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1. 父子家庭(シングルファザー)の定義と現状
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1-1. 父子家庭(シングルファザー)とは?
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1-2. 父子家庭の現状
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1-3. 父子家庭でも受けられる手当と支援はある
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2. 父子家庭が受けられる5つの手当と支援
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2-1. 児童扶養手当
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2-2. 住まいの支援|家賃補助(住宅手当)とひとり親家庭住宅支援資金貸付
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2-3. 医療費の支援|ひとり親家庭等医療費助成制度
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2-4. 就学の支援|就学援助制度
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2-5. 働き方の支援|自立支援教育訓練給付金
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3. 父子家庭が受けられる4つの割引と減免制度
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3-1. 保育料の負担軽減制度
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3-2. 上下水道の基本料金等減免制度
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3-3. 交通費の割引と減免
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3-4. 粗大ごみ等処理手数料の減免制度
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4. 父子家庭が受けられる税の減免制度|ひとり親控除
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5. 父子家庭をめざした離婚では弁護士に相談を
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6. 父子家庭が受けられる手当と支援に関してよくある質問
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7. まとめ 父子家庭でも受けられる手当や支援はたくさんある
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1. 父子家庭(シングルファザー)の定義と現状
1-1. 父子家庭(シングルファザー)とは?
「父子家庭(シングルファザー)」とは、一般的に、妻と離婚または死別し、妻がいない状態で20歳未満の子どもを育てている父親と子どもだけから成る家庭を言います。
たとえば、離婚した結果、10歳の子どもと4歳の子どもを父親だけで育てている3人世帯の家庭であれば、父子家庭に該当します。
これに対して、離婚後に再婚し、夫婦で子どもを育てている場合や、離婚後、親と一緒に暮らして、祖父母、父親、子どもの4人で生計を同じくして同一世帯で暮らしている場合には、基本的には父子家庭の定義に該当しません。
1-2. 父子家庭の現状
2021年に厚生労働省が実施した「全国ひとり親世帯等調査」によると、父子家庭は全国に約14.9万世帯あります。そのうち離婚によるものは69.7%、死別によるものは21.3%でした。父子家庭の数は母子家庭に比べて少なく、母子家庭約119.5万世帯の8分の1です。
2020年のひとり親世帯の平均年間収入は、母子家庭が272万円に対し、父子家庭は518万円と差があり、父子家庭のほうが母子家庭よりも収入が多い傾向にあります。もっとも、これはあくまでも平均収入であり、実際には家庭ごとに収入額に大きな差があると推測されます。必ずしも「父子家庭だから母子家庭よりも裕福である」ということにはならない点に注意が必要です(数値はいずれも推計値)。
1-3. 父子家庭でも受けられる手当と支援はある
一般的に、経済的に困窮する母子家庭が注目されがちです。しかし、経済的に困窮するおそれがあるのは母子家庭だけでなく父子家庭も同じです。
