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1. 父母がお互いに親権はいらないと思っている場合、親権を放棄できるのか?
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2. 父母間で親権の押し付け合いになったらどうする?
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2-1. 弁護士を間に入れて話し合う
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2-2. 離婚調停を申し立てる
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2-3. 離婚訴訟を提起する
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2-4. 離婚後であれば、親権者変更調停を申し立てる
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3. 父母が子どもの親権を望まない主な理由
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4. 離婚後に親権者を辞任できるのか?
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4-1. やむを得ない事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て辞任できる
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4-2. 親権者の辞任が認められるケース
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4-3. 親権者の辞任が認められないケース
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4-4. 辞任によって親権者がいなくなる場合は、未成年後見人の選任請求が必要
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4-5. 親権者を辞任した場合は、市区町村役場への届出が必要
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5. 2026年5月までに導入|共同親権・法定養育費・先取特権が親権者の変更(辞任)に与える影響は?
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6. 離婚後の親権に関する手続き一覧
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6-1. 親権の喪失
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6-2. 親権の停止
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6-3. 管理権の喪失
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6-4. 親権者・管理権者の辞任
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6-5. 親権者の変更
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7. 親権はいらないから離婚したい場合の注意点
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7-1. 子どもを傷つけないようにする
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7-2. いったん親権を手放すと、取り戻すことは難しい
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7-3. 親権者でなくても、養育費を支払う必要がある
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8. 親権について悩んだ場合の相談先
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8-1. 自治体の窓口
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8-2. 弁護士
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9. お互いに親権がいらない場合によくある質問
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10. まとめ お互いが親権はいらない場合でも慎重に判断しよう
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1. 父母がお互いに親権はいらないと思っている場合、親権を放棄できるのか?
18歳未満の子どもがいる場合、離婚時には父母のいずれかを親権者に定める必要があります。離婚届には子どもの親権者を記載する項目があり、記載がないと受理されません。
また、子どもの親権を一方的に放棄することはできません。後述するように、親権者の辞任が認められるのは、やむを得ない事由があり家庭裁判所の許可を得た場合に限られます。
