がある
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3-2. 契約に違反した場合はすぐに離婚となりやすい
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3-3. 周囲から理解を得られにくい
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4. 契約結婚の手続き・流れ
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4-1. 契約結婚の意向を相手に伝え、合意を得る
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4-2. 結婚契約書を交わす
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5. 結婚契約書のポイントとひな型
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5-1. 取り決めておきたい事項
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5-2. 結婚契約書のサンプル
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6. 契約結婚でトラブルになることはある?
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6-1. 契約内容に耐えきれないケース
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6-2. 家庭事情や経済状況が変化したケース
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7. 契約結婚は弁護士に相談すべき?
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8. 契約結婚でよくある質問
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9. まとめ 結婚契約書は弁護士にチェックしてもらおう
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1. 契約結婚とは
1-1. 婚姻生活に関する契約を結んでから結婚すること
契約結婚とは、婚姻をしようとする者が婚姻前に、婚姻生活などについて契約を締結して結婚することを指します。内容は、婚姻する2人が話し合って合意を得ることになりますが、一般的には「生活費の分担」「家事の役割分担」「子どもの教育方針」「親族との付き合い方」「離婚の条件」などについて決めます。
1-2. 通常の結婚や事実婚、偽装結婚との違い
「契約結婚・通常の結婚・事実婚・偽装結婚」の違いを表で確認しましょう。
契約結婚 | 通常の結婚 | 事実婚 | 偽装結婚 | |
---|---|---|---|---|
婚姻の届出 | あり | あり | なし | あり |
婚姻の意思 | あり | あり | あり | なし |
婚姻生活等に ついての 契約の有無 | あり | なし | なし (※) | なし |
その他 | 契約の内容を 登記することも ある | 財産関係に ついては 民法が定める とおりとなる | 相続権が ない | 公正証書 原本不実 記録罪 (刑法157条)などが 成立する |
通常の結婚では、下記の3点について、「法律」に従うことになります。
婚姻中の生活費などの分担
日用品の購入などの日常の家事に関する連帯の責任
夫婦間の特有財産・共有財産の所有権
ここで言う「法律」とは、民法760条「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」を指しています。
一方、契約結婚では、契約次第で自由に決められます。ただし、結婚する前に契約しておかなければ法的な効力がありませんので、注意しましょう。
事実婚は、婚姻の意思、すなわち夫婦になる意思があるものの、婚姻届を提出していない結婚形態をいいます。婚姻の届出の有無の点で、契約結婚とは異なります。
偽装結婚は、婚姻の届出はあるものの、婚姻の意思がないものをいいます。婚姻の意思の有無の点で、契約結婚とは異なりますが、偽装結婚については、公正証書原本不実記録罪(刑法157条)などの犯罪が成立し得ます。
