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1. 不倫の慰謝料(浮気の慰謝料)とは
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2. 不倫慰謝料の相場|離婚した場合は200万円~300万円
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2-1. 不倫慰謝料の金額を左右する要素
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2-2. 相場よりも高い不倫慰謝料を獲得できた裁判例
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3. 浮気や不倫慰謝料の請求先
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3-1. 配偶者と不倫相手の両方に請求可能
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3-2. 不倫相手だけへの請求|求償権に注意
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4. 不倫慰謝料の請求方法手続きの流れ
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4-1. 【STEP1】内容証明郵便を送付する
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4-2. 【STEP2】 直接会って話し合う(和解交渉)
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4-3. 【STEP3】調停を申し立てる
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4-4. 【STEP4】裁判を行う
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5. 不倫慰謝料の消滅時効
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6. 不倫慰謝料請求を成功させるためのポイント
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6-1. 不倫の証拠を確保する
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6-2. 和解交渉は冷静に
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6-3. 離婚問題を得意とする弁護士に相談する
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7. 相手が慰謝料を払わない場合の対処法
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8. 不倫慰謝料に関してよくある質問
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9. まとめ 男女問題に詳しい弁護士に相談して計画的な対応を
1. 不倫の慰謝料(浮気の慰謝料)とは
「不倫」は一般用語であり、法律用語としては「不貞行為」と言います。不貞行為とは、既婚者が配偶者以外の異性と自らの意思で性的関係を持つことを言います。
不貞行為は、裁判における離婚理由となり得るだけでなく、不倫をされた配偶者に精神的苦痛を与える不法行為(民法709条、710条)です。そのため、不倫をされた配偶者には、不倫した配偶者と不倫相手に損害賠償(=慰謝料)を請求する権利が発生 します。
2. 不倫慰謝料の相場|離婚した場合は200万円~300万円
不倫による慰謝料の相場は、裁判例上、離婚した場合は200万円~300万円、離婚しない場合は50万円~100万円です。
2-1. 不倫慰謝料の金額を左右する要素
不倫慰謝料が増額されるのは、主に以下のようなケースです。
不倫がきっかけで別居や離婚をしている
婚姻期間が長い
小さい子どもがいる
不貞行為が発覚するまで夫婦関係が円満であった
不貞行為の発覚により夫婦関係が破綻した
不貞行為が長期間にわたり、回数も多い
不倫された配偶者が精神疾患をわずらうなど、精神面の影響が大きい
