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1. 不倫慰謝料の求償権とは
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1-1. 不倫(不貞行為)は配偶者と不倫相手の「共同不法行為」
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1-2. 配偶者と不倫相手のどちらかが慰謝料を支払ったときは、求償権が発生する
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1-3. 求償権の負担割合の決め方
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1-4. 不倫慰謝料の求償権を行使するタイミング
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2. 不倫慰謝料の求償の仕方(方法)
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2-1. 離婚する場合|不倫した配偶者と不倫相手の間で精算する
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2-2. 離婚しない場合|三者間合意で求償権を処理する
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3. 不倫慰謝料の求償に関する内容証明郵便の文例
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3-1. 慰謝料を支払ったあとに求償を行う内容証明郵便の文例
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3-2. 求償権を理由に慰謝料の減額を求める内容証明郵便の文例
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4. 不倫慰謝料の求償権の消滅時効
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5. 不倫慰謝料の求償権に関するトラブルを防ぐ方法
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6. 不倫慰謝料の求償権について弁護士に相談するメリット
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6-1. 求償を受ける側(離婚しない被害者を含む)のメリット
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6-2. 求償をする側のメリット
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7. 不倫慰謝料と求償権に関する弁護士費用
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8. 不倫慰謝料の求償権に関してよくある質問
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9. まとめ|不倫慰謝料の求償権に関する問題は弁護士の助けが有用
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1. 不倫慰謝料の求償権とは
不倫慰謝料の「求償権」とは、不倫当事者のいずれか一方が、不倫された配偶者に対して慰謝料を支払った場合に、もう一方の不倫当事者に対して負担額の支払いを請求できる権利です。
たとえば、不倫された妻が、夫の不倫相手の女性に慰謝料200万円を請求し、夫には請求しない場合、この女性は夫に対して慰謝料の一部の支払いを求めることができます。
1-1. 不倫(不貞行為)は配偶者と不倫相手の「共同不法行為」
不倫(不貞行為)は、不倫当事者の被害者に対する「共同不法行為」(民法719条)にあたります。「共同不法行為」とは、数人が共同して違法に他人に損害を加える行為です。
たとえば、既婚男性が独身女性と不倫していた場合、男性と女性は男性の妻に対して共同不法行為をしたことに なります。
1-2. 配偶者と不倫相手のどちらかが慰謝料を支払ったときは、求償権が発生する
共同不法行為者は、各自が連帯して被害者の損害を賠償する責任を負います(民法719条1項)。
不倫された側は、不倫によって受けた精神的損害の賠償(慰謝料の支払い)を、配偶者と不倫相手のどちらに対しても請求できます 。不倫当事者は、被害者が受けた損害の限度で、請求された額の慰謝料を支払わなければなりません(不真正連帯債務)。
たとえば前述のケースにおいて、妻が不倫によって200万円の精神的損害を受けたとします。
この場合、妻は配偶者の夫に対して200万円全額を請求することも、不倫相手の女性に対して200万円全額を請求することもできます。また、夫に50万円、女性に150万円などのように、慰謝料を分けて請求することも可能です。
