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1. 審判離婚とは
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1-1. 審判離婚=「調停に代わる審判」によって成立する離婚
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1-2. 審判離婚以外の離婚の種類
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1-3. 審判離婚と裁判離婚の違い
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1-4. 審判離婚の効力
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2. 審判離婚の件数が増加中
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3. 審判離婚が成立することがあるケース
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3-1. 細かい部分を除き、離婚条件の大部分は合意できている場合
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3-2. 早急に離婚を成立させる必要がある場合
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3-3. 当事者が調停に参加できない事情がある場合
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3-4. 夫婦双方が審判を望んでいる場合
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4. 審判離婚が成立する場合の手続きの流れ
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4-1. 離婚調停の申立て
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4-2. 調停期日
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4-3. 調停不成立・調停に代わる審判
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4-4. 異議申立て(2週間以内)
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4-5. 審判の確定・離婚届の提出
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5. 審判離婚のメリット
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5-1. 裁判所の客観的かつ柔軟な判断を受けられる
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5-2. 審判が確定すれば、離婚訴訟の手間やコストが省ける
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5-3. 審判は非公開で行われるため、プライバシーが守られる
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5-4. 離婚条件について強制執行ができる
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6. 審判離婚のデメリット|異議申立てがなされると効力を失う
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7. 審判離婚を受け入れるべきかどうかの判断基準
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8. 審判離婚にかかる費用
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9. 審判離婚に関する質問
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10. まとめ 審判離婚は裁判をしなくても裁判官の決定を受けられる離婚方法
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1. 審判離婚とは
まずは、審判離婚の概要を理解しましょう。離婚調停が成立しなかった場合でも、家庭裁判所の判断によって審判離婚が成立することがあります。
1-1. 審判離婚=「調停に代わる審判」によって成立する離婚
離婚調停は、調停委員を介して離婚について話し合う家庭裁判所の手続きです。離婚の合意が得られることもありますが、夫婦の主張がかみ合わずに合意ができず、離婚調停が不成立となるケースもあります。
家庭裁判所は、離婚調停が成立しない場合において相当と認めるときは、職権で「調停に代わる審判」 をすることができます。
調停に代わる審判では、夫婦間で合意できていない離婚条件も含めて、家庭裁判所が判断した上で離婚を決定します。2週間以内に異議が申し立てられなければ審判が確定し、離婚が成立します。これを「審判離婚」と呼びます。調停でほとんどの条件で合意はできたものの、細かい部分で折り合いがつかない場合などに行われます 。
