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1. 婚姻費用調停とは
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2. 調停申立から成立に至るまでの基本的な流れ
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2-1. 【STEP1】家庭裁判所に必要書類を提出する
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2-2. 【STEP2】家庭裁判所が日程を決める
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2-3. 【STEP3】第1回の調停期日に出席する
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2-4. 【STEP4】第2回以降の調停期日に出席する
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2-5. 【STEP5】調停成立か不成立か|不成立なら審判移行
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3. 調停期日で確認される重要なポイント
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3-1. 別居に至る経緯
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3-2. 婚姻費用が発生しない場合に該当しないか
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3-3. 子どもの有無
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3-4. 住宅ローンの有無
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3-5. 夫婦双方の収入
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3-6. 希望する婚姻費用額
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4. 調停期日に臨む態度
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4-1. 感情的にならない
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4-2. 調停委員との関係性を重視する
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4-3. 裁判所からの宿題についてメモをとる
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4-4. 自分が疑問に思うことはきちんと伝える
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5. 調停委員について認識しておくべきこと
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5-1. 調停委員は中立の立場をとる
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5-2. 調停委員は「まとめたい」と考える
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5-3. 調停委員は裁判官や弁護士ではない
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5-4. 調停委員には当たりはずれや相性がある
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6. 弁護士に相談するタイミングについて
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6-1. 申立前|自分で手続きできるかを弁護士に確認
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6-2. 調停中|疑問を持ったら、弁護士へ相談を
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6-3. 審判移行時|必ず弁護士へ相談を
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7. 弁護士費用の相場
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7-1. 着手金+成功報酬方式
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7-2. 着手金+成功報酬+タイムチャージ併用方式
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8. 婚姻費用の分担請求調停に関してよくある質問
