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1. 子連れ別居(連れ去り別居)は違法?
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1-1. 連れ去り別居が違法となりやすいケース
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1-2. 連れ去り別居が適法になりやすいケース
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2. 連れ去り別居が親権に与える影響
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3. 連れ去り別居から子どもを取り戻すための方法
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3-1. 子の監護者指定・引き渡しの審判
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3-2. 子の監護者指定・引き渡しの審判前の保全処分
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3-3. 強制執行
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3-4. 人身保護請求
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4. 連れ去り別居で子どもを連れ戻す以外の対処法
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4-1. 損害賠償請求
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4-2. 刑事告訴
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5. 連れ去り別居された場合の婚姻費用はどうなる?
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6. 連れ去り別居を防ぐための対策は?
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6-1. 誠実に話し合いを進める
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6-2. 早めに弁護士に相談する
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7. 2026年4月に導入|共同親権制度が連れ去り別居に与える影響は?
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8. 連れ去り別居についてよくある質問
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9. まとめ 子どもの連れ去り別居は“家族全体の問題”として冷静に対処を
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1. 子連れ別居(連れ去り別居)は違法?
いわゆる子どもの「連れ去り」として問題になっているのは、離婚前に夫婦間の合意なく子どもを連れて別居を開始するケースです。離婚前は夫婦双方が親権を有しています。そのため、単に「夫婦間の合意なく子どもを連れて別居を開始した」というだけでは直ちに違法にはなりません。
法律的には、「離婚前に夫婦間の合意なく子どもを連れて、別居を開始することが違法かどうか」は、いくつかの要素を総合的に考慮して判断されます。
たいていの事案では、違法となりやすい要素と適法となりやすい要素が併存しているため、慎重に検討する必要があります。以下で具体的に説明します。
1-1. 連れ去り別居が違法となりやすいケース
違法と判断されやすい要素としては、子どもを連れて行く際に強引・暴力的な方法を用いた、あるいはだまし討ち的な方法を用いた場合があります。
例えば、日常的に保育園に迎えをしていない親が、突然保育園に迎えに行って子どもを連れ出したり、子どもを抱きかかえて強引に車に乗せたりするようなケースが考えられます。
また、夫婦間で事前に話し合う余地があったにもかかわらず、子どもが嫌がっているのを押し切って連れ出した場合も、強引な連れ去りとみなされるおそれがあります。
さらに、子どもの監護状況も考慮されます。ほとんど子どもの世話をしてこなかった親が連れ出した場合、別居後に子どもにかかる負担や生活環境の悪化につながりかねないため、否定的に考えられています。
1-2. 連れ去り別居が適法になりやすいケース
適法と判断されやすい要素は、前述の違法となりやすいケースとは逆です。
例えば、夫婦間で承諾を得て実家に帰省したような、比較的穏当な経緯で別居が開始された場合は、その他の事情にもよりますが、適法と判断されやすいのではないかと考えられます。
また、親のどちらかが子どもを虐待している場合やDVがある場合、その環境から子どもと一緒に逃れるための手段としてやむを得ず子連れ別居を選択したというような事情がある場合、やむを得ない措置として適法として考慮される要素といえます。
さらに、これまで主に子どもの世話をしてきた親側による連れ出しの場合は、子どもの生活環境を守るためにやむを得なかったと評価される可能性が高くなります。
2. 連れ去り別居が親権に与える影響
