-
1. アルコール依存症とは?
-
1-1. アルコール依存症の症状
-
1-2. アルコール依存症の診断基準
-
2. 配偶者のアルコール依存症を理由に離婚できる?
-
2-1. 夫婦の合意があれば可能
-
2-2. 裁判離婚は法定離婚事由が必要|アルコール依存症はケース・バイ・ケース
-
3. アルコール依存症の配偶者と離婚する方法
-
3-1. 配偶者と話し合う
-
3-2. 弁護士に相談や依頼をする
-
3-3. 法定離婚事由の証拠を確保する
-
3-4. 離婚協議がまとまらないなら別居を検討する
-
4. アルコール依存症の配偶者と離婚する場合、慰謝料は請求できる? 相場は?
-
5. アルコール依存症の配偶者との結婚生活を続ける場合の注意点
-
5-1. まずは自分の身の安全を確保する
-
5-2. 子どもに悪影響が及ばないようにする
-
5-3. アルコール依存の治療を促しサポートする
-
6. アルコール依存症と離婚に関してよくある質問
-
7. まとめ アルコール依存症の配偶者との離婚は、弁護士のサポートが重要
無料相談OK 事務所も!
離婚問題に強い弁護士を探す
1. アルコール依存症とは?
アルコール依存症とは、大量のお酒を長期にわたって飲み続けることで、お酒がないといられなくなる状態のことを言います。
平成30年の成人の飲酒行動に関する全国調査では、アルコール依存症の診断基準に現在該当する人、またはかつて該当したことがある人は、54万人を超えていたと報告されています。
1-1. アルコール依存症の症状
アルコール依存症には精神依存と身体依存という症状があるとされます。
精神依存とは、お酒がないと物足りなくなる症状のことです。精神依存が強まると、お酒を探したり、買いに行ったりする行動が増えるようになります。
身体依存とは、お酒が切れると身体に症状が出ることで、アルコールが体から抜けると、不眠や発汗、手のふるえや血圧の上昇、不安やいらいら感といった離脱症状(禁断症状)が見られるようになります。
重症の場合は、幻覚が見えたり、けいれんを起こしたりする場合もあります。離脱症状を抑えるためにまたお酒を飲むという悪循環に陥る可能性があります。
1-2. アルコール依存症の診断基準
世界保健機関(WHO)の診断基準によると、以下の6項目のうち、過去1年間に3項目以上が同時に1カ月以上続いたか、または繰り返し出現した場合、アルコール依存症と診断されます。
渇望(飲酒したいという強い欲望)
飲酒行動のコントロール障害(飲酒を制御できない)
離脱症状
耐性の増大(酔うためにより多く飲酒する)
飲酒中心の生活
有害な使用に対する抑制の喪失(心身に問題が生じているのに飲酒する)
また、アルコール依存症かどうかを判断するには、「CAGE」テストというチェックリストもあります。図版「アルコール依存症のチェックリスト|CAGEテスト」で、4項目のうち2項目以上が当てはまると依存症の可能性があると考えられています。
2. 配偶者のアルコール依存症を理由に離婚できる?
