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1. 離婚したら慰謝料は必ず支払うの?
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2. 慰謝料なしで離婚できるケース
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2-1. 性格の不一致
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2-2. 親族との不和
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2-3. 健康上の理由
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2-4. 宗教への信仰
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2-5. 家事育児に対する意見の相違
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3. 慰謝料なしにはなりにくい離婚理由
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3-1. 不貞行為
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3-2. DVやモラハラ
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3-3. 悪意の遺棄
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3-4. 一方的なセックスレス
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4. 慰謝料が発生する離婚理由でも支払いを免れるケースは?
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4-1. 相手が慰謝料を請求しなかった
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4-2. お互いに離婚原因の責任がある
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4-3. 証拠がない
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4-4. 時効を迎えている
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4-5. すでに夫婦関係が破綻していた
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5. 慰謝料なしで離婚する際の注意点
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6. 離婚で慰謝料を請求されたときの対処法
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6-1. 慰謝料を支払うべきケースか確認する
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6-2. 請求された金額が妥当か確認する
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6-3. 払えない場合は減額や分割払いの交渉をする
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6-4. 弁護士に相談する
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7. 慰謝料なしでも済むケースでも、あえて慰謝料を払った方がよいケースはある
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8. 慰謝料なしの離婚でよくある質問
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9. まとめ 不法行為がなければ基本的に慰謝料は発生しない
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1. 離婚したら慰謝料は必ず支払うの?
「離婚したら慰謝料は必ず払わないといけない」と思っている人がいますが、そうではありません。慰謝料は、不法行為にともなう精神的苦痛への損害賠償です。具体的には、不貞行為、DV、モラハラ、悪意の遺棄、一方的なセックスレスなどがなければ、慰謝料を請求されることはありません。慰謝料請求されたとしても、支払う必要はないので拒否できます。
2. 慰謝料なしで離婚できるケース
慰謝料を払わずに離婚できるケースは以下の通りです。
性格の不一致
親族との不和
健康上の理由
宗教への信仰
家事育児に対する意見の相違
いずれも不法行為とはいえないためです。ただし、離婚は夫婦が合意し、離婚届を提出しさえすれば可能です。
2-1. 性格の不一致
離婚の理由で特に多いのが「性格の不一致」です。前提として、お互いの意思で結婚相手を選んでおり、性格が合わないのはどちらの責任でもありません。よって、不法行為とはならず、どちらか一方が慰謝料を支払う必要はありません。
2-2. 親族との不和
