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1. 離婚の強制執行とは
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2. 強制執行の手続きの種類と対象になる財産
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2-1. 不動産執行|相手の不動産を競売にかける
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2-2. 債権執行|預貯金や給与を差し押さえる
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2-3. 動産執行 |車やブランド品を換金する
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2-4. 強制執行の対象にできない財産
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3. 金銭の回収以外でも強制執行は行われる
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4. 強制執行のメリットデメリット
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4-1. メリット
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4-2. デメリット
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5. 離婚時の約束を守らない相手に強制執行ができる条件
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5-1. 相手の住所を把握している
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5-2. 債務名義を持っている
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5-3. 相手に財産がある
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6. 強制執行の流れ
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6-1. 相手の財産や住所を調査する
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6-2. 必要書類を用意して裁判所に申し立てる
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6-3. 差押命令を取得して金銭を回収する
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7. 強制執行にかかる費用
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8. 強制執行以外で養育費を取り立てる方法
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8-1. 内容証明郵便の送付
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8-2. 調停や審判の申立て
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8-3. 履行勧告・履行命令
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9. 強制執行を弁護士に依頼するメリット
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10. 離婚の強制執行でよくある質問
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11. まとめ 金銭回収の最終手段として強制執行がある
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1. 離婚の強制執行とは
離婚時に財産分与や慰謝料、養育費などの支払いについて合意していた場合でも、離婚後に実際の支払いが行われないケースがあります。特に、養育費のように長期間の支払いが予定されている場合、最初は支払いが行われていても途中で途絶えることも珍しくありません。
そのような場合には、まず相手方に任意で支払いを求めるのが一般的です。しかし、相手方がそれでも支払いに応じない場合には、裁判所の手続きである強制執行を通じて金銭を回収する方法が考えられます。
強制執行とは、裁判所の命令に基づき、相手方の財産を差し押さえるなどして権利内容を強制的に実現する手続きです。具体的には、相手方の預貯金、不動産、保険契約の解約返戻金などを差し押さえることによって、滞っている金銭を回収することが可能です。
