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1. 婚約破棄とは
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1-1. 相手の合意なく婚約を破棄すること
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1-2. 離婚や婚約解消との違い
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2. 婚約破棄で慰謝料は請求できる?
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2-1. 不当な理由であれば慰謝料を請求できる
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2-2. 婚約破棄の慰謝料の相場
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3. 婚約破棄の正当な理由と不当な理由とは
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3-1. 慰謝料が請求できない「正当な理由」
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3-2. 慰謝料が請求できる「不当な理由」
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4. 慰謝料を請求するために必要な証拠
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5. 慰謝料以外に婚約破棄で請求できるお金は?
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6. 婚約破棄で慰謝料を請求するためのポイント
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6-1. 感情的にならず冷静に話し合う
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6-2. 請求できるものを把握しておく
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6-3. なるべく多く証拠を確保しておく
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6-4. 相場を超えるような無理な要求はしない
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6-5. 時効に気を付ける
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6-6. 弁護士に相談する
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7. 婚約破棄でよくある質問
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7-1. 結婚に備えて仕事を辞めた場合、もらえるお金は増える?
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7-2. 病気を理由に婚約破棄はできる?
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7-3. マリッジブルーの婚約破棄で慰謝料は発生する?
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8. まとめ 婚約破棄に伴う慰謝料請求は弁護士に相談を
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1. 婚約破棄とは
1-1. 相手の合意なく婚約を破棄すること
そもそも婚約とは、将来結婚する約束のことで、一種の契約とみなされます。婚約をすると、お互いに約束を守る法的責任が発生します。
婚約破棄とは、婚約が成立したといえる段階で、相手の合意なく結婚を取りやめることです。婚約破棄が認められるには、婚約が成立している必要があります。
単に「結婚しよう」と言葉を交わし合っただけで、法的に婚約と認められるわけではありません。第三者から見ても婚約が成立していることが分かるような事実や、約束が破られた時に相手に損害が発生するといえるような状況でなければ婚約と認められない可能性があります。
例えば、裁判では、以下のような事情を考慮して判断されます。
知り合った経緯
性交渉や妊娠・中絶などがあったか
プロポーズがあったか
指輪・結納・結婚式・新婚旅行について話し合い、実際に進めていたか
お互いの親と会ったか、双方の家族との顔合わせや結婚報告をしていたか
友人や職場にも結婚の予定を報告していたか、相手も報告に了承していたか
結婚に備えて仕事を辞めたり引っ越したりしたか
婚姻届の準備や入籍の要否、時期などに関する話し合いをしたか など
こうした事実関係を総合して婚約が成立したといえる段階で、相手の合意なく結婚を取りやめるなら、婚約破棄となります。
1-2. 離婚や婚約解消との違い
婚約破棄と離婚、結婚解消の違いを下表にまとめました。
婚約破棄 | 離婚 | 婚約解消 | |
---|---|---|---|
タイミング | 結婚前 | 結婚後 | 結婚前 |
合意の有無 | なし | なくても 裁判で離婚が 決定することがある | あり |
慰謝料や 損害に対する 賠償請求 | 可能 | 不法行為があれば 請求可 | 双方で費用を 負担していれば 分担する |
離婚は婚姻関係に入った後に別れること、婚約破棄は婚約後・婚姻関係に入る前に別れることです。内縁関係の場合はこの区別が難しいこともありますが、すでに夫婦として暮らす合意や実態があるかどうかによって判断することになるでしょう。
また、2人の合意によって結婚を取りやめる場合は婚約解消、合意なく一方の意思で結婚を取りやめる場合が婚約破棄として区別されます。合意による婚約解消であればお互いに慰謝料は請求できないのが原則ですが、すでに支出した費用などがあるなら分担すべきことも多いでしょう。
2. 婚約破棄で慰謝料は請求できる?
