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1. 別居中でも生活費をもらうことはできる?
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1-1. 別居中は婚姻費用をもらえることがある
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1-2. 別居中の生活費の内訳
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1-3. 婚姻費用をもらえる期間
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1-4. 婚姻費用がもらえないケースや減額されるケース
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2. 婚姻費用の金額相場
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3. 別居中の生活費を請求する方法
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4. 婚姻費用の支払いを拒否された場合の対処法
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4-1. 弁護士を通じて交渉する
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4-2. 内容証明を送付して請求する
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4-3. 家庭裁判所に調停を申し立てる
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4-4. 判決または審判によって婚姻費用を決めてもらう
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5. 婚姻費用をもらっても、生活費が足りないときの対処法
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6. 夫と別居中の生活費に関してよくある質問
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7. まとめ 婚姻費用で損をしなくないなら、弁護士に相談を
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1. 別居中でも生活費をもらうことはできる?
夫婦は、他方の配偶者に対して「婚姻費用」という生活費の支払いを請求できます。婚姻費用とは、夫婦が、その資産、収入、社会的地位に応じた通常の社会生活を維持するのに必要な費用のことです。
1-1. 別居中は婚姻費用をもらえることがある
婚姻費用は同居中でも請求できますが、同居中は家計が一つになっていることが多いため、自然と婚姻費用を分かち合っています。
問題になるのは、別居中の婚姻費用です。夫婦関係が悪化して別居している間でも、結婚している限り、婚姻費用は分担しなければなりません。
婚姻費用は収入の高いほうから低いほうに支払われるのが原則で、男女差はありません 。たとえば、夫が給与所得者で年収600万円、妻が給与所得者で年収200万円の場合、夫が婚姻費用の義務者(=支払う側)、妻が権利者(=支払いを受ける側)となります。
1-2. 別居中の生活費の内訳
婚姻費用には、主に以下のものが含まれます。
住居費
食費や衣料費
出産費
医療費
未成熟子の養育費
未成熟子の教育費
相当の交際費
弁護士としての経験上、婚姻費用として支払い義務があるかどうかの争いになることが多い費用として、以下が挙げられます。
住宅ローン
私学の学費
塾代
習い事の月謝
留学費用
歯列矯正費用
婚姻費用は「その資産、収入、社会的地位に応じた通常の社会生活を維持するのに必要な費用」であり、上記の各費用を義務者に負担してもらえるかどうかは各事案に応じて判断されます。
なお、婚姻費用は「別居解消または離婚成立」まで支払う費用であるため、離婚の交渉カードになり得ます。支払う側にとっては「離婚をしないとお金が出続けるから、早く支払いを止めるためにも離婚を視野に入れたい」という動機になります。対照的に、もらう側にとっては「別居して、わずらわしい夫婦のやりとりもないし、生活費ももらえるから、離婚せずにこのままでよい」という動機になります。
つまり、離婚条件の交渉において、もらう側としては婚姻費用を「高く」「早く」支払ってもらうことが重要、逆に支払う側は「低く」「遅く」支払うことが重要 になります。
1-3. 婚姻費用をもらえる期間
婚姻費用を支払ってもらえる期間は、調停や審判となった場合、「請求時」から「別居解消または離婚成立」までの期間となるケースが多いです。