また、不倫発覚後も関係を継続する、不貞行為の期間や回数について虚偽を述べる、交際解消の約束を破るなど、不誠実な対応があった場合にも増額 されることがあります。
一方で、多くの裁判例では、不倫当事者の職業や地位、学歴、収入、資産の有無や金額は不倫慰謝料を増額する理由になりません。
2-2. 相場よりも高い不倫慰謝料を獲得できた裁判例
婚姻期間および不倫期間が数十年にわたる場合や、不倫相手の悪質性が顕著な場合には、相場を超える慰謝料が認められる可能性があります。実際の裁判例を3つ紹介します。
夫の不倫相手の女性が子どもを生んだ事例(東京地裁平成19年7月17日)
認められた慰謝料額:500万円
婚姻期間:62年(死別)
不倫期間:20年
子供:2人
概要:
・夫は約20年間、ほぼ毎日、自宅と不倫相手の家を行き来する二重生活を送った
・夫と不倫相手との間に2人の子どもが誕生し、夫はいずれも認知した
・夫は不倫相手との間の長男にすべての遺産を相続させる公正証書遺言を残した
・妻は不倫相手の存在を当初から認識していたが、夫の死後に不倫相手の女性に対して不倫慰謝料を請求した<ポイント>
婚姻期間と不倫期間がともに相当長期にわたり、不倫相手との間にも子どもがいたことから、妻が受けた精神的苦痛は多大であると認定 されました。
夫の不倫相手の女性の態度が悪質だった事例(東京地裁平成24年3月21日)
認められた慰謝料額:385万円(うち35万円は弁護士費用相当額)
婚姻期間:5年以上
不倫期間:1年
子供:なし
概要:
・不倫発覚まで夫婦関係は円満
・妻は婚姻を機に仕事を退職し専業主婦となった
・不倫相手の女性は夫以外にも複数の既婚男性と肉体関係を持っていた
・不倫相手の女性は、妻を中傷する文章を自身のブログに掲載した<ポイント>
不倫相手の女性がブログ上で妻を中傷したことや、他にも複数の既婚男性と肉体関係を持っており不貞行為に罪悪感を持っていないことなど、不倫相手の態度の悪質性が考慮 されました。
妻が不倫相手の子を妊娠したうえで中絶した事例(東京地裁平成25年8月22日)
認容された慰謝料額:400万円
婚姻期間:2年
不倫期間:8カ月
子供:なし
概要:
・夫がクリスチャン
・不倫発覚まで夫婦関係は円満
・夫が長期の海外滞在中に妻が不倫
・妻は不倫相手との間の子どもを2度妊娠し、いずれも人工妊娠中絶手術を受けた
・不倫発覚後、不倫相手の男性は不倫の事実を否定し慰謝料の支払いを拒否<ポイント>
婚姻期間と不倫期間は長期とは言えないものの、クリスチャンである夫にとって、妻が不倫相手との子を妊娠したうえ中絶手術をしたことは多大な精神的苦痛を伴うものである点が考慮 されました。
3. 浮気や不倫慰謝料の請求先
不倫慰謝料は、不倫した配偶者と不倫相手への請求が可能です。不倫相手のみに請求した場合は、トラブルにならないよう対策を講じる必要があります。
3-1. 配偶者と不倫相手の両方に請求可能
不倫慰謝料は、配偶者もしくは不倫相手のみに対して請求することも、配偶者と不倫相手双方に請求することも可能です。誰に請求するかは、不倫された配偶者が決められます。
ただし、不倫慰謝料は、不倫した配偶者と不倫相手とが共同して不法行為(=不倫)をしたことを理由に、配偶者に対して支払うものであり、配偶者と不倫相手それぞれに請求したとしても、受け取る金額が倍になるわけではありません 。
たとえば、慰謝料が300万円が妥当のケースで、不倫した配偶者と不倫相手にそれぞれ300万円ずつ請求して合わせて600万円の慰謝料を払わせることはできず、不倫した配偶者か不倫相手の一方もしくは双方が支払った金額が合わせて300万円に達すれば、それ以上の請求はできません。
3-2. 不倫相手だけへの請求|求償権に注意
不倫した配偶者に対しては慰謝料請求せず、不倫相手に対してのみ慰謝料請求する場合、不倫相手が不倫した配偶者に対して求償権を行使するケースがあります。
求償権とは、不倫当事者の一方が、自分の責任割合を超えて慰謝料を支払った場合に、もう一方の不倫当事者に対して、負担割合に応じた金銭の支払いを求める権利のことです。
たとえば、不倫慰謝料の合計を200万円、不倫当事者それぞれが負担する割合を「不倫をした配偶者6:不倫相手4」としたケースでは、不倫相手が慰謝料200万円全額を支払った場合、不倫相手は不倫をした配偶者に対して、自身の負担割合である80万円を超える部分である120万円を求償できます。
不倫発覚後も離婚せずに夫婦関係を続ける場合は、不倫した配偶者と同じ家計で生活することになるため、不倫相手から求償権を行使されると、せっかく不倫相手から受け取った慰謝料額の何割かを家計から不倫相手に返さなくてはなりません。