子どもを連れての別居が親権に与える影響は、その子連れ別居が適法か違法かによって異なります。適法な行為であったと判断される場合は、子連れ別居をしたという事実だけで、その後の親権争いで不利にはなりません。
むしろ、別居後に子どもと同居する親(同居親)側による監護や養育の状況に問題がなく順調であれば、その環境を無理に変える必要性はなく、かえって生活環境が変わること自体が子どもにとっては負担になります。そのため、同居親側に親権を認める判断につながるケースも多くあります。
一方で、子連れ別居が違法とされる場合には、そのような行為をしてしまったという点は、子どもの親権者として適格ではないと判断される要素となり得ます。
3. 連れ去り別居から子どもを取り戻すための方法
連れ去り別居が起きた場合、「違法ではないのか?」「早く子どもを連れ戻したい」と思う人も多いはずです。家庭裁判所では、多くの場合は子どもと離れて暮らす親からの請求を受けて、子どもと暮らし身の回りの世話をする監護者の指定や子の引き渡しに関する判断が行われます。
ここでは、子どもを取り戻すために利用される主要な手続きと、それぞれの概要について解説します。
3-1. 子の監護者指定・引き渡しの審判
もっとも一般的な対処法は、家庭裁判所に対して「子の監護者指定の審判」と「子の引き渡しの審判」という2つの審判を、次に解説する「審判前の保全処分」と共に申立てる方法です。なお、制度上は調停も存在しますが、性質上あまり向かないため、実務ではほとんど使われていない印象です。
また、同居親側からも自分の行動の正当性を確認するために「子の監護者指定の審判」を申し立てることがあります。すると、一つの事案に対していくつもの審判が係属することにもなりますが、裁判所ではこれらを一括して審理・判断します。
最終的に、裁判所は両親のどちらかを子の監護者として指定します。指定されたのが同居親なのであれば、子の引き渡しは認められず、別居親が指定されれば子の引き渡しをしなければならなくなります。
監護者指定における主な判断基準としては、次の4点が挙げられます。裁判所では、これらを総合的に考慮して、子どものためにどちらの親が監護者となる方が最善かという観点から監護者を判断しています。
【子どもの従前の監護状況】
夫婦が同居していた時期、どちらの親が子どもの世話を担ってきたか。当然、子どもの世話を担ってきた方が監護者としてふさわしいということになります。
【現在の子どもの監護態勢が整っているか】
それぞれの居住環境、経済状況、育児協力者(祖父母など)の有無などが考慮されます。
【それぞれの当事者と子どもとの関係】
親子の関係が良好か否かということが考慮されます。
【他方親と子どもとの関係を尊重しているか】
夫婦同士は確執があるとしても、子どもにとっては両親ともに大切な存在です。そのことをそれぞれの当事者がどの程度理解し、尊重しているかが考慮されます。近年ではより重視される傾向にあります。
このうち、どのような経緯で別居が開始されたかという点は、子どもと離れて暮らす親と子どもとの関係を尊重しているかという項目において重要な判断材料となります。また、別居後に同居親が子どもと別居親との面会交流にどの程度誠実に応じているかも、非常に重く考慮されています。
3-2. 子の監護者指定・引き渡しの審判前の保全処分
前述のように、裁判所に対して「子の監護者指定の審判」と「子の引き渡しの審判」を申立てる際、それぞれに対応する「審判前の保全処分」も共に申立てるのが一般的です。
この手続きを申し立てるには、「保全の必要性」があることを裁判所に主張する必要があります。典型的な例としては、別居先で子どもが虐待やネグレクトに遭うおそれがあるため、一刻も早く子どもを元の住居へ戻さなければならない、といった理由です。
3-3. 強制執行
前述の「審判前の保全処分」が裁判所に認められた場合、子どもを強制的に取り戻す手続きを行うことができます。
3-4. 人身保護請求
過去には「人身保護請求」という手続きも利用されていました。現在では、主に利用されるのは上記の「子の監護者指定の審判」「子の引き渡しの審判」とそれぞれの「審判前の保全処分」で、こちらの手続きはあまり利用されていません。
4. 連れ去り別居で子どもを連れ戻す以外の対処法
子どもを連れ戻すための手段として、監護者指定や引き渡しの審判が中心となりますが、それ以外にも民事・刑事の手続きを検討することができます。ただし、いずれの方法も効果やリスクを十分に理解したうえで慎重に判断する必要があります。
4-1. 損害賠償請求
民法709条に基づき、違法行為に対して損害賠償請求を行う余地があります。ただし、得られる可能性があるのは金銭であり、子どもを取り戻せるわけではありません。
また、損害賠償請求が認められるか否かの基準は「子の監護者指定の審判」や「子の引き渡しの審判」とは異なるため、監護者指定の審判や引き渡しの審判が認められたとしても必ずしも損害賠償請求も認められるとは限りません。仮に認められたとしても、金額は少額にとどまるケースが多く、子どもの奪還を目的とする場合には、現実的とは言い難い面があります。
4-2. 刑事告訴
違法な子どもの連れ去りは、刑法224条の未成年者略取罪・誘拐罪に該当する可能性があります。そのため、犯罪の疑いがあるとして警察などの捜査機関に刑事告訴を行う選択肢もあります。
しかし、刑事責任の追求はあくまで「国と加害者との関係」で行われるものであり、連れ去られた側の親や子どもの救済につながる訳ではありません。
刑事告訴をした結果、被疑者となった同居親が追い詰められれば、子どもの生活にも悪影響が及びかねません。したがって、この選択肢はよっぽどのことがない限り、取るべきではないと考えます。
5. 連れ去り別居された場合の婚姻費用はどうなる?
