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1. ひとり親控除とは?
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2. ひとり親控除を受けられる条件・対象者
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2-1. 未婚、または配偶者の生死が不明
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2-2. 事実婚関係にある人がいない
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2-3. 生計を一にする子どもがいる|別居でも認められる場合がある
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2-4. 合計所得金額が500万円以下
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3. ひとり親控除の金額
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4. ひとり親控除の申請方法
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4-1. 会社などに勤めている人|年末調整
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4-2. 自営業者・フリーランスなど|確定申告
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5. ひとり親控除と寡婦控除・扶養控除の違い
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5-1. 寡婦控除とは
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5-2. 扶養控除とは
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6. ひとり親控除の適用に関する注意点
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6-1. 年の途中で離婚してひとり親になった場合
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6-2. 年の途中で子どもが生まれてひとり親になった場合
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6-3. 年の途中で婚姻してひとり親でなくなった場合
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6-4. ひとり親だが、養育費を受け取っている場合
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6-5. 離婚して子どもと別居しているが、養育費を払っている場合
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7. 2026年以降|ひとり親控除の拡充について
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8. ひとり親控除に関する相談先
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9. ひとり親控除に関してよくある質問
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10. まとめ ひとり親控除では、所得税と住民税が一律で控除される
1. ひとり親控除とは?
ひとり親控除とは、2020年の税制改正で新たに設けられた制度です。それまで存在していた「寡婦控除」では、離婚や死別をした女性だけが対象であり、未婚のひとり親や男性のひとり親は控除を受けられないという不公平がありました。
こうした課題を解消するために、親や子どもの年齢・性別・婚姻歴にかかわらず、一定の所得以下で子どもを一人で育てている親であれば利用できる税制上の優遇措置として導入されました。
具体的には、所得税では35万円、住民税では30万円が一律で控除されます。
2. ひとり親控除を受けられる条件・対象者
ひとり親控除を受けられるのはどのような人なのか、条件や対象者を説明します。
2-1. 未婚、または配偶者の生死が不明
ひとり親控除を受けるためには、控除の対象となる年の12月31日時点で婚姻していないこと、または配偶者の生死が不明であることが条件の一つになります。
具体的には以下のようなケースです。
離婚した場合
配偶者と死別した場合
婚姻せずに子どもを出産し、育てている場合
2-2. 事実婚関係にある人がいない
事実婚関係がある場合は、実質的に「ひとり親」とはみなされないため、控除の対象から外れます。
判断の目安としては、事実婚の相手と同居していて住民票に「夫(未届)」「妻(未届)」と記載されているケースなどが典型です。ただし、住民票に記載がなくても生活の実態や経済状況などを総合的に考慮して「事実婚関係がある」と判断されれば、控除を受けられなくなる可能性があります。
2-3. 生計を一にする子どもがいる|別居でも認められる場合がある
「生計を一にする」とは、必ずしも子どもと同居している場合だけを指すわけではありません。子どもと別居していても生活費や学費、医療費などを継続的に送金していれば「生計を一にする」と判断されます。
例えば、子どもが一人暮らしや寮生活をしている場合、親が単身赴任をしている場合などでも、仕送りをしていれば条件を満たします。逆に同居していても、家計が完全に独立していれば「生計を一にする」とはいえません。
さらに、子どもは総所得金額が48万円以下で、かつ他の人の扶養親族になっていないことが必要です。なお、子どもが16歳以上で条件を満たす場合には、ひとり親控除と扶養控除を両方受けることが可能です。
2-4. 合計所得金額が500万円以下
500万円以下に収める必要がある所得は、以下の所得の合計となります。
給与所得、事業所得、不動産所得、総合課税の利子所得・配当所得・短期譲渡所得、雑所得を合計(損益通算)した金額
総合課税の長期譲渡所得と一時所得の合計金額の2分の1の額(繰越控除を適用した後の額)
退職所得の金額
すなわち、遺族年金や疾病手当金などの非課税所得は500万円の中に含める必要はありません。
3. ひとり親控除の金額
所得税は一律35万円、住民税は一律30万円が控除されます。
4. ひとり親控除の申請方法
ひとり親控除の申請方法は、個人事業主や会社員など働き方によって変わるので、それぞれ紹介します。
4-1. 会社などに勤めている人|年末調整
会社員など給与を受け取っている人は、原則として勤務先で行う年末調整で申請します。勤務先から配布される申告書に、以下のように記入します。