相手方の親族との不和による離婚も時々耳にします。例えば、以下のようなケースがあります。
・過干渉や過度の支配
・同居のストレス
・宗教的な価値観の違い
・経済的な問題、お金の無心
・教育に関する価値観の押し付け
相手方の親族との不和が原因で離婚になったとしても、配偶者本人には責任がないため、慰謝料発生の余地はありません。
2-3. 健康上の理由
どちらか一方の健康上の問題で離婚にいたることもあります。例えば、以下のようなケースです。
・うつ病になり、夫婦生活を送るのが困難になる
・脳梗塞により、意思疎通が困難になる
・交通事故により、半身不随になる
健康上の理由の場合、どちらにも落ち度がないため、不法行為が成立しません。よって、慰謝料も発生しないことになります。
2-4. 宗教への信仰
宗教上の理由で離婚にいたることもまれにあります。これには、配偶者の親が絡んでくるケースも多いです。
私が相談を受けたケースを紹介します。某宗教に配偶者とその母親が熱中しており、特定の日に出かけることがありました。クライアントは、その宗教に入っているわけでもないので、送迎をするか、家で留守番をしていました。その宗教に勧誘されることはなかったようですが、家族で宗教に熱中していることに耐えられないようでした。その宗教に入っていないため、相手の両親から反古にされることもあったようです。家庭内DVのような事実を主張したりもしましたが、証拠がないため認められませんでした。最後には、合意が成立し、無事に離婚となりましたが、慰謝料はもらっていません。
特定の宗教を信仰していることを理由とする離婚では、慰謝料請求はまず認められません。個人には信仰の自由があるからです。法が関与する余地もないでしょう。
2-5. 家事育児に対する意見の相違
家事育児に対する意見の相違で相談を受けることもよくあります。例えば以下のようなケースです。
・家事の分担に関する不公平感
・育児に対する責任の押し付け
・育児方針や価値観の違い
・仕事と家事・育児のバランスに関する不一致
夫婦には様々な価値観や在り方が存在するため、どちらか一方に非があるとは言い難いのが実情です。よって、離婚時に慰謝料が発生する可能性も低いでしょう。
3. 慰謝料なしにはなりにくい離婚理由
ここまで、慰謝料が発生しない離婚事由について、説明してきました。次は、慰謝料が発生する可能性がある離婚理由について解説します。
3-1. 不貞行為
不貞行為とは、配偶者以外の人と性的関係を持つことです。不貞行為は、夫婦間の貞操義務違反で不法行為となります。不法行為として認められるには「不貞行為が発覚する前は、夫婦関係が破綻していなかったこと」が必要です。
不貞行為発覚前から夫婦関係が破綻している場合、守るべき貞操がありませんので、不貞行為が成立しません。夫婦関係が破綻している例としては、「別居が長期間に及び、夫婦としての機能が働いていない状態など」を指します。
不法行為が成立する以上、民法709条に基づき、不倫した本人とその相手は共同不法行為(民法719条)の責任を負います。不貞の事実で慰謝料を請求するには、相手が否定しても弁解できない確固たる証拠を提出することが重要です。
3-2. DVやモラハラ
DVやモラハラも慰謝料請求になることがあります。DVやモラハラには、生活費を出さないなどの「経済的DV」、暴言や脅しなどの「精神的DV」、暴力などの「身体的DV」といった種類があります。
この中で、一番認められやすいのは、身体的DVです。診断書やケガの写真により、立証が可能です。精神的DVの場合、SNSやLINEのやり取り、録音がなければ立証できません。経済的DVは、「生活費をもらっていない」というだけでは難しい現状があります。
身体的DVは暴行罪や傷害罪に該当する犯罪なので、警察に被害届を提出すると、配偶者は逮捕されることが多いです。その場合、弁護士を雇い離婚と慰謝料の支払いを条件に、釈放されることがあります。
3-3. 悪意の遺棄
悪意の遺棄は、配偶者を残して別居するなど、夫婦としての義務を果たさないことです。このような事実が認められたことは、私の経験上はありません。しかし、法律に記載がされており、過去に認められたこともあるので、不法行為が成立することは明らかです。
もっとも、経済的DVと似た側面があるのでそちらに該当することもあるのではないかと思います。事例が少ないので、悪意の遺棄にあたるとしての慰謝料請求は難しいと思っておいてください。
3-4. 一方的なセックスレス
セックスレスが原因による離婚でも、慰謝料が発生することがあります。今や社会的問題であり、数年間のセックスレスは、珍しくありません。数年程度では、慰謝料請求は認められない可能性が高いと考えましょう。
セックス自体は、双方の合意によりされるものなので一方がセックスをしたいと思っても、相手の都合を聞く必要もあります。非常に繊細な問題ですが、過去に裁判例でセックスレスが認められ離婚になった事例はあります。
私の担当した案件で、婚姻後一度も性交渉がない案件ですが、慰謝料請求は認められませんでした。婚姻期間が半年程度であったことも大きかったと思われます。
4. 慰謝料が発生する離婚理由でも支払いを免れるケースは?
次に、慰謝料が発生する離婚事由でも、支払いを免れるケースについて解説します。「慰謝料を請求されるかも」と不安になっている人は参考にして下さい。
4-1. 相手が慰謝料を請求しなかった
権利は相手が請求しないと意味がないので、慰謝料の請求を受けない限りは、支払いを免れることができます。
4-2. お互いに離婚原因の責任がある
