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婚姻費用の強制執行・差し押さえ 払わない相手への対処法

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婚姻費用が払われないときの最終手段として差し押さえがあります(c)Getty Images
婚姻費用とは、夫婦や未成年の子どもが生活をするのに必要な生活費のことです。主に、別居している夫婦で、収入の多い方から少ない方へ払われることが多いです。夫婦には、同程度の生活ができるよう、婚姻費用の負担をする義務があります。これが支払われない場合、最終手段として、差し押さえをすることが可能です。婚姻費用を支払ってもらうための法的手段について説明します。
目 次
  • 1. 婚姻費用を支払ってもらうための法的手段
  • 1-1. 履行勧告
  • 1-2. 履行命令
  • 1-3. 強制執行
  • 2. 婚姻費用を差し押さえる方法は?
  • 2-1. 直接強制
  • 2-2. 間接強制
  • 3. 婚姻費用の強制執行で差し押さえられるもの
  • 3-1. 給料や預貯金(債権)
  • 3-2. 土地や家(不動産)
  • 3-3. 貴金属や車(動産)
  • 4. 婚姻費用の差し押さえの留意点
  • 4-1. 相手の財産を把握する
  • 4-2. 遅延損害金も含めて請求する
  • 4-3. 可能な限り早めに請求をする
  • 5. 婚姻費用の差し押さえに必要な書類や流れ
  • 5-1. 必要書類
  • 5-2. 差し押さえまでの流れ
  • 6. 婚姻費用の強制執行を弁護士に依頼するメリットや費用
  • 7. 婚姻費用を強制執行するデメリット
  • 8. 婚姻費用の差し押さえでよくある質問
  • 9. まとめ 婚姻費用が支払われない場合は、弁護士に相談を

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1. 婚姻費用を支払ってもらうための法的手段

婚姻費用の合意や調停、審判(判決)が確定しているのに、支払ってくれない場合の対応を紹介します。

1-1. 履行勧告

家事事件手続法の独自の制度として、裁判所の決定を守るよう勧告する制度 があります。これを、「履行の勧告」といいます(家事事件手続法289条)。

裁判所から勧告があることで、相手方にプレッシャーを与える ことができますが、この手続きはあくまでも「勧告」です。法的拘束力はありません 。相手方から無視されてしまうと、婚姻費用が支払われないことを覚えておきましょう。

過去に私が担当した案件では、裁判所から婚姻費用の支払いをするよう勧告を受けた人がいました。

その人は、一度目の勧告を無視し、二度目の勧告で支払ったように記憶しています。

1-2. 履行命令

「履行命令」とは家事事件手続法290条に定められている手続きです。婚姻費用の支払いを怠った者に対して、その義務を守るよう命じる審判をする ことができます。

この手続きは、先ほど説明した履行勧告とは異なり、申立てという手続きをする必要があります。

審判の後も支払いがない場合、裁判所は、義務者に対して、どうして支払いをしないのか聞き取りをしなければいけません。審判の内容に従わない場合、10万円以下の過料が課されることがあります。

私は、ここまでいくような事案の経験は今のところありません。

1-3. 強制執行

調停も審判も、通常の裁判の判決と同一の効果を有しているため、それを守らない場合には強制執行ができます 。強制執行とは、義務者の意志に関係なく、権利者側の権利を実現することです。婚姻費用の支払いの場合、義務者の給与や預貯金、自動車、不動産などを差し押さえ、強制的に婚姻費用の支払いにあてる ことになります。

婚姻費用を支払わないことは多々あり、私の依頼者も動産執行という強制執行手続きを履行されたことがあります。この依頼者は、子どもに会わせてもらえなかったため、婚姻費用の支払いを止めていたようですが、家に執行官が訪れ、カメラやコートなど金目の物を差し押さえられてしまいました。

依頼者は、差し押さえ対象金額を速やかに支払うことで、差し押さえ物が売却されてしまう前に倉庫から回収できました。

2. 婚姻費用を差し押さえる方法は?

婚姻費用を差し押さえる強制執行には「直接執行」と「間接執行」の2つの方法があり、どちらも地方裁判所に申し立てます

強制執行の方法は、動産執行や債権執行、不動産強制競売などがあります。これらは全て直接強制という方法です。

その他、間接強制という方法もあります。原則としては、直接強制になじまない案件において、「〇〇するまでの間、毎月10万円を支払え」といった条件を付して一定の金額を定期的に徴収することを命じるものです。

2-1. 直接強制

直接強制は、簡単に言うと司法の力により、強制的に調停や審判の内容を実現することです。婚姻費用分担の調停や審判が決まったものの、相手方が全く婚姻費用を支払わない場合、相手の財産を調査して差し押さえる ことになります。

