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1. 養育費の支払いは義務?
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2. 養育費の支払い義務がある期間
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3. 養育費の支払い義務がない(なくなる)ケース
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3-1. 権利者が再婚し、子どもが再婚相手と養子縁組した場合
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3-2. 義務者に著しい経済状況の変化があった場合
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3-3. 義務者が死亡した場合
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3-4. 子どもが経済的に自立した場合
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4. 養育費はいくら支払う義務がある?
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4-1. 養育費の金額の決め方
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5. 養育費の支払い義務における6つの注意点
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5-1. 離婚協議書を公正証書にしておかないとトラブルにつながることがある
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5-2. 養育費に贈与税がかかる場合がある
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5-3. 養育費の支払いが滞ると強制執行を受けることがある
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5-4. 情報開示の拒否や虚偽報告は刑事罰にもなる
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5-5. 親が肩代わりしなければならない可能性が生じる
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5-6. 子どもから扶養料を請求される場合がある
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6. 養育費の取り決めも法律上の義務?
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7. 2026年5月までに導入|共同親権制度が養育費の支払い義務に与える影響は?
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8. 養育費の支払いで困りごとがあれば弁護士に相談を
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9. 養育費の支払い義務に関してよくある質問
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10. まとめ 養育費の支払いは親の義務
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1. 養育費の支払いは義務?
養育費とは、社会的・経済的に自立していない未成熟子の監護・教育のための費用で、子どもを養育していない方の親から養育している方の親へと支払われます。養育費の支払いは、民法において定められている義務です。
離婚時には「子の監護について必要な事項」を協議にて定めることになりますが、民法766条では、その具体例として「子の監護に要する費用の分担」(養育費)が明示されています。
民法766条
1.父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2.前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3.家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4.(略)
この条文を根拠として、親権者(監護親)は他方の親に対して養育費を請求します。
また、そもそもの養育費の根拠としては、民法877条1項が定める親族間の扶養義務が挙げられます。
民法877条1項
直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
親には子どもに対する扶養義務があり、この義務は離婚をして子どもと離れて暮らしているからといってなくなるものではありません。
また、扶養義務の中には、自分と同程度の生活をさせる義務である生活保持義務というものがあり、養育費はこれに基づくものと考えられています。
したがって、離婚した際には、子どもへの養育費の支払いを親の義務として果たさなければいけません。
2. 養育費の支払い義務がある期間
養育費の支払い義務は、原則として離婚時に父母間で取り決めた期間に発生します。
子どもが未成熟子を脱し、社会的・経済的に自立するまで養育費は支払われるため、一般的には、「満20歳に達する日まで」や、大学卒業までを想定した「22歳に達した後初めて到来する3月まで」を養育費の支払い期間とするケースが多いです。
ただし、「満20歳に達する日まで」としていた場合であっても、子どもが高校卒業後に大学に進学した場合や、心身に障がいがあって就労が難しいようなときには、満20歳に達したあとでも養育費を支払うケースもあります。
なお、2022年4月1日施行の改正民法により、成年年齢が18歳に引き下げられました。しかし、法務省の見解によると、成年年齢の引き下げによって、養育費の支払い期間が当然に「18歳に達するまで」となるわけではないとされています。
3. 養育費の支払い義務がない(なくなる)ケース
原則として離婚時に父母間で取り決めた期間は養育費を支払う義務がありますが、場合によっては養育費の支払い義務がなくなるケースがあります。
ここでは、どのような場合に支払い義務がなくなるかについて説明します。
3-1. 権利者が再婚し、子どもが再婚相手と養子縁組した場合
権利者(養育費を受け取る側)が再婚し、子どもが再婚相手と養子縁組した場合、養育費の支払い義務がなくなる可能性があります。
これは、子どもが再婚相手と養子縁組することによって、再婚相手が第一次的に子どもに対して扶養義務を負うことになるためです。
ただし、再婚相手に収入がないなど子どもを扶養するだけの経済力がない場合は、実親に養育費の支払い義務が残ります。
3-2. 義務者に著しい経済状況の変化があった場合
義務者(養育費を支払う側)がリストラや病気などにより、大きく収入が減少するといった著しい経済状況の変化があった場合、養育費の減額や免除が認められる可能性があります。
ただし、自己都合での転職、ギャンブルでの浪費、働ける状況にあるにも関わらず働かない場合などは、養育費の減額や免除は認められないでしょう。
3-3. 義務者が死亡した場合
義務者(養育費を支払う側)が死亡した場合、養育費支払い義務はなくなります。
これは、養育費の支払い義務は、子どもとの親子間関係から発生する一身専属的な義務(他の者に帰属しない義務)のためです。
ただし、死亡する前の未払いの養育費については、一般的な金銭債権と同様に相続の対象となるので注意が必要です。
3-4. 子どもが経済的に自立した場合
子どもが経済的に自立した場合、養育費の支払い義務がなくなる可能性があります。
養育費とはそもそも、社会的・経済的に自立していない未成熟子の監護・教育のための費用ですので、子どもが経済的に自立した場合は未成熟子とはいえなくなります。
そのため、合意で取り決めた養育費の支払い期間中に子どもが経済的に自立した場合は、事情の変更があったとして、養育費の支払い義務がなくなる可能性があります。

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4. 養育費はいくら支払う義務がある?
