-
1. コンサートのスクリーンに映し出された「経営者と部下の親密な関係」
-
2. いちゃつき映像は「不貞行為」の証拠になるのか?
-
3. 不倫現場が映し出されたスクリーン映像は肖像権の侵害になるのか
-
4. デジタルタトゥーが経営者を追い詰める
-
5. 経営者の私的問題が引き起こすビジネスリスク
-
6. まとめ 経営者が認識すべき「プライベートリスク」とコンプライアンス対策
無料相談OK 事務所も!
離婚問題に強い弁護士を探す
1. コンサートのスクリーンに映し出された「経営者と部下の親密な関係」
2025年7月、SNSに拡散されたある動画をきっかけに以下のニュースが世界をにぎわせました。
コールドプレイのライブでCEOの不倫発覚?、映像出回り休職処分に 米企業 - CNN.co.jp
人気ロックバンドのコンサート会場で、アメリカのIT企業の最高経営責任者(CEO)が、配偶者以外の女性を抱きしめている姿が大型スクリーンに映し出されました。相手女性が企業の従業員であったこともあり、同社は彼に対して休職処分を下した、とのことです。
コンサートだけでなく、スポーツ観戦やテレビの街頭インタビューなどでも、たまたま客席にいる観客や通行人が映り込んでしまうということはよくあります。配偶者には秘密で異性と遊びに来ていたところが映ってしまい、それを会社の同僚や友人、配偶者が見てしまったら…。この記事を読みながら、冷や汗をかいている人がいるかもしれません。
上記のニュースを参考に、「不貞の証拠」や「映り込み」の問題を弁護士の視点から解説します。
2. いちゃつき映像は「不貞行為」の証拠になるのか?
「不貞行為」とは、配偶者以外の相手と自由意思に基づき性的関係(肉体関係)を持つこととされています(最判昭和48.11.15)。そのため、異性を連れて音楽のコンサートに行くだけでは「不貞行為」には当たりません。二人で仲良く楽しそうにしている様子がスクリーンに映し出されても、不貞の証拠としてはかなり弱いと言わざるを得ないでしょう。
一方、映し出された映像が社会通念上、男女の関係を匂わせる間接的な証拠(性的関係があることを間接的に推測できる証拠)として評価されるものであった場合、不貞行為の証拠として一定の価値を持つでしょう。
たとえば、不倫相手とハグやキス、手をつないでいる映像などです。また、単体では直接証拠とはならないものの、LINEやメールでのメッセージや不倫相手との写真・動画など、ほかの証拠と組み合わせることで有力な状況証拠となる可能性もあります。
3. 不倫現場が映し出されたスクリーン映像は肖像権の侵害になるのか
人はみだりに自己の容ぼう等を撮影、公表されない人格的利益(肖像権)を持っています。「正当な理由」がなく、他人の容ぼうを撮影したり、その写真を公表したりすると、肖像権の侵害になる可能性があります。
本件のようなケースでは、撮影されること、不特定多数の人が見るスクリーン映像に映し出されることについて、やむを得ないと評価できるかどうかが問題になります。
最高裁の判例では、以下のように判断基準を示しています。
ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである(最高裁平成17年11月10日 判時1925号84頁 和歌山毒カレー肖像権事件 上告審)
コンサートやスポーツ観戦では、観客の様子をスクリーンに映し出すことはよくあることで、観客もそのように理解していると考えられます。また、スクリーンに映し出されるのは数秒で、かつ録画などにより繰り返し見られるものでもありません。
そのため、不倫現場を映された人が経営者など社会的責任を負う立場の人物で、かつ不倫相手といるところを不特定多数の第三者に認識されたくない状況であったとしても、肖像権の侵害に当たらないと考えられます。
4. デジタルタトゥーが経営者を追い詰める
かつては、経営者や著名人の不倫中の写真がたまたま新聞やメディアに映りこんでも、その写真が拡散されたり、SNS上に残ったりすることはありませんでした。
しかし、SNSが普及した現代では、巨大スクリーンに映し出された一瞬の映像がSNSでの拡散によって「デジタルタトゥー」として半永久的に残り続けてしまいます。
経営者の不倫が拡散されると、家族だけでなく従業員や取引先、顧客からの信用を失い、経営に深刻な影響を及ぼすケースもあります。個人間の問題に思われる不祥事が、制御不能な形で世の中に拡散し、ビジネス生命を脅かす凶器となり得るのです。

相談アリ
得意な弁護士
探せる
5. 経営者の私的問題が引き起こすビジネスリスク
SNS時代において、経営者にはより一層のコンプライアンス意識が求められます。「コンプライアンス(compliance)」とは、よく「法令遵守」と訳されることがありますが、法律を守っていればよいということではありません。経営者は法令だけでなく、社内規範や社会規範、倫理、道徳基準に従って公正かつ公平に業務を遂行し、自らの社会的責任を果たす必要があります。
したがって、経営者・取締役の異性関係は私的問題にとどまらず、顧客・投資家の信頼失墜や企業イメージの低下、従業員の士気低下など、企業価値を損なう重大なリスクとして認識しておく必要があります。
このような不祥事を起こした際、会社経営者が責任を取るかたちで代表を辞任するというケースは、国内外を問わず多数存在します。特に、交際相手が会社の従業員である場合、上下関係を背景に関係を迫ったとしてパワハラ問題に発展することも考えられます。経営者自身が独身であったとしても、異性の従業員との交際については慎重になるべきでしょう。
6. まとめ 経営者が認識すべき「プライベートリスク」とコンプライアンス対策
経営者や役職者の行動は企業価値と直接結びついています。そのため、社内に限らずプライベートでも高い倫理観を持ち、自らを律することが何より肝要です。社内だけでなく、社外での言動についても「誰も見ていない場所はない」「自分だけバレないなんてことはない」と常に自身に言い聞かせましょう。また、従業員や家族、自分の大事な人に恥ずかしくないふるまいを常に心がけましょう。
会社としては、経営者・役職者個人の意識改革のみならず、会社全体で行動規範・規程整備・取締役会の監督・危機管理対応を構築することが重要です。定期的なコンプライアンス研修や、社内規定の見直しも忘れずに実施しましょう。
(記事は2025年9月1日時点の情報に基づいています)