しかし、本来であれば、不倫当事者は不倫に関する責任の割合に応じて、被害者に対する損害賠償責任を分担すべきと考えられます。そこで、実際に被害者に対して支払った慰謝料額が、自らの客観的な責任割合に応じた負担額を上回る場合は、不倫の相手方に対して超過額の支払いを請求(求償)できる とされています。
たとえば前述のケースにおいて、夫と不倫相手の責任割合が1対1(50%:50%)だとします。この場合、妻に対して支払うべき200万円の慰謝料のうち、夫と不倫相手はそれぞれ100万円を負担すべきです。仮に、実際には不倫相手の女性が妻に対して200万円全額を支払ったとすると、女性は夫に対して100万円を求償できます。
1-3. 求償権の負担割合の決め方
不倫慰謝料の求償権に関する負担割合は、常に1対1(50%:50%)とは限りません。不倫に関して主に以下のような事情をふまえて、不倫当事者の間でどちらがどれだけの責任を負うべきかを検討する必要があります。
相手が既婚者であることを知っていたか
相手が既婚者であることを知らなかったとすれば、知るきっかけがあったかどうか
不倫を積極的に誘ったのはどちらか
実際の負担割合は、当事者間の交渉によって決めるか、または訴訟などの法的手続きを通じて決めることになります。
1-4. 不倫慰謝料の求償権を行使するタイミング
不倫慰謝料の求償権を行使するタイミングは、主に以下の2とおりです。
①不倫慰謝料を支払ったあと
被害者に対して実際に不倫慰謝料を支払ったあとで、不倫の相手方に対して求償を行います。
②不倫慰謝料の請求を受けたとき
被害者から不倫慰謝料の請求を受けたときに、被害者の配偶者に対して取得する求償権の額を考慮して、慰謝料の減額を求めます(なお、求償権は慰謝料を支払った時点で発生するので、厳密にはまだ求償権は発生していません)。
被害者と不倫の相手方が離婚するケースでは①のパターン、離婚しないケースでは②のパターンがよく見られます。
2. 不倫慰謝料の求償の仕方(方法)
不倫慰謝料に関する求償は、離婚する場合と離婚しない場合のそれぞれにおいて、以下の方法で行うことが多いです。
2-1. 離婚する場合|不倫した配偶者と不倫相手の間で精算する
被害者と不倫した配偶者が離婚する場合は、不倫した配偶者と不倫相手の間で求償を行い、被害者は求償に関与しない のが一般的です。
たとえば、既婚男性と独身女性が不倫をしていたケースで、男性が妻に対して不倫慰謝料全額を支払い、2人は離婚したとします。
この場合、男性は不倫相手の女性に対する求償が可能ですが、妻は求償に関与しません。不倫相手が男性に対して自らの負担割合に応じた金額を支払えば、求償は完了します。
2-2. 離婚しない場合|三者間合意で求償権を処理する
被害者と不倫した配偶者が離婚しない場合は、被害者、不倫した配偶者、不倫相手の三者間で合意して求償権を処理する ことがよくあります。被害者と配偶者の家計が引き続き同じであることを考慮し、交渉や支払いの二度手間を避けるためです。
たとえば、既婚男性と独身女性が不倫をしていたケースで、男性とその妻は離婚しないとします。
この場合、妻、男性、不倫相手の三者間で話し合って、不倫相手の女性が妻に対して支払う慰謝料の額を合意し、男性と不倫相手の女性は互いに求償権を放棄します。このように処理すれば、不倫慰謝料の支払いと求償が1回で完結 します。
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3. 不倫慰謝料の求償に関する内容証明郵便の文例
不倫慰謝料の求償は、内容証明郵便などの文書で行われるのが一般的です。
被害者をA、被害者の配偶者をB、不倫相手をCとします。
AがCに対して200万円の慰謝料を請求したケースを想定して、以下の2種類の内容証明郵便の文例を紹介します。
3-1. 慰謝料を支払ったあとに求償を行う内容証明郵便の文例
不倫相手Cが被害者Aに対して慰謝料200万円を支払ったあと、被害者の配偶者Bに対して100万円の求償を行う内容証明郵便の文例を紹介します。
〒○○○-○○○○
東京都……
B様慰謝料に係る求償金支払請求書
前略 私は、貴殿と私の間の不貞行為(以下「本件不貞行為」と言います。)に関する慰謝料として、○年○月○日付でAさんに対して200万円(以下「本件慰謝料」といいます。)を支払いました。
本件不貞行為については、貴殿と私にそれぞれ等しく責任があるものと思料します。そのため、本書面の受領後2週間以内に、下記の口座に本件慰謝料の半額に相当する100万円をお振込みください。
金融機関:○○銀行
支店:○○支店
口座種別:普通
口座番号:○○○○○○○
口座名義人:C
草々
○年○月○日
〒○○○-○○○○
埼玉県……
C
3-2. 求償権を理由に慰謝料の減額を求める内容証明郵便の文例
不倫相手Cが被害者Aから慰謝料200万円の請求を受けたあと、被害者の配偶者Bに対して取得する求償権を理由に、慰謝料を100万円に減額することを求める内容証明郵便の文例を紹介します。
なお、内容証明郵便以外に、以下の内容を普通郵便やメールなどのメッセージで送付することも考えられます。
〒○○○-○○○○
東京都……
A様
慰謝料請求に対するご回答書
前略 私は、貴殿の配偶者であるBさんとの不貞行為(以下「本件不貞行為」と言います。)を認め、謝罪いたします。申し訳ございませんでした。
本件不貞行為について、貴殿に対して慰謝料をお支払いする意思はございます。ただし、先日の書面にてご請求の200万円という金額につきましては、貴殿とBさんが未だ離婚していないことをふまえて、Bさんに対する求償を考慮のうえで減額をお願いしたく存じます。