連れ去り別居であっても、年収に応じた婚姻費用の分担義務はあるため、子どもの同居親側からの婚姻費用の請求には応じなければなりません。
ただし、請求側に不貞行為がある場合等は、信義則上、配偶者自身の生活費分は請求できないとした判例は存在します。もっとも、そのような事情があっても子どもの養育費相当分の支払いは必要となります。
6. 連れ去り別居を防ぐための対策は?
連れ去り別居は、夫婦間の信頼関係が崩れたときに起きやすいトラブルです。子どもをめぐる別居を防ぐには、日頃のコミュニケーションや早期の対応が重要になります。特に、夫婦関係に不安を感じた段階で行動を起こすことが、後々の深刻な事態を回避する手がかりとなります。
6-1. 誠実に話し合いを進める
夫婦の人間関係が悪化している時に、配偶者ときちんと向き合わなかったり、話し合いから逃げていたりすると、相手が強硬手段として連れ去り別居を選択するリスクが高まる傾向があります。
できる限り相手の話・考えに耳を傾け、誠実に話し合いを進めていれば、連れ去り別居を強行するという心理状態にはなりにくいと考えられます。仮に、誠実に対応していたにもかかわらず連れ去り別居を強行した場合には、その行為が違法な連れ去りと評価されることになります。
6-2. 早めに弁護士に相談する
早期に弁護士に相談すれば、子連れ別居が違法な連れ去りになる可能性についての知識や判断材料を得られます。また、弁護士を通じて相手に対し法的な説明や警告を行うことで、連れ去りを思いとどまるよう説得しやすくなったり、穏便な解決を目指しやすくなったりするでしょう。
7. 2026年4月に導入|共同親権制度が連れ去り別居に与える影響は?
共同親権制度が施行された後は、夫婦は離婚時に共同親権か単独親権かを選択することができるようになります。
もし、当事者間で共同親権での離婚に合意ができない場合は、裁判所が共同親権とするか単独親権とするかを判断することになります。その判断基準については、これまで「子の監護者指定の審判」や「子の引き渡しの審判」において子の監護者を決定するうえでの判断基準が持ち込まれるのではないかと言われています。
つまり、違法な連れ去りをしてしまったという事情がある場合は、その事情は離婚後も親権を持ち続けるにふさわしくないと判断される要素となる可能性があります。
8. 連れ去り別居についてよくある質問
単に子どもを連れて実家に帰ったというだけでは、違法な連れ去りであるとは判断できません。違法性があるかどうかは、その他の要素も含めて慎重に判断されます。
違法な連れ去りといえる場合は請求できる可能性があります。ただし、費用対効果を考えるとあまりおすすめできません。
面会交流は行うべきというのが法律上の基本的な考え方なので、正当な理由なく会わせていないなど、事情によっては違法とされる可能性があります。
9. まとめ 子どもの連れ去り別居は“家族全体の問題”として冷静に対処を
子どもを連れて一方的に別居する、いわゆる「連れ去り別居」は、すべてが違法とされるわけではありません。しかし、話し合いを無視した強引な連れ出しや、相手に居場所を隠して連絡を絶つような行動は、違法と判断される可能性があります。
また、連れ去り別居は、その後の親権争いや婚姻費用の支払い、子どもとの面会交流など、多くの場面に影響を及ぼします。場合によっては、家庭裁判所での審判や保全処分、強制執行などの手続きを通じて、子どもの引き渡しを求めることも検討する必要があります。
今後、共同親権制度の導入により、こうした問題の判断基準がより厳しく問われるようになると考えられます。そのため、感情的に行動する前に、事前に法的な知識を持つ専門家に相談することが重要です。
子どもの将来や家族のあり方について冷静に判断するためにも、まずは早めに弁護士に相談してみましょう。
(記事は2025年12月1日時点の情報に基づいています)