2. 契約結婚のメリット
契約結婚には、主に3つのメリットがあります。
2-1. 結婚前にお互いの価値観を共有できる
通常の結婚においても、結婚後の生活について話すことはあると思いますが、契約結婚においては、家事・育児・生活費の分担などの結婚生活での具体的な内容をきちんと話し合った上で契約を締結することになります。契約締結に向けた話し合いの中で、これらについてお互いの考えを結婚前に共有できます。
2-2. 良好な夫婦関係を築きやすい
結婚後の生活内容等について、あらかじめ合意してから結婚をするため、合意した事柄について言い争いが減ることが期待できます。このように、あらかじめ定めた契約内容に沿ってお互いが行動するようになるので、対等で良好な関係を築きやすいといえます。
2-3. 離婚時のトラブルを防ぎやすい
契約結婚では、財産分与などの離婚に際しての条件についても定めるのが通常ですので、万が一離婚することになったとしても、契約の内容に基づいて離婚を進めることとなり、離婚の条件を巡るトラブルを防ぎやすくなります。
3. 契約結婚のデメリット
メリットばかりではありません。契約結婚を検討しているのであれば、デメリットも事前に把握しておきましょう。
3-1. 結婚後に気持ちが変わる可能性がある
結婚後、価値観の変化や夫婦関係の変化などに伴い、契約した内容を変更したいと考えることもあるでしょう。しかし、結婚前に合意した夫婦の財産関係の契約については、結婚後に、契約内容を変えることはできません(民法758条)。財産関係の契約とは、以下のものを指します。
婚姻中の生活費などの分担
日用品の購入などの日常の家事に関する連帯の責任
夫婦間における特有財産や共有財産の所有権
夫婦の財産関係以外の点については、結婚後であっても契約内容を変更することは可能ですが、気持ちが変わるたびに契約書を書き直すなどして契約内容を変更するのは労力がかかってしまいます。
3-2. 契約に違反した場合はすぐに離婚となりやすい
契約を締結した場合、その契約内容は守られるべきという意識が強くなるため、契約違反があった場合には、そのことについて夫婦間でトラブルになる可能性があり、場合によっては離婚となってしまう可能性もあります。
なお、裁判で認められる離婚原因は、「浮気」や「3年以上の生死不明」、「強度の精神病で回復の見込みがない」など、民法770条1項で定められています。夫婦間での契約が守られなかったとしても、民法770条1項に触れない限り、裁判で離婚が認められる可能性は低いでしょう。
3-3. 周囲から理解を得られにくい
結婚前に婚姻関係等について契約を締結することは稀である一方で、契約内容としては離婚条件を定めておくのが通常です。そのため、離婚の可能性を見据えた上で結婚することに心理的抵抗を感じることが多いものと思われます。そのような中であえて契約結婚をすることについて、両親や親族などから理解を得ることはなかなか難しいでしょう。

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4. 契約結婚の手続き・流れ
4-1. 契約結婚の意向を相手に伝え、合意を得る
契約結婚をする場合には、まずは相手から同意を得ることが不可欠です。
もっとも、契約結婚では、財産分与等の離婚の条件についても定めることが通常ですので、結婚相手としても、これから結婚しようとしているのに離婚する際の条件を考えることに心理的抵抗を感じることもあるでしょう。また、契約結婚は一般的ではないため、結婚相手が、契約を締結する必要性に疑問を持つこともあると思います。
しかし、契約結婚は必ずしも離婚の条件についてのみ契約を締結するものではありません。むしろ、婚姻生活のあり方などを事前に話し合い、明確にしておくことで、結婚後のトラブルを減らして夫婦関係を良好なものとすることができるものです。
結婚相手への伝え方を誤ってしまうと、結婚相手に不信感を持たれてしまう可能性があります。契約結婚をしようとするに至った動機などについての自身の考えを慎重に伝える必要があるでしょう。
4-2. 結婚契約書を交わす
契約結婚では、婚姻届を提出する前に契約をする必要があります。契約の方法については特に決まりがないため、口頭でも契約が成立し得ますが、契約内容が不明確になってしまうので、契約書を作成するべきです。契約書に当事者が署名・押印をすれば、有効な契約書として認められ得ます。
5. 結婚契約書のポイントとひな型
5-1. 取り決めておきたい事項