夫婦の話し合いで合意に至れば、配偶者のアルコール依存症を理由に離婚できます。
2-1. 夫婦の合意があれば可能
夫婦双方が合意して離婚する方法として、協議離婚と調停離婚があります。
協議離婚は夫婦で話し合って離婚する手続きであり、調停離婚は家庭裁判所の調停で調停委員を交えて話し合って離婚する手続きです。
協議離婚と調停離婚は、夫婦で合意ができれば、どのような理由でも離婚することが可能です。したがって、話し合いが合意に至れば、アルコール依存症を理由に離婚することもできます。
2-2. 裁判離婚は法定離婚事由が必要|アルコール依存症はケース・バイ・ケース
夫婦で離婚の合意ができない場合、離婚の訴訟を提起して裁判離婚をめざします。離婚裁判で離婚の判決が確定すれば、配偶者が拒否していても離婚することができます。
裁判離婚が認められるためには、民法第770条第1項各号に定められている以下の法定離婚事由が必要です。
配偶者に不貞な行為があった
配偶者から悪意で遺棄された
配偶者の生死が3年以上明らかでない
配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない(民法改正により2026年5月までに削除予定)
その他婚姻を継続し難い重大な事由がある
「悪意の遺棄」とは、正当な理由なく、夫婦の同居義務、協力義務、扶助義務を放棄することを言います。アルコール依存症が原因で、仕事をしなくなったり、お酒に浪費したりして、生活費を渡してもらえないようなケースでは、扶助義務の放棄として悪意の遺棄に該当する可能性があります。また、家事や育児に全く協力しないといったケースでは、協力義務の放棄として悪意の遺棄に該当する可能性があります。
「強度の精神病」とは、夫婦の協力義務を果たすことができない程度の精神障害に達していることを言います。「回復の見込みがない」とは、精神病の配偶者が夫婦の協力義務を果たせる程度に至るまでに回復する可能性がない状態を言います。アルコール依存症によって、夫婦の協力義務を果たすことができなくなったり、協力義務を果たせる程度に回復する見込みがなかったりするケースは珍しいと思われます。
裁判所は、法定離婚事由の「強度の精神病」に関して特に厳格に判断していると言われており、アルコール依存症が「強度の精神病」に該当することは通常ないでしょう。
「婚姻を継続し難い重大な事由」とは、婚姻関係が破綻し、回復の見込みがない状態のことを言います。実務上、婚姻を継続し難い重大な事由は、法定離婚事由の中核であると位置づけられています。
アルコール依存症が原因で、暴力を受けたり、著しいモラハラ(モラル・ハラスメント)を受けたりしているケースでは、結婚関係が破綻し、回復の見込みがない状態にあると認められる可能性があります。また、アルコール依存症が原因で別居に至り、相当の期間が経過しているようなケースでも、婚姻関係が破綻し、回復の見込みがない状態にあると認められる可能性があります。「相当の期間」とは、3年程度が一つの目安と考えられています。
一方で、単に配偶者がアルコール依存症であるというだけでは、婚姻関係が破綻し、回復の見込みがない状態にあるとまでは言えないのが通常でしょう。
3. アルコール依存症の配偶者と離婚する方法
アルコール依存症の配偶者と離婚する方法、あるいは一定の距離を置く方法としては、主に以下の4つの選択肢が考えられます。
配偶者と話し合う
弁護士に相談や依頼をする
法定離婚事由の証拠を確保する
離婚協議がまとまらないなら別居を検討する
3-1. 配偶者と話し合う
まずは、配偶者にアルコール依存症が原因で離婚したいことを伝えましょう。配偶者が話し合いに応じるようであれば、離婚するかどうかや離婚条件について協議します。
ただし、配偶者が逆上して暴力をふるうおそれがあるようなケースでは、直接の話し合いは危険です。弁護士に相談や依頼をして手続きを進めたほうがよいでしょう。
3-2. 弁護士に相談や依頼をする
アルコール依存症の配偶者とスムーズに離婚したい場合、弁護士に相談や依頼をすることをお勧めします。
弁護士に相談や依頼をすることで、法的な観点から的確なサポートを受けることができます。また、アルコール依存症の配偶者との交渉や、裁判での主張や立証を代行してもらえます。初回相談無料の法律事務所もあるため、うまく活用するとよいでしょう。
3-3. 法定離婚事由の証拠を確保する
配偶者が離婚を拒否し続けた場合、最終的には離婚の訴訟を提起して裁判離婚をめざすことになります。離婚訴訟においては、離婚を求める側が法定離婚事由の存在を立証しなければならず、そのためには証拠が必要です。
また、証拠があることで話し合いを有利に進められる可能性もあります。時間が経つと証拠を収集するのが難しくなるおそれがあるため、早い段階から証拠を確保しておくのが望ましいです。
たとえば、次のようなものが証拠になり得ます。
【配偶者がアルコール依存症であることの証拠】
・アルコール依存症の診断書や診療記録
【生活費不払いの証拠】
・夫婦の通帳
・お酒を購入した際のレシート
・家計簿
【暴力を受けた証拠】
・怪我の診断書
・怪我の写真
・暴力を受けたときの録音や録画
【モラハラを受けた証拠】
・メールやLINEなどメッセージアプリでのやりとり
・モラハラが原因で精神疾患を患った場合の診断書
・モラハラを受けたときの録音や録画
3-4. 離婚協議がまとまらないなら別居を検討する
話し合いがまとまらない場合、別居を検討しましょう。別居することでお互い冷静になって話し合いができる場合があります。
また、別居期間が相当期間に及ぶことで、法定離婚事由である「婚姻を継続し難い重大な事由」が認められやすくなります。
どうしても協議がまとまらなければ、家庭裁判所に調停を申し立て、調停離婚をめざします。調停でも話し合いがまとまらなければ、離婚の訴訟を提起することになります。
以上の手続きには専門的知識が必要となるため、弁護士のサポートを受けることをお勧めします。

相談アリ
得意な弁護士
探せる
4. アルコール依存症の配偶者と離婚する場合、慰謝料は請求できる? 相場は?