2. 強制執行の手続きの種類と対象になる財産
離婚時に取り決めた金銭の支払いが行われない場合、受け取る側は、裁判所を通じて強制執行を行い、相手の財産を差し押さえることができます。ここでは、強制執行の種類や内容について解説します。
2-1. 不動産執行|相手の不動産を競売にかける
不動産執行とは、相手方の土地や建物を差し押さえ、これを強制的に換価して金銭を回収する手続きのことを指します。不動産執行には、主に次の2つの方法があります。
・強制競売:相手方の不動産を競売にかけ、その売却代金から債権を回収する方法
・強制管理:不動産を売却せず、その収益(賃料など)を通じて債権を回収する方法
実際には主に強制競売が利用されることが多いです。
不動産執行のメリットとして、不動産は一般に高い価値を持つため、まとまった金額を回収しやすいことが挙げられます。また、法務局で所有者や権利関係が記載された不動産登記簿を簡単に確認できるため、財産隠しがされにくい点も大きな利点です。
一方で、手続きに長期間を要することや、申立てに高額な費用がかかることはデメリットといえます。
2-2. 債権執行|預貯金や給与を差し押さえる
債権執行とは、相手方が持っている債権を差し押さえ、それをお金に換えて回収する手続きです。債権というと難しく感じるかもしれませんが、「本人(支払者)が第三者から受け取るはずだったお金を回収する」といえばイメージしやすいでしょう。具体的には、以下のような債権が差押えの対象になります。
勤務先に対する給与債権
取引先に対する売掛債権
銀行に対する預貯金債権
貸金債権
債権執行の特徴として、差し押さえた債権については、差押命令が相手方(債務者)に届いてから1週間が経過すれば、直接その支払元(第三債務者)から取り立てることができます。そのため、債権を換価する手続きが不要で、比較的簡単かつ迅速に回収できるというメリットがあります。
しかし一方で、相手方がどこにどのような債権を持っているのかを正確に特定するのが難しい場合があります。そのため、財産を隠されやすいというデメリットもあります。
2-3. 動産執行 |車やブランド品を換金する
動産執行とは、現金や宝石などの動産を差し押さえ、それを換価して回収する手続きのことを指します。この手続きには、不動産執行と比べて短期間で簡便に実施できるというメリットがあります。一方で、以下のような制約や課題もあります。
・差押えが禁止されている動産が多い(例: 生活に必要な家具や家電、66万円までの現金など)
・中古品や価値の低い動産が多く、十分な債権回収に繋がらない可能性が高い
そのため、動産執行は簡便ではあるものの、回収額が期待よりも少なくなるケースが多い点に注意が必要です。
2-4. 強制執行の対象にできない財産
法律上強制執行の対象にできない財産もあり、例えば、以下のものが挙げられます。
生活に欠くことができない衣服、寝具、家具等
1カ月の生活に必要な食料及び燃料
66万円以下の現金
年金や生活保護費
学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具
宗教・職業のために欠くことができないもの
また、給料や退職金については、原則として4分の1までしか差し押さえることができませんが、養育費や婚姻費用の請求であれば、例外的に2分の1まで差し押さえることが可能です。また、給与が手取りで33万円を超える場合には、超えた額については全て差し押さえを行うことが可能です。
3. 金銭の回収以外でも強制執行は行われる
強制執行には、金銭の支払いを目的とする「金銭執行」だけでなく、金銭以外の義務を実現する「非金銭執行」もあります。離婚に関係する非金銭執行の具体例としては、面会交流の実現や子どもの引渡しを求めるケースがあります。
このような場合、執行官が無理やり子どもを連れてきて面会を実現するような強制方法(直接強制)は適さないため、「間接強制」という手続きが用いられます。
間接強制とは、相手が裁判や調停で決められた義務を守らない場合に、一定の期限までにその義務を履行するよう命令し、それでも従わない場合には、金銭の支払いを課す方法です。たとえば、面会交流の場合、相手が決められた期間内に面会を実施しないときには、一定額の金銭を支払わせることで、義務の履行を促します。
4. 強制執行のメリットデメリット
強制執行は、支払いをしようとしない相手方から強制的にお金を回収することができますが、必ずしもうまくいくわけではない点に注意が必要です。ここでは、強制執行のメリットデメリットを紹介します。
4-1. メリット
強制執行のメリットは、相手方が支払いに応じてくれない場合でも、相手方の財産を差し押さえ・換価して、強制的に権利を実現することができる点にあります。また、強制執行の手続きには、裁判所が介入するので、相手方との交渉は不要です。
さらに、離婚時の相手方との合意が、強制執行受諾文言付きの公正証書によってなされている場合には、調停や裁判を経なくても、直ちに強制執行を行うことが可能です。強制執行受諾文言とは、例えば養育費の支払いが滞った場合には、直ちに強制執行を受けてもやむを得ないといった文言のことをいいます。
4-2. デメリット