不当な理由による婚約破棄であれば、慰謝料の請求が可能です。慰謝料が請求できる婚約破棄の「理由」や慰謝料の相場を紹介します。
2-1. 不当な理由であれば慰謝料を請求できる
婚約後に結婚に至らなかった原因が主に相手にあることが明らかで、その理由も身勝手で正当化できないといえる場合、精神的苦痛による慰謝料を請求できます。
逆に、婚約破棄に正当な理由があるとされれば、慰謝料は認められません。どのような理由であれば「正当」・「不当」とされるのかは後述します。
2-2. 婚約破棄の慰謝料の相場
婚約破棄による慰謝料は、裁判で認められた場合数十万円から100万円(主に50万円前後)にとどまることが多いです。破棄の経緯が悪質である、または損害の程度が大きいとみられる場合でも100~200万円、どれほど多くても300万円未満となることがほとんどです。
慰謝料の金額は、以下のような要素が考慮されます。
婚約破棄に至る経緯、破棄の原因
妊娠・出産・中絶の有無、相手の合意があったかどうか
交際期間の長短、同居の有無
婚約を周囲に知らせていたかどうか
婚約や妊娠・出産などを理由とした退職・転居などの有無、それらが相手の希望によるものだったか
婚約破棄までに支出した費用の有無や多寡
婚約破棄により転居などの生活の大きな変化を余儀なくされたか
婚約破棄により心身の不調が発生して生活に影響が出ているか
破棄後の双方の対応
3. 婚約破棄の正当な理由と不当な理由とは
婚約破棄で慰謝料を請求する際は、婚約破棄が「不当な理由」でなければなりません。慰謝料請求ができない婚約破棄の「正当な理由」と請求ができる「不当な理由」について解説します。
3-1. 慰謝料が請求できない「正当な理由」
相手からの婚約破棄が正当とされる場合は、慰謝料の請求が認められません。例えば以下のような場合が考えられます。
自分が別の人と肉体関係を持っていた、または交際していた
自分が暴力・暴言などを重ねた
結婚相手として重視される要素について自分が嘘をついていた
こうした場合は、逆に相手から慰謝料請求をされる可能性もあります。
3-2. 慰謝料が請求できる「不当な理由」
一方で、以下のような事情を理由とする相手からの婚約破棄には、正当な理由がないとして慰謝料を課すことができる可能性があります。
単なる性格の不一致で別れたい
結婚を目前にして怖気づいた
相手本人ではなく相手の親族への不満がある
別の人と交際する目的で別れたい
相手の出生地や信条などに対する差別
ただし、例えば性格の不一致による場合でも、お互いに絶えず激しく罵り合っているなど、婚約の継続が困難な程度であると認められる時や、どちらからともなく気持ちが冷めて結婚に消極的となった時などは、慰謝料が認められないこともあります。
4. 慰謝料を請求するために必要な証拠
婚約破棄による慰謝料請求を検討する場合には、①婚約の事実があったことを示す証拠、②婚約破棄となった経緯がわかる証拠が必要です。
婚約を示す具体的な証拠としては、以下のものが挙げられます。
結婚について話したLINEなどのやり取り
ジュエリーショップや結婚式場などの予約履歴や見積書・領収書
新婚旅行のホテルや旅行の予約履歴や領収書
結婚に関するものを購入したクレジットカードの利用履歴
婚姻届のコピー
結婚を進めていたとわかる写真・録音・録画
こうした事実を示す証拠だけでなく、それを相手も知っていた、または相手が積極的に望んだことを示す証拠もあるとよいでしょう。
また、婚約に伴い実際に支出した費用や失った収入があるなら、後述するように慰謝料とは別の損害賠償として請求も可能です。
ただし、慰謝料に含めて考慮されることもあるので、金額を示す証拠(領収書、クレジットカード明細書、給与明細など)を準備してください。
次に、婚約破棄が不当であることを示すために、以下のような証拠を集めておきましょう。
破棄に至る経緯を示すLINEなどのやり取り
破棄に至る経緯を示す写真・録音・録画
第三者の証言
相手の婚約破棄により心身の不調を生じた場合は、医師の診断書
相手が浮気していた場合は、その証拠となる探偵の調査報告書や写真・録音・録画、LINEなどのやり取りを集めておきましょう。相手の暴力による婚約破棄であれば、怪我の診断書や写真、警察に相談した記録を残しておいてください。
客観的な証拠が乏しい場合でも、弊所では、当事者の緻密な陳述書を用意することにより慰謝料が認められた事案がありました。

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5. 慰謝料以外に婚約破棄で請求できるお金は?
婚約や婚約破棄に伴い、以下のような費用が発生した場合は、慰謝料とは別に損害賠償が認められることもあります。
指輪、結納、結婚式や新婚旅行の準備またはキャンセル料
新居の準備にかかった費用
妊娠・出産・中絶にかかった費用
相手の不倫調査などのために発生した費用
仕事を辞めて失った収入
相手との間に子どもがいる場合は養育費
婚約破棄を不法行為として裁判を起こす場合、弁護士費用の一部
ただし、仕事を辞めることなどは婚約に付き物とまではいえないことから、相手が強く希望して退職したとか、相手の求めがあって出産を選んで退職に至ったなど付加的な事情がない限りは、退職によって失った収入まで認められにくいです。また、婚約に基づき支出したとしても、不可欠とはいえない費用(例:結婚式に備えた美容代)や、その後も使える物(例:衣類、家具)の購入費などは、損害賠償が認められにくいと考えられます。
婚約破棄の原因が、浮気や暴力など、一方にあるといえるかどうかによっても、慰謝料以外の損害賠償の認められる範囲が異なると考えられます。
