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1. 特有財産とは?共有財産との違い
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1-1. 特有財産|夫婦の協力とは無関係に築いた個人の財産
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1-2. 共有財産|婚姻中に夫婦の協力で築いた財産
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2. 特有財産の種類
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2-1. 婚姻前から所有していた財産
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2-2. 個人で築いた財産
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2-3. 相続や贈与で得た財産
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2-4. 自分しか使わない家財や衣服、装飾品
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2-5. 法人名義の財産
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3. 特有財産と共有財産が混在する場合の財産分与
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3-1. 特有財産と共有財産を区別する
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3-2. 特有財産か共有財産か不明なら共有
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4. 【ケース別】特有財産であることの証明方法
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4-1. 婚姻前の預貯金
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4-2. 住宅ローンの頭金
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4-3. 婚姻前から勤務している会社の退職金
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4-4. 親からの贈与や相続で得た財産
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5. 特有財産を使い込まれたときの対処法
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6. 特有財産に関するよくある質問
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7. まとめ 特有財産は財産分与の対象外だが証明が必要
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1. 特有財産とは?共有財産との違い
夫婦の財産は、特有財産と共有財産に分けられます。離婚時に行う財産分与の対象になるのは共有財産です。特有財産と共有財産の違いについて説明します。
1-1. 特有財産|夫婦の協力とは無関係に築いた個人の財産
特有財産とは、簡単にいうと夫婦の協力なく築かれた財産を意味します。具体的には、婚姻前から保有していた財産、親からの相続や贈与で得た財産などです。また、夫婦間の合意により、個人の財産と定めたものも特有財産になります。
財産がプラスではなく、マイナス(借金)の場合も考え方は同様です。借金を負った理由が、個人的な浪費やギャンブルなどであれば、特有財産と言えます。
1-2. 共有財産|婚姻中に夫婦の協力で築いた財産
共有財産とは、特有財産とは逆のもので、夫婦の協力により築いた財産と定義できます。具体的には、婚姻期間中に購入した車や家、婚姻後に増えた貯金などは共有財産です。
また、夫と妻どちらかの名義であっても、婚姻期間中に形成された財産は共有財産の対象です。例えば、婚姻期間中に車を購入した際、所有者はどちらか一方の名義になりますが、これも共有財産です。名義人の特有財産になるわけではありません。
特有財産と共有財産は、一般の方では判断が難しい部分もあり、どちらに該当するのかわからない場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
2. 特有財産の種類
2-1. 婚姻前から所有していた財産