強制執行のデメリットとしては、まず、予納金、収入印紙等の申立てにかかる費用の他、弁護士に依頼する場合には弁護士費用もかかるため、費用が高額になり得ることが挙げられます。
また、強制執行を申立てる際には、相手方の財産の内容や住所・職場などを特定する必要があります。仮に特定して強制執行を申立てたとしても、例えば差し押さえた預金の残高がない場合や、給与債権を差し押さえようとしたものの相手方が職場をすでに退職していたような場合には、空振りに終わってしまいます。

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5. 離婚時の約束を守らない相手に強制執行ができる条件
強制執行は誰でも思いついたときに行えるわけではありません。強制執行を行うには特定の条件を満たしている必要があるので、解説します。
5-1. 相手の住所を把握している
強制執行の申立てを行うためには、相手方の住所を把握しておく必要があります。なぜならば、強制執行の申立て先は、原則として相手方の住所を管轄する裁判所となるからです。相手方の住所を特定するには、住民票の除票や戸籍の附表を取り寄せて調査を行うことになりますが、たどっていくことが難しいケースもあるため、弁護士等の専門家に依頼することが推奨されます。
5-2. 債務名義を持っている
債務名義とは、強制執行を行うために必要な、公的に金銭などの支払いを受ける権利があることを証明する文書のことをいいます。離婚に関連する債務名義には、判決書や和解調書、調停調書、執行受諾文言付き公正証書、審判書などが含まれます。
これらの債務名義を取得するためには、それぞれの手続きが必要です。たとえば、離婚訴訟を提起して判決を得ることで判決書が作成されます。また、訴訟の中で裁判上の和解が成立すれば和解調書が作成され、離婚調停を申立てて調停が成立すると調停調書が作られます。
さらに、相手方との合意に基づいて執行受諾文言付きの公正証書を作成する場合や、養育費などの審判手続きで審判を出してもらう場合もあります。このように、離婚に関連する債務名義を得るためには、それぞれの状況に応じた手続きを進めることが必要です。債務名義を取得することで、強制執行を実行するための基盤が整います。
5-3. 相手に財産がある
前述の通り、強制執行を申立てるには、相手方の財産の内容を把握しておく必要があります。
また、強制執行は相手方の財産を差し押さえて換価する手続きなので、相手方に十分な財産がない場合には、十分に金銭を回収できずに、費用倒れになってしまう可能性があります。したがって、強制執行を申立てる際には、相手方の財産の特定と共に、それがどれくらい価値のあるものかについてもできる限り把握しておくのがよいでしょう。
6. 強制執行の流れ
次に、強制執行の流れについて説明します。以下は、養育費や慰謝料の回収の際に最も利用される、債権執行の流れになります。
6-1. 相手の財産や住所を調査する
前述の通り、強制執行の申立てを行うためには、相手方の住所、勤務先、財産の内容を把握しておく必要があります。したがって、まずはこれらの相手方の情報についての調査を行うことが必要です。自力で調査を行うことが難しい場合には、弁護士に依頼するとよいでしょう。
弁護士は、戸籍の附表や住民票の除票の職務上請求、弁護士会を通じて企業や公共機関に情報の開示を請求できる制度である弁護士会照会、裁判上の手続きである財産開示手続等によって、調査を行うことが可能です。
6-2. 必要書類を用意して裁判所に申し立てる
調査が完了したら、必要書類を用意して裁判所に強制執行の申立てを行います。申立先は、相手方(債務者)の住所地を管轄する地方裁判所となります。また、申立ての際の必要書類は、以下のとおりです。
債権差押命令申立書
当事者目録(申立書に記載する当事者の氏名や住所などを一覧にまとめたもの)
請求債権目録(請求する債権の内容を一覧にまとめたもの)
差押債権目録(差押えを希望する債権の内容を一覧にまとめたもの)
債務名義
送達証明書(債務名義が相手方に送達されたことを証明する文書)
必要書類の取得方法がわからない場合には、管轄の裁判所または弁護士に相談するとよいでしょう。
6-3. 差押命令を取得して金銭を回収する
申立書が裁判所に受理されると、裁判所は相手方に対して差押命令を発令します。この差押命令が出されるまでの期間は、通常2〜3日程度です。
相手方が差押命令を受け取った後、一定の期間が経過すると、債権者は第三債務者(例: 相手方の勤務先など)に対する取立権を取得します。取立権を取得した後は、第三債務者に直接連絡して債権を取り立てることが可能です。たとえば、給与債権の場合は、勤務先に連絡して給与の振り込みなどの対応を依頼する形になります。
7. 強制執行にかかる費用
債権執行の場合に申立てにかかる費用としては、まず、裁判所に納める費用として、債務名義が1通の場合には、収入印紙代として4000円、郵券切手代として3000円〜5000円程度かかります。
また、強制執行の手続きを弁護士に依頼する場合には、弁護士費用もかかります。弁護士費用には、事件を依頼する際に発生する着手金と、一定の成果を得た場合に発生する報酬金がありますが、強制執行にかかる弁護士費用については、着手金、報酬金ともに、債権額に応じて設定する場合が多いです。