このように、不倫相手から求償権を行使されるとトラブルの再燃につながるおそれがあることから、不倫相手だけでなく不倫した配偶者にも慰謝料請求するか、どうしても不倫相手だけに慰謝料請求する場合には、慰謝料の金額を多少下げるかわりに不倫相手に求償権の放棄を約束させるといった対策が必要 です。
4. 不倫慰謝料の請求方法手続きの流れ
4-1. 【STEP1】内容証明郵便を送付する
不倫慰謝料の請求方法に決まりはないものの、一般的には「不倫慰謝料を請求すること」「請求する金額」「請求する理由」「支払期限を過ぎた場合は裁判を提起するという警告」を記載した内容証明郵便を送付します。
内容証明郵便は時効の完成を6カ月間猶予する効果があるため、普通郵便ではなく内容証明郵便を利用することが一般的です。
内容証明郵便を受け取った相手方から何らかの返答があった場合は、和解交渉を開始します。
なお、内容証明郵便は、弁護士だけでなく行政書士も作成できますが、代理人として和解交渉ができるのは弁護士だけ です。内容証明郵便作成の段階からその後の和解交渉や訴訟を見据えることで、交渉を有利に進められる場合もあるため、最初から弁護士に依頼することをお勧めします。
4-2. 【STEP2】 直接会って話し合う(和解交渉)
内容証明郵便を受け取った相手方からの返答は、不倫の事実を否定して慰謝料を払わない、あるいは減額してほしいといった内容がほとんどですが、無視されることもめずらしくありません。
当事者同士の話し合いではお互いが感情的になりやすいため、かえって紛争が長引くほか、想定した金額を払ってもらえずに泣き寝入りする場合もあるので、できる限り弁護士を間に入れて交渉することをお勧めします。
和解交渉の結果、合意できた場合は、相手方が慰謝料全額をその場で一括払いするのでない限り、証拠として合意書を作成するのがよいでしょう。
合意書に記載すべき項目は次の6つです。
不貞行為の事実を認める文言
具体的な慰謝料の金額と支払い方法、期限
慰謝料以外の誓約事項(接触禁止、誹謗中傷禁止など)
合意内容に違反した場合のペナルティー
求償権の放棄(不倫相手だけに請求する場合)
清算についての条項
合意書は、書面に合意成立日と双方の署名捺印があれば有効に成立します。
相手方が合意した内容どおりに支払わない可能性がある場合は、支払いが滞った場合などには強制執行を受けてもやむを得ない旨を記した強制執行認諾文言付きの公正証書で合意書を作成しておくことも検討しましょう。この方法によると、相手方が支払わない場合にスムーズに財産を差し押さえる手続きをとることができます 。
4-3. 【STEP3】調停を申し立てる
和解交渉がまとまらない場合、訴訟ではなく簡易裁判所における民事調停を申し立てる方法もあります。調停は、双方の当事者の間に、一般市民から選ばれた調停委員が入って話し合いを進め、その内容は調停委員から担当の裁判官にも共有されます。
調停を利用する主なメリットとしては、本人同士の和解交渉よりも冷静な話し合いが期待できること、もし相手方が慰謝料を支払わない場合には判決と同じ効力を持つ調停調書によって財産の差し押さえがスムーズになること、調停委員の仲裁によっては決定的な証拠がなくても解決できる可能性があること、が挙げられます。
一方で、相手方が欠席すると成立しないこと、調停委員からプレッシャーを受けて望まない内容の和解に応じてしまう場合がある、といったデメリットもあります。
調停は本人だけでも利用できますが、調停委員に伝わるように説明できるか不安に感じる場合は、弁護士に依頼することをお勧めします。
4-4. 【STEP4】裁判を行う
和解交渉が決裂した場合や調停が成立しなかった場合は、訴訟を提起します。請求額が140万円以内なら簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所に訴状を提出して行います。
訴訟では、不倫の事実が存在することやその頻度、態様が悪質であることなどを主張して証拠を提示します。
ただし、訴訟のなかで裁判官から和解を勧められることも多いため、和解が成立せずに判決となった場合の見通しをふまえながら対応することが必要です。裁判官からの勧めを受けて納得できる金額やその他の条件で双方が合意できれば、裁判上の和解が成立します。
訴訟で慰謝料額が取り決められたら、判決書または和解調書が発行されます。もし慰謝料が支払われない場合は、判決書や和解調書に基づいて請求した相手の財産を差し押さえることが可能です。
