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1. 人工妊娠中絶をしたら、相手に慰謝料を請求できる?
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2. 人工妊娠中絶に関連して、相手に慰謝料を請求できるケース
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2-1. 同意していないのに性交渉をされた
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2-2. 妊娠に対する同意がなかった|避妊拒否など
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2-3. 相手に中絶を強要された
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2-4. 妊娠後の相手の対応が不誠実
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2-5. 中絶とともに婚約破棄をされた
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2-6. 相手が既婚者であることを隠していた
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3. 人工妊娠中絶の慰謝料相場|50万円〜150万円程度
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4. 人工妊娠中絶について慰謝料が認められた裁判例
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4-1. 出産や中絶の話し合いを避けた事例|100万円の慰謝料
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4-2. 虚偽を交え常識を逸脱した説得をした事例|120万円の慰謝料
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5. 人工妊娠中絶の慰謝料請求の手続き
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6. 人工妊娠中絶について、慰謝料以外に請求できる費用
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6-1. 手術費用(中絶費用)や供養料
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6-2. 休業損害
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6-3. 弁護士費用
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7. 人工妊娠中絶の慰謝料請求権の消滅時効
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8. 人工妊娠中絶の慰謝料を請求された場合の対処法
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8-1. 慰謝料の支払い義務の有無や適正額を検討する
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8-2. 相手と解決策を話し合う
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8-3. 訴訟対応は弁護士に依頼する
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9. 人工妊娠中絶の慰謝料請求に関してよくある質問
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10. まとめ|人工妊娠中絶の慰謝料請求に関しては弁護士に相談を
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1. 人工妊娠中絶をしたら、相手に慰謝料を請求できる?
人工妊娠中絶とは、胎児が母体外で生きることができない時期に人工的に妊娠を中断させ、胎児を母体外に出すことを指します。
人工妊娠中絶について、パートナー(既婚か未婚かは問いません。以下同様です)の男性に慰謝料を請求できるのは、男性側に「不法行為」が認められる場合です。不法行為とは、故意または過失により、他人に対して違法に損害を与える行為を言います(民法第709条)。
双方同意のもとで避妊をせずに妊娠し、誠実に話し合ったうえで人工妊娠中絶を選択した場合は、男性側の不法行為は認められないのが一般的です。
一方、性交渉から人工妊娠中絶までの過程において、男性側が何らかの不適切な言動をした場合には、男性に対して慰謝料を請求できる可能性があります。
2. 人工妊娠中絶に関連して、相手に慰謝料を請求できるケース
人工妊娠中絶に関連して、パートナーの男性に慰謝料を請求できるケースとしては、以下の例が挙げられます。
同意していないのに性交渉をされた
妊娠に対する同意がなかった|避妊拒否など
相手に中絶を強要された
妊娠後の相手の対応が不誠実
中絶とともに婚約破棄をされた
相手が既婚者であることを隠していた
2-1. 同意していないのに性交渉をされた
