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1. ギャンブル依存症とは
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2. ギャンブル依存症を理由に離婚できる?
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2-1. 夫婦の合意があれば可能
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2-2. 裁判離婚は法定離婚事由が必要|ギャンブル依存症はケース・バイ・ケース
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3. ギャンブル依存症の配偶者と離婚する方法
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3-1. 弁護士に相談または依頼する
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3-2. 離婚裁判になったときに備えて法定離婚事由の証拠を確保する
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3-3. 配偶者に離婚の意思を明確に伝え、話し合う
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3-4. 離婚協議がまとまらなければ調停や裁判を行う
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4. ギャンブル依存症を理由に離婚する場合の離婚条件
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4-1. 財産分与|借金は原則として分与の対象にならない
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4-2. 慰謝料|ケース・バイ・ケースだが認められる場合は50万円~300万円の範囲が多い
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4-3. 親権|ギャンブル依存症は親権者としての不適格要因?
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4-4. 面会交流|事情により拒否できる可能性も
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4-5. 養育費|自己破産しても免責されない
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5. ギャンブル依存症の配偶者と離婚する際の注意点
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5-1. 借金の状況を正確に調査のうえ把握して、自分に影響がないかを検討する
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5-2. 養育費などの不払い対策として公正証書や裁判所での書類を作成する
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5-3. 相手の自己破産などに対する対応を想定する
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6. ギャンブル依存症の配偶者がいる場合に自分ができること
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6-1. 配偶者の代わりにお金を管理する
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6-2. ギャンブル依存症の治療を促し、周りのサポートや協力を得る
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6-3. 自分や子どもの将来のことを考える
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7. ギャンブルと離婚に関してよくある質問
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8. まとめ 配偶者のギャンブル依存が原因で離婚を考えている場合は弁護士に相談を
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1. ギャンブル依存症とは
ギャンブル依存症とは、ギャンブルにのめり込んで自分をコントロールできず、日常生活に重大な支障が生じる精神疾患の一つです。
ギャンブル依存症は、最新の世界保健機関(WHO)の分類「国際疾病分類第11版(ICD-11)」で「ギャンブル行動症」として嗜癖行動症群というグループに分類されています。一般的には「ギャンブル依存症」と呼ばれることが多いでしょう。
ギャンブル依存症と診断される重要な要素として、自己コントロールが利かない点、日常生活や社会生活で支障が生じて問題が起きてもギャンブルを優先してしまう状態が一定期間継続する点が挙げられています。