よくあるのが、預貯金 です。預貯金は銀行と支店名までわからないと差し押えられないことが多く、ネットバンクの場合、支店の特定は不要なことが多いです。自動車の場合、プレートから登録情報を取得できます。所有者の欄に義務者の名前がある場合、差し押さえ可能です。最近、自動車をリースや残クレで買うことが多くなっているため、所有者欄がクレジット会社であることが多いです。この場合、差し押さえをすることはできません。

不動産に関しては、不動産の登記簿を取得し、甲区の所有者の欄を確認することになります。

2-2. 間接強制

間接強制は、審判や調停の内容を間接的に実現すること。つまり、「審判や調停の内容を守るまで、毎月〇円支払え」などというものです。

最近、Googleの記事削除の案件において、削除するまで1日あたり数万円の間接強制を認めた裁判例がありました。かなり高額になるので、間接強制を命じられた側はすぐに応じる場合が多いです。資力に余裕がある場合、この限りではありません。

3. 婚姻費用の強制執行で差し押さえられるもの

強制執行で差し押さえられるものを詳しく紹介します。

3-1. 給料や預貯金(債権)

直接金銭を差し押さえる方法です。給与の場合、勤務先が判明している必要があります。勤務先との契約関係が雇用契約か委任契約かにより、差し押さえられる範囲が異なります。給与の場合は範囲が少なく、委任契約の場合は多くなります。

裁判所から勤務先に通知が届きます 。この書面に勤務先がどのように回答するか、が重要です。勤務実績なしや給与なしの返答が返ってきた場合、給与の差し押さえはできません。

預貯金を差し押さえる場合、弁護士会照会という手段により、調停や審判の調書に基づいて調査が可能です。相当額の実費がかかるので、詳細は各弁護士会に確認しましょう。

金融機関によっては、一括照会といってどの支店と取引があるか開示してくれるところもあります。基本的には、金融機関の本店ではなく義務者が預貯金口座をもっていると推測される支店に照会することになります。相当な費用がかかるので、口座なしや残高0の回答がされると、かなり落ち込みます。

3-2. 土地や家(不動産)

不動産を差し押さえる場合、登記(全部事項証明書)を取得し、今の所有者が誰なのか、抵当権などの担保権が設定されていないかを確認します。多くの場合、不動産をローンで購入しており、抵当権が付されています。つまり、不動産を差し押さえて換金したとしても、ローン会社への返済が優先されるのです。ローン会社への返済を済ませて、それでも余剰がでた場合に、婚姻費用を回収することができます。

強制執行をするにしても、残ローン金額がわからないと、差し押えによって回収できる金額の見込みが立たないため、費用対効果の面でリスクが高くなります

こういったケースでは、ローン会社にローン残高を聞くことが考えられます。もっとも、残ローンの金額が不動産の時価額を超えているオーバーローンの状態も多く見られ、不動産に価値がないと評価されることも多いです。

3-3. 貴金属や車(動産)

その他、差押の対象となるものとして、貴金属や車やブランド品があります。貴金属があるかどうかは、SNSを確認することである程度推測できます。ブランド品や貴金属の場合、専門の買取商を同席し、その場である程度の値段を出してもらいます。

自動車は車屋を同伴し、査定することもありますが、執行官がその場で財産的価値がないと判断し、差し押さえをさせてくれないこともよくあります。担当する執行官によって結果が変わるのですが、執行官は指名できません。

車両を差し押さえる場合、レッカー車で引き上げ、倉庫に保管することが多いです。ただし、費用がかなりかかるので、それなりの価値のある車に限られます。

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4. 婚姻費用の差し押さえの留意点

4-1. 相手の財産を把握する

相手の財産がわからない場合、前述の強制執行をするとしても、何を差押すればよいのかわかりません。そのため、財産の把握は不可欠です。婚姻費用の場合、別居前に相手の財産をよく調査しておきましょう。

4-2. 遅延損害金も含めて請求する

強制執行する場合、遅延損害金も請求できます 。調停や審判で特別の合意がない場合、年3%の割合になります。遅延損害金の請求は、財産がある場合には非常に有効なものになりますが、財産がない場合あまり意味はありません。

婚姻費用の支払い自体が難しい人に対して、遅延損害金を上乗せして請求しても、回収できる可能性は低い からです。

4-3. 可能な限り早めに請求をする

婚姻費用を支払う側も生活しているため日々お金を使います。まとまったお金の入った瞬間や、財産のあるタイミングを逃すと、強制執行しても空振りに終わることになるので、早めに強制執行することが大切です。

5. 婚姻費用の差し押さえに必要な書類や流れ

婚姻費用の差押えに必要な書類や手続きの流れを紹介します。

5-1. 必要書類

調停調書(調停での合意が記された書類)や審判書(審判の内容が記された書類)、確定証明書(裁判所の判決が確定していることを証明する書類)が最低限必要です。確定証明書を取得するため、裁判所に確定証明書の交付申請をする必要があります。裁判所になんらかの書類作成を依頼する場合、基本的に有料ですので、ご留意ください。