離婚する父母の双方が「親権はいらない」と考えていても、必ずどちらかを子どもの親権者に定めなければなりません。
2. 父母間で親権の押し付け合いになったらどうする?
父母の双方が親権を望まず、親権を押し付け合うことがあります。このような場合は、以下の方法で解決を図ることが重要です。
2-1. 弁護士を間に入れて話し合う
夫婦間で話し合っても結論が出ない場合は、弁護士を通じて話し合う方法があります。弁護士の客観的な意見を参考に話し合えば、子どもの健全な成長を考慮し、自分にとっても納得できる解決策が見つかる可能性があります。
また、子どもの育児や金銭負担がネックとなっている場合でも、法的な方法や公的制度を利用すれば解決できることがあります。例えば、養育費をしっかりと取り決めることや、ひとり親の支援を利用することなどが考えられます。自治体によっては、ひとり親への給付や育児サービスを提供している所もあります。弁護士に相談すれば、このような解決策についてもアドバイスを受けられます。
2-2. 離婚調停を申し立てる
話し合いで親権者を決められない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てましょう。
離婚調停では、調停委員が夫婦双方から個別に話を聞き、親権を含む離婚条件についての合意形成をサポートします。親権者を父母のどちらにするのが適切かについて、調査官が家庭訪問などの調査を行います。
中立の調停委員の仲介により冷静な話し合いが期待できるとともに、調停を通じて子どもと向き合うことで、よりよい解決策が見つかるかもしれません。
2-3. 離婚訴訟を提起する
離婚調停でも親権者が決まらない場合、話し合いによる離婚はできません。引き続き離婚を求める場合は、裁判所に離婚訴訟を提起する必要があります。
離婚訴訟では、以下の法定離婚事由が認められる場合に限り、裁判所が強制的に離婚を成立させる判決を言い渡します。
不貞行為
悪意の遺棄
配偶者の生死が3年以上不明である
配偶者が強度の精神病に罹り、回復の見込みがない(2026年5月までに削除される予定)
その他婚姻を継続し難い重大な事由
離婚判決が言い渡される場合は、子どもの親権者も判決主文で示されます。ただし、判決で強制的に親権者が決定されると、親権者になった側に不満が残り、子どもとの良好な関係を築けないおそれがあります。離婚訴訟に発展した場合でも、可能な限り和解による解決を模索することが望ましいでしょう。
2-4. 離婚後であれば、親権者変更調停を申し立てる
離婚後の子どもの親権者が、親権を放棄したいと考えた場合は、家庭裁判所に親権者変更調停を申し立てることが可能です。家庭裁判所が子どもの利益のため必要だと認めた場合、審判によってもう一方の親に親権者が変更されます(民法819条6項)。
ただし、相手も親権を望まない場合、特段の事情がない限り親権者の変更は認められにくいと考えられます。
3. 父母が子どもの親権を望まない主な理由
父母が子どもの親権者を持ちたくないと考える背景には、以下のような理由が考えられます。
経済的な不安がある
仕事が多忙である
病気で健康状態が良くない
再婚の妨げになる
子どもに対する愛情がない
子どもの健全な成長を支えるためには、親としての責任を果たす必要があり、法律上も、親は子どもに対する扶養義務があります。親権を望まない事情があっても、親同士で話し合い、何らかの折り合いを付けなければなりません。
4. 離婚後に親権者を辞任できるのか?
親権者は、仕事のように自分の意思だけで辞められません。親権者を辞任するには、家庭裁判所の許可が必要です。
4-1. やむを得ない事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て辞任できる
親権者の変更以外で親権を辞任するには家庭裁判所の許可が必要です。家庭裁判所が親権者の辞任を認めるのは、やむを得ない事由がある場合に限られます(民法837条1項)。
4-2. 親権者の辞任が認められるケース
以下のような事情がある場合、親権者の辞任が認められる可能性があります。
親権者が経済的にきわめて困窮している
病気や障害のため、親権者が子どもを養育できない状態にある
親権者の長期海外赴任が決まり、子どもを連れて行けない
親権者が刑務所に服役することになった
4-3. 親権者の辞任が認められないケース
以下のような理由では、親権者の辞任が認められる可能性は低いと考えられます。
・子どもとの生活に嫌気が差した
・子どもに縛られず自由な生活がしたい
・子どもの世話はできるが、元夫(元妻)と一緒に暮らした方が幸せそう
4-4. 辞任によって親権者がいなくなる場合は、未成年後見人の選任請求が必要
離婚後の単独親権の状態で親権者が辞任すると、親権者が不在となります。この場合、父もしくは母が遅滞なく、子どものために未成年後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません(民法841条)。
未成年後見人は、子どもの財産管理や身上監護など、親権者が担っていた事務を代わりに行います。一般的には、子どもの親族や弁護士、司法書士などの専門家が選任されます。
4-5. 親権者を辞任した場合は、市区町村役場への届出が必要
親権者の辞任を許可する家庭裁判所の審判が確定した場合、審判確定日を含めて10日以内に、子どもの本籍地もしくは親権者の住所地の市区町村役場に親権辞任届を提出しなければなりません。
親権辞任届には、家庭裁判所から交付される親権辞任許可審判書の謄本を添付する必要があります。

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5. 2026年5月までに導入|共同親権・法定養育費・先取特権が親権者の変更(辞任)に与える影響は?