婚姻前から所有している財産は、預貯金や株式、不動産などすべてが特有財産の対象です。預貯金であれば、婚姻日と離婚日(あるいは別居日)の残額の差額で共有財産を計算します。これは、婚姻前の預貯金が特有財産で、別居日ないし離婚日の預貯金には特有財産と共有財産が含まれているため、財産から自分の特有財産を控除すれば、残った共有財産を適切に分与できます。
株式の場合、結婚後に配当や株式の上昇による利益が出ても、自分の所有であることに変わらないので特有財産となります。ただし、婚姻後に株式の買い増しをしている場合、婚姻後に取得した株式は共有財産となります。不動産も婚姻前から所有している場合は、財産分与の対象になりません。
自動車については、婚姻後に登録したものは基本的に共有財産となり、婚姻前から登録されていたものは特有財産となります。法人の役員の方で、法人名義で自動車を購入する場合はそもそも名義が法人となるため、財産分与の対象外となります(特有財産でもなければ共有財産でもありません)。
2-2. 個人で築いた財産
個人が夫婦の協力なしで築いた財産は、特有財産となります。宝くじやギャンブルで得た財産などが挙げられます。これは、本人の努力ではなく運のため、夫婦の協力で得た財産ではないと考えられるためです。
しかし、例えばパチンコで生計を立てているとすると、それが夫婦の共同生活を維持するための仕事と考えられるかもしれません。そうすると、パチンコにより得た金銭が共有財産となる可能性があります。
2-3. 相続や贈与で得た財産
相続や贈与で得た財産も、夫婦の協力で築いた財産ではないので、特有財産です。預貯金や現金の場合、後々、誰から貰ったものなのかわからなくなり、紛争の種となるので、贈与契約書を残すなど証拠を残しておきましょう。
相続の場合、遺産分割協議書を作成することになるので、大きな問題はありません。贈与としても、夫婦に贈与するという可能性もあり得るので、この点には留意してください。夫婦に贈与する場合、共有財産と評価されてしまいます。
2-4. 自分しか使わない家財や衣服、装飾品
原資は共有財産ですが、物を買った場合、特有財産とする場合があります。わかりやすい例は、着衣です。夫の着衣を共有財産である生活資金から購入したとします。離婚の際、夫の着衣は共有財産であるから半分相当額を支払えという話は聞いたことがありませんし、通常、されません。
ただし、着衣が全身ハイブランドの場合、100万円以上することもザラなので、共有財産という話が出る可能性は否定できません。最も、夫婦間の着衣の種類や数まで調べている夫婦は少なく、あまり問題にならないと思います。ロレックスやエルメスなどの高額な装飾品は、特有財産ではなく共有財産と主張される可能性は十分にあるので、ご注意ください。
2-5. 法人名義の財産
夫婦のいずれかが経営している会社の財産など法人名義の財産は、会社固有の財産とみなされるため、財産分与の対象とはなりません。例えば、会社名義で所有している現金や不動産などです。
ただし、法人と個人の財産の区別が明確にされていない場合や、実質的に個人事業主である場合などは財産分与の対象になりうるため注意が必要です。
3. 特有財産と共有財産が混在する場合の財産分与
離婚時の財産分与において、すべてが共有財産のことはありますが、大抵は特有財産と共有財産が混在しています。
3-1. 特有財産と共有財産を区別する
まず、今まで述べてきた特有財産と共有財産のルールに従って、財産を区別します。家庭裁判所の作成する財産分与の一覧表があり、調停などの法的手続きでは利用されることが多いです。
当然、夫側と妻側で、共有財産か特有財産かで主張が分かれる場面もあります。基本的には、預貯金、保険、自動車、不動産、証券などが多いです。
最近では、太陽光発電の売電収入なども問題になり得るので、事業として太陽光発電をしている場合は注意してください。また、家に太陽光発電をつけている場合もありますが、これも基本的には家に符合していると考えられ、家が共有か特有かの結論と同じ判断になります。
3-2. 特有財産か共有財産か不明なら共有
特有財産でないものが共有財産です。そのため、特有財産か共有財産かの区別がつかないものは、共有財産とみなされます。
そのため、特定の財産に関して、夫婦間で争いがある場合、特有財産を主張する側が証明しないと共有財産ということになります。調停の段階では、証明のようなレベルは求められませんが、調停員から証拠を出すように言われます。
また、自分が特有財産だと思っていても、相手が共有財産だと主張する場合に、あえて共有財産として手続きを進めることもあります。これは、一つの財産の評価にこだわって離婚が遅れることも望ましくないため、全体のバランスから、一部の特定財産の主張を認め、一部を共有財産として取り扱うことは、実務上よく見られます。
4. 【ケース別】特有財産であることの証明方法
次は、ケース別に特有財産であることをどのように証明していくか見ていきましょう。
4-1. 婚姻前の預貯金
婚姻前の預貯金の場合、婚姻日の貯金残高が特有財産になります。そのため、銀行口座の取引履歴などで特有財産であることを証明できます。財産分与の際は、離婚日の残高から婚姻日の預貯金額を引くことで、共有財産部分を算出します。
