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1. 妻の生活費を払わなきゃダメですか?
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2. 離婚しない限り婚姻費用は発生する
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3. 婚姻費用は収入の多いほうが少ないほうへ支払うのが原則
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4. 婚姻費用に有責性は関係ない
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5. 婚姻費用は算定表によって出される
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6. それでも結婚生活を続ける意味は?
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1. 妻の生活費を払わなきゃダメですか?
「お前がブスで気が利かないから、浮気したんだ」
浮気を問い詰められた草太(そうた、32歳)は逆上し、妻の梨沙(りさ・34歳)に対してモラハラ発言をぶつけます。
草太との生活に限界を感じた梨沙は別居を決意。別居中の生活費を支払うように草太に強く求め、家を出るのでした。
「別居しているのに、妻の生活費を払わないといけないの!?」と焦った草太は、ポン弁護士に相談します。
2. 離婚しない限り婚姻費用は発生する
梨沙さんのように、離婚の話し合いの中で別居を検討する人は少なくありません。でも、そこで気になるのが「別居中の生活費ってどうなるの?」という問題です。
別々に暮らすとなると、家賃や生活費、食費など、日常生活に必要なお金が新たにかかってきます。
こうした別居中の生活費の支払いはどうなるのでしょうか?
まずは「生活費(=婚姻費用)」についておさえておきましょう。
婚姻費用とは、結婚生活を維持するために必要なお金のことで、簡単に言えば、家族全員の日常生活を支えるための衣食住などの費用を指します。
民法では、夫婦は婚姻費用を分担し、お互いの生活レベルが同じになるように助け合わなければならないとされています。
そのため、夫婦関係が悪くなったからといって「婚姻費用は払わない」ということは許されません。
婚姻費用に含まれる主な項目は、次のとおりです。
衣食住にかかる費用: 食費、光熱費、衣類費、住居費(家賃や住宅ローン、固定資産税など)、水道代、日用品費など。
医療費: 病気やけがの治療費。
教育費: 子どもの学費、塾代、習い事の月謝、教材費、修学旅行費用など。
養育費: 未成熟の子どもを育てるために必要な費用全般。
その他: 交通費や通信費、常識的な範囲での交際費や娯楽費など。
たとえ離婚に向けた話し合いの最中でも、別居中でも、裁判中でも、離婚が成立しない限り婚姻費用の支払い義務は続くのです。
3. 婚姻費用は収入の多いほうが少ないほうへ支払うのが原則
では、婚姻費用は誰から誰に、どれくらい支払うのでしょうか。
梨沙さんは「夫だから、生活費を払ってね」と草太さんに言っています。
しかし、婚姻費用は「夫だから」といった性別は関係なく、収入の多いほうが少ないほうに支払うのが原則です。
つまり、草太さんと梨沙さんの場合、ポン弁護士が言うように、収入が高い梨沙さんが草太さんに婚姻費用を支払わなくてはいけないということになります。

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4. 婚姻費用に有責性は関係ない
収入が高いほうが低いほうに婚姻費用を支払うことはわかりました。
でも「別居の原因は草太さんの浮気やモラハラなのに、なんで梨沙さんが草太さんに婚姻費用を支払うの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
確かに、草太さんは浮気を認めており、梨沙さんは被害者の立場です。「不倫したのは夫なのに…!」と梨沙さんが憤るのも当然でしょう。
しかし、これは婚姻費用に関する重要なルールである「有責性は関係ない」という原則に基づいています。婚姻費用は、夫婦がお互いに生活を維持するための費用であり、別居や夫婦関係が破綻した原因(有責性)がどちらにあるかは原則として問われません。
相手の不貞行為などに対する責任については、別途「慰謝料」として請求する必要があります。
そのため、草太さんの不倫やモラハラは離婚時の慰謝料請求などには影響しますが、婚姻費用の支払い義務には影響しないのです。
つまり、浮気やモラハラをしていても、収入が少なければ婚姻費用を受け取る側になります。結論として、梨沙さんは草太さんに婚姻費用を支払うことになるのです。
ただし、離婚調停などの話し合いの場では、不貞行為をした側からの婚姻費用請求は、有責性を考慮し、減額した額で支払うことで合意されるケースもあります。
個別の状況によって判断は異なるため、詳しいことは弁護士に相談することをおすすめします。
5. 婚姻費用は算定表によって出される
では、婚姻費用で支払う金額はどのように決まるのでしょうか?
婚姻費用の金額は、裁判所が公表している「婚姻費用算定表」に基づいて算出されます。この算出表では、夫婦それぞれの収入、職業(給与所得者か自営業者か)、子どもの人数や年齢などをもとに、婚姻費用の目安を一覧で確認できます。
たとえば、夫が給与所得者で年収600万円、妻が給与所得者で年収200万円、子どもが1人(14歳以下)のケースを例に見てみましょう。
この場合、算定表で義務者(支払う側)と権利者(支払いを受ける側)の年収が交差する部分を確認します。このケースでは、婚姻費用の月額の目安は10~12万円ということになります。
10万円~12万円といったように金額に幅があるのは、特別な費用や住宅費の負担状況など、個別の事情を考慮して金額が調整されるためです。
最終的な金額は、夫婦間で話し合って合意するか、家庭裁判所の調停や審判で決められます。
このように、婚姻費用算定表をもとに、おおよその婚姻費用の目安は算定できます。しかし、婚姻費用の算定には専門的な知識が必要になることもあります。収入が複雑なケースや特別な事情がある場合は、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
また、実際の婚姻費用の支払い相場については、夫が義務者、妻が権利者となるケースで「月額8万円以下」の支払いが全体の約50%を占めています。(2022年度の司法統計より)
6. それでも結婚生活を続ける意味は?
梨沙さんが草太さんと別居した場合、草太さんに対しても、梨沙さんは婚姻費用を支払わなければなりません。
離婚はしないけど「草太さんにお灸をすえてやりたい」「慰謝料をとりたい」と意気込んでいた梨沙さんでしたが、ここにきて「そこまでして結婚生活を続ける意味ってあるのか?」と冷静に考え始めています。
このように、離婚の手続きには思いがけない仕組みや複雑な手続きが存在します。
自分の気持ちや今後どうすべきかを冷静に考えるためにも、離婚を考えたらまずは弁護士に相談することをおすすめします。
(記事は2025年8月1日時点の情報に基づいています)