2026年5月までに改正民法が施行され、父母の離婚後の親権や養育費について、以下の新制度が導入される予定です。
【共同親権】
現行法では、離婚後の親権は父母のどちらか一方に定める必要がありますが、施行後は父母の双方が親権者となることが可能です。
【法定養育費】
養育費の取り決めがなくても、子どもの最低限度の生活維持に必要な養育費を、離婚時に遡って請求できるようになります。
【先取特権】
養育費に他の債権に対する優先権(先取特権)が付与され、不払いが生じた際には優先的に回収できるようになります。例えば支払い義務者が借金を支払えずに破産したような場合でも、養育費は優先的に回収することができます。また、確定判決などの債務名義がなくても養育費の強制執行(差し押さえ)の申立てが可能になります。
共同親権が導入されると、もう一方が責任を持って子どもを育てることを条件として、共同親権者のうち1人が辞任することも認められる可能性があります。
ただし、親権者を辞任しても養育費の支払義務は残ります。改正民法による法定養育費制度や養育費の先取特権の導入により、不払いの養育費は回収されやすくなるのでご注意ください。
6. 離婚後の親権に関する手続き一覧
離婚後に発生し得る、子どもの親権に関する手続きを一覧にまとめます。
親権の喪失
親権の停止
管理権の喪失
親権者・管理権者の辞任
親権者・管理権者の変更
各手続きの概要は、以下のとおりです。
6-1. 親権の喪失
「虐待または悪意の遺棄があるとき」、または「親権の行使が著しく困難または不適当であり、子の利益を著しく害するとき」には、家庭裁判所は子ども本人や親族などの請求により、親権喪失の審判を行うことができます。ただし、2年以内に親権喪失の原因が消滅する見込みがある場合は、この限りではありません(民法834条)。
親権喪失の審判が確定すると、対象とされた父または母は、子どもの親権を失います。ただし、親権喪失の原因が消滅したときは、家庭裁判所により審判が取り消されることがあります(民法836条)。
6-2. 親権の停止
親権の行使が困難または不適当であり、子の利益を害すると認められる場合、家庭裁判所は子ども本人や親族などの請求により、親権停止の審判を行うことができます(民法834条の2第1項)。
親権停止の審判が確定すると、指定された期間(最長2年)にわたり、対象となる親の親権が停止されます。親権停止の期間は、以下の事情を考慮して決定されます(同条2項)。
・親権停止の原因が消滅するまでに必要と見込まれる期間
・子の心身の状態および生活の状況
・その他一切の事情
ただし、親権停止の原因が消滅したときは、停止期間中であっても、家庭裁判所の審判により親権が回復することがあります(民法836条)。
6-3. 管理権の喪失
親権のうち、子どもの財産を管理する権限を「管理権」、管理権を有する者を「管理権者」といいます。管理権の行使が困難または不適当であり、子の利益を害すると認められる場合、家庭裁判所は子ども本人や親族などの請求により、管理権喪失の審判を行うことができます(民法835条)。
管理権喪失の審判が確定すると、対象とされた親は、子どもの財産管理権を失います。なお、親権は子どもの財産を管理する「財産管理権」と子どもの面倒を見る「身上監護権」に分けられます。
対象者が子どもの親権全般を有していた場合は、財産管理権のみを失い、身上監護権は引き続き行使できます。ただし、管理権喪失の原因が消滅した場合、家庭裁判所により審判が取り消されることがあります(民法836条)。
6-4. 親権者・管理権者の辞任
子どもの親権者である父または母は、やむを得ない事由がある場合は、家庭裁判所の許可を得て親権者または管理権者を辞任できます(民法837条1項)。例えば、経済的な困窮や病気などにより養育が困難などの事情がある場合、親権者や管理権者の辞任が認められることがあります。
一方で、単に子どもと生活したくないなどの理由では辞任は認められません。
辞任の事由が消滅した場合、辞任した者は家庭裁判所の許可を得て、親権または管理権を回復できます(同条2項)。
6-5. 親権者の変更
子どもの利益のため必要があると認められる場合、家庭裁判所は子どもの親族の請求により、親権者を父または母からもう一方の親に変更できます(民法819条6項)。親権者の変更は前述のとおり、親権者変更調停や審判を通じて行います。
7. 親権はいらないから離婚したい場合の注意点