結婚契約書において、取り決めておきたい事項としては、まず、離婚条件が挙げられます。離婚時の条件が実際に問題となる場面においては、夫婦双方の感情が対立している可能性が高いため、必ずしも話し合いで解決するとは限りません。そのため、可能な限り詳細に内容を決めておく必要があるでしょう。
離婚条件の中で、特に重要と思われるのが、財産分与です。そもそも、夫婦の財産は、特有財産と共有財産があり、財産分与の対象となるのは共有財産のみです。どのような財産を共有財産とするかは定めておいたほうがいいでしょう。また、特有財産の一部を共有財産に組み入れる旨を定めることもあります。
財産分与の比率は、5:5が通常ですが、6:4とするなど傾斜もつけることもできます。ただし、極端に一方に多くの比率を認める内容は公序良俗(民法90条)に反し、無効となる可能性がある点に注意が必要です。
離婚条件の一つとして、不貞行為などの離婚原因を作った者が一定の金額の慰謝料の支払義務を負うことを定めることもあります。慰謝料の金額は事案によって評価が異なるため、事前に金額を明確にしておくことに意義があります。ただし、著しく高額な内容の場合、公序良俗に反し、無効となる可能性がある点に注意が必要です。
ちなみに、一定の金銭を支払うことで自由に離婚することができるといった内容を定めることも考えられますが、このような「離婚という身分関係を金銭の支払いによって決めること」は公序良俗に反し無効となる可能性があります。
また、家事の分担、家計の管理方法、子どもの教育方針についても定めておくべきです。なお、例えば、性交渉を最低でも週1回行う旨の定めを設けることも考えられますが、性交渉を行うか否かは本人の意思が尊重されるべきものなので、契約によって強制はできないと考えられます。
その他、皿洗いをしなかった場合に一定の違約金の支払い義務を定めることも考えられますが、金額にもよりますが、違反の軽微さに比して過大な制裁を科すものとして公序良俗に違反する可能性が高いでしょう。
5-2. 結婚契約書のサンプル
結婚契約書のサンプルを紹介します。なお、後述のとおり、契約結婚をご検討される場合には、弁護士にその内容を相談すべきであると考えます。
婚前契約書
●●●●(以下「甲」という。)及び●●●●は、以下のとおり合意したので、本契約書2通を作成し、甲及び乙は、それぞれ署名・押印の上、各1通を保有する。
第1条(目的)
本契約書は、甲及び乙が、その財産関係その他婚姻生活上遵守すべき事項について取り決めておくことにより、もって夫婦関係の良好な発展を図るとともに、やむを得ず離婚に至る場合においても、その条件について定めておくことで、円満な解決を図ることを目的とするものである。
第2条(婚姻の届出)
甲及び乙は、令和●年●月●日限り、甲及び乙で共に●●役所に婚姻届を提出するものとする。
第3条(特有財産)
甲及び乙の特有財産は、甲について別紙1、乙について別紙2で定めるもののほか、各自が婚姻前から有する財産、婚姻中相続、又は贈与によって得た財産、及び特有財産の代替物とする。
2 特有財産については、各自、使用収益、管理及び処分をすることができる。
第4条(共有財産)
甲及び乙が別居又は離婚するまでの間に取得した財産については、特有財産に該当するものを除き、共有財産とする。
第5条(債務)
甲又は乙が、日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、これによって生じた債務について、その法律行為をした者が単独でその責任を負う。
第6条(財産分与)
甲及び乙が離婚する場合、共有財産のみを財産分与の対象とする。
2 財産分与の割合は、各自2分の1ずつとする。
第7条(親権者)
甲及び乙の離婚後における子の親権者は、甲及び乙の協議によって定めるものとする。
第8条(養育費)
甲及び乙の離婚後における子の養育費については、子が満22歳となる日が属する月まで、甲及び乙が協議の上決定した金額を、非監護親が監護親に対して毎月支払うものとする。
第9条(協議)
甲及び乙は、本契約書に定めのない事項及び本契約書の内容の解釈については、本契約書の趣旨に従い、両当事者間で誠実に協議を行った上で、これを解決するものとする。
第10条(管轄)
本契約に関連する一切の紛争については、相手方の住所を管轄する地方裁判所又は家庭裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
令和●年●月●日
(甲)
住所 ●●●●
氏名 ●●●●
(乙)
住所 ●●●●
氏名 ●●●●
6. 契約結婚でトラブルになることはある?