1-2. 審判離婚以外の離婚の種類
審判離婚以外の離婚の種類は、以下のとおりです。
【協議離婚】
夫婦間で合意した後、市区町村役場へ離婚届を提出することによって成立する離婚です。離婚件数全体の9割前後を占めています。
【調停離婚】
家庭裁判所の調停を通じて合意が得られた場合に成立する離婚です。
【判決離婚】
離婚訴訟の判決によって、強制的に成立する離婚です。
【和解離婚】
離婚訴訟において夫婦が和解した場合に成立する離婚です。
【認諾離婚】
離婚訴訟において、被告が原告の請求をすべて認めた場合に成立する離婚です。実務上はほとんど見られません。
1-3. 審判離婚と裁判離婚の違い
離婚の種類の一つとして、「裁判離婚」という分類が用いられることもあります。裁判離婚が意味するところの範囲は、用いる人によってさまざまです。審判離婚は、裁判離婚に含まれる場合と、そうでない場合があります。
最も広義の裁判離婚は、裁判手続きを通じた離婚全般を指します。この場合、審判離婚も裁判離婚の一種です。そのほか、調停離婚・判決離婚・和解離婚・認諾離婚が裁判離婚に含まれます。
他方で、離婚訴訟を通じた離婚(判決離婚・和解離婚・認諾離婚)のみを裁判離婚に含める場合や、判決離婚のみを裁判離婚と表現する場合もあります。これらの場合における裁判離婚は、審判離婚を含みません。
1-4. 審判離婚の効力
審判離婚は、調停に代わる審判が確定して初めて効力を生じます。
調停に代わる審判が確定するのは、両当事者が審判の告知を受けた日(=審判書の送達を受けた日)から2週間が経過し、かつ異議の申立てがなかったときです。適法な異議の申立てがあった場合には、調停に代わる審判が効力を失い、審判離婚は成立しません。
確定した調停に代わる審判は、裁判の確定判決と同一の効力 を有します。具体的には、審判の確定時をもって離婚が成立するほか、審判書に記載された義務が不履行となった場合は、裁判所に強制執行を申し立てることができます 。
2. 審判離婚の件数が増加中
近年では、審判離婚の件数が急速に増加しています。厚生労働省の「令和4年度 離婚に関する統計」によると、2012年までは、審判離婚は毎年100件未満で推移していました。しかし、2013年に初めて100件を超え、2018年には1000件を突破し、2020年には2229件 に及びました。これは離婚全体に対して1.2%を占める件数で、判決離婚(1740件)を上回っています 。
審判離婚が増加した背景には、2013年の家事事件手続法の施行や、家庭裁判所における運用の変化があると考えられます。現在では、審判離婚は離婚における有力な選択肢の一つであると認識すべき でしょう。
3. 審判離婚が成立することがあるケース
家庭裁判所が調停に代わる審判を行うのは、以下のようなケースです。
細かい部分を除き、離婚条件の大部分は合意できている場合
早急に離婚を成立させる必要がある場合
当事者が調停に参加できない事情がある場合
夫婦双方が審判を望んでいる場合
それぞれ詳しく説明します。
3-1. 細かい部分を除き、離婚条件の大部分は合意できている場合
離婚することや、離婚条件のほとんどについては夫婦間で合意できているものの、細かい部分で意見が食い違っていて決められないケースがあります。このような場合には、家庭裁判所の判断でもめている部分を決めてしまった方が合理的 なので、調停に代わる審判が行われることが多いです。
3-2. 早急に離婚を成立させる必要がある場合
離婚手続きが長引くと、養育費が支払われず子どもに不利益が及ぶなどの弊害が生じるおそれ があります。このように、何らかの事情で早急に離婚を成立させる必要がある場合は、離婚訴訟を避けるよう当事者に促した上で、家庭裁判所が調停に代わる審判を行うことがあります。
3-3. 当事者が調停に参加できない事情がある場合
いずれかの当事者が病気などによって調停に参加できない場合は、話し合いによる合意が得られません。このような場合には、家庭裁判所が調停に代わる審判によって一応の結論を示し、異議を申し立てて離婚訴訟に移行するかどうかを当事者に委ねる ことがあります。
3-4. 夫婦双方が審判を望んでいる場合
離婚条件についての合意は得られないものの、夫婦双方が離婚訴訟を望まず、審判によって家庭裁判所に離婚条件を決めてほしいと考えているケース があります。この場合は、当事者の意向に沿った方が早期解決に繋がります。調停の過程で十分な資料が提出されていれば、家庭裁判所が調停に代わる審判を行うことが多いです。
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4. 審判離婚が成立する場合の手続きの流れ
審判離婚が成立するまでの流れを、調停の段階から順を追って説明します。最初から審判離婚が成立することはないため、まずは離婚調停を申し立てることから始めましょう。
4-1. 離婚調停の申立て
まずは、相手方の住所地の家庭裁判所に離婚調停を申し立てましょう。申立てに必要な書類などについては、裁判所のウェブサイトをご参照ください。
4-2. 調停期日
離婚調停の申立てを受理した家庭裁判所は、調停期日を指定して当事者に通知します。通知された期日に家庭裁判所へ行き、調停に出席しましょう。
調停期日では、夫婦双方が順番に調停委員と面談して、離婚することや離婚条件に関する意見を伝えます 。調停委員は夫婦の間に入り、歩み寄りを促すなどして合意形成をサポートします。調停期日は、合意成立の見込みがあるうちは、複数回にわたって繰り返されます。
4-3. 調停不成立・調停に代わる審判