お互い、何らかの不法行為が成立する場合があります。よくある例は、ダブル不倫です。この場合、お互いが不貞の慰謝料を請求し合うことになるので、その額は同額です。例えば150万円をお互い請求しても、双方の経済状況は何も変わらないので、支払いには至りません。
ただし、一方だけが不倫の証拠をつかんでいる場合は別なので、このような場合は注意が必要です。
4-3. 証拠がない
慰謝料請求可能な証拠がなければ、調停や裁判になっても、支払いが発生することはありません。
相手がこちらに対して、証拠がないのに慰謝料請求をしてくることもあります。身に覚えがある場合、相手が証拠をつかんでいると誤解してしまうことがあるので、一度落ち着いてください。
このような場合、代理人がついていれば、証拠を出すよう要求します。証拠が出てこなければ、強気な対応を取ることもあります。相手としても、証拠がないのであれば、低額での和解を呑まざるを得ない状況になります。
4-4. 時効を迎えている
不貞行為に対する慰謝料請求は、「不倫相手が誰かを認識し、慰謝料を請求できるようになった日から3年」が期限です。それ以降は時効となり、請求する権利を失います。不貞期間が長い場合、最後の行為から3年なので、誤解しないようにしましょう。
つまり、昔の不倫であれば時効を理由に支払いを拒否することも可能です。
4-5. すでに夫婦関係が破綻していた
不貞行為が発覚する前から夫婦関係が破綻していた場合、不貞に対する慰謝料は請求できません。
しかしDVの場合、夫婦関係とは関係なく違法行為であり慰謝料請求可能なので、覚えておきましょう。
5. 慰謝料なしで離婚する際の注意点
慰謝料なしで離婚する際の注意点は「後から請求されないようにすること」です。例えば、自分の不貞行為が原因で離婚する場合、配偶者には慰謝料を請求する権利があります。離婚後に気が変わって慰謝料を請求されることのないように、離婚協議書や公正証書などの法的文書を作成し、慰謝料に関する取り決めを明確にしておきましょう。配偶者が慰謝料の請求権を放棄したことや、すべての権利が清算されたことを示す証拠を残しておくことも有効です。
6. 離婚で慰謝料を請求されたときの対処法
離婚で慰謝料を請求されたときの対処法を紹介します。まだ支払わなければならないと確定したわけではないので、落ち着いて対処しましょう。
6-1. 慰謝料を支払うべきケースか確認する
本当に慰謝料を支払わなければならないのか、以下の点を確認しましょう。
・相手の慰謝料請求が法律上認められるものか
・相手の請求に沿う証拠があるかどうか
・すでに時効を迎えていないかどうか
・離婚時になんらかの合意をしていないかどうか(離婚済みの場合)
これらを確認した上で、慰謝料を払う必要がないと判断した場合には、その旨を相手方に伝えましょう。
6-2. 請求された金額が妥当か確認する
次に、請求された金額が、慰謝料発生行為の相場として妥当かどうか検討します。自分の不法行為が原因で離婚にいたってしまった場合、慰謝料の相場は150~300万円です。
離婚にいたらなかった場合にはその半額程度になりますが、相場より高い慰謝料を請求された場合には、反論したり、減額交渉をすべきでしょう。
6-3. 払えない場合は減額や分割払いの交渉をする
基本的に一括での支払いになりますが、交渉により、分割も可能です。頭金として、50%程度を入れるよう言われることもあるので、ある程度のお金は準備しておいてください。
また減額は、不貞であれば元配偶者ではなく、不貞の相手方を巻き込むことで、金額を下げることが可能です。例えば、男性の場合、不貞相手(女性)の慰謝料も負担することになる場合がありますが、そこを分担できないか交渉するといった具合です。
6-4. 弁護士に相談する
最終的な判断は、自分で行わずに弁護士に相談することをおすすめします。慰謝料の支払いの必要性や、金額の妥当性を自分で判断するのは難しいからです。また、分割交渉は、代理人として弁護士がつかないと、信用性がないと判断されやすくなります。
離婚条件や慰謝料の交渉も任せることができるので、ベストな判断、行動を取りたい人は弁護士に相談しましょう。
7. 慰謝料なしでも済むケースでも、あえて慰謝料を払った方がよいケースはある
これまで解説したように、配偶者への不法行為がなければ、離婚時に慰謝料は発生しません。ただし、離婚に応じてもらうための手段としてお金(慰謝料)をあえて払うこともあります。
例えば、「性格の不一致」が離婚理由の場合、強制的に離婚を成立させられる離婚裁判では離婚理由として認められません。そのため、離婚するには、協議や調停で配偶者から合意を得るしかありませんが、相手が頑なに離婚に応じないこともあります。このような状況で、慰謝料は相手に離婚に合意してもらうための交渉のカードとなりえます。
8. 慰謝料なしの離婚でよくある質問
9. まとめ 不法行為がなければ基本的に慰謝料は発生しない
基本的に、記事内で紹介した不法行為がなければ、離婚時に慰謝料は発生しません。支払いを求められた場合は、拒否するようにしましょう。
離婚の原因が単なる性格の不一致や、義両親との不和である場合でも、まず慰謝料は発生しません。
ただし、こちらから離婚を求める場合、これといった理由がないと、相手方が離婚に応じてくれない可能性があります。そのようなケースでは、離婚に応じてもらうための手段としてお金(慰謝料)を支払うこともあります。
何かしらのケースで慰謝料を請求された場合、すぐに支払うのではなく、本当に払う義務があるのか、不法行為の証拠はあるか、金額は妥当かなどをよく検討すべきです。離婚や慰謝料問題でお悩みの人は弁護士に相談しましょう。相談に乗ってもらえるだけでなく、離婚条件や慰謝料の交渉などもトータルでサポートしてもらえます。
(記事は2025年4月1日時点の情報に基づいています)