ギャンブル依存症になると次のような問題が生じるとされています。
ギャンブルをやめると落ち着かなくなったり、イライラしたりする
ギャンブルでの負けを別の日に取り返そうとする
自分がギャンブルに熱中している事実を隠そうとする
お金を貸してほしいと他人を頼るなど、人間関係のトラブルを起こす
なお、本記事で述べる離婚との関係では、ギャンブル依存症という診断を受けているかどうかではなく、ギャンブルへの依存によって夫婦の婚姻生活に重大な支障が生じ、「婚姻関係が破綻している」状態に至っているかどうかが、重要な判断基準となります。
2. ギャンブル依存症を理由に離婚できる?
配偶者のギャンブル依存症を理由に離婚を望む場合、夫婦間の合意があるかどうかによってとるべき対応が変わります。
2-1. 夫婦の合意があれば可能
まずは離婚に向けて、お互い直接の話し合いでの離婚をめざすのが一般的です。合意があれば、どんな理由であっても離婚は成立するので、ギャンブル依存症を理由に離婚することも可能だと言えます。
相手と直接の話し合いが難しい場合は、弁護士を代理人として立て、弁護士を通して話し合いをするケースもあります。
また、直接の話し合いで離婚が成立しない場合は、裁判所での話し合い、つまり調停の手続きのなかで調停委員らを介して話し合います。
これらの話し合いのなかで相手と離婚の合意ができた場合は、離婚が成立します。
2-2. 裁判離婚は法定離婚事由が必要|ギャンブル依存症はケース・バイ・ケース
夫婦間の話し合いや調停で離婚の合意ができない場合には、裁判を行う必要があります。
裁判で離婚が認められるためには、法律で定められた条件に該当する理由が必要です。この理由を「法定離婚事由」と呼びます。
法定離婚事由は、2025年2月時点では民法770条1項に定められた5つがあります。そのうちギャンブル依存症を理由として離婚が認められる可能性があるのは以下の2つです。
配偶者からの悪意の遺棄
その他婚姻を継続し難い重大な事由
「悪意の遺棄」とは、夫婦の間の義務である同居の義務や協力義務、相互扶助義務といった義務を正当な理由なく果たさない場合を指します。ギャンブルにのめり込んで「生活に必要なお金を渡さない」「働かない」「家に帰ってこない」などの事情がある場合は、悪意の遺棄に該当する可能性があります。
また、悪意の遺棄に該当しない場合でも、次のような事情がある場合は、夫婦間の婚姻関係が破綻していると評価され、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があります。
ギャンブルで浪費をし、夫婦生活や家族生活がとても苦しい
常にギャンブルのことばかり考えて優先し、家事や育児、家族との生活をまったくしない
ギャンブルに負けたときなどに暴力をふるう(ドメスティックバイオレンス)
ギャンブルが原因で日常的に暴言を吐く(モラル・ハラスメント)
3. ギャンブル依存症の配偶者と離婚する方法
ギャンブル依存症の配偶者と離婚するための準備として、主に次の4つが考えられます。
弁護士に相談または依頼する
離婚裁判になったときに備えて法定離婚事由の証拠を確保する
配偶者に離婚の意思を明確に伝え、話し合う
離婚協議がまとまらなければ調停や裁判を行う
3-1. 弁護士に相談または依頼する
ギャンブル依存症の配偶者との離婚を考えた場合は、まずは一度、弁護士への相談を検討することをお勧めします。離婚は夫婦が合意すれば成立しますが、ギャンブル依存症の配偶者と離婚に関して直接話し合うのは難しい場合が少なくありません。弁護士に依頼したうえで、弁護士を通して話し合うのが適切なケースもあります。
話し合いで解決しないときは裁判離婚に向けた手続きをすることになります。ギャンブル依存症を理由とする離婚が認められるためには法定離婚事由に該当する必要があります。該当するかどうかについて事前に法的な観点からの検討と判断をする必要があるでしょう。
弁護士である筆者の経験でも、配偶者のギャンブル依存や暴言などがひどく、直接の話し合いが難しいため、弁護士として依頼を受けて代理人となったケースがあります。この事例では、弁護士を入れての交渉や調停を経て、離婚が成立しました。
3-2. 離婚裁判になったときに備えて法定離婚事由の証拠を確保する
相手に離婚の意思を伝える前に、まずはギャンブル依存やDV(ドメスティックバイオレンス、家庭内暴力)、モラハラ(モラル・ハラスメント)など、自分が離婚したい理由に関する証拠の確保を考えましょう。
夫婦が合意すれば離婚は成立するため、離婚をするために必ずしも証拠が必要になるわけではありません。しかし、特にギャンブル依存の配偶者との話し合いでは、相手が感情的になったり嘘をついたりして話が進まないケースが多々あります。その場合は、調停や離婚裁判という裁判手続きに進むことになります。特に裁判では、証拠の有無が重要です。
離婚の意思を伝えたあとだと、相手が証拠を隠滅するおそれがあるため、事前の証拠収集が大切です。
3-3. 配偶者に離婚の意思を明確に伝え、話し合う
証拠の確保が済んだら、相手に離婚の意思をはっきりと伝えましょう。
相手との話し合いは、あとでトラブルになることを防ぐため、録音しましょう。もし、直接話し合うのが難しければ、弁護士に依頼して代理人になってもらうことを検討するとよいと思います。
3-4. 離婚協議がまとまらなければ調停や裁判を行う
相手と直接の話し合いがまとまらなければ、裁判所の調停や離婚裁判を検討することになります。