原則として、養育費は夫婦間で合意した金額を支払う必要があります。
しかし、各家庭で夫婦の年収、子どもの人数、子どもの年齢など、事情は異なるため、養育費をいくら支払うかはケースバイケースとなります。
4-1. 養育費の金額の決め方
養育費の金額は、まずは夫婦間で話し合うことから始めます。
話し合いでまとまれば、その金額を毎月支払っていくことになりますが、養育費の支払い期間は長期に及ぶ場合が多いため、現実的な金額で合意することが必要です。
その際に目安となるのが、家庭裁判所が公表している「養育費算定表」です。
養育費算定表を用いれば、「夫婦それぞれの収入」「子どもの人数」「子どもの年齢」から、養育費の金額の目安を算出することができます。
あくまでも目安であって、必ずこの金額に従わなければならないというわけではありませんが、交渉の際の参考となるでしょう。
話し合いでまとまらない場合は、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てて、調停委員を交えた話し合いで決めることになります。
さらに、調停でもまとまらないときは養育費請求審判に移行し、家庭裁判所の裁判官が審判という形で養育費の金額を決めます。
養育費請求調停や養育費請求審判においても、養育費の金額を決定する際には「養育費算定表」を基準とすることが一般的です。
5. 養育費の支払い義務における6つの注意点
養育費の支払いは義務であるため、離婚時には養育費について取り決めを行うことになります。
この際、さまざまなことに注意をしないと、後々トラブルとなってしまう可能性があります。
ここでは、養育費を取り決める際に注意しておくべき点を6つ解説します。
5-1. 離婚協議書を公正証書にしておかないとトラブルにつながることがある
協議離婚をする場合、親権者の指定や、養育費の金額・期間、面会交流などの内容を取り決めた「離婚協議書」を作成することが一般的です。
「離婚協議書」も契約の一種であるため、双方が離婚契約書の内容を守る必要がありますが、さまざまなトラブルに備えて公正証書にしておくことをおすすめします。
公正証書にしておけば、原本は公証役場で保管されるため、紛失・改ざんの恐れがありません。
なお、「強制執行認諾文言」を記載した公正証書にすると、養育費の支払いが滞った場合に、裁判をしなくとも支払い義務者の財産を差し押さえる(強制執行)ことが可能になります。
5-2. 養育費に贈与税がかかる場合がある
養育費は子どもの生活費または教育費として支払われるので、原則として贈与税の課税対象にはなりません。しかし、例外的に課税対象となる場合があります。
たとえば、養育費を一括で受け取った場合や、養育費が高額にすぎる場合などは、生活費または教育費として通常必要になるものと認められず、養育費に贈与税が課されてしまう可能性があるので、注意が必要です。
また、養育費を受け取った親が、養育費を子どもの生活費や教育費以外の目的で使ってしまった場合も、同様の理由で贈与税がかかる可能性があります。
5-3. 養育費の支払いが滞ると強制執行を受けることがある
養育費の支払いが滞った場合は、強制執行を受けることがあります。
強制執行認諾文言付きの公正証書で離婚協議書を作成した場合や、調停によって作成された調停調書や審判による審判書、判決書がある場合、養育費を請求する側は裁判所に強制執行を申し立てることができます。
申立が裁判所に受理された場合、養育費の支払義務者の給与や預貯金などが差し押さえられます。なお、養育費の回収を目的とした差し押さえに関しては、給与の1/2まで差し押さえが可能となっているので、養育費の滞納には気をつけましょう。
5-4. 情報開示の拒否や虚偽報告は刑事罰にもなる
養育費の支払いの遅れを理由に強制執行を申し立てるには、どの財産を差し押さえるのかを特定しなければなりません。そのため、債務者である養育費の支払い義務者の財産を調査するため、「財産開示手続」が行われることがあります。
「財産開示手続」では養育費の支払い義務者が裁判所に出向き、自身の財産について陳述します。
養育費の支払い義務者が出頭を拒否した場合や、虚偽の内容を述べた場合、「6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金刑」に処される可能性があります。
5-5. 親が肩代わりしなければならない可能性が生じる
養育費とは親の子どもに対する扶養義務に基づくものであるため、原則として支払い義務者の親(子どもから見た場合の祖父母)に養育費の支払い義務はありません。
しかし、支払い義務者の親が養育費について連帯保証人となっている場合においては、連帯保証人である親が支払い義務者に代わり養育費を支払わなければなりません。
また、支払い義務者の親が経済的に裕福である場合、親族間の生活扶助義務(民法877条)を根拠として、祖父母が孫の生活費を支払わなければならない場合もあります。
5-6. 子どもから扶養料を請求される場合がある
上述したように、親族間には生活扶助義務があります。
子どもが成人した後であっても、大学への進学などで、子どもが子ども自身の収入では生活できないような場合、養育費の支払い義務者は子どもから扶養料の請求を受ける可能性があります。
私立医学部に進学した長男から、父に対して、医学部学費等を扶養料として支払うことを求めた事案では、父は、扶養料としてすでに合意された養育費のほか、長男に一定の教育費の負担をすべき義務を負っていると判断されました(京都家裁福知山支部平成29年9月4日)。
6. 養育費の取り決めも法律上の義務?