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9. まとめ 婚姻調停は常に弁護士に依頼する選択肢を
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1. 婚姻費用調停とは
そもそも婚姻費用とは結婚生活に伴う生活費のことで、夫婦には婚姻費用を分かち合う義務があります。そのため、別居していても、収入が少ない側が収入の多い側に支払いを求めることができます 。
しかし、別居中の婚姻費用について夫婦間の話し合いがまとまらなかったり、話し合いに応じてもらえないケースがあります。そんなときに、家庭裁判所に「婚姻費用の分担請求調停」(婚姻費用調停)を申し立てることになります。
婚姻費用調停で家庭裁判所は裁判官1人と男女2人の調停委員で当事者の夫婦から話を聞き、合意を形成するよう誘導していきます 。ただし、裁判官は同一時間に何件もの調停を掛け持ちしているので、通常調停の席にはいません。
2. 調停申立から成立に至るまでの基本的な流れ
調停申立から成立に至るまでは主に以下の5段階を踏みます。
2-1. 【STEP1】家庭裁判所に必要書類を提出する
婚姻費用を調停で決めてほしい夫婦の一方を「申立人」と言い、申立人は必要書類を裁判所に提出します。申立ては婚姻費用をもらう側、支払う側のどちらでもできます。
必要書類は以下のとおりです。
申立書
夫婦の戸籍謄本
申立人の収入状況がわかる書類
収入印紙1200円分、郵便切手
申立書の記入例は、裁判所がこちらで紹介しています。
申立書に記入する必要事項は以下のとおりです。
申立人と相手方の名前、住所、生年月日
子どもがいる場合は子どもの名前、住所、生年月日
いくら婚姻費用を請求するか(法的に適切な金額でよい場合は、相当額の枠にチェックを入れる)
いつから同居を始めていつから別居をしたか
当事者間に婚姻費用の取り決めがあったか、あればその内容
申立てに至った理由
2-2. 【STEP2】家庭裁判所が日程を決める
申立書を裁判所が受理すると、申立人の都合を聞きながら裁判所が調停期日を指定します。そして、裁判所が申立書と呼出状を相手方に送付します。
2-3. 【STEP3】第1回の調停期日に出席する
第1回期日に裁判所に出頭し、指定された場所(通常は申立人待合室)で待ちます。
そうすると、指定された時間に調停委員が待合室に来て、自分の名前や事件番号を呼びます。離婚調停の待合室は別々となっており、調停委員と交互に話し合うため、夫婦が対面することは最終的な合意確認まで原則ありません。また、DV(家庭内暴力)などで同席が適切でない場合は、最終的な合意確認時も同席せずに行うことが可能です。
第1回目は相手方が出頭しないことが許されることもあります。ただし、婚姻費用を支払うべき相手方が調停にどうしても出席しない場合は、裁判所が強制的に決める審判手続きに移行することもあります。また、生活がひっぱくしているような状況であれば必要に応じて婚姻費用の仮払いの仮処分を申し立てるべき です。遅くともこの段階にまで至ったら、弁護士に相談することをお勧めします。
なお、第1回の調停で成立に至るケースの割合は大きくありません。
2-4. 【STEP4】第2回以降の調停期日に出席する
第1回期日の終わりに裁判所から双方に、事実の確認や資料の提出といった宿題が出されます。
宿題の回答を次回期日までに準備して次の期日に臨みます。2回以降の調停期日も同じように話し合いが継続され、双方が合意できないかの調整が図られます。
2-5. 【STEP5】調停成立か不成立か|不成立なら審判移行
調停を重ねて相手方と話し合いを行い、合意に至れば、調停成立となり、調停で取り決めた内容を記載した調停調書が作成されます。調停調書は自らの権利を証明する物なので、大切に保管してください。
不成立の場合には、裁判所が強制的に決める審判という手続き に入ります。審判になると、それまでの合意形成という話し合いの内容ではなく、権利があるかどうかという論争の内容になります。審判は書類作成などの手続きが多いうえ、法律の専門的な知識も必要なため、審判になりそうな時点で弁護士に相談することをお勧めします。
3. 調停期日で確認される重要なポイント
婚姻費用調停の場で調停委員から聞かれることは主に以下の6点です。
別居に至る経緯
婚姻費用が発生しない場合に該当しないか
子どもの有無
住宅ローンの有無
夫婦双方の収入
希望する婚姻費用額
これらのポイントは婚姻費用の支払いや金額に影響を与えます。
3-1. 別居に至る経緯
まず、なぜ別居に至るのか、その経緯を聞かれます。まだ同居中であれば、離婚話が出た理由と同居生活の状況も確認されます。
3-2. 婚姻費用が発生しない場合に該当しないか
たとえ配偶者よりも収入が少なかったとしても、自分の浮気が原因で別居となり生活費をすでに浮気相手に負担してもらっているなどの場合は、婚姻費用が大きく減額されたり、請求自体が認められなかったりする 場合があります。
3-3. 子どもの有無
婚姻費用は子どもの年齢や人数によって変わってきます。
子どもがいる場合、子どもをどちらが保護しているかを問われ、学校が私立であったり、特別な病気があったりするなど、特別な費用がかかる状況であるかなども尋ねられます。
なぜなら、裁判所の婚姻費用基準においては、公立学校を想定しているので、私学学費は婚姻費用基準に上乗せして支払いを検討すべき内容となるからです。医療費が特別にかかる場合や、高額な費用がかかる習い事も同様です。