子どもの親権を手放して離婚したいと考えている場合は、いくつか注意点があります。
7-1. 子どもを傷つけないようにする
親権の放棄は、「親に見捨てられた」と子どもに感じさせ、大きな心の傷を与えることになります。内心では「親権はいらない」と考えていても、子どもに直接伝えるのは絶対にやめましょう。子どもの気持ちに配慮して、言葉を慎重に選び、伝えることが重要です。
7-2. いったん親権を手放すと、取り戻すことは難しい
離婚に伴い親権を手放し、元配偶者が親権者となった場合、特別な事情がない限り親権を取り戻すことは難しいです。民法改正により共同親権制度が導入された場合でも、元配偶者の同意が得られるとは限りません。
現在は親権を望まなくても、将来的に考えが変わる可能性がないか、じっくり考える必要があります。
7-3. 親権者でなくても、養育費を支払う必要がある
親権を手放しても、子どもの親である以上、子どもが自立するまで養育費を支払う義務があります。
養育費を支払わないと、元配偶者に養育費請求調停を申し立てられたり、強制執行によって財産を失ったりする可能性があります。養育費は滞納せずきちんと支払いましょう。

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8. 親権について悩んだ場合の相談先
子どもを育てるのが難しいなどの事情で親権を手放したいと考えた場合は、自治体の窓口や弁護士などに相談しましょう。
8-1. 自治体の窓口
各自治体では、子育てに関する相談窓口を設けています。専門の相談員に子育ての悩みを相談できるほか、経済的に苦しい場合は支援制度の案内を受けることも可能です。自治体の窓口は無料で相談できるため、市区町村役場に問い合わせてみましょう。
8-2. 弁護士
弁護士に相談すれば、親権を手放す際の手続きやリスクについて幅広くアドバイスを受けられます。(元)配偶者との協議や裁判所での手続きが必要な場合は、弁護士に依頼すれば代行してもらうことも可能です。
客観的な立場にある弁護士の意見を聞くことで、自分と子どもにとってより良い解決策が見つかるかもしれません。親権や子育てに関する悩みは一人で抱え込まず、弁護士に相談しましょう。
9. お互いに親権がいらない場合によくある質問
親権を手放すことには、たとえば以下のようなデメリットがあります。
・子どもと一緒に暮らせなくなる
・子どもに関する決定に関与できなくなる
・一度手放すと親権者に復帰することは難しい
本当に親権を手放してもよいのか、慎重に考えましょう。
子どもが生まれた時点で離婚している場合、母親が自動的に親権者となります。その後、やむを得ない事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て親権者を辞任できますが、認められるケースは極めて少ないです。
どうしても親権を手放したい場合は、子どもに養子縁組をさせて養親に親権を譲る方法が考えられます。ただし、その場合も子どもの養育費を支払う必要があります。
子どもの利益のために必要がある場合、家庭裁判所が親権者の変更を認めることがあります。ただし、現在の親権者に重大な問題がない限り、親権を取り返すことは難しいでしょう。
離婚時に父母間が話し合い、合意すれば、複数の子どもの親権者を別々に定めることができます。
18歳未満の子どもの親権者がいなくなった場合、家庭裁判所が未成年後見人を選任します。未成年後見人は、子どもの財産の管理や身上監護を行います。
10. まとめ お互いが親権はいらない場合でも慎重に判断しよう
離婚に際し、父母がお互いに子どもの親権はいらないと考えていても、双方が親権を手放すことは原則として認められず、親権者を決めなければ離婚はできません。
親権を望まない場合でも、子どもの気持ちに配慮した対応を行いましょう。親権を手放した後で再度親権者となるのは、法的にも、子どもの気持ちを考えても容易ではありません。子どもの将来を考え、父母間でよく話し合って、どちらが親権者になるかを決めましょう。
育児や金銭的な問題により親権を手放さざるを得ない場合も、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に相談することで、自分と子どもにとってよい解決策が見つかるかもしれません。
(記事は2025年7月1日時点の情報に基づいています)