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5. 不倫慰謝料の消滅時効
不倫慰謝料請求の時効は「配偶者の不貞行為および不倫相手を知ったときから3年」もしくは「不倫関係が始まったときから20年」です。この期間を超えると慰謝料の請求権は消滅します。
時効成立までのタイムリミットが迫っている場合は、裁判を起こすか、裁判の準備が間に合わない場合は内容証明郵便で催告すれば、6カ月間は時効の完成が猶予されます。
6. 不倫慰謝料請求を成功させるためのポイント
不倫慰謝料を請求する際は、証拠を確保したうえで、冷静で計画的な対応を心がける必要があります。
6-1. 不倫の証拠を確保する
配偶者や不倫相手が不貞行為の事実を認めない可能性もあるため、慰謝料請求をする前にあらかじめ証拠を確保しておくことが重要 です。特に、不倫相手から「既婚者だとは知らなかった」と弁明されるケースも多いため、不倫相手が既婚者である事実を知っていた証拠を確保しておきましょう。
不倫の証拠としては主に以下のようなものが挙げられます。
裸体やベッド上でのツーショット写真
肉体関係が存在していたことを前提とするメールやLINEなどの履歴、手紙、音声、映像
ラブホテルの明細や領収書
旅館などで同室に宿泊したことがわかる写真や映像
ラブホテルや不倫相手の自宅に滞在していたことがわかる位置情報の記録、出入りする写真や動画
不倫相手が既婚者だと認識していることを推測できるメールやLINEなどの履歴、手紙、音声
一方、配偶者や不倫相手を問い詰めて不倫を認めさせた際の書面や音声データは、周囲に第三者がいたか、脅迫したかなど、問い詰めた際の状況によっては、裁判で「無理やり不倫を認めさせられた」という弁明が認められてしまう可能性があります。当事者が不倫を認めた書面や録音データは、あくまで上記の物的証拠に付け加えるものと考えましょう。
6-2. 和解交渉は冷静に
配偶者や不倫相手と直接話し合って慰謝料を請求する場合、まずは配偶者や不倫相手が不倫の事実を認めているかどうかが重要です。
不倫の事実を認めている場合は、いつ、どこで、どのような行為があったのかを具体的に聞き取ります 。このとき、できるかぎり話し合いの内容を録音しておくと、トラブルに発展するリスクを回避できます。
配偶者や不倫相手が不倫の事実を認め、慰謝料の金額にも合意できた場合には、合意書を取り交わします。合意書では、慰謝料の支払方法と支払期限を取り決めておくと安心です。
6-3. 離婚問題を得意とする弁護士に相談する
離婚問題に詳しい弁護士に相談すれば、慰謝料請求に必要な証拠の収集や、交渉での注意点、裁判となった場合にどれくらいの慰謝料が見込めるかなどのアドバイス を受けられます。正式に依頼すれば、請求相手と顔を会わせるストレスも回避できます。
特に、配偶者や不倫相手が不倫の事実を認めない可能性が高い場合、感情的に相手を問い詰めてしまうと、証拠を隠されたり、紛争が長引いたりするおそれもあります。配偶者や不倫相手の性格を考え、本人同士での冷静な交渉が見込めない場合は弁護士の助けを借りるのが望ましいでしょう。
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7. 相手が慰謝料を払わない場合の対処法
執行認諾文言付きの公正証書、調停調書や裁判での和解調書、判決書で慰謝料の金額が確定したにもかかわらず、相手が支払いに応じない場合は、強制執行を申し立てて相手の財産から慰謝料を回収 します。
もっとも、強制執行の手続きをとるためには、相手に慰謝料を支払うだけの財産があるかどうか、あるとしてそれがどこにあるのか(預金先金融機関や給与の支払い元、不動産の住所など)を把握しておく必要があります。もし相手の財産について情報がない場合は、裁判所の財産開示手続きや第三者からの情報取得手続きを利用して相手の情報を集めてから強制執行を申し立てる必要があります。
8. 不倫慰謝料に関してよくある質問
9. まとめ 男女問題に詳しい弁護士に相談して計画的な対応を
不倫慰謝料の請求は、証拠集めや請求金額の設定、相手との交渉から実際に回収するまで、入念な準備のもと実行しなければ、思ったような結果が得られないことがあります。
配偶者の不倫が発覚した直後はどうしても精神的に混乱してしまいますが、消滅時効が成立する前に証拠を確保するためには、冷静かつ迅速に行動することが重要です。
不倫慰謝料を請求したい場合、または請求された場合は、早めに男女問題に詳しい弁護士への相談をお勧めします。
(記事は2024年12月1日時点の情報に基づいています)