契約結婚のメリットとして「離婚時のトラブル回避」を挙げましたが、契約結婚を結んだがゆえにトラブルになることもありえます。
6-1. 契約内容に耐えきれないケース
結婚前に契約を結んだが、いざ結婚生活が始まったときに、その内容に耐えきれないケースでは、トラブルに発展することがあります。
例えば、「お互いの性行為について干渉し合わない」と記載していたにもかかわらず、結婚相手が他の異性と肉体関係を持ったケースなどです。
民法770条1項1号では、配偶者に不貞行為、すなわち、異性との肉体関係があった場合には離婚の原因として認められるという旨が定められています。しかし、「お互いの性行為について干渉しあわない」という婚前契約を結んでいるのであれば、不貞行為があったとしても離婚はできないとも考えられます。
実際のところ、「お互いの性行為について干渉し合わない」という合意は公序良俗に反しているため無効となり、離婚が認められたことがあります(東京高判平成26年6月12日判時2237号47頁)。
6-2. 家庭事情や経済状況が変化したケース
婚前契約で定められていた財産分与や慰謝料の金額、親の介護についての取り決めなどがその後の事情や経済状況が変わったことにより十分に対応できなくなる場合があります。この場合においても原則としては婚前契約の内容が有効として遵守されるべきものとなるので、夫婦間の話し合いにより婚前契約の一部を解除した上で、新たな契約を締結し直す必要があります。
ただし、財産分与に関しては、結婚前に合意した夫婦間における特有財産及び共有財産の帰属(民法762条)について、結婚後に、その契約内容を変更することはできませんので、注意が必要です。
7. 契約結婚は弁護士に相談すべき?
結婚契約は、インターネット、契約書のひな型や解説などが掲載されたサイトで見つけられます。そのため、自ら契約書を作成することも可能です。しかし、契約書のひな型はあくまで一般的な条項を定めているだけなので、そのまま使用することはできません。少なくとも、ある程度は自らの手で書面の内容を修正する必要があります。
自分で契約書を作成した場合、契約書の条項の有効性等に疑義が生じてしまうと、契約を締結した意味がありません。そのため、契約内容が法的に問題ないかについて、弁護士に相談することは必須といえるでしょう。また、インターネット上の契約書の雛形を用いると、どうしても雛形の条項に引っ張られてしまうので、弁護士に、一から契約書を作ってもらうことを依頼するとより安心です。

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8. 契約結婚でよくある質問
契約結婚は、婚姻の意思のある者同士が婚姻の届出を行う点では、通常の結婚の場合と同様であり、婚姻後の生活などについて事前に契約を締結しておくという点で違いがあるにすぎませんので、違法ではありません。ただし、夫婦の一方に著しく不利な内容が定められているなど、公序良俗に反する内容が定められている場合には、その部分については無効となります。
結婚契約には期限等を定めることができますので、1年という期限を定めた上で、同内容で更新することができる旨を契約書に記載することもできます。この場合、更新をするたびに新たに契約書を作成することは面倒ですので、一定の期限までに書面で更新をしない旨を結婚相手に通知しない限り、自動的に契約を更新する旨定めておくとよいでしょう。
単に契約書を作成するだけでなく、契約内容を公正証書化することも考えられますが、実際には、結婚契約の内容を公正証書にすることは難しいと思われます。公正証書は公証役場で公証人に作成してもらう必要がありますが、訴訟を経ることなく速やかに強制執行をすることを可能とする点に大きな意義があるところ、結婚契約では強制執行を可能とするほどに具体的な定めを置くことが難しいと思われるためです。
もっとも、この点は、公証人によって判断が異なることもあるので、お近くの公証役場に連絡して確認するとよいでしょう。
当事者間の合意のみで成立するので、仲介人を立てる必要はありません。
9. まとめ 結婚契約書は弁護士にチェックしてもらおう
契約結婚とは、事前に結婚生活でのルールや、離婚時の条件などに関する契約を結んでから行う結婚のことです。事前に契約をしておくことで、結婚生活が円滑かつ、生産的なものになるメリットがあります。一方、結婚後に気が変わっても、契約を変更できなかったり、契約内容が明確である分、違反した場合には離婚に至りやすかったりなどのデメリットがあります。
実際に契約結婚をする際、我流で契約書を作成すると、法的に有効なものとならず、いざという時に困る可能性があります。法的に有効な契約書であるかを、弁護士にチェックしてもらった方がいいでしょう。
(記事は2025年9月1日時点の情報に基づいています)