民法766条では、父母が離婚をするときは「子の監護について必要な事項」として面会交流と養育費の分担を取り決めるとされています。
養育費の支払い自体は法律上の義務ですが、現在、取り決め自体が義務化されているわけではありません。厚生労働省の「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査」によれば、養育費の取り決めをしているという家庭は母子家庭で46.7%、父子家庭で28.3%にとどまっています(いずれも推計値)。
しかし、2020年4月の改正民事執行法の施行によって、支払われない養育費の請求が容易になるなど、国も対策を進めています。
こういった事情から、養育費の取り決めが義務化される可能性も今後あり得ると考えられます。
7. 2026年5月までに導入|共同親権制度が養育費の支払い義務に与える影響は?
共同親権制度とは、2024年5月に成立した改正民法のもと、2026年5月24日までには開始される見込みのある制度です。共同親権が選択されると父母の双方が離婚後も子どもの親権を持つことになります。
ただ、共同親権となった場合であっても、養育費の支払い義務が生じることに変わりはありません。
そもそも共同親権導入の一端となったのは、単独親権によって、子どもと同居していない親が子どもとの交流が減ることによって、養育費の不払いにつながっているという指摘があったためです。
共同親権の導入によって、面会交流の実施の促進や、養育費の不払いの減少が期待されています。
また、2024年の改正民法では、養育費の取り決めをせずに離婚した場合であっても、子どもと一緒に暮らす同居親が、離婚後の一定期間は、法律で定められた養育費の金額を、一緒に暮らしていない非同居親に対して請求できる制度を導入することになりました(法定養育費制度)。
法定養育費制度の導入によって、養育費の支払い義務がより明確になったと言えるかもしれません。
8. 養育費の支払いで困りごとがあれば弁護士に相談を
親には子どもに対する扶養義務があり、子どもが未成熟子の間は、自身と同程度の生活を子どもにさせる義務があります。そのため、子どもに対して養育費を支払うことは親としての義務になります。
離婚時に養育費を決める際に養育費の額や期間などで揉めることも多いですが、弁護士に相談すれば、将来起こりうるリスクを想定して適切な養育費の条件のアドバイスを受けることができます。
また、養育費の支払いを一度取り決めていても、支払側・受け取る側双方の事情によっては、支払いの免除や減額が認められる可能性があります。
養育費を未払いのまま放置してしまうと強制執行による差し押さえを受けるなどのリスクもあるため、支払う側にとっては特に注意が必要となります。弁護士に相談すれば、養育費の支払いの免除や減額の可能性についてアドバイスをもらうことができますので、一度相談してみることをおすすめします。

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9. 養育費の支払い義務に関してよくある質問
養育費の支払いには基本的に5年という時効があり、援用すれば支払い義務が消滅します。ただし、その間に養育費を受け取る側は裁判所に強制執行を申し立てることができますので、”逃げ得”にはなりません。
強制執行には債務名義が必要となりますが、強制執行が認められれば、給与や預貯金の差し押さえとなります。また、子どもから扶養料の請求が行われることもあります。
養育費の支払い義務者の親(子どもから見た祖父母)には、原則として養育費の支払い義務はないため、財産を差し押さえることはできません。
しかし、養育費の支払う側の親が養育費について連帯保証人となっている場合は、養育費を受け取る側が養育費を相手の親に支払うよう求めたり、財産を差し押さえたりすることが可能となります。
養育費を受け取る側の祖父母が孫を引き取って育てているケースは珍しくありませんが、原則として祖父母は孫の親権者や監護者となることはできません。
養育費は子どもを監護している親がもう一方の親から受け取るものですので、監護者となれない祖父母は孫と養子縁組をして親権者となるか、未成年後見人に就任しない限り養育費を請求する法的権限がありません。
孫の生活や監護に費やした費用を、任意に支払ってくれるよう実親と交渉することになるものと考えられます。
養育費は子どもの監護・教育のための費用であり、本来は養育費を受け取る側が自身のために使用することは想定されていません。
十分な養育費を支払っているのにも関わらず、子どもが食事を与えられていなかったり、衣服がボロボロであったりなど、養育費が子どものために使われていない客観的な証拠があれば、養育費の減額請求や親権者変更などの手続きを取ることも考えられます。
10. まとめ 養育費の支払いは親の義務
親権を獲得することができなかった場合でも、離婚後も子どもの親であることには変わりなく、養育費の支払いは親としての当然の義務となります。
養育費の未払いは子どもの成長にとっても不利益ですし、支払い義務者の場合は財産を差し押さえられる可能性もあります。
養育費の支払いで困っていることがあれば、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
(記事は2025年7月1日時点の情報に基づいています)