協議や調停で慰謝料の合意ができれば、慰謝料を支払ってもらうことができます。
また、訴訟においても、アルコール依存症が原因で、暴力やモラハラといった不法行為が行われていた場合、慰謝料を請求できます(民法第709条、第710条)。
慰謝料の額はケース・バイ・ケースですが、100万円から300万円程度が一つの目安となります。
5. アルコール依存症の配偶者との結婚生活を続ける場合の注意点
夫婦間での話し合いや、弁護士へ相談や依頼をしても、離婚に至れない可能性もあります。アルコール依存症の配偶者との結婚生活を続ける場合は、主に以下の3点に注意する必要があります。
5-1. まずは自分の身の安全を確保する
アルコール依存症が原因で、暴力をふるわれるおそれがある場合、まずは身の安全を確保することが重要です。公的な相談窓口や避難先となるシェルターなどの存在をあらかじめ把握しておくとよいでしょう。実際に暴力をふるうようなことがあれば、警察へ連絡し身の安全を確保すべきです。
5-2. 子どもに悪影響が及ばないようにする
親のアルコール依存症は子どもに悪影響が生じる可能性があるうえ、場合によっては子どもの身が危険にさらされるおそれもあります。親族に協力してもらったり、児童相談所などの公的な窓口に相談したりすることで、子どもに悪影響が及ばないように対策することが必要です。
5-3. アルコール依存の治療を促しサポートする
アルコール依存症は「否認の病」と言われ、本人は自分が病気であることを認めたがらない傾向にあるとされます。アルコール依存症から回復するためには、家族がサポートしつつ、適切な治療を受けてもらう必要があります。
アルコール依存症は早期に治療を始めれば回復しやすいと言われています。アルコール依存症の治療を専門とする医療機関もあるので、お近くの医療機関を調べてみるとよいでしょう。
6. アルコール依存症と離婚に関してよくある質問
アルコール依存症の離婚率を示す客観的なデータは見当たりませんが、アルコール依存症が原因で離婚に至るケースは少なくないと推測されます。
「アルコール健康障害対策基本法」第1条においても、アルコール依存症などのアルコール健康障害は「家族への深刻な影響」を生じさせる危険性が高いとされています。
親権者を決定するにあたっては、子どもが生まれてから主に子どもを監護してきた親(主たる監護者)が重視される傾向があります。このような傾向からすると、アルコール依存症の親であっても、主たる監護者と認められれば、親権を獲得することがないとは言えません。
ただし、主たる監護者の監護に問題がある場合には、親権者には指定されません。
したがって、アルコール依存症が原因で、子どもの監護に具体的な支障があるケースでは、親権を獲得することは難しいと考えられます。
家族が治療を促しても拒否する場合、精神保健福祉センターや医療機関などに相談してみるのも一つの方法です。
本人が頑なに治療を拒否し、結婚生活を続けるのが困難な場合には、離婚も検討せざるを得ません。離婚したいと考えた場合には、弁護士に相談するのがよいでしょう。
7. まとめ アルコール依存症の配偶者との離婚は、弁護士のサポートが重要
アルコール依存症の人は、自分が病気であることを認めたがらない傾向にあります。配偶者のアルコール依存症が理由で離婚したいと伝えても、自分はアルコール依存症ではないと拒否されることも想定されます。
また、アルコール依存症を理由に離婚をめざす場合には、証拠を確保したり、別居したりといった手続きを的確に進める必要があります。
アルコール依存症の配偶者と離婚したい場合、弁護士に相談や依頼するなどしてサポートを受けることをお勧めします。
(記事は2025年7月1日時点の情報に基づいています)