婚姻費用の「請求時」として確実に認められるのは「調停や審判の申立時」ですが、それよりさかのぼることも可能です。ただし、口頭やメール、LINEなどでの支払い請求は認められないことがあるため、差出人と宛先、あるいは内容と差出日を証明する内容証明郵便を送っておくと、その到達日を「請求時」として認めてもらえる可能性が高い です。
なお、請求後に支払いを受けていなかった期間がある場合は、過去にさかのぼって支払いを受けることができます。離婚が成立すると、配偶者の生活費を支払う義務がなくなるため「婚姻費用」は支払ってもらえなくなり、「子の養育費」のみを受け取り続ける形に切り替わります 。
1-4. 婚姻費用がもらえないケースや減額されるケース
婚姻費用を請求する側に、別居や婚姻関係の破綻について責任がある場合、その責任の程度によって、分担請求が全く認められないケースや減額されるケースがあります。つまり、別居の原因に責任がある側からの請求は制限されます。
たとえば、妻が不倫をして家を出て行った場合、妻の不倫により夫婦関係が破綻し、別居に至ったと言えるため、妻から夫に婚姻費用を全額請求するのは難しいでしょう。
もっとも、子どもには何の責任もないため、養育費部分が減額されたり、免除されたりすることはありません 。
2. 婚姻費用の金額相場
婚姻費用の金額は、本来であれば各家庭の事情に沿って決めるのが理想ですが、夫婦間の話し合いや裁判所での審理が長引いてしまうデメリットがあります。婚姻費用は生活に不可欠な費用であり、迅速な判断が求められるため、現在の裁判実務では、統計に基づいた簡易な計算方式が採用されています。
裁判所は、夫婦の収入、子どもの有無や年齢、あるいは人数に応じて、10パターンの「算定表」を公開しています。
裁判所による算定表は縦軸が支払う側、横軸が受け取る側の年収となっており、そこから伸ばした線が交わる部分が婚姻費用の目安額(月額)となります。
下記の図表「婚姻費用の目安額(月額)」が示すように、たとえば夫が給与所得者で年収600万円、妻が給与所得者で年収200万円で、14歳以下の子ども1人の場合における婚姻費用の目安は、月額10~12万円となります。
なお、算定表の目安額は2万円程度の幅が設けられており、それぞれの家庭の事情に合わせて調整し、この幅を超える事情がある場合には個別で審理することになります。
なお、婚姻費用の相場を示す算定表では、自営は1567万円、給与取得者は2000万円と、収入の上限が定められています。そのため、上限以上の収入がある場合や給与収入と自営収入が混在している場合、年金収入の場合などは、事前に弁護士に相談するとよいでしょう。
3. 別居中の生活費を請求する方法
別居中の生活費の請求については、話し合いで決めるのが一般的です。夫婦げんかなどが原因で突発的に別居した場合でも、まずは相手との話し合いが大切です。
別居まで時間がある場合、別居後の生活を想定しながら必要になる費用を洗い出し、今後の生活費の負担について取り決めをしておきましょう。医療費、学費、固定資産税など出費頻度が低い費用も話し合っておく必要があります 。
夫婦で合意できたら、少なくともその内容をメールやLINE、書面など消えない形で記録しておきましょう。証拠に残すことで、「言った言わない」のトラブルを防げます。
支払いを受ける側であれば、公正証書にまとめることをお勧めします。公正証書は公務員である公証人が作成してくれる公文書です。「強制執行認諾文言付き公正証書」を作成しておくと、支払う側が約束に反して支払いを怠った際、訴訟をせずに直接給与などを差し押さえることができます 。
4. 婚姻費用の支払いを拒否された場合の対処法
夫婦の話し合いで婚姻費用の支払いを拒否された場合は、主に以下の4つの対処法があります。
弁護士を通じて交渉する
内容証明を送付して請求する
家庭裁判所に調停を申し立てる
判決または審判によって婚姻費用を決めてもらう
4-1. 弁護士を通じて交渉する
婚姻費用の支払いを拒否されたときは、当人同士で交渉していても時間ばかりが過ぎてもらえるべき婚姻費用を取り逃がしてしまう可能性があります。まずはなるべく早く、弁護士に相談し、適正な婚姻費用の金額や交渉の方法についてアドバイスをもらいましょう 。また依頼すれば、弁護士は婚姻費用の交渉を代理してくれたり、内容証明郵便を送ってくれたりと、さまざまな対応をとってくれます。
筆者が弁護士として関わったケースでは、妻(夫)からの支払い要求に対して頑なに取り合わなかった夫(妻)でも、妻(夫)が弁護士に依頼すると話し合いに応じることがほとんどです。
ほかにも、別居中の夫が、依頼者である妻が監護する子どもの私立中学の学費の支払いを拒否していた事例では、夫自身が私立中学出身であることや、同居中から子どもを私立中学に入れることに賛成していたことなどを主張立証し、学費の支払いを認めてもらうことができました。