子育てに関わる費用の話では、婚姻費用を支払うべき相手方が、同居中にその支払いに合意していたかが特にポイントとなります 。そのため、申立人は相手方が合意していたことを積極的に説明するべきです。特に将来的に私学を受験するような場合や、歯の矯正治療を行う場合には婚姻費用の負担を合意していたかどうかが問題となりやすい です。
3-4. 住宅ローンの有無
住宅ローンがある場合には、主に以下の5点が論点となります。
住宅ローンを負担しているのが夫婦のどちらか
住宅ローンの金額はいくらか
住宅ローンの対象となっている住居に住んでいるのは夫婦のどちらか
夫婦それぞれが住居にかかる費用を負担しているか
夫婦のいずれも負担していない場合、住居費は誰が負担しているか
住宅ローンを支払っていない夫婦の一方が住宅ローンの対象となる住居に住んでいる場合、婚姻費用の一定金額が減額されます 。
なお、婚姻費用を支払う側が、別居後に実家に暮らして住居費がかかっていない場合でも減額の理由にはなりません。
3-5. 夫婦双方の収入
特に直近の年収や夫婦の年収に大きな変動がある職業ではないかを確認されます。夫婦の年収が大きく変動する場合には、過去3年程度の平均値とすることもあります。
また、婚姻費用の支払い義務のある相手方が、収入をわざと減額させたのではないかという疑いがある場合には、過去3年分との比較や、減額に適正な根拠があるかという点が議論の的になります。
3-6. 希望する婚姻費用額
婚姻費用額は自らの希望額を伝えてもよいですが、裁判所が示している算定表を参考にするのが一般的です。ただし、子どもの有無に関して述べた私立の学校への通学や入学などの特別費用については、上乗せの可能性がある 点に注意が必要です。
婚姻費用の支払い開始時期については、多くの裁判所が「請求したときから」を基準 としています。調停申立時でもよいですし、その前に相手方に生活費を負担するように請求したことが明白な証拠を持っているのであれば、その時点から請求もできます。
婚姻費用金額や支払い開始時期は、自分で手続きをすると損をしているケースが少なくありません。自分の権利を守る意味でも、弁護士の助けを借りるのが望ましいと言えます。

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4. 調停期日に臨む態度
調停期日においては、相手方と直接話す必要はありません。裁判所の調停委員を通じてお互いの言い分を相手方と伝え合い、裁判所の整理に従って言い分を述べ合い、裁判所の誘導を受けながら合意点を探ることになります。
調停において適切に話を進めるためには、まずは以下の4点に気をつけることが重要です。
4-1. 感情的にならない
相手方と話し合いがつかないから裁判所に来ているわけで、相手方の返答が期待する内容のものでなかったからといって感情的になってはなりません。「なんでそんなことを言うのか」ではなく、「相手方の言ったことに対してどのように対応するべきか」に集中 してください。
4-2. 調停委員との関係性を重視する
調停委員を挟んで相手方と話し合うので、調停委員との関係性は重要です。できる限りよい関係性を維持するように努力するべきです。
特に、調停委員が相手方の反論を伝えてくれているときに注意が必要です。調停員の口を通じて聞くことから、どうしても調停員の話している最中に反論をしたくなるでしょう。しかし、それをしては、相手方の反論を聞いている最中で議論になり、相手方の述べていることを正確に理解できません。「調停委員が今言っている相手方の変な反論は、調停委員も変だと思いながら伝えてくれるんだ」と思い込んで聞く意識が大切 です。
また、調停員に自らの言いたいことをしっかりと理解してもらえなければ相手方にも伝わりませんし、逆に調停委員が相手方の述べていることを正確に解釈できているかもわかりません。そのため、場合によっては、調停委員の理解した相手方の反論ではなく、「字面」で相手方の述べた内容を把握することも必要です。
ただし、調停委員の誘導に乗っていれば有利な結論となるわけでもありません。調停は相互に譲って成立させることに重点を置く手続きなので、正当な権利でも譲歩を求められることがあります。
4-3. 裁判所からの宿題についてメモをとる
事実の確認や資料の提出など、裁判所から出された宿題は、裁判所が妥当な結論を考えることに必要な資料です。そのため、必ずメモをとり、次回期日に忘れないようにしましょう。
4-4. 自分が疑問に思うことはきちんと伝える
裁判所は法的な知識はありますが、夫婦間の事実経過を最も知っているのは、あなた自身 です。自分が伝えなければ、裁判所が取り上げてくれない事実関係もあります。疑問や有利な事情は、必ず伝えるようにしてください。
また、調停委員が相手方に伝え忘れて議題から外れてしまう場合もあります。そのため、調停委員が議題に出さない場合には、それが忘れられていないか、自分の権利に関係することではないかを確認する必要があります。
5. 調停委員について認識しておくべきこと
裁判所の調停員は一般的な法律の研修を裁判所から受けており、非常勤の国家公務員であるため、当事者よりは法律に詳しいです。しかし、それでも資格の取得が必要なわけではなく、裁判官や弁護士のレベルに到達しているわけではありません。また、通常の裁判と異なり、調停はその後の時間の経過で再度権利関係が変化する可能性もあります。