また、経済的に困窮する父子家庭が受けられる手当と支援も、母子家庭と同様に複数存在します。
「父子家庭だが自分は父親であって母親(女性)ではないから、受けられる支援はないのではないか」と悲観する必要はありません。父子家庭でも母子家庭と同様に受けられる支援にはさまざまなものがあるので、必要な支援を受けていくことが重要です。
2. 父子家庭が受けられる5つの手当と支援
父子家庭が受けられる手当や支援には、主に次の5つがあります。
児童扶養手当
住まいの支援|家賃補助(住宅手当)とひとり親家庭住宅支援資金貸付
医療費の支援|ひとり親家庭等医療費助成制度
就学の支援|就学援助制度
働き方の支援|自立支援教育訓練給付金
2-1. 児童扶養手当
「児童扶養手当」とは、ひとり親家庭の生活の安定と児童の福祉の増進を図るため、ひとり親家庭で児童を養育している親に支給される手当です。
支給対象は、次の子どもを監護するひとり親などです。
18歳になった日以後の最初の3月31日までの子ども
20歳未満の障害のある子ども
支給要件は、主に次の3つです。
父母が離婚や死別などの理由によりひとり親となった
父または母が一定程度の障害の状態にある
父または母の生死が明らかでない子どもを監護している
たとえば、離婚によって父子家庭となった場合には、児童扶養手当の支給対象となります。
ただし、児童扶養手当には所得制限が設けられています。収入から給与所得控除などを除いた所得が十分に多いひとり親は、児童扶養手当を受けられないことがあります。
2024年11月分からのひとり親などへの所得制限は、次のとおりです。
【児童扶養手当の所得制限の限度額】
全額支給となる所得制限の限度額 | 一部支給となる所得制限の限度額 | |||
---|---|---|---|---|
扶養する | 収入ベース | 所得ベース | 収入ベース | 所得ベース |
0人 | 142万円 | 69万円 | 334万3000円 | 208万円 |
1人 | 190万円 | 107万円 | 385万円 | 246万円 |
2人 | 244万3000円 | 145万円 | 432万5000円 | 284万円 |
3人 | 298万6000円 | 183万円 | 480万円 | 322万円 |
4人 | 352万9000円 | 221万円 | 527万5000円 | 360万円 |
5人 | 401万3000円 | 259万円 | 575万円 | 398万円 |
児童扶養手当は、所得に応じて全額が支給されるケースと一部の額が支給されるケースがあります。また、所得が一部支給の限度額を上回る場合には、支給の対象とはなりません。
たとえば、父子家庭で12歳と6歳の子どもを扶養している父の所得が、所得ベースで500万円だったとすると、全額支給と一部支給のいずれの限度額をも超えているため、児童扶養手当は受給できません。
これに対して、同じく2人の子どもを扶養しており、所得が所得ベースで110万円だったとすると、全額支給となる所得制限の限度額を超えていないため、児童扶養手当を全額受け取れます。
児童扶養手当の対象者が受けられる手当の額は、次のとおりです(2024年4月以降の額)。
【児童扶養手当の対象と支給額】
児童の数 | 全部支給 | 一部支給 |
---|---|---|
1人目 | 4万5500円 | 4万5490円〜1万740円 |
2人目(加算額) | 1万750円 | 1万740円〜5380円 |
3人目以降1人につき | 児童2人目と同額(2024年11月分から) |
2024年11月1日に児童扶養手当法等の一部が改正され、所得限度額と第3子以降の加算額が引き上げられました。これにより、児童扶養手当の支給対象者への支援がいっそう手厚くなりました。
たとえば、全部支給の場合で、扶養する児童が1人だったとすると、4万5500円を受け取ることができます。また、2024年11月分以降については、扶養する児童が3人だったとすると、受け取れる手当の額は、4万5500円+1万750円+1万750円=6万7000円となります。

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2-2. 住まいの支援|家賃補助(住宅手当)とひとり親家庭住宅支援資金貸付
家賃補助(住宅支援)は、自治体が家賃の一部を補助してくれる制度です。実際の呼び方は、「家賃補助」「住宅手当」など自治体ごとに異なります。
支給金額や利用条件も自治体ごとに異なるため、自分の住む自治体の公式ホームページを調べて確認するようにしましょう。なお、ほとんどの場合で所得制限が設けられている点に注意が必要です。
たとえば、東京都では、次のような住まいの支援が設けられています。
【東京都の住まいの支援例】
支援の名称 | 支援の内容 |
---|---|
住宅の情報提供・あっせん | 民間の賃貸住宅を探している人に、民間の賃貸 |
区(市町村)営住宅 | 区(市町村)が、所得が一定の基準以下の人に |
公社住宅 | 入居時の収入審査を緩和したり、一定期間毎月 |
都営住宅 | 住宅に困っている収入の少ない人に低い家賃で |