調停期日において合意が得られれば調停離婚が成立しますが、合意が得られない場合は調停不成立 となります。調停不成立の場合において、家庭裁判所が相当と認めるときは、職権で調停に代わる審判を行います 。調停に代わる審判では、離婚を成立させる旨と併せて離婚条件に関する結論も示されます。
なお、調停に代わる審判を行うかどうかは、あくまでも家庭裁判所が判断する職権事項です。当事者の希望にかかわらず、調停に代わる審判が行われないこともある のでご注意ください。
4-4. 異議申立て(2週間以内)
調停に代わる審判に対しては、審判の告知を受けた日(=審判書の送達を受けた日)から2週間以内に限り、異議を申し立てることができます。期間内に異議の申立てがあったときは、調停に代わる審判は効力を失います (同法286条5項)。
調停に代わる審判に対して異議を申し立てる際には、審判を行った家庭裁判所に対して異議申立書を提出します。異議の理由を記載する必要はなく、単に異議を申し立てる旨を記載すれば足ります。
4-5. 審判の確定・離婚届の提出
両当事者が審判の告知を受けた日(=審判書の送達を受けた日)から2週間が経過し、かつ異議の申立てがなかったときは、調停に代わる審判が確定し、その時点で審判離婚が成立します。
審判離婚が成立したら、審判確定日を含めて10日以内に、市区町村役場へ離婚届を提出しなければなりません。その際、審判書の謄本と確定証明書を添付する必要があります。審判書は家庭裁判所から送達されます。確定証明書は、家庭裁判所に申請すれば交付を受けることが可能です。
5. 審判離婚のメリット
5-1. 裁判所の客観的かつ柔軟な判断を受けられる
家庭裁判所が調停に代わる審判を行う際には、夫婦双方の衡平を図るため、調停において表れたすべての事情を考慮します。法律のルールに従った一刀両断的な解決ではなく、夫婦の実情を踏まえた柔軟な解決を客観的な視点から示してもらえる 点が、審判離婚のメリットの一つです。
5-2. 審判が確定すれば、離婚訴訟の手間やコストが省ける
離婚調停が不成立となった後、離婚訴訟を提起することになれば、短くても数カ月、長ければ数年にわたって引き続き争う ことになってしまいます。調停に代わる審判が確定して審判離婚が成立すれば、離婚訴訟へ移行する必要がなくなるので、離婚を巡って争う手間やコストが省けます。
5-3. 審判は非公開で行われるため、プライバシーが守られる
離婚訴訟は原則として公開で行われますが、離婚調停や審判の手続きは非公開で行われます。見ず知らずの人に傍聴されることがないため、プライバシーが守られる点も審判離婚のメリットの一つです。
5-4. 離婚条件について強制執行ができる
確定した調停に代わる審判は、訴訟の確定判決と同一の効力を有します。したがって、審判書に記載された離婚条件に係る義務が守られない場合には、裁判所に強制執行を申し立てることができます。離婚条件に係る義務とは、例えば財産分与、慰謝料、養育費の支払い義務などです。
6. 審判離婚のデメリット|異議申立てがなされると効力を失う
審判離婚のデメリットは、異議申立てがなされると成立しない点です。異議申立ての理由は不要とされているため、夫婦のうちいずれか一方に不服がある場合は、それだけで審判離婚が不成立 となります。時間をかけて離婚調停を行っても、その時間が無駄になり、離婚訴訟でさらに時間がかかってしまいます。
なお、令和2年度(2020年度)の司法統計によると、全国の家庭裁判所における婚姻関係事件のうち、調停に代わる審判によって終局したのは3544件です。前掲の厚生労働省の統計のとおり、同年において実際に成立した審判離婚は2229件なので、異議申立てがなされた割合は4割弱 となっています。
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7. 審判離婚を受け入れるべきかどうかの判断基準
審判離婚を受け入れるべきかどうかは、「離婚条件に納得できるか 」という点に加えて、「離婚訴訟で覆せるか 」という観点も考慮して判断しましょう。離婚訴訟で覆せる見込みがないなら、調停に代わる審判に対して異議を申し立てても、時間とコストが無駄になってしまいます。
離婚訴訟の見通しについて、自分では判断が難しい場合には、弁護士にアドバイスを求める ことをお勧めします。
8. 審判離婚にかかる費用
審判離婚にかかる費用には、主に離婚調停の申立て費用と弁護士費用 があります。離婚調停の申立て費用としてかかるのは、収入印紙1200円分と郵便切手(1000円分前後)、戸籍謄本の取得費用(450円程度)などです。
弁護士費用の金額は依頼先の弁護士によって異なりますが、着手金と報酬金がいずれも30万円から50万円程度となるケースが多いです(総額60万円~100万円程度) 。配偶者に対して高額の金銭を請求する場合などには、弁護士費用も高くなる傾向にあります。弁護士へ依頼する際には、必ず事前に見積もりを提示してもらいましょう。
9. 審判離婚に関する質問
10. まとめ 審判離婚は裁判をしなくても裁判官の決定を受けられる離婚方法
審判離婚とは、離婚調停で双方の言い分がわずかに合わない場合などに、裁判所が離婚を成立させる手続きです。「調停不成立になりそう、でも裁判に移行すると時間や手間などのコストがかかり、割に合わない 」などの場面では、家庭裁判所の判断で審判離婚がなされることがあります。
審判離婚は近年急増しており、現在では離婚を成立させる方法として有力な選択肢となっています。離婚手続きの見通しを立てる際には、審判離婚の可能性も念頭に置いておきましょう。審判離婚の手続きについて分からないことがある場合は、弁護士にご相談ください。
(記事は2025年1月1日時点の情報に基づいています)