原則として、いきなり離婚裁判はできません。裁判の前に調停を経なければならないため、まずは裁判所での調停手続きを行います。調停手続きは、本人でも申立てが可能です。書類の書き方などわからないことがあれば、裁判所に問い合わせをする、弁護士に相談する、または書類の作成を含めて弁護士に対応を依頼することも可能です。

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4. ギャンブル依存症を理由に離婚する場合の離婚条件
主な離婚条件として「財産分与」「慰謝料」「親権」「面会交流」「養育費」が挙げられます。ギャンブル依存症を理由とした離婚の場合、これらの条件がどうなるかについて説明します。
4-1. 財産分与|借金は原則として分与の対象にならない
財産分与とは、夫婦が離婚する際に、結婚している間に夫婦で築いた財産(共有財産)を分配する制度です。共有財産は2分の1ずつ分けるケースが多いでしょう。
しかし、借金は原則として財産分与の際に考慮されず、借金をしている本人に返済義務があります。
例外的に、住宅購入資金のための住宅ローンや子どもの教育資金のための教育ローン、夫婦の自動車購入のための自動車ローンといった借金は、夫婦や家族の生活のための借金として財産分与の際に考慮することが認められています。
一方、ギャンブルのためだけに借金をした場合、財産分与の際に考慮されることは基本的にはありません。したがって、自分が保証人になってしまっているといった事情がなければ配偶者のギャンブルのための借金を離婚後に負担しなければならないことにはなりません。
4-2. 慰謝料|ケース・バイ・ケースだが認められる場合は50万円~300万円の範囲が多い
ギャンブル依存の場合、そもそも慰謝料を請求できるかどうか自体がケース・バイ・ケースです。
たとえば、「ギャンブル依存によって生活費をまったく入れてもらえないために借金生活となり、極めて苦しい生活を強いられた」「日々ギャンブルに負けて罵詈雑言を浴びせられた」「暴力をふるわれることもあった」など、配偶者の行為が違法と言える程度になっている場合には、慰謝料を請求できると考えられます。その金額は、50万から300万円と幅があります。
過去の事例では、競艇や麻雀、パチンコなどの夫の日常的なギャンブルのほか、飲酒や暴言、暴力を原因として妻が離婚を求め、慰謝料を請求したケースがあります、この事例で裁判所は、これらの慰謝料として約250万円を認定しました(東京地裁平成15年4月9日判決)。
なお、注意点として、配偶者が自己破産をした場合は、養育費の支払い請求と異なり、慰謝料の請求ができなくなる可能性があります。
4-3. 親権|ギャンブル依存症は親権者としての不適格要因?
離婚する際には、未成年の子どもの親権者を決めなければなりません。親権は、これまでの子どもの面倒を見てきた実績や、子どもの生活環境、子どもの意思や親の経済力などさまざまな事情を総合的に考慮して決定されます。
ギャンブル依存そのものが原因で親権者として認められないというよりも、子どもの成長にとってマイナスとなる事情があることで、親権者として不適当であると評価されることがあります。たとえば、ギャンブルへの依存によって、「子どもの育児を実質的に放棄している」「子どもの育児や教育にかけるお金までギャンブルに使っている」「子どもが満足に食事できない可能性がある」といったケースが該当するでしょう。
4-4. 面会交流|事情により拒否できる可能性も
子どもと一緒に住んでいない親と子どもが定期的に会う機会を持つことを面会交流と言います。子どもにとって不利益になる事情がなければ面会交流自体はできる限り実施すべきというのが現在の裁判所の考え方のため、ギャンブル依存があっても面会が必ず制限されるというわけではありません。
面会によって子どもに危害が加わる可能性がある、子どもの心身の健康にとって支障が出るおそれがあるなど、具体的な事情があれば、面会を拒否できる可能性があります。
4-5. 養育費|自己破産しても免責されない
養育費は子どもが育ち成長していくためのお金であり、養育費を受け取る権利は法的に保護されています。そのため、自己破産をした場合でも、養育費は「非免責債権」として支払い義務を免除されません。したがって、配偶者の自己破産後も、養育費の請求ができます。
ただし、ギャンブル依存でお金がほとんどなく、定職にもついていないような場合は、養育費の請求が困難となる可能性もあるため、養育費を確保する方法について検討する必要があります。
5. ギャンブル依存症の配偶者と離婚する際の注意点
配偶者のギャンブル依存症を理由に離婚を考えている場合、次の3点に注意しましょう。
借金の状況を正確に調査のうえ把握して、自分に影響がないかを検討する
養育費などの不払い対策として公正証書や裁判所での書類を作成する
相手の自己破産などに対する対応を想定する
5-1. 借金の状況を正確に調査のうえ把握して、自分に影響がないかを検討する
まず大事なのは、ギャンブル依存の配偶者の借金の状況を正確に把握することです。
特に、自分が保証人や連帯保証人などになっている借金がないか確認しなければなりません。保証人などになっている場合は、たとえ離婚したとしても、借金を相手が返済をしない場合は自分に返済義務が生じてしまうリスクがあります。