また、全国で実施されている支援制度である「ひとり親家庭高等職業訓練促進資金貸付事業(住宅支援資金)」は、ひとり親世帯など児童扶養手当を受給している人に対し、住宅を借りるために必要となる資金を貸し付けるものです。一定の条件を満たせば、貸付金の返済が免除または猶予されます。
事業の実施主体は都道府県などの自治体ですが、全国的に用意されている制度です。
【ひとり親家庭高等職業訓練促進資金貸付事業(住宅支援資金)】
対象者 | ひとり親など児童扶養手当の受給者 |
---|---|
貸付額 | 入居している住宅の家賃の実費(上限4万円)。 |
返済免除の条件 | 1年以内に所定の自立支援プログラムで定めた目標に |
返済猶予の条件 | 災害、疾病、負傷など、やむを得ない事由があるとき |
このように、父子家庭を含むひとり親世帯には、住む場所を確保しやすいようにさまざまな支援制度が設けられています。
2-3. 医療費の支援|ひとり親家庭等医療費助成制度
「ひとり親家庭等医療費助成制度」とは、ひとり親世帯の養育者や未成年の子どもの医療費の一部が助成される制度です。自治体によっては、条件などが異なることがあります。
たとえば、東京都台東区では、主に次のような人が対象です。
父母が離婚または死別した
父または母に重度の障害がある
父または母の生死が明らかでない
父または母がDV(ドメスティック・バイオレンス、家庭内暴力)により裁判所から保護命令を受けた
婚姻によらないで生まれた子
この医療費助成には、所得制限があります。2024年度の所得制限の限度額は、次のとおりです。
【東京都のひとり親家庭等医療費助成制度の所得制限額】
扶養人数 | 父母または養育者の所得 | 配偶者・扶養義務者等の所得 |
---|---|---|
0人 | 216万円未満 | 244万円未満 |
1人 | 254万円未満 | 282万円未満 |
2人 | 292万円未満 | 320万円未満 |
3人 | 330万円未満 | 358万円未満 |
4人目以降 | 1人につき38万円を加算 |
医療費が助成される範囲は、次のとおりです。
【住民税課税世帯】
治療の内容 | 自己負担限度額(1カ月単位) |
---|---|
個人/外来 | 1万8000円(年間上限14万4000円) |
個人/入院 | 5万7600円(多数回該当4万4400円) |
世帯/外来と入院のすべてを | 5万7600円(多数回該当4万4400円) |
【住民税非課税世帯】
保険診療の自己負担金の全額が助成されます。ただし、入院した際の食事療養費と生活療養費は助成の対象外です。
たとえば、収入が少ないために住民税が非課税である世帯については、けがや病気で病院にかかった際の診察代などの自己負担額がゼロになります。助成を受けていない家庭であれば3割負担となるのに比べると、医療費の負担が大きく減ることとなります。
2-4. 就学の支援|就学援助制度
「就学援助制度」とは、ひとり親家庭を含め、小中学校に通うにあたって経済的な事情により就学が困難な世帯に対して、自治体が給食費などを支援する制度です。全国的な制度ではあるものの、詳細は自治体によって異なることがあります。
たとえば、東京都台東区では次のような人が対象です。
現在、生活保護を受けている世帯(要保護)
世帯全員の合計所得金額が認定基準額未満の世帯(準要保護)
家計の急変によって世帯全員の合計所得金額が所定の認定基準額未満となることが見込まれる世帯(準要保護)
ひとり親世帯における認定基準額は、おおむね次のとおりとされています。
【就学援助制度におけるひとり親世帯における認定基準額】
世帯における年齢構成の例 | 認定基準額の目安 |
---|---|
ひとり親35歳、子ども7歳 | 約287万円 |
上記と同様の年齢構成の父子家庭で世帯の所得が200万円程度だったとすると、認定基準額の目安を下回っているため、就学援助の支援を受けられます。
援助の対象となるのは、主に次のような費用です。
学用品費と通学用品費
新入学時の学用品費
通学服および運動服費
修学旅行の支度品費
クラブ活動費
公立中学校への入学準備金
給食費
学用品や給食費などの援助を受けられることで、子どもが学校に通う際の負担が大きく軽減されます。また、修学旅行の支度についても支援を受けられるため、「父子家庭でお金がないから修学旅行に行けない」という事態も防げます。
2-5. 働き方の支援|自立支援教育訓練給付金
「自立支援教育訓練給付金」は、ひとり親家庭などに対して経済的な自立を支援する制度です。詳細は自治体ごとに異なります。
基本的には、所定の教育訓練を受けた場合に、その経費の60%(上限あり)が支給されるなどの支援がなされます。
自己負担を減らしたうえで、就業や技能取得をめざした教育訓練を受けられるため、よりよい仕事に就いて経済的自立を実現できる可能性を高められます。
3. 父子家庭が受けられる4つの割引と減免制度
父子家庭が受けられる割引と減免制度には、主に次の4つがあります。
保育料の負担軽減制度
上下水道の基本料金等減免制度
交通費の割引と減免
粗大ごみ等処理手数料の減免制度
3-1. 保育料の負担軽減制度