弁護士費用の設定は、各弁護士事務所により異なるので、一概に言えませんが、例えば、債権額が300万円以下のケースでは、着手金については債権額の4%~8%程度、報酬金については回収額の4%~16%程度に設定している例が多いと思います。このような料金設定を前提とすると、債権額が200万円の場合には、着手金は8万~16万円程度、報酬金は最大で32万円程度となります。
8. 強制執行以外で養育費を取り立てる方法
様々な事情で強制執行が出来ないこともありますが、それ以外の方法で取り立てを行うことも可能です。ここでは、強制執行以外で養育費を取り立てる方法について説明します。
8-1. 内容証明郵便の送付
強制執行以外で養育費を取り立てる方法として、まず相手方に養育費の支払いを求める内容証明郵便を送ることが考えられます。
内容証明郵便は、文書の内容や差出人、宛名、作成日、そして郵送した事実を記録・証明する郵便局のサービスです。この方法は、通常、法的手続きを行う前の段階で使用されることが多く、相手方に心理的なプレッシャーを与える効果が期待できます。相手方が支払いに応じるきっかけとして有効な手段となる場合があります。
8-2. 調停や審判の申立て
養育費調停とは、裁判官と調停委員が間に入り、養育費の支払いの有無、金額、支払い期間等について話し合い、合意を目指す手続きのことをいいます。合意が難しい場合には、審判手続きに移行し、裁判官が双方の話を聞いた上で、養育費の金額を決定することになります。
調停や審判により取り決めた養育費を相手方が支払わなかった場合には、調停調書や審判書を債務名義として強制執行を申立てることができます。
8-3. 履行勧告・履行命令
家庭裁判所で決まった調停や審判の内容を守らせるために、「履行勧告」という制度があります。もし相手が取り決めを守らない場合、履行勧告を家庭裁判所に申立てると、裁判所は相手に対して自発的に履行するよう促します。しかし、履行勧告はあくまで相手に任意で守らせるもので、支払いを強制することはできません。
より強制力を持つ手続きとして「履行命令」があります。履行命令を申立てて、家庭裁判所がそれを適当だと認めると、裁判所は履行の期限を定めて履行を命じます。もし期限までに正当な理由なく命令に従わない場合、家庭裁判所は相手に対して10万円の過料を科すことができます。
9. 強制執行を弁護士に依頼するメリット
強制執行は手続きが複雑で、専門的な知識が必要です。そのため、強制執行に詳しくない場合、自分で行うのは難しいことが多いです。強制執行を考える場合、弁護士に依頼することを検討するとよいでしょう。
弁護士に依頼するメリットとして、相手の住所や勤務先、財産の調査から、強制執行の申立て、実際の取り立てまで一貫して対応してもらえる点が挙げられます。また、自分で強制執行を進めようとすると、申立て方法や手続きの流れを一から調べる必要があり、時間がかかることがあります。しかし、弁護士は手続きに精通しているため、迅速に対応してくれます。
さらに、強制執行が適切な方法かどうか、どの財産を差し押さえるべきかなど、最適な手段をアドバイスしてくれるため、権利を実現するためのサポートを受けることができます。

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10. 離婚の強制執行でよくある質問
弁護士を介さずに養育費などの支払いを取り決めた場合、合意した内容が書面で明確にされていないことや、内容が不十分であることがあります。また、支払い方法が分割払いになっていた場合、離婚後に相手との関係が疎遠になり、途中で支払いが止まってしまうことがあります。
強制執行を行う際には、いくつかの費用がかかります。まず、収入印紙代や郵便切手、予納金などの裁判所費用があり、これらは裁判所に支払うものです。また、弁護士費用も必要です。裁判所費用は法律で債務者が負担することになっており、最終的には相手方に請求することができます。
しかし、弁護士費用は基本的に自分で負担することになります。弁護士を探す際には、費用相場を調べ、妥当な費用を提示してくれる弁護士に依頼することが大切です。
強制執行は、原則として過去に発生した債権に対してしかすることはできませんが、養育費については、過去の滞納された分のみならず、今後毎月発生する将来分についても、相手方の毎月の給料等を差し押さえることができます。
11. まとめ 金銭回収の最終手段として強制執行がある
離婚時に決めた財産分与、慰謝料、養育費など、元配偶者から受け取るはずだったお金が支払われない場合、まずは任意での支払いを求めますが、応じてもらえない場合には、最終手段として強制執行を行うことになります。強制執行を行うことで、支払者が持つお金や財産を差し押さえ、換金したうえでお金を回収することができます。
強制執行を行うには、相手方の住所を把握していたり、債務名義を取得していたり、相手に財産があることを確認したりする必要があります。自分で行うのが難しい場合には、弁護士に相談しましょう。
また、残念ながら強制執行が出来ない場合でも、別の方法で支払いを求めることも可能です。自分や相手の状況に応じて、適切な方法を取れるとよいでしょう。
(記事は2025年6月1日時点の情報に基づいています)