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1. 配偶者の認知症を理由とする離婚は認められる?
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1-1. 協議離婚と調停離婚は可能|ただし認知症が深刻な状態の場合は困難
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1-2. 裁判による離婚は法律で定められた離婚理由が必要
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2. 認知症は法定離婚事由に該当する?
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3. 認知症を理由に離婚が認められた裁判例
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4. 認知症の配偶者と離婚する方法
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4-1. 認知症が軽度の場合|まずは合意をめざす
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4-2. 認知症が重度の場合|成年後見人(または成年後見監督人)に対し訴訟を提起する
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4-3. 成年後見人(または成年後見監督人)の選任手続き
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5. 認知症の配偶者と離婚する場合、財産分与はどうなる?
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6. 認知症の配偶者との離婚を弁護士に相談するメリット
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7. 認知症と離婚に関してよくある質問
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8. まとめ 認知症の配偶者と離婚するには法的な観点からの検討が必要
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1. 配偶者の認知症を理由とする離婚は認められる?
認知症の配偶者と離婚する場合、夫婦間の話し合いによる協議離婚や裁判所での話し合いによる調停離婚という選択肢が考えられます。離婚に関して本人の判断能力がないとされる場合は、裁判所に離婚を認めてもらわなければなりません。
1-1. 協議離婚と調停離婚は可能|ただし認知症が深刻な状態の場合は困難
協議離婚や調停離婚の場合、認知症の配偶者と話し合いをして相手に同意をもらえば離婚は可能です。
認知症が進行すると、日常生活のさまざまな場面で必要になる重要な手続きや判断が難しくなります。そのため、本人の代わりに手続きをする「成年後見人」が裁判所で選任されることがあります。ただし、離婚するかどうかに関しては、成年後見人がいる場合でも本人が一人で決定して離婚に同意することができます。
一方、本人の認知症が深刻な状態である場合には事情が異なります。そもそも離婚の意味がまったく理解できず、意思疎通も不可能な程度まで症状が進行している場合は、離婚に関する本人の判断能力がないという理由で、協議離婚や調停離婚という方法で離婚することはできません。
1-2. 裁判による離婚は法律で定められた離婚理由が必要
本人の認知症が深刻な状態の場合、離婚裁判を起こして裁判所に離婚を認めてもらうのが唯一の手段となります。
ただし、裁判所で離婚が認められるためには、法律で定められた「法定離婚事由」が必要となります。民法770条1項には5つの理由が記載されているものの、実際に認知症を理由に離婚が認められる可能性があるのは、このうちの「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」という理由です。
「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」も認められる可能性があるように読めますが、「強度の精神病」「回復の見込みがない」というのは、極めて限定されたケースにのみ該当するもので、実際に認められる事例はほとんどありません。さらに、この理由は、2024年5月の民法改正によって削除されているため、今後改正法が施行された以降は、そもそもこの点を理由とした離婚は認められなくなります。
2. 認知症は法定離婚事由に該当する?