ひとり親家庭に限らず、保育料の負担を軽減してくれる制度があります。基本的には、ひとり親家庭であれば第1子からが負担軽減の対象になります。
所得制限の条件や保育料の負担軽減額は自治体によって大きく異なります。自分の住んでいる自治体の公式ホームページを確認するようにしましょう。
3-2. 上下水道の基本料金等減免制度
児童扶養手当を受けているひとり親家庭であれば、上下水道の基本料金等が減免されます。
たとえば、東京都23区内であれば、上下水道の基本料金などは免除されて支払う必要がなくなります。
そのほかにも、上下水道の基本料金などの減免が設けられている自治体は多くあります。自分の住んでいる自治体の公式ホームページを確認してみましょう。
3-3. 交通費の割引と減免
児童扶養手当を受けているひとり親家庭であれば、JRや地下鉄などの交通費の割引や減免が受けられる場合があります。
たとえば、JRでは通勤定期券が30%割引となります。
また、東京都在住であれば、都営交通の無料乗車券が発行され、無料で地下鉄やバスなどに乗車できます。
東京都以外の自治体でも、自治体や交通会社ごとに交通費の割引や減免が用意されています。自治体や交通会社に確認してみましょう。
3-4. 粗大ごみ等処理手数料の減免制度
児童扶養手当を受給している世帯に対して粗大ごみ処理手数料を減免する制度があります。具体的な減免の内容は自治体により異なります。

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4. 父子家庭が受けられる税の減免制度|ひとり親控除
父子家庭の父など、ひとり親は所得税の計算上、一定の所得控除を受けられます。
「所得控除」とは、所得税の計算上、課税対象となる所得の一部を一定額差し引く控除の仕組みのことです。納める税額そのものから控除額が差し引かれるわけではありませんが、課税対象が減るため結果的に税額が低くなります。
ひとり親控除の控除額は35万円です。
たとえば、ひとり親控除以外の控除などを適用した結果、課税の対象となる所得が235万円だったとすると、さらにひとり親控除の適用が加わることで、課税の対象となる所得は200万円まで少なくなります。
ひとり親控除の対象者の範囲は、原則としてその年の12月31日時点で結婚していないなどの状況にある人のうち、次の要件すべてを満たす人です。
その人と事実上婚姻関係と同様の事情にある一定の人(内縁関係など)がいない
生計を一にする子(経済的に養っている子)がいる
合計所得金額が500万円以下である
なお、「生計を一にする子」は、その年分の総所得金額などが48万円以下であり、かつ、ほかの人の同一生計配偶者や扶養親族になっていない者に限られます。
たとえば、子どもが16歳ですでに働いており、その総所得金額などが48万円を超えている場合には、ひとり親控除の適用は受けられません。
5. 父子家庭をめざした離婚では弁護士に相談を
親権を獲得したうえで父子家庭となることをめざして離婚するには、離婚の前にできるだけ早く弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士に相談すれば、親権獲得に向けて有利な事情を探してくれたり、うまく裁判所に説明してくれたりします。自分だけで対応するよりも親権獲得の可能性が高まるのがメリットです。
6. 父子家庭が受けられる手当と支援に関してよくある質問
親権獲得に向けて父親が準備しておくこととして、たとえば次のような工夫が考えられます。
・子どもを実際に養育している実績をつくる
・離婚後に子どもを育てられる環境を整備する
・母親が子どもを育てるのでは子どものためにならないことを論理的に説明できるようにしておく
父子家庭でも生活保護の受給条件はほかと変わらないため、生活保護を受けられます。生活保護を受けたからといって親権が奪われることもありません。生活に困窮したら、ためらわずに生活保護の受給も検討してください。
なお、父子家庭でも生活保護の母子加算の対象となります。このため、子どもがいる分もらえる額が増えます。
現在では、妻と死別して父子家庭になった場合でも遺族年金をもらえる可能性があります。弁護士に相談してみましょう。
現在は「母子家庭の母」ではなく「男女を問わないひとり親」を対象に支援制度が設計されているため、父子家庭と母子家庭の間での手当に関する違いはあまり大きくありません。父子家庭でもあきらめず確認してみましょう。
7. まとめ 父子家庭でも受けられる手当や支援はたくさんある
現在は、「母子家庭ではなく父子家庭だから手当や支援が受けられない」ということは基本的にはありません。
ひとり親であれば、父子家庭であっても児童扶養手当や住まいの支援、医療費の助成のほか、交通費や水道の基本料金の減免など、さまざまな支援が受けられます。最初からあきらめるのではなく受けられる支援を確認してみるようにしましょう。
自分一人では調べきれない場合、弁護士への相談も検討してみてください。また、父子家庭になる離婚を考えている場合は、離婚する前に弁護士に相談や依頼をすることをお勧めします。
(記事は2025年7月1日時点の情報に基づいています)