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4-2. 内容証明を送付して請求する
夫婦で話し合いがまとまらなかった場合は、速やかにメールや内容証明郵便を送付して婚姻費用の「請求時」を確定させましょう。
婚姻費用の請求後に支払いを受けていなかった期間がある場合は、過去にさかのぼって支払いを受けることができます 。別居直後から調停申し立てまで時間が空いていると、空白期間分の婚姻費用を取り逃す可能性があるため、婚姻費用を請求する側は、請求の意思をしっかりとメールや内容証明郵便で明確にしておく必要があります 。内容証明郵便そのものに法的強制力はありませんが、「請求時」を立証する証拠として裁判所に提出することが可能です。
なお、筆者は最近、東京家庭裁判所の裁判官から「請求が継続していないと婚姻費用の始期を調停申立時にする」という意見を伝えられました。過去の審判例に反するように思えますが、実利を考え、継続の要件が求められた場合に備えて継続的に請求しておく対応も必要な点は認識しておきましょう。
4-3. 家庭裁判所に調停を申し立てる
調停とは、家庭裁判所において、調停委員を介して話し合いをする手続きです。
調停委員は中立な立会人です。夫婦それぞれから言い分や気持ちを聞き取り、間に立って解決策を考えてくれます。婚姻費用の金額の相場についても相手に説明してくれる場合があり、第三者から説明されることで納得してもらえるケースも多いです。なお、調停委員は、40歳~69歳の民間の有識者から選ばれます(民事調停委員及び家事調停委員規則)。職業は、弁護士などの士業、医師、教師、公務員、会社役員のほか、これらの退職者が多いです。
婚姻費用などに関係する調停としては、主に以下の3つが挙げられます。
婚姻費用分担請求調停
夫婦関係調整調停(離婚)=離婚調停
夫婦関係調整調停(円満)=円満調停
いずれも単独での申立てが可能ですが、離婚を希望する場合は訴訟を提起する前に離婚調停を行う必要があります 。そのため、実務では婚姻費用分担請求調停と離婚調停がセットで申し立てられることが多いです。一回の期日で両方を審理できるため、裁判所に行く負担が軽減できます。
話し合いがまとまれば調停成立となり、裁判所によって、合意した内容を確認する「調停調書」が作成されます。
同時に申し立てた離婚調停で離婚の合意もできた場合は、調停成立によって離婚となります。婚姻費用は合意できたものの、離婚の合意ができなかった場合は、婚姻費用分担請求調停は成立、離婚調停は不成立となります。
4-4. 判決または審判によって婚姻費用を決めてもらう
調停において裁判所から合意の見込みがないと判断されれば、婚姻費用分担請求調停は不成立となり、自動的に審判に移ります。
審判とは、調停の話し合いをふまえつつ、家庭裁判所の裁判官があらためて夫婦それぞれから意見を聞いたうえで、婚姻費用の金額を決めるものです。
なお、離婚調停が審判に移行することは稀で、一般的に調停不成立の場合は離婚訴訟の提起を検討することになります。
5. 婚姻費用をもらっても、生活費が足りないときの対処法
もらっている婚姻費用では足りないときは、相手に増額を求めましょう。その際は、単に「足りない」と伝えるのではなく、現在の家計を一覧にして具体的にどの費用が足りないのか説明すると理解が得られやすいです。
また、塾や習い事に通い出した、部活に入った、私学に進学した、歯列矯正が必要になったなど、子どもにかかる費用が増えた場合は、たとえば面会交流の際に子どもから相手にその必要性を話してもらうことで、相手も支払ってあげたいと思うようになり、断られにくくなる傾向があります 。逆に、ほとんど面会をさせていない場合には、支払ってあげたいという思いが弱まってしまうため、子どもの福祉の観点からも、面会交流は実施することをお勧めします。
相手から増額を拒否された場合は、弁護士を立てて再度交渉したり、「婚姻費用増額請求調停」を利用することが考えられます。ただし、調停を申し立てる際は、婚姻費用が減額されるおそれがあるため、事前に弁護士に相談し、増額が認められる見込みがあるかどうか精査することが大切 です。
6. 夫と別居中の生活費に関してよくある質問
7. まとめ 婚姻費用で損をしなくないなら、弁護士に相談を
別居中の場合、自分よりも年収の高い配偶者に対して「婚姻費用」という名の生活費を請求でき、その金額は裁判所が公表している「算定表」である程度割り出すことができます。
婚姻費用を請求する前の段階で争いがあったり、算定表では対応できない事情があったりするため、支払う側でも受け取る側でも損をしたくないのであれば、まずは弁護士に相談してから動くことをお勧めします。
また、婚姻費用は離婚と密接な関係があり、婚姻費用は離婚の交渉カードになり得ます。交渉には専門知識を伴うため、離婚も視野に入れて検討している場合は、できるだけ早く弁護士に相談するのが望ましいです。
(記事は2025年2月1日時点の情報に基づいています)