法定離婚事由のなかで認知症を理由に離婚が認められる可能性があるのは、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」という条件に該当する場合です。
認知症であれば必ずこの条件に当てはまるわけではありません。さまざまな事情を考慮したうえで「夫婦関係が破綻して回復の見込みがない」と判断される場合、つまり「夫婦の共同生活や関係をこれ以上続けていくのは無理だろう」と裁判所が客観的に判断できるような状況にあることが必要です。
たとえば、認知症が深刻で夫婦間のコミュニケーションがまったくとれない状態になってしまったため、施設に入居しているようなケースです。このケースのように、夫婦での共同生活を送ることができなくなっている、今後も期待できないという状態であれば、夫婦関係の破綻を理由に離婚が認められる可能性があります。
また、配偶者からの暴力や暴言がひどかったり、すでに離婚に向けて長期間別居していたりするなどほかの理由があれば、そのこと自体で離婚が認められるケースもあります。弁護士である筆者の経験でも、認知症の症状が進行し配偶者が暴力をふるうようになったため、認知症と配偶者からの暴力を理由に離婚手続きを進め、最終的に離婚が成立したという事例があります。
3. 認知症を理由に離婚が認められた裁判例
認知症の原因疾患の一つであるアルツハイマー病を理由に離婚が認められたケースとして、長野地方裁判所平成2年9月17日判決(判例時報1366号111頁)があります。
アルツハイマー病にかかっている妻を介護していた夫が、妻が特別養護老人ホームに入所して夫の名前もわからない状態になってしまったこと、医師からは回復の見込みはないと告げられたことなどから、妻との将来に絶望し離婚を求めたという事例です。
裁判所は、妻がアルツハイマー病にかかり、長期間にわたって夫婦間の協力義務をまったく果たせない状態にあることから、夫婦関係が破綻して回復の見込みがないと認定しました。そのうえで、妻が24時間完全介護の施設に入所して生活している点、夫が離婚後も経済的援助や面会を考えている点、離婚後の入所費用は完全公費負担となり問題がない点などを考慮して、離婚を認めました。
なお、この裁判では法定離婚事由の「その他婚姻関係を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するとして離婚が認められました。

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4. 認知症の配偶者と離婚する方法
認知症の配偶者と離婚をする場合、その方法は症状の進行具合によって変わってきます。
4-1. 認知症が軽度の場合|まずは合意をめざす
相手の認知症が比較的軽度の場合は、まずは夫婦同士の話し合いや弁護士を入れた話し合いで離婚を了承してもらう方向性を探るとよいでしょう。
「軽度」というのは、相手と離婚についての話し合いができる状態という意味です。相手と会話が成立し、相手が離婚の意味をわかる状態であれば、まずは話し合いで離婚の成立をめざすことになります。
本人同士で話し合いが進まない場合は、裁判所の調停手続きを利用し、裁判所の場で調停委員を間に入れて話し合いを行うことになります。調停では、夫婦がお互いに顔を合わせずに話し合いを進めることも可能です。
4-2. 認知症が重度の場合|成年後見人(または成年後見監督人)に対し訴訟を提起する
相手の認知症が重度でそもそも会話が成立しない状態や、相手が施設に入所してベッドで寝たきりの状態で意思疎通が難しく本人の判断能力がないと考えられる場合、離婚に同意してもらうことは難しいと考えられます。そのため、話し合いというステップを飛ばして、直接裁判を起こすことを検討する必要があります。
症状が重度で本人に判断能力がない場合には、離婚の裁判を起こす前に本人に代わって離婚手続きを行う「成年後見人」を選任してもらう手続きを裁判所で行う必要があります。そして、成年後見人を選任してもらったあと、その成年後見人に対して、離婚の裁判を起こします(人事訴訟法14条1項)。
4-3. 成年後見人(または成年後見監督人)の選任手続き
成年後見人などを選任してもらうためには、認知症の配偶者の住所、または居所を管轄している家庭裁判所に後見開始の申立てという手続きを行う必要があります。
具体的な手続きの進め方は、家庭裁判所に電話などで問い合わせることで教えてもらえます。また、弁護士に手続きを依頼して任せることもできます。
なお、後見の申立ては、そもそも成年後見を申し立てるべきなのか、成年後見人になってもらう候補者は誰にするかなど、検討しなければならない事項が多いです。また、成年後見用の医師の診断書、本人の財産目録や収支予定表の作成など、必要書類も多岐にわたります。そのため、少なくとも申立て前に弁護士に一度相談することをお勧めします。
5. 認知症の配偶者と離婚する場合、財産分与はどうなる?