女性側が同意していないのに、男性側に無理やり性交渉を迫られ、結果的に妊娠して人工妊娠中絶を余儀なくされた場合には、不法行為に基づく慰謝料を請求できます。
それだけでなく、男性側の行為には不同意性交等罪(刑法第177条第1項)が成立し、処罰の対象となることがあります。男性側の行為がどうしても許せない場合は、刑事告訴を検討するのも選択肢です。
2-2. 妊娠に対する同意がなかった|避妊拒否など
女性側が性交渉に同意していても、妊娠することには同意していないケースは、未婚のカップルを中心によくあります。
女性側が妊娠について同意していないにもかかわらず、男性側が避妊を拒否するなどした結果妊娠し、人工妊娠中絶を余儀なくされた場合には、不法行為に基づく慰謝料を請求できます。
2-3. 相手に中絶を強要された
女性側は妊娠した子どもを産みたいと思っていたのに、男性側がそれを頑なに拒否して人工妊娠中絶を強要された場合には、不法行為に基づく慰謝料を請求できる可能性が高いです。
人工妊娠中絶の判断は、一義的には母体である女性側が行うべきものであって、男性側が強要してよいものではありません。
2-4. 妊娠後の相手の対応が不誠実
結婚前でも結婚後でも、女性側が妊娠したあと、男性側が将来の育児に関する相談に応じようとしないなど不誠実な態度をとり、悲観した女性側が人工妊娠中絶を選択した場合には、不法行為に基づく慰謝料を請求できる可能性があります。
特にすでに結婚しているケースでは、夫婦は互いに協力義務を負うため(民法752条)、妊娠後の不誠実な対応について慰謝料請求が認められる可能性は高くなります。
2-5. 中絶とともに婚約破棄をされた
婚約者の子を妊娠したあと、人工妊娠中絶を余儀なくされただけでなく、婚約者が一方的に婚約破棄をした場合には、婚約者に対して慰謝料を請求できます。
人工妊娠中絶と婚約破棄の両方に関して慰謝料が発生する場合、トータルの慰謝料は高額になる可能性が高いと言えます。
2-6. 相手が既婚者であることを隠していた
パートナーの男性の子を妊娠したあと、実は男性が既婚者であったことがわかり、人工妊娠中絶を余儀なくされた場合は、不法行為に基づく慰謝料を請求できる可能性が高いです。
ただし、パートナーが既婚者であることを確認不足などによって知らなかった場合(=知ろうと思えば知れた場合)は、パートナーの配偶者から不倫に関する慰謝料を請求されるおそれがある点に注意してください。
3. 人工妊娠中絶の慰謝料相場|50万円〜150万円程度
人工妊娠中絶について慰謝料が発生する場合、その金額は50万円〜150万円程度が標準的です。
性交渉や妊娠について女性側が同意していなかった場合や、人工妊娠中絶と併せて婚約破棄もされた場合など、男性側の行為が悪質である際は、慰謝料が高額となる傾向にあります。
4. 人工妊娠中絶について慰謝料が認められた裁判例
人工妊娠中絶について、女性側の慰謝料請求が認められた裁判例を2つ紹介します。
4-1. 出産や中絶の話し合いを避けた事例|100万円の慰謝料
東京高裁平成21年10月15日判決では、女性が妊娠したあと、男性側が出産や中絶についての話し合いを避け、産むかどうかの判断を女性側へ一方的に委ねた事案が問題となりました。
女性側は、性行為と中絶については同意していたものの、妊娠後の男性の対応が不法行為にあたるとして、慰謝料請求訴訟を提起しました。
東京高裁は、妊娠や中絶は女性側に、精神的にも肉体的にも経済的にも負担を与えるため、共同行為である性行為をした男性側においても、その負担を軽減し、解消する義務があると指摘しました。
そのうえで、男性側が女性側との話し合いを避け、女性の負担を軽減させようとしなかった点について不法行為を認定し、男性側に対して慰謝料100万円の支払いを命じました。
4-2. 虚偽を交え常識を逸脱した説得をした事例|120万円の慰謝料
東京地裁令和元年5月30日判決では、男性側が女性側に対して中絶を説得した事案が問題となりました。
男性は虚偽または不合理な言動を交えつつ、以下のような主張をし、女性に対して人工妊娠中絶を迫りました。
独身であるにもかかわらず「妻に相談した」などと伝える
知人女性に依頼して母親に成りすまさせ、女性に電話をかけて中絶を要求してもらう
「自分の子ではないと思う」「レイプされたのが原因ではないか」と女性に問いかける
東京地裁は、上記のような男性側の言動について、単に妊娠の責任をとらない身勝手な態度であるだけでなく、不合理で社会通念上の常識を逸脱したものであると糾弾して不法行為を認定し、男性側に対して慰謝料120万円の支払いを命じました。

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5. 人工妊娠中絶の慰謝料請求の手続き
人工妊娠中絶に関する慰謝料請求は、主に以下のいずれかの手続きによって行います。
①示談交渉
パートナーの男性と直接話し合い、慰謝料の支払いに関する合意をめざします。
②民事調停
簡易裁判所において、調停委員の仲介を通してパートナーの男性と対面することなく話し合い、慰謝料の支払いに関する合意となる調停成立をめざします。
③訴訟
裁判所に訴訟を起こして、慰謝料の支払いを命ずる判決を求めます。
上記の慰謝料請求の各手続きについては、弁護士に対応を依頼するのが安心です。弁護士に代理人として対応してもらうことで、適正額の慰謝料を獲得できる可能性が高まります。
6. 人工妊娠中絶について、慰謝料以外に請求できる費用
人工妊娠中絶について、女性側は男性側に対して、慰謝料以外にも以下の費用を請求できる場合があります。
6-1. 手術費用(中絶費用)や供養料
人工妊娠中絶を余儀なくされる場合、初期中絶(~11週6日)では10万円〜20万円程度、中期中絶(12週~21週6日)では30万円〜50万円程度の手術費用がかかります。