「C 障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生」欄で「ひとり親」にチェックを入れる
扶養する子どもが16歳以上なら「B 控除対象扶養親族」欄に記入
16歳未満なら「住民税に関する事項」の「16歳未満の扶養親族」欄に記入
もし年末調整で申請を忘れてしまった場合でも、確定申告をすれば控除を受けられます。
4-2. 自営業者・フリーランスなど|確定申告
自営業者やフリーランスの場合は、確定申告でひとり親控除を申請します。手続きの流れは以下のとおりです。
【第一表】
「所得から差し引かれる金額」の「寡婦、ひとり親控除(⑰~⑱)」欄にある「区分」欄へ「1」と記入し、控除額「35(0000)」を記入します。
【第二表】
「本人に関する事項(⑰~⑳)」欄の「ひとり親」を丸で囲みます。さらに「配偶者や親族に関する事項(⑳~㉓、㉞、㊴、㊹)」の2行目以降に、扶養している子どもの情報を記入します。
5. ひとり親控除と寡婦控除・扶養控除の違い
ひとり親控除は、従来あった「寡婦控除」や「扶養控除」と混同されやすい制度です。ここでは、それぞれの控除の内容と違いを説明します。
5-1. 寡婦控除とは
寡婦控除は、一定の条件を満たす女性が受けられる控除です。対象となるのは、次のいずれかに当てはまる人です。
夫と離婚後、再婚しておらず、扶養親族がいて、合計所得金額が500万円以下の女性
夫と死別後、再婚していない、または夫の生死が不明で、合計所得金額が500万円以下の女性
控除額は27万円です。なお、ひとり親控除の条件も満たす場合は、ひとり親控除が優先され、併用はできません。
5-2. 扶養控除とは
扶養控除は、納税者に扶養親族がいる場合に所得税が軽減される制度です。控除額は扶養親族の年齢や同居・別居の状況によって変わります。また、扶養控除はひとり親控除や寡婦控除と併用することが可能です。
6. ひとり親控除の適用に関する注意点
ひとり親控除は、控除の対象となる年の12月31日時点の状況を基準に適用の可否が判断されます。したがって、年の途中で離婚や出産、再婚など家庭環境に変化があった場合でも、年末の状況によって決定します。
ここでは、ひとり親控除の適用に関する注意点を紹介します。
6-1. 年の途中で離婚してひとり親になった場合
年の途中で離婚したとしても、12月31日時点で未婚であり、子どもと生計を一にしている状態であれば、ひとり親控除を受けられます。途中の婚姻状況ではなく、年末時点での状況が基準になります。
6-2. 年の途中で子どもが生まれてひとり親になった場合
同様に、その年に子どもが生まれた場合でも、12月31日時点で子どもと生計を一にしていれば条件を満たすとされます。出生の時期にかかわらず、年末に子どもを養育しているかどうかが判断の基準です。
6-3. 年の途中で婚姻してひとり親でなくなった場合
年の途中までひとり親だったとしても、12月31日時点で婚姻または再婚していれば「未婚」の条件を満たさないため、控除は適用されません。再婚の有無が大きなポイントになります。
6-4. ひとり親だが、養育費を受け取っている場合
離婚をした場合で、元配偶者から養育費を受け取っている場合は、元配偶者も子どもと生計を一にしている状態と判断される可能性があります。その場合は元配偶者もひとり親控除を受けることが可能です。
ただし、両親双方がひとり親控除を受ける条件を充足する場合は、どちらか一方だけがひとり親控除を受けることができるとされています。
6-5. 離婚して子どもと別居しているが、養育費を払っている場合
子どもと同居していなくても、養育費を支払っていることで生計を一にしていると認められるケースがあります。この場合、同居している元配偶者がひとり親控除を受けていなければ、同居していない親がひとり親控除を受けられる可能性があります。
7. 2026年以降|ひとり親控除の拡充について
2026年から、ひとり親控除の制度が拡充される予定です。主な改正点は次の2つです。
【所得上限の引き上げ】
現在は「合計所得金額500万円以下」の人が対象ですが、これが「1000万円以下」に引き上げられます。より多くのひとり親家庭が利用できるようになります。
【控除額の引き上げ】
ひとり親控除を受けた場合の控除額が増額されます。
所得税:35万円 → 38万円
住民税:30万円 → 33万円
これにより、対象者が広がるだけでなく、控除を受けたときの節税効果も大きくなる見込みです。
8. ひとり親控除に関する相談先
ひとり親控除について相談できる窓口はいくつかあります。それぞれの特徴を理解して、自分に合った方法を選ぶとよいでしょう。
【自治体の窓口】
市区町村役場の税務課などで相談できます。住民税の控除や手続きに関して詳しい情報を得られるのが特徴です。無料で相談できるため、最初に訪れる窓口としておすすめです。
【税務署の窓口】
主に所得税に関する相談が可能です。確定申告の際の申請方法や書類の記入方法など、実務的なサポートを受けられます。こちらも基本的に無料で対応してもらえます。
【税理士】
有料にはなりますが、税理士に依頼すればひとり親控除だけでなく、扶養控除や医療費控除、ふるさと納税など幅広い税制を含めた総合的なアドバイスを受けられます。個々の事情に合わせて最適な節税方法を提案してもらえる点が強みです。
9. ひとり親控除に関してよくある質問
子どもの年齢制限はありません。ただし、子どもは総所得金額48万円以下で、かつ他の人の扶養親族になっていない必要があります。
ひとり親控除は、所得税で一律35万円、住民税で一律30万円が控除されます。これに対し、寡婦控除は27万円です。金額だけで比べれば、ひとり親控除の方が有利といえます。ただし、両方の条件を満たす場合でも併用はできず、ひとり親控除が優先されます。
申請を忘れても、過去5年分までさかのぼって控除を受けられます。確定申告をしていた人 は「更正の請求」、年末調整だけだった人は「確定申告(還付申告)」を行うことでひとり親控除を後から反映させることが可能です。
違法です。実際には事実婚状態にあるのに「未婚」と偽って申告すると、ひとり親控除の条件を満たしていないのに控除を受けることになり、脱税行為とみなされます。
ひとり親控除以外にも、次のような制度を活用することで税負担を軽減できます。
ふるさと納税:寄附額から2000円を引いた金額が、所得税と住民税から控除される
iDeCo:拠出した掛け金が全額所得控除となり、老後資金の準備と節税を同時に進められる
生命保険・医療保険の控除:保険料を支払うと、一定額が所得控除として認められる
10. まとめ ひとり親控除では、所得税と住民税が一律で控除される
ひとり親控除は、未婚や離婚・死別で子どもを育てる家庭の税負担を軽くし、子育ての安心を支える制度です。所得税35万円・住民税30万円の控除があり、2026年からは対象所得や控除額がさらに拡充されます。
申請は年末調整または確定申告で行う必要があるため、条件を満たしているにもかかわらず手続きをしなければ控除は受けられません。制度の内容を正しく理解し、適切に申請することで、実際の生活に役立てることができます。
(記事は2025年12月1日時点の情報に基づいています)