4-2. 住宅ローンの頭金
住宅ローンを組んで、不動産を購入したとします。この場合、フルローンを組むと、すべて共有財産として考えられます。頭金に婚姻後の預貯金を充てた場合も同様です。
では、頭金に婚姻前の預貯金を充てた場合はどうでしょうか。この場合、その部分については、特有財産が充てられているので、部分的に特有財産と言えそうです。婚姻前の預貯金については、通帳の残高から容易に証明可能ですが、昨今、銀行の履歴開示が10年度になっているので、注意が必要です。
しかしながら、住宅ローンが残っている場合、不動産の時価と残ローンとの差額で剰余が出る場合に限って、財産分与の対象となるので、オーバーローン案件が多い昨今では、あまり問題になりません。離婚の際、夫婦のいずれかが残ローン分を引き受ける場合、この点が問題になることもあります。
4-3. 婚姻前から勤務している会社の退職金
婚姻前から勤務している会社の退職金はどうでしょうか。これも、考え方は預貯金と同じです。婚姻前の勤務期間から婚姻後の勤務期間を控除し、退職金額を按分することになります。
婚姻前の退職金相当額は、特有財産と考えられ、あくまで婚姻後の勤務年数に相当する退職金が共有財産として財産分与の対象です。勤続年数は雇用契約書、退職金の見込み金額は退職金額証明書などで証明することになります。
しかし、退職金は途中退社と満期退社で金額が異なり、自己都合の場合さらに低くなるので、離婚時に査定する金額は、満額よりも低額で出されることが多いです。退職金の金額は、婚姻期間にもよりますが、勤続年数が長期の場合、数千万円にもなるので、慎重に考える必要があります。
4-4. 親からの贈与や相続で得た財産
親からの相続や第三者からの贈与の場合を考えてみます。相続であれば、夫婦の協力ではないので、特有財産となることはすでに述べました。この場合、遺産分割協議書などが作成されるので、これを証拠とすることが考えられます。
贈与の場合、贈与契約書があればベストですが、通常、家族間であればわざわざ贈与契約書を締結することは少ないです。そのため、通帳に親族からの振り込みと分かるよう、名前が記載されていると、余計な紛争を回避できます。現金で受領した場合、受領した金額はもとより、贈与なのか貸し付けなのか不明確であり、特有財産なのか共有財産なのかも分からないので注意が必要です。
過去に経験した案件で、両親からの現金の交付を貸し付けと主張されたことがありました。貸し付けの証拠が提出されず、共有財産として扱われました。
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5. 特有財産を使い込まれたときの対処法
自分の特有財産を相手に使い込まれるケースもあります。例えば、婚姻前から使用していた口座を婚姻後もそのまま使用し、配偶者に家計管理を任せていたら、婚姻前の貯金も全部使い込まれた、というようなケースです。
このような場合、配偶者に対して不当利得返還請求をすることが考えられます。不当利得返還請求とは、その名の通り、正当な理由なく得た利益を返すように請求することを言います。また、使い込まれた特有財産を考慮したうえで、財産分与の金額を決定しても良いでしょう。
6. 特有財産に関するよくある質問
親から土地の譲渡を受けた場合、譲受人名義で登記をするはずなので、登記名義人の特有財産となります。お金を支援されて上物(建物)を買ったとすると、支援を受けた人に対する贈与といえますし、上物の名義人と通常であれば一致するので、これも特有財産と言えそうです。
ただし、親からの土地の贈与の際、共有名義になっていたとすると共有財産と評価される可能性はあります。さらに、お金にしても受け取り側が配偶者の場合、共有財産や配偶者に対する贈与とも評価される可能性があるので、注意が必要です。
親から個人的に贈与された金銭は特有財産です。しかし、夫婦の生活のためと言われて贈与された場合、夫婦の生活のための資金として交付されているので、共有財産と評価される可能性が高いと思われます。
財産隠し自体は犯罪ではありません。離婚の際、財産の一覧表を作成しますが、調査能力にも限度があり、すべての財産を確実に把握できるかと言われると、そんなことはありません。
財産隠しを疑われた場合には、調査嘱託という手段があり、銀行や勤務先に対して、裁判所から情報の開示を求められる可能性があります。財産分与の際は、予め自主的に開示することが望まれます。
7. まとめ 特有財産は財産分与の対象外だが証明が必要
特有財産とは、夫婦の協力とは関係なく築いた財産のことです。婚姻前の預貯金や親からの相続で得た財産などが特有財産になります。特有財産は財産分与の対象外になりますが、特有財産であることの証明が必要です。
離婚時に財産分与を行う際は、まず特有財産と共有財産を区別しましょう。特有財産の種類によっては、特有財産であることを証明するのが難しい場合もあります。そういったときは、弁護士などの専門家を頼り、適切に財産分与が行われるようにしましょう。
(記事は2025年12月1日時点の情報に基づいています)