なお、裁判で慰謝料や損害賠償などを請求する場合は、法定利息をつけることがほとんどです。
6. 婚約破棄で慰謝料を請求するためのポイント
不当な理由により一方的に婚約破棄をされたのであれば、慰謝料を請求するのは当然の権利です。ただし、慰謝料を請求するには注意点があるため、そのポイントを解説します。
6-1. 感情的にならず冷静に話し合う
婚約破棄について慰謝料を請求する時は、まずは相手と話し合うことが望ましいといえます。慰謝料を請求するには、交渉のほか、裁判を申し立てる方法があります。しかし、裁判で認められる慰謝料は低額なうえ、そもそも婚約の事実や、婚約破棄の不当性が裁判で認められるとも限りません。いきなり裁判を起こしたり、感情を爆発させたりして相手の心を閉ざしてしまうよりも、冷静に話し合う方がお金の話もスムーズかもしれません。
話し合いの際は、以下の点を心がけましょう。
①暴言や脅し、ストーカーめいた言動などは避ける
②相手の親族・友人・会社などに不必要に言い触らさない
③お互いのため、話し合いを録音しておく
①や②の言動があると、後の裁判で不利になり、逆に訴えられるおそれもあります。相手が感情的になるタイプなら、二人きりにならず、人目のあるところで話すのがよいでしょう。
6-2. 請求できるものを把握しておく
相手に請求できる費用をあらかじめ把握しておきましょう。慰謝料のほか、指輪の購入費用、結納金、結婚式や新婚旅行のキャンセル料、結婚式の準備のために既に支出した衣装代や招待状印刷代や交通費、新居の契約金や家具類の購入費用など、まずは思い出せるだけリストアップしてみてください。
6-3. なるべく多く証拠を確保しておく
慰謝料を請求するなら、証拠が多いに越したことはありません。最初は交渉で話を進めるのがよいとは思いますが、相手が応じなければ、裁判に発展することも考えられます。裁判になった場合は、証拠がすべてです。スマホやPCに保存したデータが故障などでなくならないよう、コピーを作っておきましょう。領収書などの再発行や、医療記録や警察記録などが必要な場合は、保存期間が過ぎたと言われないよう、早めに申請をしておいてください。
6-4. 相場を超えるような無理な要求はしない
できるだけ多く請求したい気持ちになるものですが、無理な要求は避けましょう。相手との合意が成立しにくくなります。
また、請求額が法外であるなら、請求している側のほうが感情的で強硬な態度を取ったとみられ、後の裁判で不利になる可能性もあるからです。
6-5. 時効に気を付ける
婚約破棄で慰謝料を請求する場合の時効は、不法行為(相手の権利を侵害すること)か、債務不履行(契約を履行しないこと)か、どちらを理由に請求するかによって、以下のように異なります。
婚約破棄を 不法行為とする場合 | 3年 |
---|---|
婚約破棄を 債務不履行とする場合 | 5年 |
時効期間内であっても、婚約破棄から時間が経った請求となると、なぜ今ごろ請求してきたのかと疑問を持たれるばかりか、証拠や記憶も失われている可能性もあるので、早めの請求が望ましいといえます。
6-6. 弁護士に相談する
相手との話し合いの前に、婚約破棄に詳しい弁護士に相談して、認められそうな費目・金額をリストアップし、認められるために必要な証拠を確認しておくことが望ましいでしょう。相手との直接の話し合いが難航する場合や、直接話し合うのがつらい場合は、弁護士にその後の交渉を依頼することも可能です。弊所でも、相手に暴力的傾向がある場合や、自分名義の住宅に相手が居座っている場合など、自力での解決が難しい案件のご依頼をお受けすることがあります。
7. 婚約破棄でよくある質問
「結婚しよう」という言葉だけで婚約の成立が認められるわけではありません。一方、「プロポーズとその承諾」といえる明確な言葉が不可欠なわけでもありません。あくまでも、事情を総合考慮して婚約の成否が判断されます。
7-1. 結婚に備えて仕事を辞めた場合、もらえるお金は増える?
失った収入の賠償が必ず認められるわけではありませんが、相手の強い希望に基づき退職した場合や、相手の希望によって出産を選んで退職を余儀なくされた場合などに、相手の一方的な都合で婚約が破棄されたなら、失った収入の賠償を認める裁判例もあります。
7-2. 病気を理由に婚約破棄はできる?
病気の種類や、病気が発覚したのが婚約前か後かによっても異なるものと思われます。性的不能を隠していたり、意思疎通が困難となる程度の回復困難な重病にかかったりした場合などは婚約破棄もやむを得ないとみられるでしょう。
しかし、単なる病気だけを理由に婚約を破棄することが正当とは認められにくいかもしれません。
7-3. マリッジブルーの婚約破棄で慰謝料は発生する?
結婚を前にした人が恋人や結婚生活に不安を抱き気持ちが沈んでしまう、いわゆるマリッジブルーは婚約破棄の正当な理由とは認められないので、それだけで婚約を破棄するなら、慰謝料が発生する可能性が高いといえるでしょう。
8. まとめ 婚約破棄に伴う慰謝料請求は弁護士に相談を
婚約破棄は、成立している婚約を、一方的に取りやめることです。婚約破棄の理由が、正当な理由でなければ、受けた精神的な苦痛やこれまで結婚のために支出したお金を請求できます。
まずは相手と冷静に話し合う必要がありますが、直接対峙するのがつらい人もいるでしょう。そのような場合は、男女関係を扱う弁護士に相談や依頼をしてください。弁護士に相談をすることで、相手との話し合いを任せられます。相手が話し合いに応じない場合は、裁判を行う必要がありますが、裁判で慰謝料や損害賠償が認められるかどうかは様々で、かなり難しい判断が求められます。ぜひ、弁護士の助言を求めてから行動してください。
(記事は2025年6月1日時点の情報に基づいています)