その他、手続きにより必要書類は異なり、差押申立書や第三者の意見陳述書な申述書など、様々な書類が必要ですので、事前に管轄の地方裁判所に確認するとよいでしょう。

5-2. 差し押さえまでの流れ

必要書類をすべて集めて、裁判所の執行部に持参します。執行部がない裁判所の場合、民事部になるかと思います。

この時、申立費用の支払いを求められます。不動産強制競売申立ての場合、予納金が最低でも70万円(岡山地裁の場合)かかるので、注意が必要です。申立て書を提出すると、強制競売の手続きが始まり、予納金などを納めると強制執行手続きの開始決定がなされます。

その後、債権執行の場合であれば第三債務者(銀行や勤務先)に第三債務者の陳述書の書面が送られ、預貯金の有無や給与の有無についての回答書が届きます。その後、義務者に強制執行の命令書が送達されます。強制執行の手続きも債権執行や動産執行、不動産強制競売など種類が多く、各手続きにおいて共通する部分はこのくらいです。

時間がかかるのは、不動産強制競売手続きです。半年から一年程度かけて、不動産を競売し、入札額から回収できます。

動産執行の場合、執行官の日当を予納しないと決定がでません。執行官が債務者の家に行く日を決めると、その日に執行官が債務者の家などに行き、鍵を開けて貴金属やブランド品、現金などを差し押える ことになります。通常、1か月程度で終わります。

債権執行は、1か月から2か月程度で終わりますが、供託が絡むと時間を要することが多いです。

6. 婚姻費用の強制執行を弁護士に依頼するメリットや費用

強制執行手続きを個人一人で行うのは、かなりハードルが高いです。弁護士に依頼することで手間が省けます

弁護士費用についてですが、婚姻費用の強制執行に限っていえば、そこまで高額にはなりません。具体的な金額に関しては、各弁護士事務所に問い合わせをしましょう。

当事務所の場合、裁判等を申し立てる際の費用の2分の1が着手金、成功報酬として、依頼者が得られた金額の報酬基準の4分の1となります。300万円の強制執行をする場合、着手金として12万円(税別)、300万円の回収ができた場合は成功報酬として12万円(税別) になります。

当事務所で300万円の強制執行のみを行う場合、以下の費用がかかります。

・着手金:12万円(300万円の4%)
・成功報酬:12万円(300万円の4分の1の16%)

7. 婚姻費用を強制執行するデメリット

デメリットをあえて挙げると、強制執行をしても回収できる預貯金や資産が少なくて、費用だけかかる 可能性があることです。強制執行を申し立てる前に、回収できる見込みがあるかどうか慎重に判断する必要があります。

8. 婚姻費用の差し押さえでよくある質問

Q. 相手の勤務先の協力を得られない場合は?
勤務先が強制執行に協力的ではない場合、債権執行の実現は難しくなります。他の財産を探すことが望まれます。
Q. 相手に借金があっても強制執行で差し押さえできる?
借金の有無は強制執行と無関係です。ただ、借金があるということは資力に乏しいことが推測され、他にも債権者がいるということなので、財産の取り合いになることが予想されます。したがって、速やかに強制執行することが大切です。
Q. 相手が会社を退職した場合、給料を差し押さえられる?
会社を退職した場合、退職金を差し押さえることが考えられます。また、退職月の給与は翌月支払われるはずなので、最後の給与を差し押さえることは可能です。
Q. 相手が自営業の場合、どうやって給料を差し押さえる?
自営業の場合、給料の概念がないため、売上を差し押さえることになります。屋号などを使って口座開設している場合、差押できないこともあるので留意してください。

9. まとめ 婚姻費用が支払われない場合は、弁護士に相談を

婚姻費用とは、夫婦や未成年の子どもが生活をするのに必要な費用のことです。別居している夫婦の場合、収入の多い方から少ない方に支払われることが多いです。夫婦には、同程度の生活ができるように婚姻費用を負担する義務があるため、支払いがない場合には、差し押さえなどの強制的な手段を取ることができます。

強制執行となった場合、相手の給与口座からお金を引き出したり、車や不動産を差し押さえたりして、婚姻費用の支払いに充てる ことになります。

強制執行の手続きは、個人が1人で行うのは難しいため、弁護士に相談するのがおすすめです。婚姻費用を支払う側がまとまった収入を得たり、金銭的に余裕のあるタイミングを逃すと強制執行が空振りに終わることになるので、なるべく早く手続きをするのがおすすめ です。

(記事は2025年1月1日時点の情報に基づいています)

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