こうした点から、調停に臨む際には、調停委員について主に以下の4点を認識しておくのが望ましいです。
5-1. 調停委員は中立の立場をとる
調停委員は中立でなければならない縛りがあります。そのため、どちらかに有利なアドバイスはできないし、しません。つまり、自分が有利であるポイントは自分で気づかなければなりません 。
5-2. 調停委員は「まとめたい」と考える
調停委員は調停でできる限り合意を成立させることが当事者のためであると考えています。つまり、当事者の権利を実現するよりも、よくも悪くも合意を優先するという考えを持ちがちです。
5-3. 調停委員は裁判官や弁護士ではない
一般的な法律の研修を受けているとはいえ、調停委員は裁判官や弁護士ではないため、法的知識について完全に信頼してよいわけではありません。故意に嘘は言いませんが、不適切な法的整理である場合もあります。
特に婚姻費用がいつから発生するかという問題は、調停を自分で手続きしている相談者が途中で弁護士に相談に来た場合に不適切な進められ方をされているケースが多い点は認識しておきましょう。婚姻費用の発生時期が問題となっている場合は、弁護士へ相談することを強く勧めます 。
たとえば、婚姻費用がいつから発生するかについては、高等裁判所や最高裁判所といった多くの上級審が「請求したときから」という考え方をとっていますが、2023年の時点ですら裁判官がこれと違う判断をして高裁で是正されたり、2024年でも「請求を継続し続けないと調停申立時にする」などという裁判官がいたり、その解釈を当然のように当事者に伝える調停委員もいたりするため、注意が必要です。
5-4. 調停委員には当たりはずれや相性がある
調停委員も人間なので、さまざまな価値観を持っています。また、相性もあります。
過去の実例を挙げると、「妻が夫と寝室を分けたいと言ったら離婚されて当然だ」と述べた女性の調停委員や、「父親には母親ほど子に対する愛情はないんだから」と話した男性の調停委員がいたりと、偏った価値観の調停委員も実際にいました。また、なかには、自分の考えに沿うように結論を持っていこうとする調停委員もいます。
もっとも、どのような理由にせよ、調停委員を変更したいという要望は原則的に認められません。仮に認められたとしても、次の調停委員との相性が必ずよいとは限らず、同じくまとめたがる調停委員の言動にストレスを感じるおそれもあります。
そのため、このような調停委員の資質を見抜き、時には調停委員の意見に反対しながら、自らの主張をしっかりと述べる必要 があります。
6. 弁護士に相談するタイミングについて
婚姻費用の調停に関して弁護士に相談するタイミングは主に3つあります。どの段階にせよ、弁護士の手を借りれば、そのぶん自分の負担が軽減されるメリットがあります。
6-1. 申立前|自分で手続きできるかを弁護士に確認
ほかのタイミングよりも強くはありませんが、自分の手続きが自分で対応可能かを探るためにも相談をお勧めします。自分でできるかという相談にも弁護士は応じますし、注意点があらかじめわかります。
6-2. 調停中|疑問を持ったら、弁護士へ相談を
相手方への反論方法や、裁判所の誘導が適切かの疑問を持ったら、弁護士へ相談するとよいでしょう。ただし、弁護士に文書を書いてもらったり、宿題の資料をまとめてもらったりすることは、通常の相談の時間では対応せず、別途契約が必要になるケースが一般的です。
6-3. 審判移行時|必ず弁護士へ相談を
裁判所が強制的に決める審判手続きに移行する場合は、必ず弁護士へ相談しましょう。自分の権利を自分以外は守ってくれない状態です。また、裁判所も弁護士へ依頼は検討しないのか聞いてくる段階です。

相談アリ
得意な弁護士
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7. 弁護士費用の相場
現在弁護士の費用は自由化しています。特に多い方式は以下の2つです。
7-1. 着手金+成功報酬方式
「着手金+成功報酬方式」は、従来の原則的な方法で、現在でもこの方式が多く用いられています。
相場は、着手金が調停段階で20万円〜40万円程度、成功報酬は得られた金額の10~20%か、着手金と同額 です。期日に出席するごとに日当がかかる場合もあります。
「着手金+成功報酬方式」は総額がわかりやすいのがメリットですが、簡易な事件も難解な事件も同じような金額になります。
7-2. 着手金+成功報酬+タイムチャージ併用方式
着手金には一定回数の期日出席や打ち合わせ時間が含まれていますが、それを超えると別途「タイムチャージ」としての費用がかかる方式です。
相場はさまざまであり、簡易な事件では「着手金+成功報酬方式」より着手金と成功報酬が安くなる可能性がありますが、長期化すると高額となる可能性があります。
8. 婚姻費用の分担請求調停に関してよくある質問
9. まとめ 婚姻調停は常に弁護士に依頼する選択肢を
婚姻調停を自分で行うことには、弁護士費用を節約できる側面があります。弁護士費用が必ずしも安くない金額であるため、大きなメリットではありますが、裁判所の調停委員を完全に信じて進めれば損をしないかというとそうでもありません。そもそも、専門家でなければ、自らの権利がどの程度かはわからない場合がほとんどです。
そのため、まずは弁護士に相談して調停を自分で進められるかを判断し、自分で進める場合でも、常に弁護士に依頼する選択肢を頭に入れておくとよいでしょう。
(記事は2025年2月1日時点の情報に基づいています)