また、夫が妻に無断で妻名義でのキャッシングなどを行っていた、というようなケースもあります。この場合、形式的には実際には借りていない妻に返済する義務があることになるため、早急に対処法を検討したほうがよいでしょう。
5-2. 養育費などの不払い対策として公正証書や裁判所での書類を作成する
養育費が将来支払われなくなる懸念があるようであれば、養育費が不払いとなった場合に備えた対応をしなければなりません。
具体的には、養育費が不払いとなった場合に、ただちに相手の財産や給与を差し押さえる手続きができるように、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成するほか、裁判所の調停で合意をするなどして裁判所の書類を作成しておく、という方法が考えられます。
5-3. 相手の自己破産などに対する対応を想定する
相手に借金があり、将来自己破産するおそれがあるのであれば、そのことを想定した対応を検討すべきでしょう。具体的には、離婚時に受けるべき財産分与や慰謝料、養育費などについて、可能な限り分割払いではなく短期間で清算をしてもらう方法を検討することなどが考えられます。
6. ギャンブル依存症の配偶者がいる場合に自分ができること
現在、配偶者がギャンブル依存に陥っている場合は、金銭の管理をしながら改善策を探り、将来について考えることが大切です。
6-1. 配偶者の代わりにお金を管理する
ギャンブル依存と呼ばれる状態にある人は、自分自身をコントロールすることが困難であり、約束をしていても守られないケースが多くあります。したがって、ギャンブル依存症の配偶者と生活をしていくために考えられるのは、配偶者の代わりにお金を管理して、ギャンブルに自由に使えるお金をなくすことです。
ただし、お金を渡さなかったとしても、隠れてお金を借りるケースもあります。これに備えて、たとえば「貸付自粛申告」という制度を利用して、本人自身が金融機関や貸金業者から借り入れをできないように対策をしておくということも考えられます。ただし、この制度の利用にはギャンブル依存症になっている本人の協力が必要なため、困難な場合もあるでしょう。
6-2. ギャンブル依存症の治療を促し、周りのサポートや協力を得る
配偶者も自身のギャンブル依存について理解しており、少しでも治したいという気持ちがみえるようであれば、少しずつ着実に治す手伝いをするという方法も考えられます。専門の医療機関での治療を促す、ギャンブル依存に対する支援団体や自助グループを利用するなど、周りのサポートや協力を得る手段を検討しましょう。
6-3. 自分や子どもの将来のことを考える
配偶者自身にギャンブル依存への理解や改善の意志がないために、夫婦げんかが絶えず、子どもとの生活にも悪影響が生じている状態が続くようであれば、自分や子どもの将来を考えて、別居や離婚をする選択肢もあります。
夫婦の双方や子どもが一緒にいることで感情的になってしまう状態は望ましくありません。距離を置く目的で、別居や離婚という選択を検討してもよいでしょう。
7. ギャンブルと離婚に関してよくある質問
ギャンブル依存の問題を抱えている家庭の離婚率に関する直接の調査ではないですが、参考として、独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター(依存症全国対策センター)が実施した2020年度の調査「ギャンブル障害およびギャンブル関連問題の実態調査」の報告書によれば、ギャンブル問題がある(あった)と回答したのは全体の14.4%であり、そのうち、ギャンブル問題によって「家庭不和・別居・離婚を経験した」と回答したのが、16.2%だったという結果があります。
筆者の感覚では、これは決して低い数字ではないように思われます。
離婚後は、配偶者名義の借金を夫婦のもう一方が負うことは基本的にありません。しかし、離婚時の財産分与においては一部の借金が考慮され、分配を受ける財産が減る可能性はあります。
また、配偶者がつくった借金の保証人になっている場合などは、離婚によって返済義務が消えるわけではなく、離婚したとしても引き続き支払い義務は残るケースがある点に注意が必要です。
養育費は、自己破産をしたとしても支払い義務が残る「非免責債権」であるため、自己破産後であっても、養育費の請求は可能です。
自分がまったく知らないうちに、借金の連帯保証人にされていた場合は、その契約自体は無効になると考えられます。配偶者が自分の名前を勝手に使って本人だとだまして署名を偽造し、印鑑を勝手に押して契約していた場合はもちろんですが、配偶者が勝手に代理で契約した場合も、原則として無効になると考えられます。
ただし、無効な行為でも、発覚後に返済の意思を見せるなどしてしまうと無効だと主張できなくなってしまうリスクもあります。何か行動を起こす前に、すぐに弁護士に相談したほうがよいでしょう。
8. まとめ 配偶者のギャンブル依存が原因で離婚を考えている場合は弁護士に相談を
ギャンブル依存がある配偶者との離婚を考えたとしても、話し合いがなかなか難しく、合意に至らないケースも多くあります。
そのような場合は裁判所の手続きを利用したり、弁護士に依頼したりして、第三者を入れた話し合いや手続きを進める必要があります。ギャンブル依存を原因とする問題が法定離婚理由にあたるのかどうかに加え、離婚の条件について検討することも必要です。
ギャンブル依存症の配偶者との離婚を考えている場合は、まずは一度弁護士に相談することをお勧めします。
(記事は2025年7月1日時点の情報に基づいています)