男性側が無理やり性交渉を迫った場合や、避妊を拒否して女性側の意思に反して妊娠させた場合などには、女性側は男性側に対して手術費用の全額を請求できると考えられます。
一方、妊娠について女性側も同意していた場合には、手術費用全額の請求は認められにくいです。ただし、男性側にも妊娠と中絶に関する女性側の負担を軽減する義務があること(東京高裁平成21年10月15日判決参照)を考慮すると、手術費用の半額程度の請求は認められる可能性があります。
また、手術費用と同様に、母体から摘出した胎児の供養料についても、男性側に対して全額または一部を請求できる可能性があります。
6-2. 休業損害
人工妊娠中絶の手術、および術後の療養のために女性側が仕事を休んだ場合は、賃金の減額などによる収入の減少が発生することがあります。
手術費用や供養料と同様に、休業損害についても、男性側に対して全額または一部を請求できる可能性があります。
6-3. 弁護士費用
人工妊娠中絶に関して、女性側が男性側に対して慰謝料請求訴訟を提起する際には、弁護士に依頼するのが一般的です。その際にかかる弁護士費用について、男性側に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
弁護士費用の損害賠償は、慰謝料その他の請求が認められた額の10分の1程度を目安に認められる場合が多いです。弁護士費用の全額を回収できるケースが少ない点は認識しておきましょう。
7. 人工妊娠中絶の慰謝料請求権の消滅時効
人工妊娠中絶に関する慰謝料請求権には、原則として不法行為の消滅時効が適用されます。
不法行為の消滅時効は、以下のいずれかの期間が経過した段階で完成します(民法724条、724条の2)。
①損害および加害者を知ったときから3年間
※生命または身体を害する不法行為の場合は、損害および加害者を知ったときから5年間
②不法行為のときから20年間
人工妊娠中絶について慰謝料を請求するためには、時効期間が経過する前に、内容証明郵便の送付や訴訟の提起などによって時効完成を阻止する必要があります。早い段階で弁護士に相談して、慰謝料請求の準備を進めましょう。
8. 人工妊娠中絶の慰謝料を請求された場合の対処法
パートナーの女性が人工妊娠中絶をした場合、男性側は慰謝料請求を受けることがあります。
もし女性側から人工妊娠中絶の慰謝料を請求されたら、以下の対応をとりましょう。
8-1. 慰謝料の支払い義務の有無や適正額を検討する
人工妊娠中絶については、常に男性側に慰謝料の支払い義務が発生するわけではありません。性交渉や妊娠に女性側が同意しており、中絶するかどうかの判断についても男性側が誠実に対応していた場合には、慰謝料は発生しないケースが多いです。
また、仮に慰謝料が発生するとしても、女性側の請求額が妥当であるとは限りません。弁護士に相談して、女性側の請求に応じて慰謝料を支払うべきかどうか、法的な観点からアドバイスを受けましょう。
8-2. 相手と解決策を話し合う
人工妊娠中絶に関するトラブルは、円満に解決できるに越したことはありません。また、男性側には、妊娠と中絶によって女性側に生じる負担を軽減するため、誠実に対応する義務があります。
慰謝料の支払いに応じるかどうかは別として、お互いに納得できる解決を探るために、話し合いを尽くしましょう。相手と直接話すのがつらい場合は、弁護士に代理交渉を依頼することも選択肢の一つです。
8-3. 訴訟対応は弁護士に依頼する
相手が慰謝料請求訴訟を起こした場合は、訴訟対応を弁護士に依頼することをお勧めします。
訴訟手続きは複雑かつ専門的ですが、弁護士に依頼すればスムーズに対応してもらえます。裁判所に対して自分の主張を適切に伝えることができ、過大な慰謝料請求が認められてしまうリスクを防げます。

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9. 人工妊娠中絶の慰謝料請求に関してよくある質問
男性側が無理強いをして性交渉をした場合や、避妊を拒否して女性側の意思に反する妊娠をさせた場合などには、男性側に対して中絶費用全額を請求できると考えられます。
一方、妊娠について女性側が同意していた場合には、中絶費用全額の請求は認められず、半額程度を請求できるにとどまります。
男性側は妊娠と中絶による女性側の負担を軽減する義務を負うことを考慮すると、男性側に対する中絶費用の半額程度の請求は認められるケースが多いと考えられます。
ただし、必ず認められるとは限らないので、事前に弁護士に相談するのが望ましいです。
性交渉の強制や一方的な避妊拒否など、男性側に何らかの不法行為が認められる場合は、自分の判断で中絶した場合でも、男性側に対して慰謝料や中絶費用を請求できます。
男性側の不法行為が認められない場合は、慰謝料の請求は認められませんが、中絶費用については半額程度を請求できる可能性があります。
18歳未満の未成年者が人工妊娠中絶をする場合、保護者の同意を求める医療機関が多いです。保護者に対して事情を正直に話し、中絶に同意してもらいましょう。
10. まとめ|人工妊娠中絶の慰謝料請求に関しては弁護士に相談を
望まない妊娠によって人工妊娠中絶を余儀なくされた場合は、パートナーの男性に対して慰謝料を請求できるケースがあります。代表例としては、同意していないのに性交渉をされた場合、妊娠に対する同意がなかった場合、相手に中絶を強要された場合などが挙げられます。
弁護士に相談すれば、慰謝料請求の手続きに加え、人工妊娠中絶によって傷ついた体や心を、少しでもよい状態に持っていくためのサポートをしてもらえます。人工妊娠中絶に関して慰謝料請求などを検討している際は、早めに弁護士へ相談することをお勧めします。
(記事は2025年9月1日時点の情報に基づいています)