本件不貞行為については、Bさんと私にそれぞれ等しく責任があるものと思料します。そのため、貴殿、Bさんおよび私の間で求償権放棄を含む内容の合意書を締結すること、ならびに私が貴殿に対し、慰謝料として100万円をお支払いすることをご提案申し上げます。
ご検討のうえ、ご返信いただけますと幸いです。どうぞよろしくお願い申し上げます。
草々
○年○月○日
〒○○○-○○○○
埼玉県……
C
4. 不倫慰謝料の求償権の消滅時効
不倫慰謝料の求償権には、消滅時効が適用されると解釈されています。具体的には、不倫慰謝料を支払った日から5年間が経過すると、求償権が時効により消滅 します(民法166条1項1号)。
ただし、内容証明郵便の送付や裁判上の請求(=訴訟の提起)などが行われると、求償権の消滅時効の完成が猶予されます(民法147条1項、150条1項など)。また、債務者が求償権を承認した場合などには、時効が更新(=時効期間がリセット)されます(民法152条1項など)。
5. 不倫慰謝料の求償権に関するトラブルを防ぐ方法
不倫慰謝料の求償権に関するトラブルを防ぐには、法的な観点から適切に検討を行うことと、できる限り穏便に交渉することがポイントです。
被害者が配偶者と離婚しないケースでは、不倫相手が慰謝料の減額を求めて、求償権の存在を主張してくるケースが多くあります。
被害者が反発したくなる気持ちもわかりますが、求償権は法的に認められた権利である ことに留意しなければなりません。弁護士のアドバイスを受けながら、不倫相手の主張が妥当であるかどうかを冷静に検討しましょう。
求償権に関する交渉の際も、不倫相手を責める気持ちを極力抑えて、金額などの条件交渉に徹することが早期解決への近道 です。
実際に弁護士として私が依頼を受けた事案を比較すると、依頼者の希望に応じて強硬なメッセージを伝えたケースよりも、穏やかに淡々と交渉を進めたケースのほうが、スムーズに合意を得られたことが多いように思います。
いずれにしても、不倫相手に対して感情をそのままぶつけるのではなく、事前に弁護士と相談した上で、適切な交渉方針を定めることをお勧めします。
6. 不倫慰謝料の求償権について弁護士に相談するメリット
不倫慰謝料の求償権について疑問や不安があるのであれば、求償を受ける側と求償する側のどちらであっても、弁護士に相談するのが安心です。
6-1. 求償を受ける側(離婚しない被害者を含む)のメリット
不倫相手から求償を請求された側としては、弁護士に相談したり依頼したりすることにより、求償に応じるべき限度を適切に把握できます。不倫相手の言い値をそのまま受け入れるのではなく、弁護士のサポートを受けながら法的な根拠に基づいて交渉すれば、適切な解決につながるでしょう。
不倫をした配偶者と離婚しない場合には、不倫された被害者も求償について弁護士に相談するメリットがあります。過度な求償に応じると家計からお金が出ていってしまうので、求償権に関する不倫相手との交渉が重要になるためです。弁護士に相談したり依頼したりすれば、配偶者と不倫相手との三者間合意の成立に向けて尽力 してもらえます。
6-2. 求償をする側のメリット
不倫慰謝料を支払ったあとで求償する際や、求償権を考慮した慰謝料の減額を主張する場合も、弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士に相談すれば、被害者に対して負う慰謝料の支払義務や、不倫相手に対して取得する求償権の額などを適切に把握できます。また、慰謝料や求償に関する交渉も、弁護士に一任可能です。
また、不倫当事者は被害者から強く責められやすい立場にあります。弁護士に代理で交渉してもらえば、ネガティブな感情を直接浴びる機会が減り、精神的なストレスも軽減 されるでしょう。
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7. 不倫慰謝料と求償権に関する弁護士費用
不倫慰謝料の請求や求償に関する弁護士費用は、経済的利益の額に応じて定められるのが一般的です。
依頼時に支払う着手金と、案件終了時に支払う報酬金について、日本弁護士連合会弁護士報酬基準(現在は廃止)に基づく目安額を紹介します。実際の費用は弁護士によって異なるので、依頼先の弁護士にご確認ください。なお、以下のいずれも消費税と地方消費税込みで、経済的利益が300万円以下の場合の金額の目安となります。
【着手金】
請求額(または減額を主張する額)の8.8%
※最低額は11万円
【報酬金】
獲得額(または減額できた額)の17.6%
上記の目安をあてはめると、弁護士の協力を得て被害者から200万円を請求された不倫相手が求償権を行使し、100万円に減額できた場合の弁護士費用は以下のとおりです。
弁護士費用=着手金11万円(最低額適用)+報奨金17万6000円(100万円×17.6%)=28万6000円
8. 不倫慰謝料の求償権に関してよくある質問
9. まとめ|不倫慰謝料の求償権に関する問題は弁護士の助けが有用
不倫慰謝料の求償権は、当事者の対立や複雑な法的処理などが影響して、難しい対応を求められるケースが多いです。求償権に関するトラブルなどは無料相談などを活用して弁護士のアドバイスを受け、適切な解決をめざしましょう。
(記事は2024年12月1日時点の情報に基づいています)