財産分与とは、夫婦が離婚する際に、結婚している間に夫婦で築いた財産を分配する制度のことをいいます。夫婦が結婚している間に築いた共有財産は、原則として2分の1ずつ分けることになります。
認知症の配偶者と離婚する際は、成年後見人の関与が必要になることがあるという点に注意が必要です。成年後見人が選任されている、もしくは成年後見人が必要なケースの場合、財産の分配や処分に関しては認知症の配偶者が単独で行うことができないからです。
成年後見人の関与が必要なケースであるにもかかわらず、成年後見人の関与なく財産の分配を決めると、無効と判断されて財産の分配がやり直しになるリスクがあります。
6. 認知症の配偶者との離婚を弁護士に相談するメリット
通常の離婚の手続きでも、本人同士の話し合いがうまくいかない場合や、決める要素がいくつもある場合などでは、弁護士に依頼するケースが多いです。特に認知症の配偶者と離婚する場合、弁護士に相談するメリットがより大きいと言えます。
大きな理由の一つは、認知症の配偶者との離婚の場合は、認知症の症状の進行度合いなどに応じて離婚を進めるための手続きが異なるため、当初の段階で、この点に関する法的な判断が必要になるということです。当初の段階でこの方向性を見誤ると余計な時間や労力がかかるなど、離婚成立までに結果的に遠回りになるおそれがあります。
また、成年後見人の選任のための裁判手続きが必要になったり、話し合いができない場合は離婚裁判が必要になったりすることもあります。弁護士に相談や依頼をすれば、比較的スムーズにこれらの手続きを進めることができるという利点もあります。
7. 認知症と離婚に関してよくある質問
法律上の夫婦には、お互いに協力して相手を扶養する義務があります(民法752条)。そのため、法律上の夫婦である以上は、認知症の配偶者の生活を支え、介護をする義務があると考えられます。
離婚した場合、法律上は配偶者を扶養する義務はなくなります。そのため、離婚後は、認知症の配偶者自身が単独で生活保護の受給の条件を満たすかどうかで、受給の有無が決定されます。
なお、扶養義務は、夫婦間だけではなく親子間でも存在します。仮に夫婦間に子どもがいて、その子どもに経済力がある場合には、夫婦の離婚後であっても、子どもに対して認知症の親に対する経済的な援助ができるかどうかの調査が福祉事務所から行われることがあります。これを「扶養照会」と言います。
認知症の配偶者からであっても、モラハラ(モラル・ハラスメント)やDV(ドメスティックバイオレンス、家庭内暴力)を受けた場合には慰謝料を請求できます。
もっとも、配偶者の認知症が重度のものであって、責任能力がないと判断される程度にまで至っている状態では、慰謝料の請求ができないケースもあります。
夫婦間の話し合いで相手が離婚に同意すれば、どのような理由でも離婚は可能です。したがって、義理の両親の認知症を理由に離婚をしたいと相手に申し出て、それについて相手が同意すれば離婚は可能です。
一方、相手が離婚に同意しない場合は裁判離婚をめざすことになりますが、裁判で離婚が認められるためには、法定離婚事由のうち「その他婚姻関係を継続し難い重大な事由」に該当する必要があります。ただし、基本的に、義理の両親が認知症であるという理由のみでは、この事由に該当すると判断される可能性は低いと考えられます。
もっとも、義理の両親が認知症で介護が必要な状態であるにもかかわらず、配偶者が介護のすべてを自分に任せきりにしてまったく協力をしてくれない、協力を申し出ても暴言を吐くなどしてひどく責められる場合などでは、夫婦関係が破綻しているとして離婚が認められる可能性もあります。
8. まとめ 認知症の配偶者と離婚するには法的な観点からの検討が必要
認知症の配偶者との離婚を検討する場合、症状の進行具合によって離婚手続きの進め方が変わります。軽度の認知症で離婚に向けた話し合いができるようであれば、まずは離婚協議や離婚調停での離婚をめざしましょう。
重度の症状で離婚に向けた話し合いが困難であれば、裁判を起こして法廷離婚事由である「その他婚姻を継続し難い重大な事由」があることを認めてもらう必要があります。
認知症の配偶者と直接話し合いをしたり、一人で手続きを進めたりするのは、精神的にも大変です。また、認知症が進行している場合には、そもそも手続きの進め方について法的な観点からの検討が必要となります。
認知症の配偶者との離婚を望んでいる場合は、専門知識を持つ弁護士へ相談することをお勧めします。
(記事は2025年9月1日時点の情報に基づいています)